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吸血姫百合物語  作者: doLOrich
第2章 有栖川領
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第5話「ゴーレム」

昨年と同様年度末のこの時期は忙しくて筆が進まない…

 ユアンが『紫電』の詠唱を終えるまで平均8秒。2体のゴーレムは今まさに両側から迫っている。

 イリスはユアンが詠唱を終えるまでの時間を稼ぐため、魔弾を放つ。


「『魔弾〝交鎖(クロス・チェーン)〟」


 二丁の魔銃からそれぞれのゴーレムに放たれた魔弾は、着弾と同時にその中に封じ込められた魔法を解き放つ。

 土魔法により造られた鎖がゴーレムたちにまとわり縛りつくことで、その動きを阻害する。


「……って、そんな上手くいかないよね」


 パキーンっ、と大きなゴーレムにまとわりついていた鎖が弾け飛ぶ。後ろにいる半分サイズのゴーレムの方はまだ抜け出せておらず、この程度の鎖でで十分なようだった。しかし巨大サイズのゴーレムの動きを止めるには魔弾一発分の鎖では役不足だった。元々人間サイズを仮想敵とした魔法であるため想像の範囲内だ。


 巨大ゴーレムの鉄の拳が迫る。


「魔弾〝風衝壁(ウィンド・インパクト)〟」


 イリスは魔弾を入れ替えて、新しい魔弾を放つ。

 魔法に対しての魔弾の優位性は「速射」性能にある。魔弾の中に魔法さえ閉じ込めておけば、詠唱時間を無視してトリガーを引くだけで魔法を現出できる。

 ゴーレムの拳に当たった魔弾は大きな衝撃波を生み出し、拳を跳ね返す。ゴーレムは姿勢を崩すが、倒れるまではいかない。


「イリスお姉ちゃん、いけるよ!」

「よしっ、まずは正面! あのデッカいのに向けて撃っちゃえ!」

「『紫電』」


 雷光がゴーレムを貫き、その大きな体躯を吹き飛ばす。倉庫の装飾品を潰しながら、ゴーレムは壁にぶつかる。そのまま壁を突き破り、空中へ投げ飛ばされそのまま落下していった。


「あははっ、相変わらずすごい威力……」

「――っ! イリスお姉ちゃん、後ろっ!」


 小さい方のゴーレムが自力で鎖を破り、再び動き出した。大きい方のゴーレムの半分程度の大きさとはいえ、人間よりはずっと巨大だ。鎖で長い時間は拘束できなかった。


「ユアンちゃん、こっちは私に任せてくれるかな。あんまり倉庫をめちゃくちゃにしたくないからね」


 わかったー、とユアンは素直に返事をして、イリスの一歩後ろに下がる。

 イリスは二丁の魔銃を構え、ゴーレムに向かって引き金を絞る。


「『魔弾〝交鎖(クロス・チェーン)〟」


 二発の魔弾から鉄の鎖が生まれ、再びゴーレムの動きを止める。先ほどとは違い、二発の魔弾による二重チェーン。腕一本すらまともに動かすことはできない。


「正直なところ、このままずっと拘束して、クローバーを呼んでくるのが最適解な気もするんだけど……」


 イリスは右眼に付けられている眼帯を取り、緋色の『魔眼』を露わにする。

 有栖川の『魔眼』に備わる三つの能力。

 その一つ『現在視』。魔力の流れ、色、性質などを読み取ることができ、さらに副次的な性質として人の心――感情をも読み取る。


「確かゴーレムは魔鉱石で出来たコアによって動いてるはずだからそれを壊せば……」


 『魔眼』の力によって、ゴーレムに流れる魔力の流れを読み取る。まるで血管を流れる血液のように鎧の全身を流れる魔力はある一点から生み出されていた。

 胸部の奥深く、心臓部。そこにコアがある。


「『魔弾〝風穿(サイクロン・バレット)〟」


 風魔法によって貫通力を強化された魔弾を放つ。チェーンによって動きを封じられたゴーレムのコアに向かって、吸い込まれるようにその弾丸は放たれた。


 ピキィーン!


