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吸血姫百合物語  作者: doLOrich
第1章 鹿島領
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第7話「魔力熱」 

2日に1度くらいは更新したいんだけどなぁ。

 カルミラと夜のデートをした翌日、ユアンは熱で寝込んでいた。


 朝にユアンを起こしにきた女中が熱でうなされている彼女を発見して、大慌てで医者を呼んだ。

 すぐさま鹿島家お抱えの医者がやって来て診察してくれた。

 ユアンがかかった病名はカルミラの予想通り『魔力熱』である。


 『魔力熱』とは、体内の魔力が覚醒して魔法が使えるようになる過程で誰しも一度はかかる病気である。魔法が使えない子どもが、魔法が使える大人になるため通過儀礼のようなものだ。およそ10歳から12歳で発症する。現在10歳のユアンが魔力熱を発症するのはやや早いが平均の範囲内だ。


 『魔力熱』は3日もすれば自然と治るが、それまでは全身に強い倦怠感や頭痛を覚える。

 ユアンをお昼に軽い病人食を口にし、それから眠ろうとしたが気分が悪くなり度々起きてしまい、寝て起きてを繰り返すことになっていた。


 夕日の明かりが景色を黄昏色に染め始めた頃、ユアンを心配して姉の沙夜が訪ねてきた。朝にユアンが『魔力熱』にかかったと聞いてから心配でいてもたってもいられなかったが、仕事を休むわけにはいかずこの時間まで来ることができなかった。


「柚杏、大丈夫ですか?」

「うにゅ、頭いたーい」


 キツそうな声色でユアンは答える。

 顔は火照っており呼吸もあらいため、一目で調子の悪いことが見てわかる。


「はちみつレモンの飲み物を作ってきました。飲みませんか?」

「飲む。ありがとうお姉ちゃん」


 ユアンは重い身体を起こし、コップに注がれた飲み物を沙夜から受け取る。

 氷で冷やされたそれはユアンの喉を通り、熱で温かくなった身体をスーッと冷ます。


「ふぅー、おいしー」


 一息に飲んでしまったユアンは、コップを姉に返してそのまま布団に潜る。

 はちみつレモンのジュースのおかげで少し気分が軽くなった気するが、それでもまだまだ身体がキツかった。


「机の上に容器を置いておきますので、喉が乾いたら飲んでくださいね」

「……はーい」


 今にも消え去りそうな声でユアンは返答する。声を出すのも億劫になってきたのだろう。


 沙夜はキツそうな妹を魔法を使って楽にしてあげたかったが、それは出来ない。


 「魔力熱」は身体が自身の魔力に順応し始めているので魔法を使われると逆に魔力が乱れ悪化してしまうため、魔法を使って治療したりすることが出来ない。もちろん魔法が練りこまれた薬も使えない。

 自身の自然治癒力に任せるか、魔法が使われてない薬に頼るしか無いのだ。

 まぁ、よほどの事が無い限り『魔力熱』が重症化することはない。『魔力熱』の正体は病ではなく身体の成長のようなものだからである。それでも栄養状態が悪かった時代は『魔力熱』で死人が出ることがあったらしいが。


「柚杏、身体を拭きますので布団から少しの間出てくれませんか?」

「うにゅ〜」


 布団に潜ったばっかりのユアンは、面倒くさそうに出てきた。

 ベッドの上に座ったままユアンはパジャマを脱ぐ。

 ユアンの程よく脂肪が付き、ぷにっとした肌が露わになる。

 上半身裸になったユアンは、姉に背を向けた。

 その背中にヒンヤリとしたタオルが触れる。寝汗でしっとりとしたその背中を沙夜は大事そうに優しく拭き始める。


「うぅ……ん」


 程よい冷たさが心地よくユアンはつい声を漏らす。お風呂では他人に身体を洗わせないユアンだが、これは別に気にしないらしい。

 

