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最小転生で俺流いい人ライフ  作者: 塩谷歩
第1章  共和国脱出編
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第10話  Another列車で行こう

「畜生め!」

「くっははは!」


 国境警備の兵士に賄賂30万ギールを渡して国境を越えようとした俺の作戦、失敗しちまった。

 っつーかよ、仕事熱心過ぎんだよ!

 なーにが「賄賂の事も含め、通報するぞ」だ馬鹿野郎。

 あーいう融通の利かない奴は一生国境警備で終わりだな、ったく。


「どうするのだ? 規制解除を待つか? 私は強行突破でも構わんぞ?」

「どっちもパスだなぁ。解除されるのは俺たちが捕まった後だろうし、強行突破して先方の心象を悪くしたら、それはそれでまた追われる」

「では?」

「王国経由しかねーだろ。何日掛かるんだか……」


 ため息が出る。

 だけどここで止まってたら追いつかれる。俺が気付いてないだけで、とっくに追いつかれているのかもしれないけど。

 ともかく情報だ。お相手は先ほど知り合った彼ら。


『もしもーしリックさーん』

『うおっ!? 本当に声がするんだな。どうした?』

『賄賂で連邦国に渡ろうとして失敗したから、王国経由に変更する事にしたんだけど、ここから王国までどれくらい掛かる?』

『結構近いで』『うおっ!? バザード割り込めんのかよ!?』

『ああ、これは皆で部屋の鍵を共有するようなものだからな。という事で私も参加してみたぞ』


 バザードにシェーネも出張って滅茶苦茶になってきた。

 まあいい、話を強引に進めよう。


『それでだ、何日くらいで王国との国境なんだ?』

『列車に乗れば明日には着くで。ワイこれでも王国出身やからな』

『列車あんのかよ!』

『運賃が馬鹿高くて、普通なら1年に1回乗れるかどうかっちゅー感じなんよ』

『なるほどね。ありがとう、そっちを当たってみるよ』


 銃もない世界だとナメていたが、機械技術はあるのか。

 シェーネはそこらへん全く知らないだろうから、どこかで機械に詳しい人をとっ捕まえるべきだろう。

 今すぐではなくて、早くても共和国を脱出した後の話だけどな。


「ルイよ」


 唐突にシェーネに呼ばれ、顔を見ると――自慢したいらしい。恐らく列車に乗った事があるんだろうな。


「俺の世界じゃ普通に走ってたぞ」

「なっ……」


 これぞ必殺『竜殺し』なんちゃって。




 その後、シェーネが道を訊ねつつ、どうにか駅に到着。

 立派な赤レンガの駅舎で、1番線から4番線まである。

 2番線に紺色の蒸気機関車と深緑の客車が止まっていて、王国行きと書かれたプラカードを掲げた駅員。

 だけど機関車の煙突からは青白い粒子が舞っていて、魔法か魔力で動くんだろうなと、門外漢の俺でも想像がつく光景になっている。

 会社名は『アルカディア鉄道』だ。

 地図があったんだが、1・2番線は王国へ、3・4番線は連邦国へと続いている様子。 綺麗に大陸を横断しているのだから、大動脈といったところか。


 ここでオンボロ荷車とはオサラバ。駅の近くに廃材屋があったので、1千ギールをお支払いして処分してもらう。

 シェーネの奴、情が移ったのか名残惜しそうに頬ずりしていたぞ。

 そして俺だが、もうシェーネの谷間に挟まるのは勘弁願うので、肩に乗せてもらった。今後はこれで行こう。


 王国へのチケットだが、1人につきなんと14万ギール。所持金ギリギリだった。