 硬いものが割れるような高い音が響くと、ゴーレムは糸の切れた人形のように崩れ落ちた。


「ふむ、最初からこうしてれば良かったかな」


 右手で魔眼を隠して、イリスは振り向く。

 魔眼で人を直接見てしまうと、強制的にその人の心を見てしまう。そのためイリスは眼帯を取ってる時は魔眼を隠す癖がついていた。


「…………それいいなぁ。私も使ってみたい」


 ユアンがイリスの手にある魔銃を指差す。


「にゃは、ユアンちゃんくらい魔力あるならわざわざこれ使わなくてもよくない?」

「そんなことないもん。だってカッコいい!」

「カッコいい……。ユアンちゃんも女の子なのに銃好きなんだね。私も銃好きだよ」


 ズシン。


 地面が揺れる。ズンズンズンとその音はだんだん近づいてくる。床の下――、いや正確には斜め下。先ほど大きな方のゴーレムを『紫電』で貫き落としてできた壁の穴の方から――。


「あー、嫌な予感」


 ――目標再補足。


 先程紫電により塔から落とされた巨大ゴーレムがよじ登ってきた。表面は紫電によって黒焦げているが、動く事には問題がないようだ。


「ユアンちゃんの紫電が直撃したのにまだ動けるのかぁ。やっぱりコアを壊さないとダメかな」

「イリスお姉ちゃんがまた魔弾で貫く?」

「紫電でも貫けない装甲だし、私の魔弾でも多分無理かな。うーん、どうしようかな」


 ユアンが放つ紫電の一撃にも耐える装甲を持つゴーレム。生半可な攻撃では傷一つつかないだろう。


「一撃で貫けないなら二撃重ねて放てばいいかな」


 そう呟くと、イリスはガンホルダーから空の魔弾を取り出しユアンにわたす。


「その弾丸を手に持って魔法を詠唱すれば、その魔法が魔弾に封じ込まれるよ。私とユアンちゃんが同時に『紫電』を撃てばきっと倒せる」

「おお! なるほど、まかせて!」


 一撃で足りないなら二撃。ユアンの『紫電』を魔弾に封じ込め、その魔弾をユアンの『紫電』と同時に放つ。

 ユアンが魔弾に『紫電』を封じ込めるのに約8秒。再び『紫電』を唱えるのに8秒。魔弾の受け渡しも含めると約20秒程度巨大ゴーレムを足止めしなくてはならない。


「もったいぶったらダメかな。秘蔵の魔弾も使っちゃえ。『魔弾〝大水瀑(ウォーター・フォール)大寒波(ブリザード・ストーム)〟』」


 左右の魔銃から異なる魔弾が射出される。

 一つは大量の水を生み出し爆発させる水魔法の魔弾。もう一つは極寒の風を生み出す風魔法の魔弾。

 異なる二つの魔弾が相乗効果を起こす。


 着弾と同時に大量の水が生み出され、それと同時にその水が氷結する。

 その結果出来上がるのは厚く氷漬けにされたゴーレムの氷像。とても抜けれるモノとは思えないが……。


 ピシピシッ、と氷にヒビが入ると次の瞬間には砕け散りゴーレムが動き出す。


「本当になにこのゴーレム。ここまでくると古代兵器レベルだよ」


 イリスがゴーレムを魔眼で見抜くと、腕の先に魔力が集まっていた。

 まさか、と思った瞬間にゴーレムは、


 ――『魔法起動』――『炎弾(えんだん)


 魔法を放った。


「――ちょっと、まっ!? 『魔弾〝爆風(エル・ブラスト)〟』


 魔弾による風で炎弾を散らし飛ばした。


「魔法も使えるゴーレムってなにそのチートかな。なんでこんなのが私の家(うち)の倉庫にあるの?」

「イリスお姉ちゃん、出来たよ」


 ユアンがヒョイっと投げてきた魔弾を受け取る。魔眼で見なくても、その中に封じられた魔法の大きさがわかる。

 本当にこの子は化け物ね、と小さく口にして受け取った魔弾をガンホルダーになおす。

 そしてそれとは別の魔弾を魔銃に入れて、イリスはゴーレムに向けて撃ち出す。


「『魔弾〝風衝壁(ウィンド・インパクト)〟」


 ダダダダダっ、と連射する。

 着弾地点に衝撃を生み出す事に特化したこの魔弾で最後の時間稼ぎに入る。

 巨大ゴーレムも魔法を使い応戦してくるが、所詮はゴーレム(くず鉄)ごときが使う魔法。珍しいとはいえ――魔法使い(本物)には遠く及ばない。

 魔弾では決定打にはならなくても、ひたすら押し返すことはできる。一つ問題があるとすれば……。


(はぁ〜、魔弾がゴリゴリ減ってるよ。安くないんだけどなぁ)


 四大貴族という国内有数の富豪ではあるが、それでも限られたお小遣いでやりくりしなければならないイリスにとって、お金は死活問題なのだ。

 マッハで消費されていく魔弾にうっすらと涙が出てきそうなイリスだった。


「イリスお姉ちゃん、いつでもいけるよ〜」


 待望の知らせを聞き、イリスは最後の足止めのために秘蔵中の秘蔵の魔弾(切り札)を放つ。それは自身が尊敬してやまない、姉が開発(・・)した魔法が組み込まれている魔弾。


