7 黒の絶望曲2
1週間くらい間が空いてしまいました(´;ω;`)
毎日小説を投稿している人は本当に尊敬します。
……次はもっと早くできたらいいなあ。
そこには紅蓮が広がっていた。
街路樹は燃え盛り、アスファルトは焼けただれ赤熱していた。本来燃えることのないビルの外壁すらもヘドロのような黒泥がへばり付いて、そこから炎が渦巻き燃え上っていた。
その紅蓮の中心では、人間と悪魔が分かれて熾烈な戦いを繰り広げていた。
100余りの人間は大通りの中心で円陣の形を組み、周りを囲んでいる推定1000体超の悪魔に対抗している。
異形の悪魔たちは地を駆ける者もいれば空を飛ぶ者もおり、特に空を飛ぶ悪魔に人間は苦戦を強いられているようだった。
人間側は悪魔たちの包囲を抜けた先にある、このオフィスビル群の中でもひと際大きい巨大ビルに向かおうとしているようだが、悪魔側もそれを理解しているのか、そちらの方面の軍勢がひと際多く、突破するのは不可能であるように見えた。
今この瞬間も、上空を飛んでいる小悪魔が一人の男に飛び掛かっていく。
「クソがッ!」
小悪魔の槍を手に持った紫色のオーラを纏った日本刀で受け止める。
そしてわずかに鍔ぜり合うと小悪魔を蹴り飛ばし、返す刀で切りつける。
小悪魔は黒い灰になって消滅した。
男は度重なる戦闘で疲弊し、スーツは依れてボロボロになっていた。
「今は戦線を保てているが、いずれは……」
歯を食いしばり、眉に深いしわを刻む。
早い段階で戦線を構築したことで、同時に戦う人数を制限し両者の総数に関わらず戦闘を行う人数をほぼ同数にすることに成功したが、やはり戦力差は歴然だった。
悪魔は倒しても倒しても無限に湧き出てくるようなほどの数がいるのに対してこちらの人数はわずか100人。幸いこちら側は悪魔より一人一人が僅かに強く、共倒れにはならないが徐々に疲労が蓄積されていき、悪魔にやられていくことが増えていっている。
「光左機関の騎士は何してんだ、本部はすぐそこにあるじゃねえか……ッ!」
男は夜空に浮かび上がっている巨大ビルを見上げた。
顔に憤慨と焦燥を浮かべる。
その瞬間、ドゴンッと巨大な爆発音が横から聞こえてきた。
男はハッとしてそちらの方を見ると、ひとりの召喚士の男が水の精霊を使役し悪魔を今まさに粉砕していた。
その女性型精霊は水の槍をいくつも創り出しそれが次々と悪魔を貫いていく。
すると、その召喚士の目の前には悪魔が一体もいなくなっていた。
◇◇◇
こいつ、今まで手を抜いていたのか。
僕の目の前では僕と同じ召喚体の水の女性が先ほどから悪魔をどんどん殲滅してる。
付与魔法使ってるからサポートで経験値おいしい。いいぞ、もっとやれ。
ではなく。
オンラインゲーマーの血が騒いでしまったが、そんなことではない。
最初悪魔に囲まれたとき、僕は生きた心地がしなかった。おそらく自分と同程度の強さの悪魔が200以上、自分よりもはるかに強い悪魔が800以上。味方側にも100人ほどの戦力があったが、正直焼け石に水。
同じ召喚体の水の女性も、悪魔に1対1で勝利していたが多数と同時戦闘すれば耐えられないと思われた。
しかし、この始末。
ふたを開けてみれば、この水の女性は僕では絶対に敵わないような悪魔たちを、まるで雑草のように千切っては投げ、千切っては投げ、まるで相手にならないとでも言わんばかりに圧倒していた。
炎が燃え上がっているアスファルトや街路樹を一瞬で鎮火し、悪魔を貫きチリに変えていく。
そして他の人たちが戦っている間僕が何をしていたのかというと、召喚者の青年の明かりの確保と付与魔法で味方を強化していた。
人間たちを気づかれない程度に微強化し、青年とはべつの召喚者に召喚された召喚体に強化。そして自分たちを守る役目を担っている水の女性に思いつく限りの強化をかけた。
多くの人数に強化をかけたこともあってレベルがガンガン上がっている。ウハウハである。
最初は魔力が無くなるかと心配もしたが、魔力が減るよりレベルが上がったことで増えていく魔力の方がわずかに上回るように調整して付与魔法を使用したので問題なかった。
それから時間が経ち、悪魔は半分以下にまでその数を減らしていた。水の女性は疲労を感じない種族なのか、初めと変わらない速度で悪魔を殲滅し、人間たちもその姿を見たことで士気が上がり悪魔達に対して善戦し始めていた。
横では短杖を持ったパンツスーツの女性が光のレーザーを打ち出し、空に飛んでいる悪魔を打ち落とす。レイピアを持った男性が悪魔を突き刺すと刺し傷から悪魔の体がボロボロと崩れだす。
水の女性がまた「赤黒の手」を5体まとめて屠る。僕は彼女の魔力攻撃強化の付与か切れかかっているのを見て付与魔法〈魔法活性〉をかけなおした。
悪魔は人間側の猛攻に押され、初めに比べるとその包囲網は薄く広がっていた。
悪魔も焦りが感じる種族なのかは定かではないが、無謀な攻撃を繰り出す個体が増え始め、勝敗の天秤は人間側に確実に傾く。
「そろそろ包囲を突破できるか……」
青年は呟くと、水の女性に強行突破を命じる。
すると水の女性はわずかにワザの「溜め」に入り、そして次の瞬間には、ギロチンと言うべき巨大な極太の刃を空中に、水で無数に創り出す。
そして殺戮の刃が無慈悲に悪魔の頭上に降り注いだ。
恐らく彼女の持つ最高位の技の一つ。広範囲に降り注いだ水の断罪はその場にいた全ての悪魔を消滅させた。
別の場所から悪魔達が応援に来るがそれも数体、突破は容易である。
――はずだった。
突如アスファルトに墜落した黒い影、それは下にいた悪魔達を紙屑の如く踏み潰して僕らを睥睨した。
地面に大きなクレーターを作ったそれ、山羊の顔を持つそれは通常の人間の3倍程の巨大な背丈をしていた。
こめかみから伸びる天を衝くような両角は幾たびも曲がりくねり、凶々しい螺旋を描いている。
なめし革の柔軟性と精錬された鉄の頑強さを併せ持つような漆黒の表皮、その内側には金属製の荒縄の如く、千切れんばかりに引き締まり、流動し蠢く筋肉が詰まっていた。
それが一歩踏み締めると漆黒の蹄がアスファルトをクッキーの様に砕き割り。
それが手に持った冗談の様な巨大斧を横に振るうとトラックが豆腐の様に砕け散る。
それが青白い息を吐くとアスファルトがマグマの様に融解し蒸発した。
それは悪魔。
この場にいる彼らは知る由も無いが、爵位級の大悪魔だった。
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