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天使が正義でなきゃいけないと誰が決めた?  作者: 上七川春木
世界を覗く深淵編
1/16

1 誕生、そしてムリゲー突入

初めまして、上七川春木(かんながわはるき)です。

私の作品に興味を持って下さりありがとうございます。

処女作で、後先考えず気の赴くままに書いている作品なので、至らない場所や設定の不備、おかしな表現、誤字脱字等あるかと思いますが、よろしくお願いします。


追記>>サイト内で読みやすい様に通常とは異なる書き方をしております。ご了承ください。


 目を覚ますとそこは森だった。


 不思議な森。

 天を衝く、枝木のない円柱そのもののような高い木が周囲に生えそろう。

 空は多くの葉で覆われ蓋されている。

 しかし全く暗くない。

 天を衝く大樹は自ら柔らかい光を放ち、昼間のような明るさを保っている。


 周りを埋め尽くすような数のバスケットボール大の光の球体が、ふわふわといくつも宙に浮かんでいる。

 それと同時に小石のような大きさの光の粒が。

 目に優しそうな寒色や暖色の様々な色の光の粒が。

 そこらじゅうを曲線を描いてゆっくりと飛びまわる。


 この幻想的とも言える世界に不思議な感動に捕らわれる。

 しかしそれは僅かな感情の揺らぎにしかならなかった。

 それは別に自分自身の感受性が低いというわけではない。

 いやそう思いたいだけなのかもしれないが、今ばかりは別の理由があるのは明確だった。


 風は全く吹いていない。

 せせらぎの音も耳に覚えず周囲は全くの無音である。

 その静寂というある意味とても大きな音が、心の不安を掻き立て己という存在を不安定にさせる。


 ここはどこの場所なのか。

 無意識的にそれが心の深層に芽吹き、時間をかけずに意識領域に成長していった。

 すると形容しがたい焦りが身を包み、居ても立ってもいられず起き上がろうとする。


 しかし。


 起き上がれない。


 起き上がるときに地面につくための手と腕がない。


 地に立ち踏み締めるための足と脚がない。


 なぜか顔もそこには存在していなかった。


 自分自身の姿を自分で簡単に見ることができる違和感は、そのときは考えることが出来ない。

 出来るわけもない。

 自分の姿を目でとらえると、そんな些細なことは吹き飛んでしまったから。

 いや、そもそも目なんてものは今の自分には無かった。


 そんなわけがないと否定しようとするが、分かってしまった。

 なぜかは分からないがそれが自分であると否応なしに理解してしまう。


 己の体は周囲と同じバスケットボール大の光の玉になっていた。


 これは何だ。


 自分自身?

