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最小転生で俺流いい人ライフ  作者: 塩谷歩
第1章  共和国脱出編
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第13話  温泉その2

 くはは。

 私は世界最強かつ高貴なるエンシェントドラゴンが1柱、ダークドラゴンのシェーネフェルト。

 ルイには温泉は食後にと言っていたが、現在はテッペンを回り、夜中の1時だ。

 ルイは”げーせん”なるものを見つけたとかで、今は部屋にいない。

 で、あるならば、今が入浴のチャンス!


 という事で、私は女湯へとやってきたのだ。

 くくっ、事前に魔力を検知し、浴場には誰もいない事を確認済み。

 何故に私がそこまで慎重を期すのかといえば、やはり私は最強種族ダークドラゴンゆえ、無防備な姿を見られたくないのだ。

 ついでに言えば普段の姿で湯に入りたい。

 ダメだというのはパンフレットにも記してあった。

 だがしかし! 誰にも見られなければよいのだ! くっはっはっ!


 普段は水浴び程度しかしない私だが、湯が嫌いという訳ではない。むしろ好きだ。

 だが20メートルを越す普段の私が入れるような風呂はない。

 一度湖を沸かした時は魚が全滅したし……美味しかったけど……。

 ともかくだ、小型化魔法を使えるようになった今、素の姿で風呂に浮かべる、またとないチャンスなのだ!


 更衣室のかごをチェック。

 よし、全てカラだ。

 念のため先に浴場を覗き見る。


「むほぉ!」


 っと、声が出てしまった。

 ガラス張りの浴場からは満点の星々。

 浴槽も星空に負けないほど広々としており、そして私の見立てどおり誰もいない。

 この広い大浴場が、丸ごと私の貸切だ!

 いそいそと、もう待ちきれないので服はかごに放り込む!

 ひゃっほーい!

 あ、まずは体を洗わねば――。


 *****


 くっくっくっ。

 現在時刻は夜中の1時25分。

 シェーネには町でゲーセンを見つけたからと誤魔化したが、俺の真の目的は男女入れ替え時間の直後を狙った、まだ女湯の残る男湯へのダイブだ!

 いやぁ、修学旅行で夜中に温泉入ったら、入れ替え時間なのを知らずに眼福してしまったのを思い出すなぁ。

 当然怒られはしたが、理由が理由なのでどうにか逃げ果せた。

 あの興奮をもう一度! くふふっ――。


 時刻は丁度1時30分。

 俺は仲居さんが来るのを、曲がり角から手の先だけを出し、そこに視点を移動して待つ。

 来た来た。おばちゃん仲居さんだ。

 仲居さんが暖簾を架け替え、これで合法で女湯へダイブが可能になった!

 早速侵入……じゃなかった。一番風呂を頂きに参りましょう。

 脱衣所には? おっ、浴衣が乱雑に放り込んである。誰かが入っているぞ~くっくっくっ!

 っつーか仲居さん、こういうのチェックしねーんだな。

 よきかなよきかな――。


 浴場から、パシャリとお湯の跳ねる音。

 濃い湯気は俺の背丈のせいか、はたまた興奮の賜物か。しかしそれがまた男の煩悩を刺激し、妄想を加速させる。

 そんな俺の耳には、先ほどからパシャパシャと、浴槽を泳いでいるかのような音。

 ふむ。今入浴中の女性は、中々にアクティブなお姉様のご様子。恐らくは大浴場を独り占めする爽快感に、気が緩んでしまったのだろう。

 つまり俺に見つかれば、桶を投げて攻撃してくる可能性が高い。それはかごに乱雑に放り込まれた浴衣からも想像が出来る。

 だがそうと予想出来てしまえばこちらのもの!

 妄想するに、年齢は10代後半から20代前半。髪はロングだな。お湯につけないようにお団子頭になっている。そのお団子頭に負けないほどの豊満なバストが浮き輪となって、彼女を不沈艦へと変貌させる――。


 さあ、俺の心の準備は整った。

 いざ参らん! ”湯”源郷(とうげんきょう)へ!


「おじゃましまーす!」


 人の体ならば危険極まりないが、今の俺は40センチの木の人形。

 なので走りこんで盛大にジャンプ!

 んがっ!

 次の瞬間俺の目の前には、真っ黒い爬虫類。

 あ、こいつワニだ。俺死んだ。第二の人生終了ー。


 カコン!


「なっ、何奴!?」

「ワニが喋った!?」

「「ってその声!!」」


 *****


 ああ、もう、その、なんというか……泣いた。うん。泣いた。俺が。

 部屋に戻っても無念の感情は収まらず、小さな布団に包まり涙を流している。

 ――木の人形だから涙流れねーけどな!!


「まあまあそう落ち込むな」

「うっせっ! どーせどーせお前には分かんねーんだよ! この純朴な男心を踏みにじられた怒り……くそぉーっ!」

「というか、裸を見られたのは私なのだが」

「うるせーうるせー! 誰が爬虫類の裸なんぞで喜ぶかってんだ!! それならまだ人の姿でいてくれたほうがマシだってんだよ!!」

「お、おう……」


 畜生……こうなりゃ明日再チャレンジしてやる!


 *****


 んで朝。

 俺たちの部屋には、何故か支配人さん。

 ええ、怒られております。

 誰がって? シェーネが! あっははは!!


