第8話「家族会議と殺人事件」
ポケモンサンムーンしてたら投稿遅くなりました。
女主人公でやってますが、リーリエちゃんとの百合が楽しすぎて時間を忘れてしまいます。
魔力熱を発症してから4日目の朝。
ユアンが目を覚ますと、自分の身体がとても軽く感じた。頭痛も喉の痛みも霧散している。
この3日間散々苦しめられた魔力熱が完治したようだ。
清々しく朝を迎えれるのが本当に久しぶりな気がしたユアンだ。
しかしそれだけだ。
魔力覚醒したはずなのだが、特に魔力熱にかかる前と変わったところがない。
体内に流れる魔力を感じれるわけでもないし、全身に力がみなぎるわけでもない。
とりあえず記憶にある魔法を見よう見まねで発動してみる。
手を前に突き出し力を込めるが何もおきない。腕を振り回したり、奇声をあげたり、ゴロゴロと転げ回ったり……。
「柚杏、朝から何を踊ってらっしゃるのですか?」
「お、お姉ちゃん⁉︎」
いつの間にか部屋に沙夜が来ており、ユアンは奇行の一部始終が見られた。
一人きりと思ってはしゃいでいたユアンは恥ずかしさで顔を少し赤らめる。
「ま、魔法が使えるかなーって」
「魔力覚醒しても、その魔力の使い方を知らなければ魔法は使えませんよ」
魔力と魔法は地球で言うとコンピューターのハードとソフトのようなものだ。ハードが完成してもソフトがなければ何もできないし、ソフトがあってもハードがなければ動かすことができない。両方揃って初めてコンピューターとして機能するのだ。
「それじゃあ、早く教えて教えて」
「焦らなくてもちゃんと基本魔法は福田先生が教えてくれますから大丈夫ですよ。でもその前に父様……鹿島家現当主である鹿島夜定様に魔力覚醒した事を報告しなければならないの」
「父様……」
ユアンが最後に父にあったのは3ヶ月は前のことだ。実の父とはいえ年に片手で数えられるくらいしか会うことができない。これは父だけでなく母や兄も同様だ。現役を引退した祖父母は都市神楽ではなく少し離れた街に隠居しているため、1年に1回会えるかどうかというところだ。
血の繋がった家族でユアンに特別な予定がなく会ってくれるのは姉の沙夜だけである。
「今から本邸に向かいますので準備を早くしてね」
「むぅ……わかった」
あまり気乗りしないユアン。
父と会うということは必然的に母……義理の母に会うということなのだから。
ユアンは義理の母が嫌いであった。
■■■
鹿島家本邸。
四大貴族の一角である『鹿島家』の中心にして全てがここに集まっていると言っても過言ではない。鹿島領内の政治の中枢でもあり、そして司法の頂点もここに置かれているため、鹿島領最高重要施設である。
そんな鹿島家本邸のトップにして、鹿島領最高責任者……いわゆる鹿島領領主であるのが鹿島柚杏の父親である鹿島夜定である。
鹿島家本邸には公共施設以外にも領主の家族が住む居住区も存在しており、他の施設と同等、またはそれ以上の警備が敷かれている。
ユアンが産まれてから本邸を訪れた回数は両手で数えれば十分に足りる。よほどのことがなければ、ユアンが足を踏み入れることは許されていない。
今日はその「よほどのこと」らしい。
姉と本邸を訪れたユアンは、鹿島家の家族のみが利用する部屋に来ていた。ユアンと沙夜が部屋に入ると、すでに大きな長机の周りを、父と母と兄が座っていた。
現在鹿島家本邸に住む人間がすべてがこの部屋に揃ったことになる。
入り口から最も遠くに座っている壮年の男。白髪がほんの少し混ざった髪をオールバックにしている彼こそが領主鹿島夜定である。
そのすぐ横に座っている女性。部屋に入ってきた瞬間からずっとユアンを睨んでいるのが夜定の妻である鹿島葵だ。
その葵の反対側に座っている、顔が整った優男風の人物が鹿島夜定の長男であり、ユアンの腹違いの兄にあたる鹿島準夜だ。
