3 初めての進化、そして目が覚めるとそこは都会だった……へ?
3話目です。
お読みいただきありがとうございます。
個人的な感想ですが、たぶん2話目より面白いです。あくまでたぶんですが。
一筋の風となっていた。
「ひゃっほおおォォォうゥゥ!!」
はたから見ればとても風と言える速度ではなかったが、気分は風そのものだった。
淡く光る木々の間を縫い、小さな光の欠片に向かって気の赴くままに飛んでいき、そのまま一回転。ストールターンやテールスライド、キューバンエイトを駆使しながら自由に空を飛ぶ。
本物の曲芸飛行と比べると速度や迫力が劣るのは目を瞑っていただくとしよう。
満足のいくまでの飛行を終え、無事に草の上にフワッと着陸。そしておもむろにステータス画面を開く。
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名前:古代の光球
種族:古代の光球
クラス:最下級天使
属性:第一属性「中立:0」(最小値を0、最大値を1000とする)
第二属性「聖:100」(最小値を―1000、最大値を1000とする)
アビリティ(Lv 6/10)
最下級天使[Lv 5/5]
魔法使い[Lv 1/10]
称号
なし
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体が、光の玉がふるふると震える。その体を構成している光が明滅する。明滅がだんだんと早くなり、そして沈み込むように数瞬の間暗くなると、その喜びを表すかのように一気に光り輝いた。
「いよっしゃああァァァツ!!」
喜びの光をその身に湛えたまま、あっちに行ったりこっちに行ったり、くるくると回ったりと踊りだす。
ついにきたのだ。ついに「最下級天使」のアビリティがレベルが最大になったのだ。ここに来るまでどれほど辛い道のりだったか。雨の日も風の日も(天使の聖地には雨も降らないし風も吹きません)がんばった。挫けそうになった日も投げ出そうとした日もあった(ただ飛び回ってただけです)。それでもあきらめず長い間戦い抜いたのだ(数日程度の時間しか経っていません)。
ああ、なんて辛い日々だっただろうか(ただの妄想です)。
しかし。
そう、しかしだ。
やり遂げたのだ。その証拠にいま目の前にはこのようなものが浮かんでいる。
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アビリティ「最下級天使」のレベルが最大値に達しました。
魂と肉体の改変を行い、下級天使[Lv 1/5]のアビリティを取得することができます。
今すぐ行いますか?
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もちろんすぐに行う。
ラッセルの言葉が確かなら、今この瞬間にでも強制召喚が行われ、どうこき使われるか分かったものではない。そんなものはごめんだ。断固拒否する。そしてそれを実現するためにも早急に強くならなければいけない。
よし、進化だ。
そう思った瞬間、いきなり体内の奥の方からすさまじい熱が吹き荒れた。一瞬の驚きが起こったが、次の瞬間にはそんな驚きはどこか彼方に吹き飛ばされてしまった。
熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い!
体内から溶鉱炉にぶち込まれたような熱さと痛みに一瞬で意識が飛び、次の一瞬にはそのあまりの熱さと痛みに意識が覚醒した。そしてまた意識が飛ぶ。覚醒する。意識が飛ぶ。
そしてもう数えるのが億劫になるほどの回数意識が飛んだあと、つい先ほどまでが嘘であったように体の熱が引いていった。
なんだこれは。これが進化なのか? ふざけている。こんなもの死ぬか進化するかと訊かれたら迷うほどだぞ。いや、僕は進化する方を選ぶけど。死ぬの嫌だし。
それはともかくとして、
自分の今の姿。進化後の姿はどうなっているのか。
白色。なめらかな曲線を描く輪郭に、すべてを受け止めるような柔らかな羽毛。穢れを知らない純白のそれはわずかに光を放ち神々しいとさえ思える。力強く大気を打ち、自らの主を天高く舞い上がらせることを幻視ことができる。
それは太陽の輝きを吸収し、救いを求めるものに光と祝福を与えることができるだろう。
その聖なる輝きは悪を滅し、邪を打ち払うことができるだろう。
万物を照らし、草木に恵みを与え、人馬に癒しを施すだろう。
それを期待させるほどの一対の羽が、
光の玉にチョコンと生えていた。
手のひらサイズである。
………………………
………………
……ふざけんなッ!
はあ!? あれほどの痛みに耐えてこれか? ふざけんなッ!
