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吸血姫百合物語  作者: doLOrich
第1章 鹿島領
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第3話「吸血姫」

小説って真面目に書くの初めてなんだけど難しい。毎日更新してる人達って化け物じゃないのかな?

別邸まで送ってもらったユアンはカルミラと別れ、お風呂場で土汚れなどを落としてから何くわぬ顔でお風呂から出た。ちょうど純子がこっちに向かって来ているところだったのでギリギリ間に合ったみたいだった。


「お時間ちょうどだったみたいですね。お嬢様、お着替えお手伝いします」

「ん、お願い」


 純子はユアンの全身をタオルで丁寧に拭きあげる。そしてユアンはまっしろな新しいパンツをはき、水色の生地に白い水玉模様のパジャマを身につけさせてもらった。


「フルーツとミルクは食堂とお嬢様のお部屋、どちらでお召し上がりになりますか?」

「自分の部屋ー」

「了解いたしました。すぐにお持ちしますのでお部屋でお待ちください」


   ■■■


「おー、失礼してるよ〜」

「なんでいるの!?」


 ユアンが自分の部屋に戻ると、そこには椅子に座りくつろいでるカルミラがいた。窓から入ってきたのか、部屋の窓が全開になっている。


「うむ、さっき舐めさせてもらった分の血液だと、ユアンを運ぶために使った魔法でもう魔力なくなってしまったのよ」

「なるほど」

「だからまた血を吸わせてくれ。出来ればたんまりと!!」

「えー、やだ。なんか痛そう」


 唐突なお願いを即断るユアンに、


「即答‼︎ お礼はするよ。ユアンはここから外に出たことないんでしょ? 妾が連れ出してやるのはどーよ」

「ここを出ると父様やお姉ちゃんに迷惑かかるもん。……だめだよ」

「ふにゅーん」


 ――くぅ

 カルミラのお腹が可愛らしく空腹を訴えた。



「……お腹空いてるならもうすぐフルーツ来るから食べていく?」

「これはお腹空いてるわけじゃなくて魔力不足なのよ。妾は吸血鬼だから、他人の血でしか魔力供給できないのよ……」


 ユアンに昨日の姉の言葉がふと浮かんだ。「もし…、もし将来ユアンの前に困ってる人がいたら助けてあげてね。人じゃなくても、亜人でも、魔族でも、動物でも。相手を助けてあげると巡り巡って自分のピンチに誰かが助けてくれるの」と姉は言っていた。ユアンにとっての最大依存先である姉の言葉を思い出したユアンは「しょうがないかなぁ」とつぶやき……


「……いいよ」

「えっ?」

「血、飲んでいいよ。お姉ちゃんも困ってる人がいたら助けてあげなさいっていってたし」

「ユアンありがとー」

「うん、その代わりね……お話して欲しいな。ミラはいろんなところを旅してきたんでしょ? そのお話聞きたい。ミラが見てきた世界を教えて」


 生まれて10年、ずっとこの別邸で過ごしてきたユアンは両手で数えれるほどの人間としか接することはなかった。ましてや同年代と話す機会なんて皆無であったのだ。そんなユアンの目の前に現れた自分と同じくらいの歳(に見える)の子が現れたのだ。おしゃべりがしたかった。


「そのくらいお安い御用よ」


 にかっと笑いカルミラはそう答えた。


   ■■■


 コンコン


「ユアン様、フルーツとミルクをお持ちしました」

「ん、入って」

「失礼します」


 純子がドアを開けて入ってきた。

 純子が部屋を見渡すとユアンがベッドに腰掛けていた。いつもどうりの普通の光景であった。


「机の上に置いておきますので、こちらに座って召し上がってください。わかっておられると思いますが、ベッドの上では召し上りにならないようお願いいたします」

「わかってる、わかってるー」

「では、私はお部屋で休ませていただきます。もし何か困ったことがありましたらいつもどうりベルでお呼びください」

「りょーかい」


 ユアンにそう言うと純子は部屋から下がった。ユアンのお世話係の女中は別邸で住み込みで働いている。寝る時間になると自身にあてがわれた部屋で休む。もしこの時間にユアンに困ったことが起きたら、部屋に備え付けられたベルを鳴らせばすぐにでも駆けつけてくれる。休みの邪魔しては悪いと思ってユアンは滅多なことでは鳴らすことはないのだが……。

 

「もーでてきていいよ」


 ユアンがそう言うと、ベッドに潜り込んでいたカルミラがモゾモゾとでてきた。


「あー、息苦しかった。しかしわざわざこんなところに隠れなくても妾は影に潜り込めるから、それでどうにかできたのに」

「そーいうのは先に言ってよ〜」


 純子がノックしたのでユアンは慌ててカルミラをベットの布団に押し込んだのだ。かなり急いで無理やり押し込んだので、カルミラの金髪はちょっと乱れていた。

 カルミラは髪を整えてユアンの方に向き直す。ユアンと正面で向き合う形だ。

 そして自分の胸の前で手のひらを揃え……

 