「遅くなりましたお父様、お母様。柚杏を連れてまいりました」
沙夜はそう言うと、ユアンを入り口に最も近い席…………すでに座っている三人から遠くの席に座らせる。
「うんしょ……」っと、脚の長い子供用の椅子にユアンは座る。
ユアンがちゃんと座ったのを確認すると、沙夜は兄である準夜の横の椅子に座った。
沙夜は本当は自分の横にユアンを座らせて、近くにいてあげたがったが、それは母が許してはくれないだろう。
家族全員が着席するのを待っていた夜定は口を開く。
「久しいな、柚杏。元気にしていたか」
「はい、父様。……あっ、でも昨日まで病気……でした」
「魔力熱だったな。柚杏も、もうそんな歳か」
「アナタ、早く本題に入りましょう。こんなクソガキに私たちの貴重な時間をこれ以上割くなんて我慢なりません」
夜定とユアンの会話に葵が口を挟む。
葵の顔は不機嫌な色に染まっていた。
不機嫌な妻の様子に夜定はため息を漏らす。妻の柚杏嫌いは夜定の頭を痛くする悩みだった。
とりあえず妻の言う通り、ユアンに本題を伝えることにする。
「柚杏。鹿島家の人間は魔力が覚醒したらまず最優先に『幻魔』を習得しなければならない。福田さんの授業はしばらく休みにする。沙夜が今日から集中的に柚杏に魔法を教えることになる」
「わ、かりました」
「貴方みたいな雑種が鹿島の『幻魔』を教わるなんて光栄なことなんだから感謝しなさい。…………はぁ〜、しかしこんなクソガキのために沙夜さんが時間を割かなくてはならないなんてねぇ」
「私なら大丈夫です。柚杏に教えながら、仕事もちゃんとやれますので、仕事が遅れることはないと思います」
「貴方が優秀なのは知っていますから仕事が遅れる事は心配していません。ただ疲労は溜まりますでしょ? こんな子のために貴方の負担が増えるのが私は嫌なの」
「別に負担なんて…………いえ、何もありません」
これ以上何か言っても母には届かないと思い、沙夜は言葉を途中で終わらせる。
鹿島葵のユアン嫌いは今に始まることではない。
10年前に急に夫が葵の前にまだ幼児である鹿島柚杏を連れてきたあの日から、ずっとずっと鹿島柚杏の事が嫌いであった。
愛し合っていると思っていた夫の裏切りの証である鹿島柚杏。
大好きだった夫が他の女を寵愛して産まれた鹿島柚杏。
嫌悪と憎悪の感情は年々増すばかりだった。
「もし沙夜の負担が増えるようならオレが沙夜の仕事を少し肩代わりすればいい。沙夜ばかりに負担をかけるのも忍びない」
ここまで黙りを決め込んでいた準夜がそう提案した。
「準夜さんまで……」
「別に柚杏のためじゃなくて、沙夜のためだよ、母様。柚杏に魔法を教えることは確定事項なんだから、後はそれに対する最適解で動くだけだ」
ユアンの前でそんな会話が繰り広げられているが、ユアンは我関せず天井のジャンデリアを眺めて「キラキラ綺麗」とポツリとつぶやいた。
会うたびにいつも嫌味を言ってくる母がいる時点でこんな場所から早く帰りたかった。
早く帰って姉やカルミラに魔法を教わり、魔法で遊びたい気持ちでいっぱいだ。
ユアンが物思いにふけていると、
「……ということだ。…………柚杏? 聞いておるか?」
「あっ、……いえ、えー、なんのお話?」
「当面は沙夜が魔法を教えることになる。福田先生の授業に当ててた時間は、沙夜が『幻魔』の実技と座学に全て代わることにする予定だ。まぁ、柚杏には関係のないことだが沙夜の仕事は準夜が半分程度手伝う形になる。とりあえずこれでやってみて、支障が来たすようならまた調整するかもしれん。沙夜の予定しだいでは福田先生の授業ほど時間を作れないかもしれないから、柚杏は少し暇になるがそれは理解していてくれ」
夜定がそう説明するが、小難しく言われたためユアンは半分も理解してなかった。とりあえずお姉ちゃんが魔法を教えてくれるんだなーくらいの認識だ。