 何の冗談だろうか。

 理性はそれを否定しようとする、しかし本能はその理性を否定した。


 ならば夢か。

 夢ならば仕方ない。

 このような荒唐無稽(こうとうむけい)な出来事も納得できるだろう。

 ならば覚めるまで待つとしようか。

 いや、それは少しもったいないかもしれない。

 これがいわゆる明晰夢(めいせきむ)というものであるならば、この世界は己の自由自在。


 しかしいくら願っても札束風呂は現れないし。

 ゲームのキャラクターになることも出来なければ、空から美少女が降ってくることもなかった。


 いい加減、逃避をするのは()すとしようか。

 これが夢だとは思えるはずもない。


 草や土などが入り混じった独特の匂い、

 地面に触れた体から伝わる感触、

 何より細部まではっきりと見える景色はそのような幻想を踏みつぶす。


 この体に目や鼻を始めとした感覚器官は存在していない。

 それは不思議な感覚だった。

 鼻がないのに匂いがわかって、肌がないのに感触が伝わる。

 そしてその最たるものが視界であり、前後左右上下すべてが、己の体を含めてすべて見える。


 それは三人称視点でありながら、三百六十度すべてが見えるという不可思議な感覚。

 これだけは夢であっても再現不可能。

 そもそも人間の脳がそのような処理を出来るはずがないのは、明確である。


 人間の視界というのは、対座法やゴールドマン視野計に代表される測定法で測れる上下約百三十度、左右約百九十度が限度であり、

 当然その情報を処理する脳もそれを前提としている。

 それを上下含む三百六十度の視野角などという、

 理解の埒外(らちがい)にある情報を処理できるはずがないのである。


 そしてその視野角を保持しながら、己自身をも俯瞰(ふかん)できるなど、

 地上に存在する生物とは乖離(かいり)していると言える。

 もしかすれば、そのような生物も存在するのかもしれない。

 しかし光球の体を持つ生物など聞いたことが無く、そもこれは体があるとは言えないだろう。


 であるならばこれは魂なのだろうか。

 するとここは天国というやつなのだろうかと考えだすのだ。

 冷静などということは全くない。

 洪水と大火事が一斉に起こっているような心情の中、わずかに残った頭のスミで思考する。


 確かに最後に残った記憶は、自身の視界に滲む赤とぼやける光にアスファルト。

 確定した事実ではないものの、現在の結果に結びつく原因を思い出したことにより、心の荒れ模様は僅かに弱まる。


 そして今、ほんの少しであったとしても心に余裕ができたとき。

 焦ったように、怯えるように周りを確認するそぶりを見せ、ナニカが無いことにホッとしたように身を和らげた。


 しかし、何かに気づいたように、体である光球の輪郭を不安定に揺るがす。

 己と同じ姿をした、周囲に無数にふよふよと浮かんでいる光球たちに意識を向ける。

 その光球たちが、己以外のすべてに我関(われかん)せずと興味を向けずに漂っている姿を見ると、安定した輝きを取り戻した。


 仮にここを天国とするならば、何をすればいいのだろうか。


 己の中に、自分が死んでしまったかもしれない、ということに感傷などというものはなかった。

 現世に残してきたものに、未練がなかったと言えば嘘になるかもしれない。

 しかしそれは生にしがみ付くほどのものではない。


 別に、やりたいことをやり切って大往生というわけではない。

 常に死んでもかまわないというほどに、全力で毎日を生き抜いていたわけでもない。


 将来の夢などという大それたものは抱いていなかったし、精一杯に頑張れば夢が必ず叶えられると妄信するほど世界に、対して期待してはいなかった。


 しかし、未練と言えば未練とも言える一つのことを思い浮かべる。

 思えば、少しもったいないとも言えること。

 それは己の時間と努力を多く費やした、集大成ともいえる数々。


 それは脳裏に鮮明に浮かび上がる。これは長い時間を共にしてきたことの結果だろう。

 すると、奇怪(きっかい)な音と共に目の前に何やら妙なものが現れる。



=====================================


名前:古代の光球(エルダースフィア)

種族:古代の光球(エルダースフィア)

クラス:最下級天使

属性:第一属性「中立:0」(最小値を0、最大値を1000とする)

    第二属性「聖:100」(最小値を―1000、最大値を1000とする)


アビリティ(Lv 1/10)

  最下級天使[Lv 1/5]


