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天使が正義でなきゃいけないと誰が決めた?  作者: 上七川春木
世界を覗く深淵編
8/16

8 黒の絶望曲3

書くのに手間取ってしまって、6時を大幅に過ぎてしまいました。すみません。


もっと早く出そうと思っていたのに……、結局こんなに長く間が空いてしまった……(´・ω・`)

そろそろこの戦いもクライマックスなので、次の話は明日投稿します。がんばります。


 強大な悪魔の出現。

 遠目からでも分かる尋常でない邪気と殺気。それは物理的な波となって押し寄せる。


 一瞬で目の前に闇がかかり、全身の震えで立っているのも困難になる。

 それは本能だった。本能で彼我の関係、喰うものと喰われるものを悟りその情景を全員が幻視した。


 奥歯がカタカタと鳴り、世界がぐるぐると回ったような感覚に陥る。

 そこから目を背けたい願望が無意識的に生まれるが、根源の恐怖をその身から撒き散らす化物から目を離せない。目を離した瞬間に殺されると、沸騰する本能が悟っていたからだった。


 まさにゾウとアリ。どう抗っても敵うことのない存在、この世に存在してはいけない化物。

 古代からこの世界の食物連鎖の頂点に立ち、モンスターが出現してからも高度な技術により命の危機を感じたことが昔々から無くなってしまった人々は、その危機が目の前に具現として現れたときなすすべはない。


 が、これは遺伝子的生物多様性の結果なのか、それは分からないが目の前の恐怖に立ち向かおうとする者が数名。

 このような者たちがおそらく勇者や英雄と呼ばれる存在となりえるのだろう。

 しかしそれも、この危機を乗り越えなければそのようなことはなく、その素質と共に墓の下に埋まり朽ちるだけである。


「グッ……、倒せッ、そいつを倒せッ!」


 その立ち向かうものの一人、召喚士の青年の命令で水の女性があの山羊顔の悪魔に飛び掛かる。


 それと同時に3人が己を鼓舞するような怒号を上げ各々の得物を持ち悪魔に向かって走っていき、また2人がその場で悪魔に向けて魔法を打ち放った。


 悪魔に向かう4名の頭上を飛び越え2つの魔法が悪魔の右顔と左わき腹に直撃する。


 しかし、微動だにせず。


 僅かにも痛痒を見せることなく、それどころかその口元を僅かに歪ませた。

 まるでアリがゾウに歯向かったことに愉快さを感じ取ったかのように。


 次に水の女性が、大鎌のような水の刃を3つ悪魔の喉、鳩尾、股間に打ち放つ。


 数々の悪魔をその一刀の下に葬り去った水刃に、その悪魔またもや微動だにせずその攻撃を受ける。

 僅かに3つの切り傷が悪魔の体に刻まれたものの、その傷はすぐに薄くなり無くなってしまう。


 そして水の女性は両手にそれぞれ1つずつ水の長剣を創り出し、3人は己の得物をそれぞれ握り締め悪魔に切りかかり、悪魔は口を歪ませ片手に持った巨大斧で応戦した。



   ◇◇◇



 山羊顔の巨大悪魔と4名が切り結んでいるころ、光球に羽を持った天使はガタガタ震えながら召喚士の青年の頭上でその足元を照らしていた。


 悪魔が降り立った時の恐ろしいまでの殺気。

 感じ取れる物理的な圧力までも纏っている凄まじい威圧。目が合ってしまったときなど、気絶しそうになったほどだ。


 しかし、これは己自身では気づいてはいなかったが、周りの人々と比べて体が動かなくなるほどの衝撃は受けてはいなかった。


 それはなぜか。

 それは彼が「天使」であるということに起因する。

 天使という種族。それはこの世界を含め、転生した強者(ひし)めく元の世界においても、悪魔や竜などと並ぶ最強種族の一つ。その上位の者にあっては戦う事はおろか敵対することすら(はば)られる絶対者であった。