「わかったー」
よく分からないけど分かった。
「よし、では解散。準夜は後でワタシの部屋に例の吸血鬼事件の資料を取りに来てくれ」
「了解、父様」
夜定が解散の合図をすると葵は一番に席を立ちそそくさと部屋を出て行く。部屋を出て行く間に一瞬たりともユアンに目線を向けなかった。一秒でもユアンと同じ部屋に居たくない……そんな感情が隠れ見える。
ユアンとしてはそんないつも通りのことよりも、今耳にした重大なことでいっぱいだ。
「と、父様。吸血鬼事件ってなんですか?」
「あぁ、今都内で起きている殺人事件だ」
「父様、柚杏に教えてよろしいのですか?」
素直に柚杏に教えた父に対して準夜はそう問う。
はははっ、と夜定は笑い、
「構わんだろ。ワタシとしても久しぶりにあった我が子と話がもう少ししたかったしな。こんな事件でも話のタネになれば儲けもんだ」
そう言うと、ユアンの座っている席の横の席に夜定は座りかけた。
「ここ一週間で二件の殺人事件が起きていてな。吸血鬼の仕業ではないかと今捜査をしておる」
「き、吸血鬼がやったってなんで?」
「死体の血が全て抜き取られておった。まぁ可能性的に一番高いというだけだ」
ユアンの頭に親友の顔が浮かぶ。
ミラが……。いや、そんなわけない。ミラがそんなことするわけがない。
そう思っても一度生まれた疑惑はなかなか晴れない。
親友の仕業ではないかと疑惑に思ったユアンは困惑から眼を伏せる。
その様子を吸血鬼が怖いのだろうな、と勘違いした夜定は、ユアンの頭の上に手を置いて優しく撫でた。
「柚杏には関係ないことだ。この家の敷地内にはよほどの強者でなければ結界魔法で弾かれて浸入はできんからな。柚杏に危害が来ることはないから怖がることはない」
いやいや、普通に吸血姫が毎晩入ってきてますよ父様、とユアンは言いたかったが口にはしない。
それからユアンは何年ぶりかの父からの愛情のこもったなでなでに身を委ねながら、たわいもない会話を父としたのだった。
「そろそろ時間だな。ワタシは領主という立場であるから簡単には柚杏に会えないが、それでも愛しておる。元気でな」
「あっ…………。うん」
父の手を名残惜しそうにユアンは声を漏らす。その仕草を優しく笑い、夜定は部屋から出て行った。
「柚杏。父様や沙夜はお前に好意的だが、オレは違うからな。だからお前もオレの事は必要な時以外は構う必要はない」
準夜はそうユアンにちょっとだけ話しかけ、夜定を追って部屋から出た。
ユアンとしては兄である準夜は母ほど毛嫌いしてはいない。兄はあくまで無関心を貫くのでユアンとしても心地よい。母も私のことが嫌いなら無関心になってくれないかなと思ったりするくらいだ。
「よし、柚杏。とりあえず別邸に帰ってからさっそく魔法のお勉強しようか」
「うん!」
やっと姉から魔法を教えてもらえる。
ユアンはカルミラのことで少し影が差した心を無理やりウキウキにする。
夜にカルミラに会うまでそのことは考えないようにしようと努めるのだった。
おっさん×幼女みたいな父娘シチュも好きなんですよ。
用語説明
【鹿島夜定】
鹿島家当主。父として娘である鹿島柚杏の事はどうにかしてあげたいが、鹿島家の看板を考えるとどうしようもできなくて困っている。兄と妹がいる。次男であるのに当主の座に就いたのはとある事情があるが物語中でこの設定を使う機会があるかは分からない。
【鹿島葵】
鹿島夜定の妻。隼夜と沙夜の母親。夜定とは再従兄妹で幼い頃から許嫁として育てられた。柚杏を毛嫌いしている。
【鹿島準夜】
鹿島柚杏の腹違いの兄。鹿島家の後継者。24才。柚杏の事は嫌ってはいないが後継者という身分であり母親の気を悪くしないため、好意的には接しない。
【鹿島沙夜】
鹿島隼夜の妹であり鹿島柚杏の腹違いの姉。20才。忙しい時間を割いては、柚杏のために会いに来てくれる。