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吸血姫百合物語  作者: doLOrich
第1章 鹿島領
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第6話「宝石店とおやすみのキス」

「宝石店……?」

「そ。宝石店『虹の雲』」


 カルミラはそう言うと、木製のドアに手をかけて中に入った。ユアンもそれに急いで続く。


 宝石店の中は小さなランプが灯ってるだけの薄暗い部屋だった。宝石店という割にはよくわからない銅像や動物の剥製など色々なものが置いてある。店奥には埃にまみれた本が積まれていた。

 白い熊の剥製と目が合い、ユアンは慌ててカルミラの後ろに隠れる。


「おやおや、これはまた小さなお客さんだね」


 店の奥から老人特有の錆びた声が聞こえた。

 ユアンが声の聞こえた方を見るとそこには齢80は超えるであろう老婆が安楽椅子に座ってこちらを見ていた。

 その姿を確認したカルミラは、


「久しぶりだねカンナ」

「……うぅん? ……もしかしてカルミラ様かい?」

「50年ぶりくらいか……老けたねー」

「カルミラ様は相変わらずそのお姿なんだね」


 カンナと呼ばれた老婆はどうやらカルミラと面識があったようだ。

 カルミラは老婆に近づき手を差し出して握手する。ユアンはその背中張り付いて追いかけた。


「そちらのフードの子……お嬢ちゃん……でいいのかな? カルミラ様の眷属かい?」

「違う。ユアンは妾の友達。妾が眷属を作らないことを主はよく知ってるでしょ」

「ほぇえ。カルミラ様に友達とは……。良かったらフードを外して顔を見せてはくれないかい?」


 老婆から顔を見せてくれと頼まれるユアンだが、例の秘密のこともあり躊躇してしまう。

 ユアンはどうするか決めかねてカルミラを見ると、「カンナは信用できるからもしもの場合も大丈夫」と小声で囁いてきたので意を決してフードを外した。


 フードが外れ、ランプの薄い明かりに照らされるユアンの黒髪と白い肌が露わになる。

 