 その天使としての本能。人間などとは比較にならないほどの生物的高位存在としての本能が、前世の平凡なゲーマーだったころの心や本能を凌駕して脳を貫き無意識に体に反映していたからだった。


 そのようなものを恐れるなと。


 それは自分と同格の存在だと。


 ゾウとアリではなく、ゾウとゾウであるのだと。




 目の前では未だに悪魔と人間側の繰り広げられている。悪魔の剛腕から繰り出される巨大斧の一閃に対し前線の者は一合も打ち合わせることなく、全て避ける。


 そして僅かにできた隙を逃さず悪魔の体に剣を走らせる。


 やむを得ず剣を合わせてしまったときは、対抗せずそのまま弾き飛ばされ他の者も合わせて距離を取り、魔法で攻撃を行う。


 攻撃を全く意に返さない悪魔も、度重なる連撃により徐々にダメージを蓄積させていく。



 これはまずい、と感じた。

 あの悪魔、恐らく本気を微塵を出していない。


 あの悪魔が出現したときの途轍もない恐怖。圧倒的な力の波動。そして魔法を尽く弾く表皮の頑丈さ。それに比べて攻撃力が貧弱すぎる、傍目にこちら側が善戦し、悪魔が少しずつ傷つき一人も倒れる人がいないのがその証拠。

 そういう種族もしくは個体という可能性も捨てきれないが、それを凌ぐ圧倒的違和感。


 強いて言うならばかつてMMORPGの世界で経験したPVP大会の決勝戦、こちらが僅かに押しているにも拘らずまるで焦る様子のない対戦相手に感じたものと同じものを感じる。


 そして一番の違和感が、恐らく自軍の主力が劣勢になっているのにもかかわらず、あの悪魔が出てきてからその攻勢を完全に停止させた周囲を包囲する悪魔の軍団。

 もし本当に劣勢なら加勢するのが当然であるはずだ。


 他の人も気づいて然るべきなのかもしれないが、先ほどの悪魔からの恐怖とそこから脱せるかもしれないという安堵感からか、視野が非常に狭くなっている。


 騎士道精神というものが悪魔にあるのかは定かではないが、一瞬見せた嫌らしい笑みにそのようなものは微塵も感じさせなかった。


 すると、今まで斧で応戦していた悪魔が突然そのそぶりを止め棒立ちとなる。

 その姿はそれまでの違和感をブクリブクリと増幅させるものを感じさせた。


 それまで戦っていた人たちも、そのあまりの不自然さに好機にも関わらず攻撃を中断する。


 怪訝に思っていると、悪魔はそれまで自分と戦っていた者たちを順番に見回し、最後に僕の方を向いた。

 その目はこれまでの敵意や殺意、悦びなどといったものは一切浮かんでおらず、ただ空虚な闇が存在するだけだった。


 それを見た僕は、



 ゾッッ……!



 と怖気が走った。


 それはまるで、(,)(,)(,)(,)(,)(,)(,)(,)(,)(,)(,)(,)(,)(,)(,)(,)(,)興味(,)(,)(,)(,)(,)(,)(,)(,)(,)(,)……


 パンッと、爆竹が鳴ったような音がすると悪魔がそれまでいた場所のアスファルトが爆ぜ、いつの間にか悪魔はそれまで自分が戦っていた一人である剣士の前に立っていた。


 悪魔はすでに振りかぶっていた拳を裏拳のような動きで、呆けたような顔した剣士の横腹に叩き込む。


 剣士は水切りした石のように地面を何度も跳ね上がり、悪魔たちの包囲も突っ切りビルの壁面に激突した。


 それは飽きたおもちゃに興味を失い放り投げる子供のようで……、この悪魔の変容に僕たちは――このことを多少なりとも予想していた僕でも――体を動かすことは出来なかった。


お読み下さりありがとうございます。

設定の不備、誤字脱字等ありましたらご報告よろしくお願いします。

感想、意見などをもらえたら嬉しいです。

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