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最小転生で俺流いい人ライフ  作者: 塩谷歩
第1章  共和国脱出編
18/180

第18話  リーヤの最期

 あの馬鹿!

 すげー音がしたと思ったら、壁が崩れて兵士が大量に下敷きじゃねーか!

 まあそれでも……なんだ、”あ、やべっ!”って顔してるドラゴンがいたから思いっきり睨んでやったけど、おかげで俺たちは逃げやすくなった。

 悪い人だった俺は、これくらいの惨状には慣れてんだよ。


「おお、あれが本物の……」

「主、感動してる場合じゃないよ」

「そうだね」


 現在、俺はリーヤに背負われている。

 リーヤの主人であるビルさんは剣を扱えるので、俺が肩に乗れば邪魔になるからだ。

 そしてビルさんだが、元冒険者で、剣も魔法も扱えるという優秀な人。

 ちなみに商いの才能は人並みだったみたい。

 腕が錆び付いていると言っていたビルさんだけど、これがなんの、城の兵士にも引けを取らない強さ。

 俺とリーヤとで「冒険者に戻れよ!」とツッコミを入れちまったほどだ。


 ガレキと兵士たちの間をすり抜け、立ち塞がればこちらも容赦はしない。

 リーヤも不安だと言っていた槍をしっかり使いこなしてるし、もうこの2人で冒険すりゃーいいんじゃねーかな? マジで。

 なんて考えてると城門が見え、そして明らかに強い奴が出てきた。

 大剣を携えた大男で、剣士連中の隊長だと思われる。

 こいつは部下に慕われないタイプだな。こっちを見て鼻で笑ったし、何よりも現在進行形で気持ち悪くニヤついている。恐らく自身も部下を信用なんてしていない。自分1人でのし上がったと勘違いしているお馬鹿さんだ。