称号

  なし


=====================================



 絶句。


 それは見慣れたもの。


 己の人生のほとんどを、それのために費やしてきたと言っても過言ではなかった。


 見慣れたものではある。

 しかし、これは初見。

 己の知る如何(いか)なるものとも違っており、しかし同時に共通する部分も存在しているのは間違いようがない。


 未知であり、既知。

 一見矛盾したこの状態は、だがこの場合にあっては矛盾は矛盾足りえない。

 無いはずの瞳から涙を浮かべそうになるのは、その懐かしさからかそれとも安堵からか。


 ステータス画面。


 それは本来、幻想の住人を映す鏡であり本質。

 このような現実(リアル)に現れても良いものでは断じてなかった。


 これはどれだけデジタルを突き詰めても所詮アナログでしかなかった肉体、勉学の試験とは異なり完全に確定した結果であった。

 これで表される対象が、デジタルなのだから。

 必然、それを構築する情報体に、連続性は微塵もなく完全に離散的なデータとして表されていた。


 現実世界とは連続性の完全体なのだ。


 1㎝と2㎝の間には㎜があり、その先も分割して行こうものなら、小数点以下から延々と数値が並ぶ様を見ることになるだろう。

 紙をハサミで切り分けるとき、厳密な意味で完全に半分にすることが出来ないように。

 いかに綺麗な直線を描こうとしても、顕微鏡で拡大すれば線の乱れが見つかるように、完璧などは現実世界に存在しえないのだ。


 しかしステータスというものは離散量の申し子であり、つまりは非連続性の体現だ。


 完璧なのだ。


 ステータスが体力は5と言えば5だし、知力が3と言えば3でそこに小数点などというものは存在しない。

 もしあったとしても、そこには地平線まで続く、綺麗なゼロの並びを拝むことが出来るだろう。

 綺麗に1㎝を図ったつもりでも、よくよく見ればそこに0.01㎝が紛れ込んでいる現実(リアル)とはわけが違う。


 それもそうだ。

 ステータスとは基本ゲームの中の物であり、ゲームとはコンピューターが0と1のデジタルの世界で作り上げたものなのだから。

 そしてこれはコンピューターゲームに限った話ではない。


 サイコロは123456の数値が刻まれているが、1.01などという数値はない。

 なぜならば、そのようなものがあってはゲームという世界が崩壊してしまうからだ。


 完璧な数値が求められるからだ。


 だというのに。

 完璧な数値などは絶対に存在しないと言えるのに現れたステータスは常識的におかしなものと言えた。


 しかし、混乱の最中にある状態でそのようなことが分かるはずもなく、ゲーマーとしての習性が、これのために半生を捧げた者としての本能が内容の分析を求めた。

 これは(さが)だ。

 ゲームを愛するものとして、このようなものが現れて放置という手段が取れるはずもない。


 そしてその内容に目を走らせた後。


 思った。



 雑っ魚。



 なんだこれは。

 なんなんだこれは。


 最初に書かれた古代の光球(エルダースフィア)は個体名か種族名か、それは定かではないが一先ずスルー。


 最下級天使というキーワードは、己が天使というものであるということ。

 それは聖書で言う神の使いなのか。

 それともゲームなどで言う数ある種族のうちの一つであるのかは、現状では判断しかねるものだが、将来性という意味ではベターと言える。


 将来性。

 そう将来性である。

 いちゲーマーとして、それは非常に重要視すべきものだと断言できる。


 将来どころか、現在進行形で理解不能な事態に置かれていることは、脇に置いておいた。

 いや、というよりも全てが理解不能なこの状況で、唯一理解可能なものに縋り付いているだけなのかもしれない。


 運営という神が平等と公平を保証していたゲームとは違い、ここは差別と理不尽蔓延(はびこ)るリアルワールド。

 であるならば、スタート地点が異なるのは当たり前、伸びしろが違ってくるのも常識である。


 ゲームは楽しむものではあるが、己が強くなれるかというファクターが最重要項目の一つであるのは疑う余地もなかった。


 目につくのはアビリティの項目。

 そこにあるLvつまりレベルの文字、その最大値が10であるということ。


 そこについては別段悲観はしていない。

 珍しくはあるがレベル10がカウントストップ、つまり最大値であるゲームが無いわけではない。

 しかし、その下にある表示と合わせて見ることで期待は容易に覆った。


 最下級天使[Lv 1/5]という表示。


 これはおそらく己の持つアビリティの一つであり、

 己の存在の根幹をなす重要なアビリティである。

 アビリティの項目の横にある(Lv 1/10)の表示は、簡単に想像できるが自分自身の持つアビリティのレベルの合計だ。


 にもかかわらず、最下級天使のレベルをMAXにするとその半分が埋まってしまう。


 ここで注目すべきはこの唯一持つアビリティの名前。

 最下級天使。


 最下級、最も下、ベリーボトム。

 その上は何か。それはおそらく下級である。

 だとすれば、それよりも上に存在するであろう上級に到達できるのは、いつになるのかと通常であれば考えるのだろうが、これはそれ以前の問題である。


 最下級で、レベル上限の半分が埋まってしまうのであればだ。

 上級などというものが入る隙間など、ないのは必然。

 つまり詰みである。

 王手、いや既にチェックメイト。


 早すぎる成長限界。

 なんということだろうか。

 天使というのは、人間より上位に存在する高位存在ではなかったのだろうか。

 これでは人間の方が遥かに強そうと思えてしまうのは、よもや自分だけではあるまい。


 死んで天使になるのが進化ではなく、まさかの退化だとはだれが予想しただろうか。

 古代の西洋圏では、天使というものは全ての人間にとって憧れであり崇拝の対象だったという。

 しかし、己がその場に行くことが出来るならば声を大にして忠告したい。

 全く良いものではないぞ、と。


 世界というものは飛び切りに理不尽であり、

 期待などと言うものはこれっぽちも抱いていない。

 だとしても、恨み言を一つや二つ言っても文句はあるまい。


 それにしても、死んだら天使になれるとは。

 死んでなるなら、ゴブリンとかスライムとかドラゴン、悪魔のような物語にありがちなものがよかったなあ。

 などというヘンテコな感想を、余りの混乱にショートしてプスプスと焼き付いた脳で、垂れ流す。


 死んで直後に、未知の場所にただ一人置いてけぼりになる。

 その上、自分自身は光の玉になるというオプション付きの奇天烈な状況。

 それに混乱がオーバーヒートして、逆に落ち着くという珍妙な経験をしたが、それでは妙案などは浮かばない。


 そして、とりあえず寝ることにした。


 極度の面倒くさがりであるこれが、いくら考えてもこれ以上は不毛と考えたため、とりあえずは今できることをやろうと考えたせいであった。


 その結論が、寝るという事なのは(いささ)かおかしなことではあるのだが本人はそのようには露程(つゆほど)にも考えていないらしかった。



 まあ、つまるところ、現実逃避と言うものであった。




作品を読んで下さりありがとうございます。

作品の不備や誤字脱字の指摘、感想意見などいつでも募集しています。

書いて下されば泣いて喜びます。


もしよろしければ、次の話もよろしくお願いします。


※誤字訂正を行いました1/12

円柱そのもののような高い気が周囲に生えそろい

円柱そのもののような高い木が周囲に生えそろい


※大幅修正を行いました5/6


※一部変更しました5/11

確かに最後に残った記憶は自分が事故を起こす直前のもの。

確かに最後に残った記憶は自身の視界に滲む赤とぼやける光にアスファルト。

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