「擬態魔法を使わなくてもいい人型のモンスター種族様は、そのままでも構いません。ですがお客様はドラゴン族ですよね? しかもこのように擬態魔法は完璧にこなしておられます。独り占めのような状態になり、羽根を伸ばしたくなったのも分かりますが、しかし規則は守ってもらわなければいけません。分かりますね?」

「はい……すみません……」


 もうそれは懇々と怒られている訳ですよ。

 それを見ている俺は、プププーと笑いを堪えるので手一杯。

 ついでにシェーネは鉄道での一件以来、調子に乗る言動が見え隠れしていたし、いい薬になっただろう。


「し、しかしだな、私を怒るのならばそこの男もだぞ? こやつは女湯に飛び込んできたのだからな?」

「俺はしっかりと深夜1時半、女湯と男湯が切り替わり終わってからの入浴で、なーんも落ち度は無いぞ? それに、それを言ったら時間を守らずに入っていた誰かさんはどうなるんだ? シェ……マイさんよ?」

「くっ……反論出来ない……」


 悪い事をして食べていた人を侮っちゃいけねーよ?

 それで食えるって事は、しっかりと逃げ道を確保した上でやってるっつー事だからな。


「だ、だったら――支配人。宿泊名簿にあるマイという私の名前は偽名だ!」

「おいおい、それはダメだぞ」

「もう遅いわ! 我はエンシェントドラゴンにして最強種族ダークドラゴン。我が名はシェーネフェルト!」


 あーぁあ。

 せっかく穏便に楽しく癒されるつもりだったのに、地雷踏みやがった。


「……ははは。そうですか。ドラゴン族で問題を起こした方は、ほぼ間違いなくエンシェントドラゴンを名乗りますからね。お部屋の名前を見て思いついたのでしょうけれど、ダメですよ」

「い、いや私は本当に」「マイさーん。嘘ついて逃げようとするなんて、最低だよー」

「貴様っ……ぐぬぬぬ……」


 あとは俺からも支配人さんに謝り、どうにか怒りの矛をおさめて頂いた。




「ふう。さーて今日ものんびりするかー」

「何故私だけが怒られなければいかんのだ……」

「怒られるような事をしたからだよ」

「……貴様は何の罪にも問われていない」

「大人しく規則に従ったからな」

「不公平だ!」


 まだ反省が足らんか、この駄ラゴンは。


「あのな、悪い事をするんなら、綿密な計算のもと計画を練って、さらにそこにイレギュラーなハプニングの起こる可能性も加味するんだよ。その上で逃げ切れる自信があるか、捕まっても大丈夫なように裏まで手を回して、それで初めて実行するもんだ。そうじゃなけりゃ大人しく規則に従え」

「……分かりましたー。ぶぅー」


 思いっきり頬が膨れているシェーネ。

 ”最強”の鼻っ柱が折れて、あとは自分を見つめ直していい方向へと転がれば万々歳。

 だけどこいつにそれは期待出来そうも無いな。


「とりあえず、土産屋でも見て回るか」

「ぶーぶー」

「温泉饅頭あるかもな」

「饅頭!」


 単純過ぎて頭痛くなってきた。

 こいつこんなにユルかったか?

 いや、今までが気を張っていて、こっちがこいつの本来なのかも。というかあんな魔道士連中にあっさり捕まった過去から、そっちの可能性のほうが大きいか。

 ――うわっ、あっさりと納得しちまった!


 *****


 温泉街の土産屋めぐり。

 こういうのは異世界でも変わらねーな。


「お、木刀。前世じゃよく振り回してたなぁ」

「今の貴様には大き過ぎるであろう」

「まーな。っつーか俺は戦闘となると何もする事が無いから、そろそろ武器のひとつでも欲しいんだが」

「サテライツ用の武器とは、私でも聞いた事が無い」

「期待してねーからいいんだけどよ」


 なんて話をしていると、地元の若い男どもが深刻そうに話している場面に遭遇。

 こういう時って、間違いなく巻き込まれるんだよな。

 だからスルーの方向で。


「おっ、ドラゴン族じゃないですか?」

「すみません、助けてはもらえませんか?」


 やっぱりこうなるんかい。


『どうするのだ?』

『知らねーよ。任せる』

『ならば話だけは聞いてやるか』


 テレパシーでの会話から、シェーネは首を突っ込む事にした様子。

 こうなりゃ俺は流れに身を任せるのみよ。


 地元民によると、花火用のモンスターが職務放棄で逃げ出し、どこに行ったのか分からないとの事だった。

 なんで花火にモンスターが必要なのか? だが、この花火大会の正体が、なんと自爆する丸っこいモンスターを打ち上げ花火にするという、とんでもない催しだった。

 そりゃー逃げ出すに決まってんだろ!

 やっぱりこの町もしっかり共和国だった訳だ。


「さすがにそのようなものに協力する訳には行かない。私とてモンスターであるし、例えそうでなくても花火の正体を知ってしまえば、誰も協力などするまい」

「花火大会が中止になってもいいって言うのか!?」

「花火大会とモンスターの命、どちらが大切かなど言うまでもない」

「分かってるなら協力しろよ!」


 話がかみ合っていない。

 主にあちらさんの頭がおかしいせいで。

 シェーネもこれは想定外のようで、ちらちらと俺に救援要請の視線を送ってくる。

 仕方がない。


「それじゃあこうしましょうか。モンスターは見つけます。でもそこから先はあなた方とモンスター次第」

「……ああ、それで構わない」

「ちなみにですけど、先ほどの話、俺たちは聞きましたからね? それを忘れないように」

「どういう意味だ?」

「それくらい自分で考えてくださいよ」

「まあいい。こっちは時間が無いんだ。早めにしてくれ」

「こっちの条件を飲んだと考えてもいいんですよね?」

「ああ。だから早くしてくれ!」

「へいへい」


 どんどん横柄な態度になる若い連中。

 それはこの際水に流してやる。なんたってこっちはしっかりと言質を取ったからな。

 あとは泣こうが喚こうが何をしようが、こちらの自由だ。



だからそう簡単に混浴やハプニングは起こらないと。

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