「では、いただきます」

「ん、どうぞ」


 ユアンは自身の長髪をかきあげ、首筋をあらわにする。

 そしてユアンの首筋にカルミラは噛み付く。

 チクリとした痛みにユアンは一瞬顔を歪めるが、その痛みはすぐに引いた。


 チュッウゥゥゥ


 不思議と血を吸われる倦怠感はなく、むしろ心地よい感覚がユアンの全身を駆け巡る。

 溜まっていた疲労が抜けていくような……、はたまた老廃物を抜かれ身体が健康になっていくような、そんな錯覚をユアンは覚えた。


(あぁ、これクセになりそー。結構きもちい……かも)


 風呂好きなユアンだが、それにも匹敵するんではないかと思うほど快感を感じていた。

 世間には知られていないことだが、実は吸血行為には血液中の魔力溜まりを緩和したり、魔力効率の躍進などの効果があるので人によっては心地よい感覚を覚える。

 とはいっても吸血行為には変わりないので、吸われすぎると貧血を起こすし、吸血時に逆に魔力を注がれると眷属化してしまうのだが。


 しばらくするとカルミラは満足した顔でユアンの首筋から口を離した。

 そしてペロリと傷口を舐め治癒する。


「ごちそうさまでした。……どうしたユアン。なんか顔赤いよ」


 ユアンは目を瞑りはぁはぁと薄い胸を上下させて息をしていた。

 その顔はほんのりと赤みを帯びている。


「んー、なんか気持ちよかった」

「あははっ、かなり丁寧に吸血したからの。それはそうとユアンの血はやはり絶品だったよ。言い表すなら最高級のワインか……、いやシチューかなぁ。かなり濃厚で美味であった」


 嬉々とした顔でユアンの血について語る美食家がそこにはいた。

 数多くの血を吸ってきたカルミラを唸らせるほどユアンの血は濃厚な魔力を含む甘美な味わいであった。


 

   ■■■



 ユアンは部屋の真ん中にある椅子に座りフルーツを食べながらカルミラの話を聞いていた。たまにカルミラがフルーツに目線を向けてくるので、フルーツを刺したフォークを口元に近づけるとパクリと満面の笑みで食べた。


 カルミラが話してくれたのは自身の身の上話だった。

 カルミラ曰く、「旅の話をするならまずは妾の事をしってないとねー」らしい。

 カルミラは生まれつき吸血鬼であったわけでなく、およそ400年前に魔法によって吸血鬼にされたらしい。身体はその頃から成長は全くしてない。


「へぇ、ミラって400歳以上なんだぁ」

「うむ、今年で416歳だったかな。……あれ、426だったかもしれん。まぁ歳とるとそこあたりの感覚が鈍くなるんだよね」

「私のおばあちゃんより長生きなんだ〜」

「それは遠回しに妾をババアと言ってないか?」


 カルミラは旧エウロパ帝国、現在のエウロパ共和国で生まれた。カルミラが育ったエウロパ帝国は大東亜連邦の遥か西にあった皇帝による独裁国家で、全盛期は西の大陸の半分をその手中に収めたほどの大国であった。三代目までは大繁栄を遂げていたが、四代目の皇帝の失策により大国としての力を落としていき、五代目の頃民衆の革命が起き、帝国は崩壊しエウロパ共和国へと生まれ変わったのだ。


「妾が生まれたのは初代皇帝が君臨してたころだから帝国黎明期だね。妾は帝国貴族の娘としてそれはもう大切に育てられたのよ」

「貴族様だったの……」

「ユアンも貴族じゃろ。しかも大東亜を統べる4つの家系の1つ。……まぁユアンは少し事情がアレだけども」

「私は引きこもり系貴族だから」

「あははっ、そこだけ聞くと金持ちニートだねぇ」

「それでミラはなんで吸血鬼になったの? 魔法ってさっき言ってたけどそんな魔法は私知らないよ」

「そりゃ知らないでしょうね。なぜなら妾の家系の固有魔法だからね。固有魔法『突然変異(ミューテーション)』……それが妾の家系に受け継がれる固有魔法だよ」


 固有魔法『突然変異(ミューテーション)』。

 シェリダン家が使える固有魔法で、生物の特性を変えてしまうことができる。ただ調整が難しくシェリダン家でもよほどのことがない限り行使することのない魔法であった。ましてや人間に使うことなどもってのほかであった。

 過去人間に使った事例があった。その人間はもはや人の形を止めることはなく、その容姿は悪魔のようであったと言われている。その力は1000の軍勢に迫るほどであった。しかしそのものは1ヶ月と持たず発狂し自害した。