僕の今までの苦しい日々は、努力は、なんだったんだッ!(繰り返しになりますが、たった数日です)
しかも今調べたら種族名は「古代の翼」だってよ。はあ? 何が翼だよ。こんなもん翼(笑)じゃねえか。絶対に飾りだろ。どう考えても光球のほうが主役だわ。
いやね? 天使とは言っても下級だからそんなに期待はしていなかったよ? でもね、ラッセルさんみたいにかっこいい感じに少しは近づいてくれると期待していたんだ。でも結果はコレ。全然変わってない。少しは強くなったのかもしてないけど、実感できない。
はあ、これでもし強制召喚なんかされた日には生きて帰れる気がしないよ。
と、そのような愚痴をしていたら瞬間、真下に突然魔法陣のようなものが現れた。前に見たものと文様は似ているように思えたが、まるで別のものだと瞬時に判断できた。
その魔法陣は赤色に輝いていたからだ。
もしかしてこれが強制召喚魔法なのでは、と血の気が引いた瞬間、恐ろしいほどの赤色の光が視界を満たし意識は白色に包まれた。
光がやんだ後には、その場所に羽の生えた光球はおらず、ただの光球たちがふよふよと周りを漂っているだけだった。
◇◇◇
目が覚めると、そこは都会だった。
……何を言っていいるか分からないと思うが、僕も何が起こっているか分からなかった。
夜の都会。あたり一面にはビルが立ち並び、地面はコンクリートで覆われていた。前世で言うならば、丸の内辺りのオフィス街。その大通りから少し離れたところだろうか。
そして、おかしいことが一つ。電気が通っていなかった。ビルから漏れる明かりはおろか、街灯もたった一つすらついていなかったのだ。
いや、その前に、なぜ今までファンタジーにいたと思っていたのにこんなとこにいるのか。まさか天使の聖地の外はこんな感じになっているのだろうか。外に広がっているのはRPGのようなファンタジーではなく、近代的なSFの世界なのかと、そこまで思考し他の可能性にも思い当たる。
ラッセル曰く召喚魔法は別の世界から呼ばれることもある。と、そう言っていたのを思い出した。
だとしたら、ここはまた別の世界の可能性もあるということか。同じ世界である可能性もあるが。
別の世界であったら、前世の世界であるかどうかもまた可能性が分かれるということにも思いを馳せていると、頭上から声が掛かった。
「まったく、停電とはどういうことだ。ビルの停電時用発電装置も機能していないのか? おい、取り敢えず光を出せ」
その声の主はコンクリートの道に佇む、スーツを着た青年だった。スラリとした、一目で高級品と分かるスーツをぴっしりと着こみ、するどい眼光で睨みつけてきた。
命令されると体が勝手に動き始め、「最下級天使」アビリティの中にあるスキルの一つである〈光よ〉を発動させた。これはただ光を起こすだけのスキルで使い道などないと思っていたが、なるほどこういうときには便利だと、認識を新にした。
スーツの青年と共にしばらく道なりに沿って歩いていると、漆黒としか見えない建物の物陰から、これもまた影の塊のようなものが2体ほど這い出してきた。その陰の塊は血に濡れたような色の目を赤々と輝かせこちらに迫ってくる。
「あれはなんだ? 妖魔? いや違うな……」
などと言いながらスーツの青年はまるで怯える様子も見せず、攻撃の命令を下した。
僕はそれに自動的に従うと、「最下級天使」アビリティの中にあるスキルの一つである〈信仰系魔法〉から〈聖なる矢〉を選択し、影の塊である妖魔モドキに放った。
妖魔モドキは〈聖なる矢〉を受けると崩れたように空中に溶けて無くなっていった。
倒してすぐに辺りの明かりがつき始めた。どうやら復旧に成功したらしい。そうなると僕は必要なくなるので、足元に今度は送還のものと思われる魔法陣が輝き始め、そして目の前が真っ白になった。
僕が送還される瞬間、青年が「退社途中にあんなのに襲われるなんてツイてないな……」とボヤいていたのを耳にして、少なくとも、この世界は前世の世界と同じものではないなと思ったのであった。
お読みいただいてありがとうございます。
3話目にして「2つの世界」のタグを回収。早いのか遅いのか……
誤字脱字報告ありがとうございます。自分では気が付かないことも多いので嬉しいです。
感想や意見も募集しています。もしもらえれば泣いて喜びます。
※物語の設定上、文を変更しました。
僕はそれに自動的に従うと、「最下級天使」アビリティや先日ステータス画面から取得した「魔法使い」という職業アビリティの中にあるスキルの一つである〈理術系魔法〉から〈光の矢〉を選択し、影の塊である妖魔モドキに放った。
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僕はそれに自動的に従うと、「最下級天使」アビリティの中にあるスキルの一つである〈信仰系魔法〉から〈聖なる矢〉を選択し、影の塊である妖魔モドキに放った。
妖魔モドキは〈光の矢〉を受けると崩れたように空中に溶けて無くなっていった。
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妖魔モドキは〈聖なる矢〉を受けると崩れたように空中に溶けて無くなっていった。