「おやおや、てっきりカルミラ様と同じ外国の方と思ったら大東亜人じゃったか。ユアンちゃんは綺麗な黒髪をもってるんだね」


「うっ……ありがと……」


 ストレートに褒められたユアンは照れて目を逸らした。


「それでカルミラ様。こんな遅い時間になんの用事じゃね。ユアンちゃんは眷属じゃないということは見た目相応の歳なのじゃろ? あまり遅くまで連れ歩いたらあかんじゃろ」

「あははっ、正論だね。まぁユアンとは、この時間じゃないと遊びに出れないからというのが答えかな。それで用事はね……」


 カルミラはユアンの横にスッと来て、ギュッと抱きついた。急に抱きつかれ「ひゃっ」とユアンは声を出す。


「ユアンにアクセサリーをプレゼントしたい」


   ■■■


 老婆は店の奥に入って何かゴソゴソしている。ユアンに似合うアクセサリーを探しているのだろう。


「ねぇ、ミラ。プレゼントって……」

「ユアンは可愛いから宝石とか似合うと思うんだよねー」

「でも、悪いよ……。わたしは貰っても何もミラに返せないよ」


 下を向いて、ユアンはそう答えた。

 ユアンには自由に使えるお金もなければ、カルミラに何かしてあげる能力もない。せいぜい血を分け与えるくらいだ。


「別に返さなくていいよ。初めて会った時ユアンは魔力不足の妾に血を分けてくれた。あの時のお礼と思ってくれればいい」

「でも……」

「でも……じゃない! 妾の好意を素直に受け取って欲しい。ただ『ありがとう』って言ってユアン」

「……わかったよミラ。ありがとう」

「よろしー」


 カルミラはユアンの黒髪を優しく撫でる。

 ユアンも気持ちよさそうに目を細め、(ほしいまま)にさせる

 そんな2人の様子をすぐ近くで眺める1つの影があった。


「カルミラ様はいつから女児愛に目覚めたのじゃ?」

「ふにゅ⁉︎ カンナ驚かせないでよ」


 2人だけの空間に急に割って入られ、カルミラは驚きの声をあげる。

 それは、いつの間にか2人の近くに来ていた老婆だった。


「女児愛とは酷い。妾とユアンは友情という名の固い絆に結ばれてるのよ」

「あと私の血」

「こ、こらユアン。余計なこと言わない」


「へぇ、美食家のカルミラ様が気に入ったのかい。それはまた良い所のお嬢ちゃんなんじゃろうね。……それはそうとほれ」


 老婆のしわくちゃの手には二種類の指輪と一種類のネックレスが握られていた。


「お嬢ちゃんは夜のような黒髪に雪のような真っ白な肌じゃから、ここあたりが似合うと思うんじゃが……」


 老婆はユアンのイメージに合うように白や黒を基調としたアクセサリーを選んでくれたようだ。


「まだ幼いからピアスなんかよりも指輪とかネックレスとかがオススメと思ってこれらにしたんじゃが、他に要望あったかの?」

「いや、特にない。試着させていいか?」

「お好きにどうぞ」


 カルミラは老婆からネックレスを受け取る。

 そしてユアンの背中に回ってネックレスを付けてあげる。


 ネックレスは真珠1粒の周りをシルバーで装飾したものだった。ユアンの黒髪との対比でとても綺麗に映える「白」を基調とするデザインのものであった。


「ユアンどう?」


 カルミラは手鏡をユアンの前に持って来て尋ねる。


「首らへんがなんかくすぐったい」

「ユアンはネックレス苦手かぁ」


 似合う似合わないや好き嫌いの以前にユアンはネックレスを付けるのは苦手みたいであった。

 カルミラはネックレスを外して老婆に返す。続いて指輪を2種類とも受け取りユアンの前に戻る。


「ネックレスが苦手なら指輪かなぁ。ユアンどっちが好み?」


 ユアンはカルミラの両手にそれぞれ握られている指輪を見た。


 1つは大きめダイヤモンドをメインに、その周りひ小さなダイヤモンドを散りばめたデザインだった。これもユアンの黒髪と対比させる「白」のデザインだ。

 ちなみにユアンの感想は「なんかすっごくキラキラしてて綺麗」であった。


そしてもう1つ……


「何これ、かっこいい……」


 その指輪につけられた宝石を見たユアンは思わず息を飲む。

 もう1つの指輪は中央に黒い宝石がはめられていた。その黒い宝石は微かに虹色に揺らめていた。いわゆる『ブラックオパール』と言われるものだ。これはユアンの黒髪と同系色の「黒」のデザインで、ユアンの真っ白な肌の上では際立つ感じになる。


 そしてこの宝石は見る方向を変えると虹色の輝やきが揺らめき多種多様の色を示す。その不思議な宝石にユアンは見とれていた。


 そんなユアンの様子を見たカルミラは『ブラックオパール』の指輪を彼女の右手の小指にはめる。

 魔道具であるリングはユアンの小指に綺麗にハマるように変形する。


「ピッタシ。くすぐったくないかい?」

「うん! なんかしっくりくる」

「んじゃ、これでいい?」

「うん、これでいい。……いや、これがいい!」

「ん、決まり。カンナ、これ貰うよ」


 ユアンの大変気に入った様子を見て、『ブラックオパール』の指輪を購入することにした。カルミラはローブの懐から金貨を取り出す。

 実はこの時ユアンは生まれて初めて硬貨を見ることになった。ユアンにとって硬貨は本の中やお話の中でしか知らないものだったのので、興味津々で金貨を眺めた。


 カルミラが硬貨を渡そうとすると、老婆は手でそれを制止させる。


「ふふふっ、実はなカルミラ様。あの指輪はもう1つあってじゃな。どうじゃ、ペアルック」

「…………」


 老婆はどこからか取り出した2つ目の『ブラックオパール』の指輪をカルミラに見せてくる。


 お揃いの指輪をつけて笑いあうユアンと自身の姿がカルミラの頭に浮かぶ。

 ふむ……ふむふむ。


「相変わらず商売が上手いな、カンナ」


 チャリーン


 カルミラは2つ分の代金を払い、指輪を受け取る。


「まいどー」


   ■■■


「えへへ、ミラとお揃い〜」


 宝石店を出た後の帰り道。

 初めて出来た友達と初めてのお揃いアイテムにユアンはとてもご機嫌だった。


 自身の右手の小指にはめられた指輪を眺めては頬を緩める。

 カルミラの右手にも全く同じデザインの指輪がはめられている。


「ユアン、何度も眺めるくらい気に入ってくれたのは嬉しいけど今はあまり動かないでね」


 ユアンとカルミラは現在空の上にいた。

 いつも通りユアンをカルミラが抱いて空を飛ぶ形だ。

 吸血した時の余韻がまだ残っているのでいつもより全身が敏感になっている。そのためあまりゴソゴソされては気が散ってしまう。


 しばらく経つと鹿島家の塀が見えてきた。この冒険もあと数分で終わりを告げる。


「あぁ、もうすぐ家に着いちゃうのか……」


 楽しい時間が終わってしまうことにユアンは落胆の言葉を漏らす。最初は不安が大きかった『初めての外出』は、終わってみれば、ただただ楽しい時間であった。

 またミラに頼んで抜け出そう……、そう思ったユアンであった。




 二人は別邸の二階の窓――ユアンの部屋の窓に降り立った。

 さっきまで元気に指輪を見てはしゃいでいたユアンの姿は見る影もなく、睡魔に襲われウトウトとしていた。


 カルミラはユアンを担いでベッドまで運び、優しく寝かせる。

 起こすのも申し訳ないし、勝手にパジャマに着替えさせるのもどうかと思うので仕方なくパーカーのまま寝かせている。


「『浄化』」


 水魔法の『浄化』を唱え、ユアンの身体の汚れを落とす。服の上からなのである程度しか効果はないが、しないよりはマシだろう。1時間も人混みを歩いて汗をかいてるはずなので、そのまま寝かせるのはどうも忍びなかった。


 『浄化』を唱え終わるころには、ユアンは泥のように眠っていた。頬が少し赤くなりかけていることから『魔力熱』が発病し始めたのかもしれない。


 ユアンに布団をかけ、カルミラはベッドに座る。

 ユアンのほっぺを指で突っついてプニプニする。カルミラは自然と笑みがこぼれてくる。


「おやすみユアン。いい夢を」


 チュッ


 ユアンのおでこにキスをしてカルミラは夜の闇へ紛れ消えた。

土日は大学祭で出店でずっと働いてました。

ちょー疲れたよ。



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