「シェリダン家は帝国から『突然変異』を使って、兵隊を強化してくれるよう命令を受けたの。あの頃は戦争の真っ只中だったからね。『突然変異』兵士を爆発的に強化できれば戦争を有利に進めることができ、より効率的に侵略することができたの。当時の当主……妾の父上はこれを断ったの。『突然変異』は何が起きるか分からなかったからね。本当に危険な魔法だったんだ」

「なるほど、よくわかんない」

「あははっ、まぁそうだよねー。10歳に戦争の話は早いよね。この後は簡単。帝国からの命令に背いた妾の家はお取り潰し。帝国からの刺客により父上も姉上も兄上も殺された。そして残った妾と母上も剣に切られ瀕死だった」

「ぴ、ぴんち!」

「そんな時に母上が妾に魔法をかけたのだ。そう、それが『突然変異』。妾は『突然変異』の影響により絶対不滅の存在である吸血鬼へと変貌したの。そして刺客を皆殺しにして帝国から逃げ出したのでした。めでたしめでたし」

「ミラを人間から吸血鬼にしたのはミラのお母さんなの? なんで、自分の子供にそんなことしたの。『突然変異』って危ないものなんでしょ?」

「妾の命を助けるための最期の賭け……だったのかもね。母上が本当はどう思っていたのかはわからない。でも妾が今もなお生きていれるのは母上のおかげなんだよ」

 

 一通り自身の身の上話を終わらせたカルミラは立ち上り体を伸ばす。

 今夜の話は少し暗かったのでユアンを悲しくさせてしまったかもしれないと思っていた。でもユアンに自身のことは知っていて欲しかったのだ。


「あははっ、そんな顔しないでよユアン。次からは愉快で痛快な旅のお話にするからさぁ」


 そう言ってカルミラはユアンの頭を撫でた。

 頭を撫でていると、ユアンが上目遣いでカルミラの顔を覗き込んでジッと目を合わせてきた。

 すると急にユアンが両手でカルミラを抱きしめた。


「はわわ、どうしたのユアン」

「よくわかんない……。でもミラが悲しそうな眼をしてたからギュッとしたくなった」


 カルミラとしては300年も昔のことであり、すでに自分としては心の整理をつけたエピソードであると自負していた。

 当時は吸血鬼という化け物にした母親を恨んだりもした。ひとりぼっちになってしまった運命を呪いもした。事件の原因を作った帝国に復讐心を覚えた。

 それでも長い時間をかけ、心を整理をした……つもりであった。

 しかしユアンに話すことで、整理したと思っていたものが溢れ出て知らず知らずのうちに顔に出てしまっていたのだろう。


「そんな顔に出てたかなぁ」

「してたよ、こーんな感じで」


 ユアンはカルミラの顔の真似をした。しかしその顔は所謂変顔であった。


「あははっ、ぜ、絶対そんな顔してないよ〜」

「ぇえ、似てると思うけどなぁ」


 変顔がツボに入ったのか腹を抱えてカルミラは笑い出す。その顔真似に自信がユアンは笑われるのが心外だったのか不思議そうな顔をする。


「ありがとうね、ユアン」

「うん? 何が?」

「……なーんでもない。今日ユアンに出逢えて良かった。また遊びに来ていいかな?」

「もちろん。まだまだミラのお話聞きたいし。……あっ、こういうのって友達って言うのかな? わたしはずっとここにいるから友達いないんだ」

「友達……そう友達。妾とユアンは友達!」


 友達。

 ユアンは本の中の主人公が親しげに仲間と遊んだりしゃべったりする姿を思い浮かべる。いつか自分にもこんな”仲間”や”友達”と呼べる人が出来たらなぁ……とずっと思っていた。

 

「そっかぁ、友達かぁ……えへへ」


 自然と笑みが溢れてきた。

 ずっと憧れていた”友達”という存在。

 この場所にいる限りできることは無いと思っていたそんな存在を前に高まる気分を抑えられなかった。


「友達、友達! ミラとわたしは友達!」


 カルミラの手をギュッと両手で握る。

 急なことにカルミラは驚いたが、すぐにその手を握り返す。


「あは、これからよろしくね。今日はもう遅いから妾は帰るけど、また明日会いに来るよ」


「うん、また明日!」


 ユアンはそう言って、初めてできた友達に無邪気な笑顔を向けるのだった。

時系列的には

1話〜3話→プロローグ→4話

となる予定です。


ということで用語説明コーナー。

用語って本文で全部説明できればいいんですけどねー。今は無理だ。


【突然変異】

 シェリダン家の固有魔法。ミューテーション。ルビがカタカナなのは大東亜連邦外の魔法だから。生物を異形のモノに変えてしまう魔法。うまく成功すれば理性を残すこともできるが、ほとんどの場合失敗してホンモノの化物に変えてしまう。カルミラが理性を残して吸血鬼になったのは奇跡に近い。

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