第5話 彼女こと、真桜に罵倒されました。
あ、ちょっと下着見えそう。
ラッキースケベ的な展開を密かに喜んだが、「待てよ?」、と疑問符が浮かぶ。
おかしいな?こいつの腹、確か血で真っ赤だったのに、今、目の前にあるのは、イカのようにつるつるとした肌だ。引っかき傷ひとつ見つからない。
真剣に観察していると、真桜と目が合ってしまった。
「見るな、痴漢野郎!!」
「ちか・・人聞きの悪い!!俺は見たくて見たんじゃない!俺は、心配で・・」
「ほら!!見ていることに変わりはないでしょう!?この嘘つき男が!!」
「人の話を聞け!だから俺は、」
「眉間にしわ寄せてまで見るなんて!変態にも程があるわよ!!」
俺の弁解なんて受け付けないとばかりにさっと、反対側を向き、自分の腹部を見ている。
会って少しも経ってないのに、なんでそんな罵倒されなきゃならないんだ。
「そういえば、ケガしてたよな?」
河原で出血していたことが気掛かりで、俺は後ろから真桜に声を掛ける。
「そうそう、お腹をざっくり・・。って、なんで知ってんの?」
ギロッと睨んでくる。この女、顔が整っている分、睨むとこえー。
「だって、さっき腹から血が出ているの見たし」
「あんたいつから!」
「それより、家ん中入らない?服濡れちまったし、寒いから着替えたいんだけどよ」
「なにもしないでしょうね?エロ男」
「エロ男じゃねーっつーの!弥彦だ!だいたい初対面の奴に向かって痴漢だの嘘つきだのエロだのってあんまりじゃ・・」
「何もしなければそれでいいのよ。うるさい男ね」
全くなんて女だ。
俺は真桜の言葉にムッとしながら、彼女と一緒に家の中に入った。
俺は着替えをしに自分の部屋のある2階へあがる。あ、真桜も濡れていたんだった。着替えは、流石にないからタオルでも渡しておこう。
リビングのソファに真桜を座らせて、俺はテーブルをはさんで反対側に座った。
そこで、先程の河原でのおかしな出来事を真桜に説明した。
「で、さー」
「・・」
真桜が黙っている。あれ?さっきから全然喋らなくなったような気がする。見ると、渡したバスタオルで体を拭きもせず、それを手に持って下を向いて凝視している。床に何かあるのか、と思って俺も見たが、特に何もない。
「おい、聞いてる?」
「・・」
ん?なんかブツブツ言っているのか?耳を澄ましてみると・・。
(今度こそクビ?もうおしまい?お仕置きが?)
・・この女、怖いわ!
ちょっと、引いてしまった。
「そ、そう。じゃ、お邪魔しました。帰るね」
「え?あ、ちょっと!」
真桜が、がばっ、と立ち上がり、そそくさと帰ろうとしている。俺だけが話して、俺は真桜から何も聞いていない。あんな目にあったのに、それはないだろう。
そんなことを考えていると、
―――ガタンッ
突然、真桜が倒れた。
全校朝会とかで、女子が貧血で倒れるようなあの感じで。
「おい、大丈夫?」
「・・最悪。吐きそう」
「そりゃ、あれだけ血が出てたからなー」
多分、貧血だよね。レバー、食わなくちゃ。俺嫌いだけど。手を引っ張って、ソファに座らせる。軽っ。もうちょっと、体重あるかと思ってた。
「なに?」
俺の思考を読み取った感じで、じろっと睨んでくる。
「いや、なんでも」
なにもない、というように手を振る。
それでも、ことの真相が知りたい俺は、しつこく真桜に尋ねて食い下がる。
「・・・真桜、そろそろ説明してもよくね?」
「そう来ると思った。でも言いたくないんだけど」
うーん、そうだよな。さっきから、無理な話の反らし方や、ずっと言いたくなさげな表情からいい加減、鈍い俺も感づいていた。だが、ここで引いたら一生分からないと思って負けずに言い返す。
「でも俺、ちょっとというか、かなり巻き込まれたし、凍えて死にそうだったんだぞ」
「オーバーね。あなたが興味本位で近づいたのが悪いのよ」
彼女の調子だと、この問答がずっと続きそうだ。俺は頭を悩ます。巻き込まれ損は、嫌だし、何故あんなことになったのか知りたい。何とか、聞き出したい。
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