「柚杏、右手上げてください」


 姉に言われ、素直に右手を肩の高さまで上げる。

 脇、二の腕、肘から手首に指先まで綺麗にタオルで沙夜は拭いた。ユアンに反対の腕も上げさせ同じようにそちらも拭く。


「パジャマが寝汗で結構濡れてますね。新しいパジャマに着替えましょうか。パジャマのズボンと……パンツはどうですか?」


 ユアンは自分のパンツに指を入れ触れてみる。しっとりとした感覚が指先に伝わる。


「汗でびっしょり」

「ならもう全部着替えてしまいましょうか」

「わかった」


 座ったまま器用にパンツとパジャマのズボンを一緒に脱ぎ一糸纏わぬ姿になる。脱ぎ捨てられ、絡まり丸まったパンツとパジャマを姉に渡す。


「下は自分で拭いてくれますか」


 ユアンは濡れタオルを受け取り、自身の腰部や股の付近、太ももなどの汗を拭いていく。


 妹がタオルで拭いている間に沙夜は部屋に備え付けられたベルで女中を呼びつけ、着替えのパジャマとパンツを持ってこさせた。


「拭き終わりましたか? それではこれに着替えてね」

「…………」

「ん? どうしました柚杏」

「着させてー」


 手を姉の方に差し出しユアンは甘える。

 別に自分一人で着替えれないわけではないが、甘えられるときには十分甘えるのがユアンの性格だ。

 ユアンを溺愛している沙夜は、甘えられるとどうしても断れなかった。


「まったく甘えん坊さんね」


 ユアンをベッドの上に立たせて、まずはパンツをはかせる。ユアンの肌のように真っ白な木綿のパンツに片足ずつ足を通させる。両足が通ったのを確認し腰の高さまでパンツを上げる。パジャマのズボンも同じようにはかせた。

 そして上のパジャマを着させようとした時、


「あれ、柚杏。この指輪どうしたのですか?」

 

 沙夜はユアンの右手の小指にはめられた指輪に気づいた。昨日カルミラからプレゼントされたあのお揃いの指輪だ。


「これはね、ミ……ひ、拾ったの!」


 ユアンはつい口を漏らしそうになる。

 カルミラと会っている事は姉ですらバレてはいけない秘密なのだ。


「この家で拾ったのですか? お母様達はこの家に近づこうとすらしないから女中の誰かのかしら。もしくは福田先生?」

「持ち主見つかるまでわたし持ってていい?」


 眼をウルウルさせて姉にユアンは頼みこんだ。

 「本当はダメなんだけどなー」と沙夜は呟く。自分が一度預かり持ち主を探すのがスジなのはわかってはいるが……。


「しょうがないですね。では柚杏に預けます。持ち主を探し出してくださいね」

「わかったー」


 持ち主はわたしなんだけど、とユアンは心の中で答える。

 なんとか没収を免れホッとする。


「はい、終わり。それではゆっくり休むのよ」


 パジャマのボタンを全て閉め終えた沙夜はポンポンとユアンの頭を撫でる。

 ユアンは弱々しく微笑み、ベッドに横になる。沙夜はその上から布団をかけてあげた。


「おやすみ、柚杏」

「おやすみー」


 沙夜は柚杏に挨拶を言い、部屋から出て行く。そして大きな音を出してユアンに余計なストレスを与えぬよう静かにドアを閉めた。



   ■■■


 

 夜のとばりが辺りを包む頃。

 金髪紅眼の吸血姫は、ユアンの様子を見に別邸へやってきた。

 窓から中を覗き見ると、ベッドでうなされているユアンがいた。そのすぐ横には女中が待機して、ユアンの容態が急変してもすぐに対応できるようにしていた。


「んー、今日は自重するべきか」


 魔力熱の時は吸血していいかよくわからないカルミラ。とりあえず自重するべきなのだろうけど。


「ん〜、でもなぁ……」


 血は吸わないとしても、ユアンに会いたかった。熱を出してるユアンに会いに行くのは迷惑をかけると頭ではわかっていても……それでもユアンに会いたい気持ちが勝ってしまいそうになる。


