第1話 テストって、大変
はじめまして、です。よろしくお願いします。
まずい。どうしよ。本気で、ヤヴァイ。
「おい、弥彦!何やらかしたんだ」
顔を真っ青にして、うつむきながら学校から帰る俺に、智明が話しかけてきた。
「いや、な・・」
道路わきの土手の上に自転車を止め、二人で話している。すっきりとした秋晴れのなかで、俺だけが沈み込んでいる気がする。ガードレールに腰掛け、ズボンが白く汚れるのも気にならないほど、酷く落ち込んでいた。力なく、だらーん、とうつむきながら、頭を抱え込む。
やっぱり、「ドロー!テストのヤマ!!」、なんて言って、あんな馬鹿なことやるんじゃなかった。
俺こと、弥彦は、高校2年生である。
中間テストの1日目が終わり、明日以降のテストに備えなきゃなんだけど!これは、本気でまずい・・。
昨晩のテスト勉強の話だ。テストを控え、後がなくなった俺は、こともあろうに自分の勘に頼った。出題範囲である教科書のページを、目をつぶってペラペラーっ、華麗にめくり、「ここだ!」、と思ったところでストップ、そしてそこへ付箋。それを5回繰り返したところで、付箋した箇所を勉強開始。そこしか勉強しなかったことが間違いだったのか、それとも、1日だけしか勉強をしなかったのがまずかったのか、それとも・・。いくら後悔しても怒涛の如く流れる滝のように止まない。
お察しの通り俺がやったのは、俗に言うヤマカンだ。なんとかなるさ、とテスト前日まで勉強しなかった俺には、もうそれしか方法が思いつかなかったし、残されていなかったのである。
色々と考えすぎて、吐き気がしてきた。
「・・お前ばかだろ」
智明は、ポリポリと頭を掻き、あきれながらつぶやいた。
「俺もそう思う」
そう。だけど、もうテスト1日目は終わってしまった。なんかもう、人生終わったくらいの衝撃が脳内にガンガンと響いており、実際頭痛までしてくる。
空を仰ぎながら、ガーッと頭を掻きむしる。もー!どーすんだよ。
「じゃ、帰るわ」
「おい、俺を捨てるのか?」
「帰って、明日のテス勉すんの!」
「一緒にやってもい・・」
「じゃあな、弥彦。来年は違う学年か・・。お前との2年間、楽しかったよ」
そう言いながら、智明はくるりと俺に背をむける。
「んなわけねーよ!勝手に決めるな」
「いや、そうだろ。このままじゃ、ぜってーヤバいから。ちゃんと勉強したほうがいいって!」
智明がそう俺に言い捨てて、すたすたと自転車に近寄り、またがった。
「また明日、な。歯ぁ磨けよ、風呂入れよ!」
「なんだよそれ!」
無情にも智明はそのまま帰ってしまった。はくじょうもんめー。
「くそー、ホントどうすんだよ」
ばっ、と立ち上がる。
「とりあえずコンビニに寄って、格闘技雑誌の立ち読みして、昼飯でも買って帰るか・・」
両手を高く上げ、背をそらす。
今日は、午前中でテストが終わったからまだ日が高い。近くの公園を見れば、まだ小さな子供と母親が手を繋いで楽しそうに散歩をしている。少しだけ冷たさを孕んだ乾いた風が心地よく髪をなでる。近ごろは、朝晩はちょっと肌寒いけど、陽が昇る日中は比較的暖かく、特に今日は行楽にはもってこいの日よりだ。
こんなにも穏やかな午後が、かえって俺を深く落ち込みさせる。
世界は幸せに満ちているのに、俺だけが不幸どん底にいるような気持ちになってくる。
「あー、空は青いね。遊び行きてー!」
気分転換に、俺は大好きな拳法のマネ事をする。
その拳法とは、手数で相手を圧倒する拳法だ。一撃一撃は弱いが、軽い一撃を何発も喰らわせることで相手の体力を徐々に奪いう。極力、無駄な動きをしない超合理的な動き―――らしい。俺は尊敬しているし、超カッコイイと思う。
しかし、斜面の土手でやったせいか完全に体制が崩れてしまう。
やべ、体ひねらないとガードレールに頭をぶつける!
ほっ!、はっ!、ぬにっ!
ずるっ。ずる、ずるるるる。
「とっ、あ、やべ。あ!痛て、てて」
そのまま、川の土手を滑り落ちてしまった。
「ケツ、いてーし」
うー、誰かに見られてないだろうな。恥ずかしーな、もう。腰をさすりながらきょろきょろと見まわしていると―――。
「なんだあれ?なんか、体操座りしてる?」
30mくらい離れた橋の下に、誰か座っている?
いや、違う。いろいろと縮尺がおかしい。橋の上を走っている小型トラックとほぼ同じ大きさの人間がいるわけがない。そのうえ、なんか光を反射している。
それに、白い。なんだろう?
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