 ビルさんと大男の戦闘開始。

 俺とリーヤは周りのお掃除を担当だ。

 っつーかあいつも周りの兵士もだけど、俺を敵と認識してないな。

 木の人形だから目に入ってない可能性もあるけど。


 ――あの剣もらっちゃおうかな。

 ふいにそう思ってしまった。だってあの大男、隙だらけなんだもん。

 ちなみに単純にあいつが驚き呆ける顔が見てみたいだけで、あれだけの大剣ならば売ればいい値段になるだろうなとか、そんな悪い事を考えている訳じゃないぞ。


 まるで自分の力を誇示するように大剣を振り回しているから、後ろに大きく振ったタイミング合わせてチェスト魔法を発動して、剣を飲み込んだら魔法を終了。

 思いっきり力を込めた所で剣がピクリとも動かないものだから、そのまま空振りして手を離しちまってやんの。

 んじゃこれは丸ごと俺がもらいますねーっと。


「あっはっはっ! 成功しちまった!」

「ルイは何でもありだな!?」

「転生者だからな」


 さすがに武器が無ければ大男でも倒されるのみ。

 ビルさんは最後まで隙を見せず、しっかりと剣を突き立て大男を撃破。

 周りの兵士もこれでようやく俺もサテライツだと気付いたようで、距離を取った。

 あちらから手を出さないのならば、後は無視する。


 城門を出たらシェーネの指示通り、すぐに荷車を発見。

 運転に慣れている俺が御者を務め、2人は警戒。


「行くぞ!」

「おーよ!」

「あ、店に寄ってもらってもよろしいですか?」

「……余裕があったらね?」


 ビルさん、俺以上に肝が据わってるぞ……。

 なんて呆れながら発車。店まではリーヤが案内役だ。

 俺も一応は覚えているけれど、あの一度だけだから記憶に不安がある。

 運転中はシェーネの動きも注視。あいつの事だからやらかしそうだし。


 *****


 そんなこんなで無事に店に到着。

 兵士に押しかけられたとは言っても、店仕舞いはさせてもらえた様子。

 ビルさんはレジからお金と、事務所スペースから何か帳簿のようなものを持って出てきた。


「もういいんですか?」

「いえ。二階が我が家なので、さらにちょっと待っていてください」


 この状況でこれとは、最早賞賛しそうなほどの肝の据わりようだ。

 そう思いながらため息をついたら、苦笑いしながらリーヤが謝ってきた。


「ルイ、悪いね」

「いいよ。っつーかお前、本当に運がいいな」

「主とお前の事かい? まあ……でも本当に運がいい奴はこんな事に巻き込まれないだろ?」

「あっはっはっ! 確かに!」


 思わず大笑い。

 思えば俺も巻き込まれたせいで道を踏み外したし、これは決して運がいいだなんて言えない事案だ。

 だからこそ、今のうちにリーヤには感謝を言っておこう。


「リーヤ、改めてなんだが、ありがとう」

「何だよいきなり。それにルイは謝るのが先じゃないか?」

「それはそうなんだけどな、これだけ迷惑かけておいて、それでもお前からは悪い感情が見えない。それって結構すごい事だと思うぞ?」

「……それじゃあその感謝、ありがたく受け取るよ」

「そうしてもらえると俺も嬉しい」


「僕よりも仲がいいんじゃないかい?」


 冗談めかしてビルさんが戻ってきた。

 手にはアルバムかな? それと俺みたいな木彫りの人形が2体。

 多分逃走中にリーヤをあれに移すつもりなんだろう。


「そんな上等なもんじゃないよ」

「おやおやリーヤ君寂しい事を言ってくれるじゃないか」

「お前も乗ってんじゃないの!」

「へいへい」


 冗談はそこでお仕舞い。

 2人は道具屋を見回し、名残惜しそうだ。

 という事はつまり、2人とももう戻ってくる気はないんだな。


『実は捕まってる最中に、共和国を捨てるって話でまとまったんだ。悪いんだけど、王国まで護衛を頼めるかい?』

『……シェーネ』

『背には乗せないぞ』

『だそうだ』


 リーヤが統一思念を使ったのは、俺を介してシェーネに頼み込むのと、護衛の件はビルさんに言っていなかったからだろう。

 または、早々に釈放されると考えていたのが、不可能だと完全に見切りをつけたからなのかもしれない。

 シェーネの声は”絶対に”というほど強いものではなかったので、展開次第という意味だろう。

 ともかく、準備は済んだから出発だ。


 *****


 店を出た俺たち。

 上空にはシェーネがいて……あっ!


「貴様らッ!!」


 一番見つかりたくない奴に見つかった。金髪オールバックだ。

 金髪オールバックはすぐさま魔法を発動し、鋭い氷の塊をこちらに撃ち出した。

 狙いはビルさんだ!


「避けろ!」


 俺の叫びと同時に、ビルさんを突き飛ばし庇うリーヤ。氷の塊はリーヤのブリキの体を貫通、軌道が逸れてビルさんに当たる事なく地面に突き刺さった。

 ――ああ、やってくれたな。クソ野郎。

 カッ! と頭に血が上る!

 だがこんな場面は経験がない訳じゃない。俺は冷静だ。俺はしっかりと周りが見えてるんだよ。


 俺の後ろではリーヤが死に掛けていて、ビルが初めて冷静じゃない声で叫んでる。

 それだけ本当に家族なんだと分かる。それにリーヤは俺の初めてのサテライツ仲間だ。

 ――だったら、あいつにはキッチリと駄賃を払ってもらう!

 リーヤはもう駄目だろう。冷たいようだが、弔いは静かな時にやるもんだ。


 奴は空中にいて、こっちの状況に気付いたのかシェーネが俺たちへの攻撃を妨害してる。後で褒めてやる。

 だが攻撃手段が無い。今の俺にある対空武器は、チェスト魔法で仕舞いこんだ武器庫の弓くらい。あれじゃ俺には無理だし、これだけ心が乱れているビルにも厳しいだろう。

 だったらどうする? どう――。

 冷静にしっかりとリーヤの姿と、吹き飛んだブリキ板を見て、閃いた。


「ククッ、あるじゃねーか。リーヤ、破片もらうぞ!」


 思いついたら即実行!