「うぅ〜ん、ちょっとだけなら……いいかな」


 そう決断してからの行動は早かった。窓の外から女中に向けて催眠魔法をかけて意識を刈り取る。

 女中が意識を失ったのを確認すると、窓を開き音を立てずに浸入する。

 ベッドで横になっているユアンの側に座り、彼女の真っ黒な髪を撫でる。


「……うぅん? みら?」


 とろんと眠気が混ざった声でユアンがカルミラの名を呼んだ。

 浅い睡眠だったのか、髪に触れただけでユアンは起きたみたいだ。


「ごめんね、起こしちゃったかな。昨日言った通り魔力熱だったね」

「そうみたい。キツイ、死にそう」

「ちゃんと薬飲んだ?」

「飲まされた。あれ苦すぎ、嫌い」


 味を思い出したのか顔を歪めユアンは答える。魔法が練りこまれた薬と違い、自然物のみで作られた薬は尋常ではないくらい苦い。


「ねぇミラ。さっきみたいになでなでしてー。撫でられてるとね、頭痛いのどっか行くの」

「あははっ、いいよー」


 カルミラは先ほどみたいにユアンの真っ黒な髪に触れ、優しく撫でる。

 ユアンは気持ちよさそうにして、猫のように目を閉じて堪能する。

 そのまま5分くらい撫でてもらったユアン。ふと、いいアイデアを思いついた。

 

「治ったらミラに魔法教えて欲しい。ミラ魔法得意なんでしょ?」

「治ったらねー。妾の指導は厳しいよ」

「おてやわらかにー」


 魔法を教わる約束をした。

 カルミラの魔法を近くで何度も見ていたユアン。自然とそれに憧れを抱いていた。


 カルミラに魔法を教わる事にユアンは心を弾ませる。何年も待ち焦がれた魔法。それを親しい友達に教わるのだ。楽しみにしないわけが無かった。


「それじゃ、ユアン。妾はもう帰るね。ユアンの顔見たかっただけだからね」

「血、飲まないの?」

「今日は我慢! がまん……がまん。……ユアン誘惑しないで!」


 ユアンはいたずらな表情を浮かべ、首元を開き見せる。寝汗が妙に艶かしい白い首筋を見せられたカルミラは悶絶する。


「コホっ、コホっ」

「ほら、咳も酷い。ゆっくりおやすみ、ユアン」


 カルミラはそう言うと逃げるように飛び去っていった。これ以上同じ部屋にいて理性を保つ自信はなかった。


「むー、ミラの意気地なしー」


 一人ポツンと残されたユアンは目を閉じて、熱でキツイその身体を休めるのだった。



   ■■■


 おまけ


「……うぅ……はっ⁉︎」


 女中の久嗣純子は自分が仕事中に眠ってしまったことに焦る。寝てる間にお嬢様に何かあれば自分のクビが飛ぶだけでは収まらないだろう。急いで寝込んでいるお嬢様を確認する。


「ふぅ、ぐっすり寝てますね。特に異変も無いみたいですし」


 ふぅー、と一息つき備え付けられた椅子に座る。


「私が居眠りしてしまうとは……疲れが溜まってるのかな。…………ん?」


 寒気を感じ窓を見ると、窓が何故か開いていた。開けた記憶は無かったが、とりあえず閉めることにした。もしかしたらお嬢様が起きて開けたのかもしれない、と純子は思った。居眠りしてたのを見られたかもしれない。その場合ちゃんと口止めしておかないと……。


 また一つ悩みが増えた久嗣純子であった。

 頭撫ですぎじゃね?

 と突っ込まれそうですね。


 女の子が女の子の頭をなでなでするのが大好きなんです!


 ということで用語解説こーなー

 キャラ編


【久嗣純子】

 別邸で働く女中。2話でユアンをお風呂に入れていたあの人です。いろいろ抜けているのでユアンのたくらみに、まったく気づきません。作者的に便利なキャラです。「幻魔」をかけられているのでユアンの事は鹿島家に預けられている他貴族のお嬢様と思い込まされています。

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