 客車に乗り込み、これで一安心。

 俺たちが乗ったのは安い3等席で、家畜運搬車のすぐ前。客は疎らで動物耳の亜人族や、種族的に顔色の悪い魔族、それから人に擬態して大人しく座っているモンスターだけ。

 きっとヒト族は2等以上が定石なんだろう。

 あと5千ギール出せば俺たちも2等席だったんだけど、今後を考えて少しでも節約だ。

 10分ほどで列車は動き出し、俺もシェーネも疲れのせいか、ついウトウト――。


 *****


『共和国中央魔道士隊 4番隊』

 ルイたちの乗る列車の後方には、8名から成る魔道士隊が付けていた。


「イングリット隊長! ターゲットは客車最後尾に乗車中との事です!」

「ふんっ、全く。ドクトルにはしっかりと反省してもらわねばいけませんね。何故にわたくしのような中央魔道士隊がこんな辺境まで……」


 隊長はイングリット。ブロンドの髪をオールバックにした、40代の男だ。

 今回は留守番だが息子カークが部下におり、現在メキメキと頭角を表しつつあるのが、目下の自慢である。

 彼らは事前の情報から昨日の時点で町に入り込んでおり、ギルドマスターガンプからの通報によりシェーネフェルトを特定し、現在に至る。

 彼ら4番隊は情報収集任務も行っているので、このような情報は一番に手に入れられるのだ。


「皆さん、作戦を伝達します。まずは最後尾の客車のみ切り離し、小型化・弱体化複合魔法『オープンディフェンス』を発動。前方が充分離れた後、高威力魔法で一気に叩きます。では行きますよ」

「「「はい!」」」


 だが彼らの持つ情報には、2つの重要な要素が抜けていた――。


 *****


 ん? なんか嫌な空気だ。

 ああ、ウトウトはしていたが寝てはいないぞ。俺は車窓を楽しむ派だ。

 そしてこの空気を読む能力は、悪い人時代に鍛えられた第六感という奴だ。


「シェーネ」

「んー……」


 あらら、気持ち良さそうに寝てやがる。

 せっかく綺麗な風景がそこにあるってのに勿体ない。とはいえ、こいつからしたら見慣れた光景なんだろうが。

 ――よし。腹に一発入れてやるか。

 居眠りする若いのに、鉄拳制裁として頭ではなく腹に一発入れて起こすという事をやっていた。それをシェーネにも食らわせてやる! くっくっくっ!


「おるぁっ!」「ごふっ……ぅっ……」


 おや? 予想以上に入った。

 相手は最強のダークドラゴンで、こっちは最弱のサテライツ(木の人形)。

 ピコピコハンマーで殴った程度のダメージかと思いきや、シェーネの奴本気で痛がっている。


「きっ……貴様っ……」

「ははは、まあまあ。っつーか空気おかしくねーか?」

「なにを……いや、確かに。後方に魔力を感じる。8つ」

「あー、バレたな。戦闘だ」


 俺の声と間を置かずに、前の車両との連結が外れた。

 そしてすぐさま車両丸ごと包むように、足元に青白い紋様が浮かんだ。

 魔法が発動すると、同じ車両にいた擬態しているモンスターだけが白く光り、次々と子供サイズになってしまった。

 モンスターにピンポイントなんだなーと感心はするが、それは用途を狭めるだけで、優秀とは言えないな。


「ヒト族の作った例の魔法だ。今更私には効かないが――客はこの通りだ」

「へー。んじゃ俺は車両に取り付いて再度連結するわ」

「くはは! 全く動じないか。面白いなあ貴様は」

「前世で色々あって、神経図太くなったからな」


 一方車内は恐慌状態。

 さて俺は宣告どおり、座ったままこの車両と、ついでに後方の家畜運搬車も掌握。

 速度を上げて逃げる前方車両にコンニチハ(・・・)

