9 黒の絶望曲4
なんとか投稿することができました^^;
今回の話でこの戦いを終わらせるつもりだったのに終わらせられませんでした。くやしい。
明日もできれば更新したいです。できれば……
僕たちは目の前の悪魔に対し呆然と固まる。
そして何拍か置いて恐ろしいまでの恐怖が全身を貫いた。
まるで違った。
先ほどまでの戦闘は遊び。抵抗してきた小虫相手に対して面白がって戦闘ごっこを付き合っていただけであったということだ。
それに飽きたということなのだろう。
であらば殺されるのは明白。飽きたおもちゃを捨てるのと同じ、もうこの悪魔にとって目の前にいる生き物は目障りなオブジェでしかないのだから。
潰されるか、引き千切られるか、斬り飛ばされるかは定かではないが目の前にある死という運命はすべて同じである。
悪魔が次に壊すおもちゃを決めたように、一番近くにいる一人に狙いを定める。
瞬間、横から大きな水の槍が悪魔の右目に突き刺さりその体を横に吹き飛ばした。
そこを見ると、淡く輝く水で人の女性を模った精霊が水の双長剣を構え、悪魔に飛び掛かっていった。
悪魔は吹き飛ばされビルの瓦礫に埋まった体を起こすと、地を鳴らす憤怒の咆哮を上げ、その剛腕に任せ巨大斧を振るう。
水の女性は力任せでしかないその一撃を軽やかに躱すと、右目を潰すことで死角となった悪魔の右側に回り込みフェイントを混ぜながら右目を執拗に攻撃する。
悪魔は巨大斧を無造作に何度も振り回すと、再度怒りの咆哮を上げる。
その咆哮は今までと違って衝撃波を引き起こし、全方位に破壊を巻き起こした。
周囲のアスファルトは捲れ上がり、大通りに面した全てのガラスが音を鳴らして割れていく。
水の女性は衝撃波に吹き飛ばされ、幾度もアスファルトに体を打ち付け叩き付けられる。
悪魔はそれを見ると狼のように喉を低く鳴らし、吹き飛ばされた彼女に向かって突進した。
そのあまりの速度により発生した風が街路樹を薙ぎ倒し、破砕され散らばったアスファルトやコンクリートを吹き飛ばす。
彼女は地に這ったまま幾つもの水刃を形成して悪魔に飛ばすが、表皮に僅かの傷をつけるだけで悪魔の勢いを止めることは出来ない。
彼女はそれを見ると瞬時に己の周りに、霧を発生させその体を覆い隠した。
目の前に発生した水色に輝く濃霧にしかし、悪魔は躊躇うことなくその中に突っ込んだ。
それと同時に水の女性は反対側から霧を抜ける。
霧の中に突っ込んだ悪魔はなぜかその中から出てくる気配がない。
少しして霧が晴れると中から凍り付いた悪魔が微動だにせず佇んでいた。
しかし数瞬すると悪魔を覆っていた氷と霜が罅割れ、その中から悪魔が健在な姿で現れた。
彼女はそれを想定済みのようですでに悪魔の後ろに回り込み、その右顔に水長剣を突き出す。
悪魔は後ろを見ずに巨大斧の石突を後方に突き出した。
悪魔の剛腕で突き出された石突は水の女性の胴体を貫き、背中から石突の先が飛び出した。
彼女はビクンッと一回震えるとそのまま力が抜けて動かなくなる。
すると彼女の体が溶け始め、バチャリと水となってアスファルトに広がっていく。
悪魔が驚いて首を右に回し後ろを振り返ると、悪魔の左側の何もない空間から水の女性が突如として現れ、悪魔の無事な左目を潰さんと水長剣を振りかぶった。
すると悪魔がグリンッと首を回し彼女をその視界に捉える。
そして巨体に似合わぬ俊敏な動きで彼女の首を掴み取り、アスファルトへと叩き付けた。
轟音が鳴り、アスファルトは割れ砕かれ粉砕される。クレーターの如き穴が開き、水の女性は地面にめり込んだ。
水の女性は水槍や水刃を次々に生成し悪魔にぶつけていくが、悪魔は意に返さず手に持った巨大斧を振りかぶり僅かに溜めると、凶悪で嫌らしい笑みを浮かべた。
そして街で燃える炎に照らされ妖しく輝く巨大斧が振り下ろされる。
振り下ろされる瞬間、偶然にも水槍が巨大斧に当たり顔を狙った一撃は僅かに逸れ、片腕を切り飛ばした。
彼女から金属を擦ったような苦痛の声が微かに聞こえる。
この間、僕は何もすることができなかった。体が動かなかった。
少しでも動いたら殺される、そう思ったから。