 俺は武器庫で拾った鉄パイプを取り出し、片側をリーヤのブリキ板で塞ぐ。次にボムかあさんにもらった火薬玉を詰め込んで、さらにそこにリーヤが振り回してた槍を突っ込んだ。当然槍は俺が取り付いて遠隔操作可能にしてある。

 これが何か分かるか?

 即席のライフル銃だよ。撃ち出すのは槍だけどな! はっはっ!


「ビル! 火の魔法は使えるか!?」

「ええ。でもろうそくに火を灯す程度です」

「充分だよ。いいか、俺の言う事をよく聞け」


 ビルに銃の扱いを教えた。

 火薬玉に火をつけ、爆発させて槍を撃ち出す。タイミングは俺が計り、槍も俺が遠隔操作してあいつに当たるように微調整するから、ビルは狙いをつけて魔法を使えばいい。

 理解した途端、ビルの表情は冷静になった。無駄な力の入っていない、いい顔だ。


「仇は取ります」

「いいねぇ。そういう顔する奴、俺は好きだぜ」

『シェーネ! 金髪オールバックを俺たちから見える位置に誘導しろ!』

『……あい分かった』


 シェーネの奴、ガラにもなく責任感じてやがる。

 だったらキッチリ仕事をしてみせろよ?


『期待してるぞ』




 こちらは準備万端。俺が荷車に乗って銃身を担ぎ、ビルがしっかりと固定し空へと狙いを定めている。

 リーヤはもうピクリとも動かない。人間ならば死んだかどうか分かるけど、サテライツは息もしないから全く分からねぇ。

 だが、安心して寝てろ。しっかり仇は取ってやる。


 シェーネが俺たちの眼前をゆっくりと通過。それに合わせて金髪オールバックも来た。

 狙いは合っている。後はタイミング。火薬が炸裂して槍が飛び出る速度も計算に入れると、1秒以上早くか。

 俺の後ろでビルが唾を飲み込む。タイミングを計る俺も緊張してるよ。

 集中により時間の経過がゆっくりに感じる。おかげでタイミングが取りやすいってもんだ。

 3、2、1……「今!」「ファイア!」

 火薬に着火し、鉄パイプの中で爆発が起こる。行き場のない力は槍を押し出し、高速で射出。

 槍は俺の意思のもと、しっかりと制御され真っ直ぐに金髪オールバックへと突き進む。

 バン! という炸裂音に気付いた金髪オールバックがこちらに振り向くが、もう遅い。

 俺とビルが共同で放った槍は、奴の心臓を一突きにした。

 驚き、痛みが来る前に事切れ地面へと落下した金髪オールバック。


「当たりましたね」

「これでも冷静とは、あんたスナイパーになれよ」

「考えておきます」


 すげー奴。

 俺が今まで出会った連中の中でも、三本の指に入る冷静さだよ。


『やったな。私がそちらを回収し、そのまま郊外まで飛ぶ』

『ああ』


 追い立てる連中を風圧であっさりと叩き落とし、シェーネはすくい上げるように、荷車ごと俺とリーヤとビルを掴み、そのまま一気に飛び去った。


 *****


「リーヤ……」

「……主……いや、ビル。オレはあんたといられて、本当によかったよ。でも……もう、お別れだ。……泣くなよ。オレはサテライツだぞ? 最小で、最弱なんだ」

「違う。リーヤは僕たちの家族だ。誰が何と言おうと、僕たちはそう思っているよ」

「ははは……嬉しいね」

「……リーヤ。最期に、僕に出来る事はないかい?」

「あー……感謝してほしいかな? 腹一杯で死にたいからね」

「当然だ。君といた20年、ぼくは毎日君に感謝していた。……今日もだ。僕の命を救ってくれて……僕たちの家族でいてくれて、本当に、心からありがとう」

「……ああ……」


 ビルと繋いでいたリーヤの手が、力なく地面に落ちた。

 カラカラとブリキの缶が外れ、リーヤがいなくなったのだと、俺たちに知らせる。

 ビルはブリキ缶の頭を大切そうに抱え、静かに涙を流した。




「んぶはぁ~!」「おぁ~?」「ふにゅ~」


 唐突に、ずっこけそうになるほどのユル~イ子供の声が3つ。

 なんだなんだ??



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