第9話 女子高生に拉致られた!
「・・」
何の言葉も出ない。だけど、仰向けの態勢で考えることだけはできた。全然、体が動かない。ほんとに指一本も。たぶん、スタンガンか何かだと思う。初めてのことに、あまりのショックで冷静に考えられない。
「おとなしくしててね」
(おとなしく、も何も、うごけねーし!)
そのまま、ぐいっと強引に体を捻られて、うつぶせにされる。他人に自分の身体を自由にされるなんて、なんだか凄く屈辱的だ。
真桜は、また電話をかけている。
「確保完了。連行準備完了です。お願いいたします」
おい。なにか物凄く物騒な単語があったような気がする。
「絶対、うるさくしそうだしね」
真桜は、独り言の音量もデカい。聞こえているぞ。
電話を切ってから、少し時間が経つと、家の中に上下つなぎの作業着を着た男たちが、どかどかと俺の家に入ってくる。その勢いのまま、俺を緑色のカバンの中に。
「詰め込んでいいです」
こら真桜!人を荷物みたいに!
「支部へ向かいます」
と、作業着の男たちが言う。
「わかりました」
と男たちに付いていく真桜。マジで、拉致か?強制労働?
そして、頭の上で、カバンのロックがカチャッと、閉められた。
まさかの拉致。カバンの中で揺られながら、いろいろなことを考えていた。このままだと絶対に帰れないパターンだ、船に乗せられマグロを一生釣り続けるのか?とか、鉱山でむさい男だらけの労働環境で働き続けるのか?けついたそう、などと、浅い知識を総動員して頭の中を巡らせた。
当たり前だが何も見えない。たぶん、エンジン音と振動から推測すると、車に乗せられて移動中なんだと思う。カバンの外からは微かに音が聞こえる。唯一、体の自由の利くところは目線だけだった。カバンの内側しか見えないけど。
なにか、男と真桜が話をしているけど、英語なのかな?エンジン音と重なってモヤモヤと聞こえて、全然わからない。単語のなかで、わかるものがあっても、英語だし、前後の文脈が分からないので、さっぱりだ。
今、「BANK」という単語が聞こえたような気がした。聞けば聞くほど、逆に混乱してきた。その状態が、30分くらい続いた。
車が不意に止まり、俺が入っているカバンが無造作に持ち上げられた。結構揺れる。そのまま、建物の中に入ったのか、少し周りが静かになった気がする。どこに移動しているのだろうと思っていたら、ドスンと乱暴にカバンが下ろされた。お尻痛いよ。
トントントン、とノックの音。
「失礼いたします。佐々木です」
真桜の声。後で覚えていろよ。悲しいことに、後、があればの話だが。
カバンがガチャリと開けられた。身体は、未だ動けなかったので目線だけで周りを確認する。俺の近くには、真桜と作業着のおっさんがいた。カバンの外は、少し肌寒く、見ると20畳くらいの広さの、事務所のような感じの部屋にいた。
事務机が並び、奥の方のテレビドラマでよく見るような偉そうな部長席には、細身のおっさんが座っていた。こっちをちらっと見た。
「お帰り、佐々木さん」
「はい。ただいま戻りました」
心なしか、真桜の背筋が伸びている。緊張している感じがさっきの電話と一緒のところから、電話の相手は、多分このおっさんだな。
「その少年が、そうですか。?なにか臭うな、水が腐ったような・・」
「・・河原での出来事等、お電話で報告した通りになります」
「そうでしたね。会議室へ行きなさい」
「はい」
すたすたと真桜が歩きだすと、彼女がふらっと倒れそうになった。貧血がまだ続いているのだろうか。後ろから作業着の男が支えようとしたが、真桜は自分で倒れまいとこらえた。こういうところも勝ち気だ。真桜は立ち直り歩き出す。俺も、カバンの口を開けられたらいいものの、立つこともできないので、カバンの中に転がったまま、男にカバンごと床をずるずると引きずられていく。
会議室に着き、俺は男に後ろ襟をつかまれ、カバンから引きずり出される。首が閉まって、苦しい。これが猫だったら可愛いのにね!当たり前だが、男子高校生にやっても全くかわいくない。
作業着の男に脇をかかえられ、椅子にドサリと座らされる。そして、男に素早く後ろ手に縛られ、顔を正面に向かされた。そんなことしなくても動けねぇって!
(ドラマの取調室みたいだな)
部屋の中に机が一つ。机の上に、何か書かれているであろう書類を留めたクリップボード。向かい合わせに、パイプ椅子が二つ。
後から、先程の細身の男が部屋に入ってきた。
「始めましょうか」
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