「魔弾〝無限交鎖クロス・チェーン・ループ〟」


 魔法陣に魔法陣を描かせる魔法を組み込むことで魔法を魔力が続く限り連鎖――ループさせることができる。これを開発したのが現五色の魔法使いの一角である有栖川アリス――イリスの姉だった。

 その理論を魔弾に組み込ませ、魔弾の中に仕込まれた魔鉱石の魔力が尽きるまで封じた魔法を使い続ける。それがこの魔弾だ。


 ゴーレムが鎖を引きちぎっても引きちぎっても、鎖は再生して再びゴーレムを縛り続ける。


「じゃあ、一緒に行くよ」


 ユアンに合図を送り魔銃を構える。

 ――三、二、一。


「『紫電』!」

「魔弾〝紫電ヴァイオレット・ライトニング〟」


 ユアンの手とイリスの魔銃から放たれる雷光。二つの雷光は一つに交わり濃縮され過剰な威力となり、ゴーレムを文字通り消しとばした。

 魔鉱石のコアどころか強化されたボディの鎧の一片すら残らなかった。


「あははっ……」


 あまりの威力にイリスは乾いた笑いしか出てこなかった。



   ■■■



「いい景色ー、みんなアリンコみたい」


 有栖川邸最上階から有栖川領を見下ろす。

 強く吹き付ける風が、ユアンの黒髪をたなびかせる。そんな景色をユアンは数分程度満喫したのち――


「うん、もういいや。暑いし」

「せっかくここまできたのに……」


 一目見て満足したのか、もう下の階に降りる気満々のユアンだった。


「大きな物音がしたのでなんの騒ぎと思い来てみたら、下の惨状は一体何が起こったのでございますか?」


 天守から降りる階段の前に執事長のクローバーが立っていた。ゴーレムとの戦闘での物音を聞き駆けつけたのだろう。


「あぁ、クローバー良いところに。聞いてよ――」


 イリスが起こった事を事細かく説明する。

 倉庫のゴーレムが勝手に起動して散々な目にあったと。少し誇張して大変だった感を出しているが、実際は紫電連打のゴリ押しなので苦労も何もない。


「ふむ、それは大変でございましたね。多分誤起動でしょう。核の魔力が抜けておらず、近くを通りかかったお嬢様達に反応して動き出したのではないかと推測します」

「それで、下の階通ったから分かると思うけど……」

「大きな穴が空いておられましたね。それはもうぽっかりと」


 紫電でゴーレムごと貫いた穴は、それはもう心地よい風が吹き抜けていく。ビュービューと。


「お母様達にナイショには……」

「お嬢様の頼みでも無理でございます」

「あぁ〜、またお小遣いがぁあああああ」


 ……あぁ、わかっていたかな。

 イリスは地面に突っ伏してシクシクと悲しみの涙を流す。

 高い魔弾を惜しまず使い、お小遣いも減らされ、どう生きていこうかと悩み苦しむ15歳の少女。


「それはそうと、そちらのお嬢さん――確かユアンさんはお怪我はありませんか?」

「……だいじょーぶ」


 クルクルー、とその場で周り無傷な事を証明する。

 クローバーは「ふむ」とこぼし


「そう言えばゴーレムはイリスお嬢様が一人で倒したのでございますか?」

「ん、違うよ。ユアンちゃんと二人で、だよ」

「――ほぉ、それはそれは」


 イリスの冗談だと思ったのか軽快にクローバーは笑う。10歳の幼女に魔法での戦闘など普通はできるはずがないからだ。


「とりあえずイリスお嬢様。下の階のお片づけをしなくてはいけません」

「うげぇ……」

「私も手伝うよ、イリスお姉ちゃん」


 ゴーレムとの戦闘で倉庫は見るも無残な姿になっている。あれを片付けるのは気が滅入りそうになる。


「ありがとうね、ユアンちゃん。じゃあそうと決まればさっさとやろうかな」


 散々暴れた後は片付けをするものだ。

 その片付けが終わる頃には太陽は傾き、夜の帳を下ろそうとしていた。

そろそろミラとユアンをイチャイチャさせたい病が発症しそう。


久しぶりの用語説明!

というか設定説明。


魔弾にも種類があって、それぞれに封じ込められる魔法の大きさに限度があります。イリスの秘蔵の魔弾や紫電を封じ込めた魔弾は最高級品でかなり規模の大きな魔法まで封じ込められます。そのかわりめちゃくちゃ高いです。マジッククラブでイリスの使っていた炎弾を封じ込めていた魔弾は超格安品です。

イリスの金欠はいつまで続くのか……

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