第17話 ルイは友を呼ぶ
『おーいリーヤさんやーい』
さっきから統一思念で呼びかけているが、返事がない。
こりゃー何らかのジャミングを受けていると考えるべきだな。
城は脱出時と変わらず白いレンガに赤い絨毯の西洋の城。
道は兵士に誘導されたから覚えてないんだよなぁ。
っと鎧が鳴るガチャガチャうるさい足音が近づいてきた。
こういう時は壁際に横になって、人形のふり。
本当に便利だわー。
「魔道士隊の魔法が全く効かないだと!?」
「はい! 未だダークドラゴンは攻撃を仕掛けてはきていないようですが――」
ふむふむなるほど了解。あいつちゃんと言い付けを守っているな。
いや、もしかしたら色々な魔法を食ってみたいから、わざとかもしれないけど。
しかしこのまま迷っていたら埒が明かない。
地図や案内図がありそうな場所と言えば――そういえば以前名簿に記入した時、事務所らしきスペースがあった。
いやぁ、庭じゃなくて入り口に落としてもらえばよかったぜ……。
その後もウロウロしていたんだが、偶然にも兵士が1人、備品倉庫のような部屋に入っていく光景を目撃。
もしかしたら地図があるかも。
兵士が出て行ったのを確認して、扉に取り付いて中身を確認。人はいない。
「おじゃまー……おっ、武器庫か」
地図は無いが、剣に槍に弓矢に、鎧に兜に盾と、見事に中世していますって感じだ。
でも何故か鉄パイプや斧やノコギリ、でかいハンマーもある。一応武器に使えない訳じゃないけど、なんか場違いだな。
――よし、ぬす……じゃなくて、一生借りよう。うん、借りるだけだ。
チェスト魔法が使えるようになったから、どれくらい入るのか試してみたくなったんだ。
結果だが、倉庫の備品が全て入っちゃった。
もしかしてこの城ごと入ったりして? なんちゃってな。
出来るとしてもやらねーよ?
その後、「第3武器庫がカラになってるぞ!」という兵士の声で、武器庫があと2つはある事を知った。
地図がある可能性は捨てきれないから、お邪魔してみようかな。
くくくっ……。
なんて思っていたら、城が大きく揺れ、天井からホコリが落ちてきた。
これは時間かけるのは愚策だな
シェーネは手加減していても、流れ弾が飛んでこないとも限らない。
『どうだ?』
『おっ、リーヤ。どこだ?』
『地下牢』
『分かった』
短い会話だがこれで充分。
統一思念が通じたのは、恐らく今の揺れのおかげ。
あとは地下牢への道さえ分かれば……っと兵士だ。死んだふり死んだふり。
「西の塔が崩れたぞ!」
「あそこにはジャミングの魔方陣が……まずい! 地下牢はどうなっている!?」
「分からん。見てくる!」
俺も見に行くー!
とはいえこの姿で追う訳には行かない。普通ならばな?
「地下牢に行くならこいつを持っていけ!」
「ああ……ってなんだ? 誰もいない? まあいい」
俺は武器庫から拝借した剣を1本”返却”した。
地下牢に行く予定の兵士は剣を持っていなかったので、床に落ちている剣を疑いもなく拾い、走って行く。
そしてその剣には俺の”視界”が取り付いているから、一切疑われずに道案内してもらっちゃえる。
いやぁー、サテライツって本当便利ですね。
――ちなみに後に知った事なんだが、この芸当は俺しか出来なかった。サテライツ特有の応用力の無さがその原因だろう。
兵士の視界を追いつつ、たまに人形のふり。
しばらく進むと最初に来た庭に出て、別の建物へ。
そして地下牢がある。
ああ、俺はまだ庭にすらたどり着いてねーよ? 40センチの木の人形だからな。
「貴様ら! 変な真似はしていないだろうな!?」
「変な真似って何の真似だ?」
「さあ? シュリンプエイプの真似かもね?」
「あっはは! そりゃー変な真似だ!」
「貴様らっ!!」
予想以上に2人とも元気だな。
そういえばあれがリーヤの飼い主か。以前は顔を一切合わせなかったから、初めて見た。
40代かな? 茶色の口ひげが可愛い、優しく人の良さそうな笑顔。それなのにこの肝の据わった様子。
悪い人の俺ならばお近づきになりたくないタイプの人。『いい人』の俺はお近づきになりたい。リーヤの奴、本当にいい人が主になってるなぁ。
しかし彼は部外者だ。これ以上巻き込む訳には行かない。
しばし遅れて俺も建物に到着。
扉は相変わらず取り付けばすぐに開く。牢屋も多分そうだろう。
リーヤがそれをしないのは、見つかればただでは済まないからだ。
さてここで問題。
地下牢にはさっきの兵士が張り付いている。どうやって2人を救出する?
答えは剣を遠隔操作!
出来るのかどうかは分からないけど、少なくとも視界が変更出来るんだから、ある程度は動かせると思っていいだろう。
という事で、扉を一枚隔てた小部屋――多分面会室で、俺は剣が遠隔操作可能か実験。
やる事は簡単だ。
兵士から剣が逃げれば、相手は丸腰。
統一思念でリーヤに俺の作戦を、言葉ではなく情報で流す。
するとすぐさまリーヤから反応。イエスともノーとも違うが、反応があったというだけでそれは了承とみなす。
じゃあ、やるぜ。
まずは遠隔操作出来るかだが――出来る。しかもすげー出来る!
