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吸血姫百合物語  作者: doLOrich
第1章 鹿島領
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第5話「星空と快楽と吸血鬼」

 ユアンとカルミラは1時間ほど街を見て回った。初めて見る光景はユアンの好奇心を十分に満たすどころか、さらに好奇心を強めるものであった。見たことのないものが視界に入るたびに「あれ何?」とユアンは質問をし、それにカルミラが答えるという問答を何度も繰り返していた。

 

「疲れたー、足が棒みたいだよー」


 ユアンは公園のベンチに座り足を伸ばす。

 外に出ることなんて滅多にない生活をしているユアンは運動不足なのだ。アドレナリンMAXの状態とはいえども人混みを歩き続ければ、疲れはすぐ溜まってしまう。

 1時間も人混みを歩き続けたユアンの足は、休憩しなければ一歩たりとも動けないだろう。


「妾も……ちょっと疲れた」


 ユアンの隣にカルミラも座り込む。

 カルミラは運動不足というわけではないが、他人に手をずっと引っ張られながら歩くのは実はとても疲れるのだ。それと同時に、ユアンに何か危害を及ぼすものがないか常に周りを警戒していたのだ。

 慣れないことをしてしまったため、強い疲労感を覚えていた。


「えへへっ」


 隣にカルミラが座ったのでコテっとカルミラの肩にユアンが寄りかかった。

 ユアンの子ども特有の高い体温がカルミラの冷めた身体を温める。

 ユアンは上目遣いでカルミラを見上げて、


「ありがとね、ミラ。ちょーたのしかった」

「ユアンが楽しめたなら、連れて来て良かった」

「……もう少しの間寄りかかってていい? ちょっとクタクター」

「あははっ、好きにするといいよ」


 許可をもらったユアンは少しだけ体重をカルミラに預けてきた。

 このままユアンが寝てしまいそうだなぁとカルミラは思ったが、放っておくことにした。


 ふと、カルミラは夜空を見上げる。

 キラキラと天蓋を飾る星と大きく自己主張している赤い月が、夜景の明るさに負けず輝いていた。公園が大通りより少し離れているため、辺りはやや暗いから星空が見えやすいということもあるのだろう。


「ミラ……」

「ん?」


 寝そうな勢いだったユアンが、カルミラに甘い声で話しかけてきた。

 その眼はうつらうつらしていて今にも睡魔に飲み込まれそうであった。


「血、まだあげてなかった。飲む?」

「んー、ユアン疲れたでしょ? 無理しなくていいよ」

「無理してないもん。ミラに飲んで欲しいの。今日のお礼にたっぷりと……どうぞ」


 目の前に据え膳が急に現れた。

 ユアンはフードを外し、首元を晒す。

 フードの中に溜め込まれてた、ユアンの匂いが解放されカルミラの鼻腔をくすぐる。

 相も変わらず、濃厚な魔力を含む香りはカルミラの理性を軽く飛ばしてしまう。

 「ユアンは疲れてるしガマンガマン」と思ったがそんな理性など紙クズのように何処かへ飛んでいった。


「んん……あぁっ。……ではいただき、ます」


 吸血鬼特有の発達した犬歯が口元でキラリと光る。既に肩を寄せ合っている2人だが、その姿勢では吸血しにくい。

 カルミラはユアンの肩を掴み引き寄せ、正面を向き合う。

 身体がさらに密着する事でユアンの柔らかな感触が伝わりカルミラの興奮を誘う。

 そのままゆっくりとユアンを押し倒し、優しくベンチに寝かせる。

 

 妖艶な雰囲気をまとう吸血姫は上体を倒して口元をユアンの細い首筋へと近づけてゆく。


 カプリ!


 ユアンの首筋にチクリとした痛みが走る。反射的に痛みから逃れようと顔を逸らすが、カルミラの手が抑えてそれを許さない。

 しかし痛いのが最初だけなのは何度も経験して知っていたので、それ以上は抵抗せずされるがままに身をまかせる。


 痛みがスーッと引き始めると同時にユアンは身体の中心が熱を帯びるのを感じた。

 その熱は体の隅々まで行きわたり、全身を心地よくさせる。

 

「あっ! うぅん……っ!」


 押し寄せる快感にユアンはつい声を漏らす。

 さっきまで感じていた足の疲れは、もう霧散していた。今身体を襲うのは快楽の波だけである。


(うんぁ! 今までよりずっと……あっ、んん……すごい。……どうして?)