 軽く突っ込むとガチャンと音がして、連結出来ている事を俺自身が確認。


「あ、ついでだから列車丸ごと掌握してみようかな」

「いいぞいいぞ! 面白くなってきた! くっははは!!」

「シェーネよ、ふんぞり返って馬鹿笑いしている暇があれば、迎撃準備してくれねーかな?」

「とっくに準備が出来ているから馬鹿笑いしているのだ。私をナメるなよ?」

「はいはい」


 さすがにそこは最強さんですものね。

 こっちは1両ずつ順調に掌握。機関車と5両の客車、1両の家畜運搬車で出来ているので、客車部分はあっさりと掌握出来た。

 残りは機関車。


「ルイ。後方を見れるか?」

「んあ? ちょっと待て。機関車を掌握したらだ」

「どれくらいかかる?」

「あと数秒」


 そう言った次の瞬間、後方の家畜運搬車が吹っ飛んだ。


 *****


 イングリットたちは驚き戸惑っていた。


「きっ、客車が単体で走っています!」

「見れば分かりますっ! どんな魔法を使ったらこんな事が……」


 彼らの目の前で、切り離された最後尾の客車と家畜運搬車が普通に走っていく。

 イングリット隊長は、これがダークドラゴンの仕業だとしか考えていない

 ヒト族至上主義の共和国で生まれ育った彼にとって、ヒト族以外は全て下等。

 ゆえにヒト族とダークドラゴン以外で、これほどの事が出来る力を持つ存在がいるという可能性を、早々に排除してしまったのだ。


「こちらの魔法は成功したのですよね!?」

「はいっ! オープンディフェンスは間違いなく発動しています!」

「ならばダークドラゴンとはいえ、車両を動かせるほどの力を発揮出来るはずが……」

「隊長! 次の指示を!」

「分かっていますっ!」


 思考が堂々巡りし埒が明かない。

 その間に車両は前方に追いつき、再度連結。

 これでは大きな魔法を使えばヒト族にも被害が出てしまい、自身のプライドに大きな傷が出来てしまう。

 そう考えたイングリットは、次の手段を取る事にした。


「皆さん! 後方車両は家畜や奴隷、蛮族のみです。今より我々ヒト族よりも下等な種族は、モンスターと同義とします! 攻撃開始!」

「「「はい!」」」


 こうして彼らは、地獄の門を開ける。


 *****


 家畜運搬車がやられたか。だが奴はこの列車でも最後尾。家畜さんが可哀想だが、どうせこの後はと殺されて肉になるんだ。

 ――いや、それよりも。

 取り付いて遠隔操作した物が壊されると、俺にもダメージが来た。小指を落とした時を思い出す痛みだ。

 さすがにシェーネがいるから動揺は出来ないが、あまり大量に取り付くのは考え物だな。今後は控えようと思う。


 そうこうしているうちに機関車の掌握完了。

 機関士さんたちが青い顔してるのも見える。ごめんなさいね。

 おっ、車内放送用のマイクがある。ちょっと借りようっと。


『あーあー、マイクテストマイクテスト』


 これ一度言ってみたかったんだよ!

 なんて遊んでる場合じゃねーな。


『お客様及び乗務員の方々に申し上げます。この列車はわたくし、サテライツのルイが掌握いたしました。ああどうぞ落ち着いて。こちらは皆様方に危害を加えるつもりは一切無く、むしろ後方から攻撃してくる魔道士の一団に対し、この列車を保護する事を宣言いたします。しかしイレギュラーが発生しないとも限りませんので、ご乗車のお客様は落ち着いて前方の車両へと移動をお願いいたします』


 早速叫び散らしながらの移動が始まった。

 ――もうひとつの懸念を払拭しておくか。


『えー、なおですね、もしも他の種族や大人しいモンスターを差別するような言動が見られた場合、機関車を破壊し当列車を停車させますので、ご注意ください』


 どう破壊させるのかは、その時に考える。多分適当に弄れば壊れるでしょ?


「さて、私の出番だな」

「分かっているとは思うが、この列車には指一本触れさせるな。それと全員は殺すんじゃねーぞ」

「”全員は”という事は、数人は殺してもいいと?」

「売られた喧嘩は買う。拳で売られたら拳で買う。殺意で売られたら殺意で買え」

「くっはっはっ!」


 そして俺が売るのは安全。買わせるのは列車の客だ。

 視点を車両に移し、さらに後ろを見る。

 これが未だに不思議な感覚だが、俺にはしっかりと車両の屋根から後ろを見る視点になっている。


 そして相手だが――なんだありゃ? サーフィンボードに乗って空中浮遊しながら追いかけてきてら。

 あれがこの世界での”魔女のホウキ”って事か。

 俺から見れば滑稽な光景だけど、この世界の奴からすればあれが普通なんだろう。

 考えりゃ、ホウキに乗ってるのも中々に滑稽だ。


 早速魔法で火の玉が飛んで来た!

 だけど列車に当たる前に、何かに弾かれて消えた。

 まさかの防弾仕様なのか?


『今のがプロテクトという魔法だ。私が唱えたのだから、一帯が焦土となっても列車には傷ひとつ無い事を約束するぞ』

『さすがは最強だな。俺も安心して観戦出来る』


 後はのんびり観客席で、シェーネと連中とのショータイムを眺めるか。



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