剣を鞘からジャンプさせてみたら、人の背丈くらいは飛び跳ねて、俺自身びっくり!
兵士は突然の事で固まっているから、このままものすごい勢いでピョンピョン跳ねまくってやろう!
*****
えーと、なんかすまん。
何度か跳ねて遊んでいたら、兵士の足の甲に突き刺さって、悲鳴を上げて逃げて行っちゃった。
という事で地下牢に取り付いてオープン。
「おまたせ」
「な、なあ、今の何だ?」
「遠隔操作。サテライツなら出来るんじゃねーの?」
「出来るかッ!!」
あらーそうなんだ。
とりあえずは俺が転生者だからって事で納得しておくかな。
「あーそれで、そちらがリーヤのご主人さんですね。初めまして。ルイと言います。これでも転生者です」
「ご丁寧にどうも。僕はビル。リーヤとは主従関係ではあるけれど、僕たちは家族だと思っていますよ」
「へへっ……」
照れるリーヤが可愛い。
本当にいい人にめぐり合えたんだな。
だが悠長にもしていられない。
「それじゃあ脱出しよう。リーヤ、武器は扱えるか?」
「僕は扱えますよ。これでも元冒険者で、妻と結婚して道具屋になったんです。リーヤとはその後出会いました」
「なるほど。それじゃあ剣持てますね」
「腕は錆び付いているけれど、頑張りましょう」
こりゃー心強い!
武器庫から借りた一式を出しビルさんが装備。リーヤには名前から連想して槍を持たせてみた。リーヤを逆にしたらヤーリだろ? だから槍。
不安だと漏らしているけど、どうにかなるもんだって。
『シェーネ聞こえるか?』
『ああ聞こえる。先ほど城の出入り口付近に荷車を見つけてな、町の外までは私が援護するので、そこからは荷車で逃走するのが良いだろう』
『おーナイスだ。んじゃ脱出開始。しっかり囮役頼むぜ!』
不安要素がない訳じゃねーが、やってやるさ。
*****
「くはは! いいぞ貴様ら! もっと、もっとだ!」
シェーネフェルトは楽しんでいる。
ルイのアドバイスにより、魔法が食べられると知った彼女にとっては、死に物狂いで攻撃をしてくる魔道士隊の面々は、まさにおやつをくれる人でしかないからだ。
戦闘開始から少しも動かないシェーネフェルト。なのに魔道士隊では、魔力が尽きて戦線を離脱する人も出始めていた。
そしていよいよ隊長たちも、実力の差というものを認めざるを得なくなる。
「くそっ! あいつは不死身か!?」
「むしろ元気になっているようにも見えますわね」
「見えるんじゃなくて、実際そうなんだよ。僕たちの攻撃は全部、食べられてる」
「……我々ヒトは、こんなものを相手にしてしまったのか……」
4部隊の各隊長も、魔法『オープンディフェンス』を食われた時点で、厳しい戦いである事は覚悟していた。
だが、ここまでの一方的な展開になろうとは、ヒト族がここまで無力だとは、ヒト族至上主義国家の驕りゆえに、思ってもみなかったのだ。
「どうした? 私は未だ一度も諸君に牙を向けていないのだぞ?」
「この、化け物め!」
「我々を化け物と名付けたのはヒト族ではないか。まあ、使い勝手がよいので我々も使っているがな! くっはっはっ!」
その時、統一思念を使いルイから脱出するとの連絡が入った。
魔道士隊を相手にしながら逃走経路の下見も行っていた彼女は、そこに道を示す。
その事を少し褒められたシェーネは、調子に乗り始めてしまった。
「くくくっ、ではそろそろ攻守交代と行こうではないか」
一斉に身構え、最大限のプロテクトを張る魔道士たち。
だがシェーネに対しては圧倒的力不足であり、そもそもプロテクトの魔法すら食えてしまうシェーネには一切通用しない。
一方シェーネ自身は、ルイの”被害を抑えろ”という言葉を守り、あくまでも町や魔道士や兵士への被害を、ゼロで終わらせるつもりだ。
シェーネフェルトは大きく息を吸い、いわゆるドラゴンブレスではなく、ただ強く息を吐いた。
「ふぅーっ! ふふっ、驚いたか? ……っておいおい!?」
シェーネフェルトとしては冗談で、あくまでも時間稼ぎのつもりだった。
なのに城の防壁がえぐれて落ち、下にいた兵士たちに多大な被害をもたらしている。
空中に退避していた魔道士たちは無事だが、その惨状に言葉も出ず固まった。
「こっ……これがドラゴンブレスかっ……」
「なんと恐ろしい……」
「あ、いや、その。これはブレスなどという上等なものではなく、私はただ強く息を吐いただけなのだ」
「う、嘘をつけっ!!」「ホントなのだ!」
ルイに怒られる光景が浮かび、気が重くなるシェーネフェルト。
その視界にルイ本人が映り、予想通りちらりと睨まれてしまうのだった。