 首元にあるカルミラの金髪がユアンの顔をくすぐる。普段ならばこそばゆいだけで済むはずの刺激が、耐えられないほどの快楽の信号となりユアンを襲う。

 身体全体が敏感になっていた。


 ここ2週間ほぼ毎日カルミラによって吸血されたユアンの身体は、快楽に過敏に反応するように変わっていた。

 身体が吸血される事に順応したという事だろうか。


 そしてそれはカルミラの方にも影響を与えていた。


(あぁ……、やばい。ユアンの血を身体に取り込むたびに身体中の魔力が反応して活性化してる。うぅ……くぅあ)


 カルミラの身体の末端部まで、すべての神経が過敏になる。ユアンが身体を揺らす微かな振動ですら、大きな刺激を生み達しそうになってしまう。


 なんとか耐えようとするカルミラ。

 その背中にユアンの手が回ってきた。

 快楽に耐えようとしたユアンがカルミラの背中に手を回しギュッと掴んできたのだ。

 急に発生した強い刺激に我慢のダムが決壊した。


(はぁ……うぅっ! あっ、……んあぁぁっ!)


 ビクンと1度身体が痙攣し、カルミラの全身を稲妻のように快楽が駆け巡った。


 チュパッ


 強すぎる刺激につい口を離してしまうカルミラ。「あぁ……」と名残惜しそうにユアンが声を漏らすがカルミラはそれどころではなかった。ユアンの潤沢な魔力と自身の魔力が呼応して性的興奮に近い感覚に陥っている。


 いつものユアンの血液は潤沢な魔力がバラバラに点在しているような……まるでごちゃ混ぜにしたシチューとしたら、今日のユアンの血液は潤沢な魔力は変わらないが、魔力の方向性がある程度整っていた。例えるなら綺麗に盛り付けがされたシチューか。


(魔力の覚醒が始まっているのか? ユアンは10歳……魔力の覚醒が始まってもおかしくはない。……となると、あの症状が出ていないのが気になるが……覚醒が始まったばかりとするとこれから症状がでるのか?)


 1人思考の海に沈むカルミラに、ユアンは話しかける。


「ミラぁあー、なんか今日すごかった」

 

 ベンチからユアンは起き上がる。肩で息をしているためかなり体力を消耗したのだろう。カルミラの方は、表面上は取り繕っているが息は荒く、元々青白い肌はほんのりと赤みを帯びていた。

 それでも落ち着いた演技で言葉を紡ぐ。


「ユアンの魔力の覚醒が始まってるのかもしれない」

「ふぇえ?」

「明日か明後日くらいに魔力熱が出るかもしれないから安静にな」

「つまり……わたし、やっと魔法使えるようになるの?」


 その問いにカルミラは「たぶんね」と注釈しながらコクリとうなづく。

 その答えを聞いたユアンはパァーッと笑顔になり、


「やったぁあ!」

「あくまで『かも』しれないだよ」


 ユアンにはそう言ったが、カルミラはほぼ確信していた。急に血液内の魔力の流れが変わるなどそれしか思いつかない。


 そしてカルミラは重大な事に気づく。


 今まで吸血していたユアンの血液は、まだ魔力の覚醒をする前の幼な子の血液なのだと。覚醒する前で吸血姫たる自分を魅了するほどの魔力を内包するユアンは一体全体なんなんだ……とカルミラは驚きを禁じえなかった。


 それは四大貴族の直系の血を引いているとしても、さすがに規格外すぎた。

 これで覚醒が終わるとユアンの魔力は人種としては規格外。吸血鬼たるカルミラは超えなくとも長命種たる妖精種(エルフ)竜鱗種(ドラグナー)と並ぶほどになるであろう。

 

(ユアンからは母は女中と聞いているが……。もしかしたらもっと大きな宿命をこの子は背負っているのかもしれない)


 眼の前ではしゃいでいるユアンを見ながらカルミラはそう心の中で独りごちるのだった。


   ■■■


「帰る前にちょっと寄りたいところあるけどいい?」

「うにゅ、だいじょーぶ。ミラについてくよー」


 帰宅の路についてた2人はカルミラの要望により、路地裏に進行方向を変える。大通りとは違い、不気味な暗さが辺りを包むそこは、ユアンに少し恐怖を感じさせた。

 そんなユアンの様子にカルミラは気づいたのか、手をギュッと繋いで肩が接触するぐらいまでユアンに寄り添った。


 すぐ近くにいる頼れる友達の存在は、ユアンが感じていた恐怖を消し去り「えへへっ」と顔をニヤつかせる。


 歩くこと10分。

 路地裏の奥のある扉の前で2人は歩を止める。古びた家屋に備え付けられた木製の扉。その真上には看板が掲げられていた。看板の文字は掠れてよく見えない。

 微かに読み取れる最初の方をユアンは音読した。


「宝石店……?」

 吸血行為はメタファーですから!


 ということで用語解説こーなー


【魔力の覚醒】

 1話で書いた魔力操作が出来るようになること。魔力が覚醒すると、数日の間「魔力熱」と言われる熱が出て寝込むことになる。「魔力熱」が治ると、魔力を操作出来るようになり魔法が使えるようになる。

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