事実その通り、さして強くもない自分があの悪魔の目に留まった瞬間に一瞬で消滅させられるだろう。ただでさえ悪魔と天使は険悪な仲、それは他の悪魔と戦っていた時も感じていた。
実際に戦っている人間たちや他の召喚獣よりも、ただ浮かんでいただけの自分の方が悪魔たちのヘイトは集まっていた。
前線に出ずにおとなしくしていたから攻撃の標的にはならなかったとしても、少しでも戦闘に参加していたら真っ先に攻撃されていただろう。そして消滅していたはずだ。
だから僕は悪くない。自分ができるだけ死なないための最善の道を歩んでいるだけだ。
誰もが一番に考えるのは己の命、それは万人共通であるはずだ。たまに自分の命よりも他の物を大切にしている者もいるがそれは極めて少数派だろう。
そして僕はその少数派の方には入っていない。
だから今も、自分が助かることを一番に考えて行動すべきである。
そこで、不意に目が合う。
悪魔に踏みつけられ、絶体絶命の水の女性。
アクアマリンを思わせるその瞳は凪いだ海のように穏やかで、僕に何かを伝えようとしているようにも思えた。
なぜ己の命が今にも消えそうになっているのにあれほどまでに穏やかに、今にも笑みを浮かべそうな表情になれるのか僕には全く分からなかった。
彼女は何を思っているのか、何を僕に伝えようとしているのか。
僕には何も分からない。
何も分からなかった。
悪魔が巨大斧を振りかぶる。
それはまるでフランス近世に用いられた断頭台のギロチンのようで。
虚空を切り裂く極太の刃は、上から下に通り過ぎ、彼女の首を斬り飛ばした。
彼女の首は空を舞い、大気に溶けるように光の粒となって消えていった。
それと同時に彼女の体も光り粒となって消えていく。
なぜ彼女は逃げなかったのだろうか。
彼女の実力なら単騎でこの包囲網を抜け出し逃走することも可能だったはずだ。
彼女の実力は僕とは比べ物にならない、おそらく僕とは違って強制召喚ではないので命令絶対厳守ではないだろう。
彼女はこの場に自分の命よりも大切なものがあったのだろうか。
僕にはそうとは思えなかった。
もしそうであったならば彼女の最後、あの穏やかな様子の説明がつかない。
本当に僕は分からないことだらけだ。
僕はそこまで考えると、無い頭を振ってその思考を振り切る。
それを考えるのは後だ、それより今はやるべきことがある。
前を見ると巨大斧を引きずる悪魔が少しずつこちらに近づいてきている。
今やるべきこと、それは今の状況から生き延びるいうことだ。
逃走は不可能。
青年が僕が逃げるのを許可すればいいのだが、それをするとは思えない。
青年の横顔をチラリとみると、そこ顔はどす黒く染まっており死相が浮かんでいた。それでも何とか生き残ろうと思っているのか、自分が逃げ延びるための手段をぶつぶつと呟いている。
これであれば僕を囮にしても逃げようとするだろうし、小さくとも貴重な戦力である僕を逃がしはしないだろう。
であれば、あの悪魔を倒すしか生き延びる道はないだろう。不謹慎かもしれないが、水の女性が生きているときに自分も戦う決断をしなかったことが悔やまれた。
ならばこの強制召喚せれている状態ではどうなるか分からないと敬遠していたが、これをするしかない。
いまの下級天使アビリティは[Lv 5/5]でマックス。少しでも有利に事を運ぶためには進化をするしかない。
それを決断すると、自分のステータスを出現させ進化を行う。
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アビリティ「下級天使」のレベルが最大値に達しています。
魂と肉体の改変を行い、中級天使[Lv 1/5]のアビリティを取得することができます。
今すぐ行いますか?
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水の精霊さんを殺してしまいました……
彼女は登場させたときから死ぬ予定だったのでしょうがないですが、書くときにちょっとためらいました^^;
お読み下さりありがとうございます。
設定の不備、誤字脱字等のご報告ありがとうございます。
感想、意見などをもらえたら嬉しいです。