第9話「お姉ちゃん、だいすき!」
ポケモンにハマってて更新遅れました。
今作のポケモン百合ゲーすぎて悶えてました。
「では、柚杏。『幻魔』のもっとも基本的な魔法はなーんだ」
鹿島家別邸のとある部屋……ユアンが勉強部屋と呼んでいるそこで、沙夜は物差し棒を持ってユアンにそう尋ねた。
ユアンと沙夜は家族会議の後すぐに別邸に帰ってきて、少しの休憩を挟んでからこの魔法の授業を始めたのだ。
「はーい、あの隠れるやつ」
「はい、正解! 正式名称は『幻魔 雲隠れ』。ユアンが庭に出るときにかける魔法だね。他者から”見られなくなる”魔法といえばわかりやすいかな」
『幻魔 雲隠れ』は身体を透明化する魔法ではなく、存在を認識されなくなる魔法だ。他者の精神に干渉して認識されなくなるため、声や足音、においや触れられてることにすら気づかせることはない。
鹿島家が世界最高峰の隠密及び暗殺を得意とした家系だったのはこの能力を見れば明らかだろう。敵地に侵入し放題、諜報し放題、暗殺し放題……。
鹿島家は内戦時代にこの魔法で四大貴族の一角まで上り詰めたのだ。
しかしそうは言っても平和な現代では、隠蔽工作などにしか使い道はないのだが。
「これが今日からユアンに覚えてもらう魔法です。私の時は習得に一週間かかったから、たぶんそのくらいぐらい時間がかかると思うけど頑張りましょう」
「おー」
「ということでまずは柚杏に自分の魔力を知覚してもらう必要があります。魔法を使う最初の一歩は自分が持っている魔力を操作できるようになることだからね」
魔力熱発症後、子供は自然に自身の魔力を少しずつ知覚できるようにはなるが、これは時間がかかる。完璧に馴染むには1年はかかるだろう。そのため現在ではできるだけ早く魔法教育を行うために親か兄弟などに手伝ってもらい、自身の魔力を知覚し操作できるようにしてもらうのが普通である。学校に通っていならば先生などに魔力操作の手ほどきを受ける子も少なくないだろう。
「じゃあ、今から私が柚杏に魔力を流すからそれで感覚を掴んでね」
「おー」
沙夜はユアンと両手を繋いで、目を閉じた。沙夜は自身の魔力をゆっくりとユアンの体内へと注いでいく。
このように他人から魔力を注いでもらい、自身の魔力を動かしてもらうことで魔力操作のコツを掴む。
「キツかったらキツイって言ってね」
「ん。…………な、なにか入ってくる⁉︎」
ユアンは沙夜の腕から自分の腕へと圧迫感が伝わってくるのを感じた。
その圧迫感は腕から肩、そして頭部や胸部へと広がっていき呼吸をすることすらままならなくなっていった。身体の中をなにかドロドロっとしたものが駆け巡るような気持ち悪い感覚だ。
最初はただ気持ち悪い感覚に全身を支配されてしまっていた。だが部分的であるが抗えるような感覚をユアンは覚える。大きな川の流れを小さな土嚢で塞き止めるように、焼け石に水ではあるがそれでも確かに抵抗できていた。
「はい、やめ」
「ぷはぁっ……。はぁはぁ」
全身を襲っていた圧迫感が急に無くなるとともに身体が軽くなり、はぁはぁとユアンは呼吸を荒くする。
「柚杏、大丈夫?」
「きつーい。でもなんか押し返せそうな気がする。もう一回お姉ちゃん」
「お、押し返す⁉︎」
沙夜としては、魔力を注ぎ込んで柚杏の体内の魔力を無理やり動かすことで、ユアンに自身の魔力を知覚させるきっかけを掴ませてから、柚杏自身の意思でそれを操る特訓をしようとさせたのだが……。
妹の返答が思ってたのと違い沙夜は困惑した。他人から注がれた魔力を押し返すには、相手よりも魔力が強くなければならない。覚醒したばかりの子が今年で20歳である沙夜の魔力を押し返せるわけがないのだ。
「じ、じゃあもう一度流すね」
二回目なのでさっきよりも強めで流す。
柚杏の顔は先ほどと同じように圧迫感で歪む。
妹のキツそうな顔を見るのは沙夜としては心が痛むが、これは教育です、と自分を戒める。
「ん、んん。ぬぅ……」
額に脂汗を浮かせながら、ユアンは声を漏らす。その表情は苦悶で染まっている。
「柚杏、大丈夫ですか? 一度休憩しますか?」
「……まだ、まだぁ」
ユアンは手を繋いでいた沙夜の両手をギュッと強く掴む。
自身の体内に侵略してくる姉の魔力に、自分の中の見えない未知なる力で押し返そうと頑張る。一回目で覚えた感覚を今度は強く意識して……。
「いっけぇええええ」
ユアンが叫んだ時、沙夜は浮遊感を覚えた。それは自身の魔力がユアンの魔力にせき止められたことを示す。そして、せき止められた魔力の奔流はユアンの魔力が加わり、元の2倍以上の大きさで一瞬にして沙夜の元へと逆流してきたのだ。
「ふぇ⁉︎」
逆流してきた魔力は沙夜の全身をかけ巡り、沙夜の身体を内側から狂わせる。
沙夜は想定外の出来事にユアンと繋いでいた手を振りほどき、その場に倒れこむ。
濃厚な魔力に身体が乱されたことで強い吐き気を覚え、口に手を当てる。
しかし妹の手前吐くわけにはいかず、それを無理やり押し込める。
「うぐっ。……は、ゲホゲホ」
まさか本当に押し返されるなんて、と沙夜は思った。
油断していたとは言っても、今日魔力熱が引いたばかりの妹に魔力を押し返されたことは、沙耶をひどく驚かせた。
「うぉお、何これすごい」
その妹はと言うと、魔力操作のコツを掴んだのか自身の魔力をブンブンと体内を駆け巡らせていた。
この段階――――自身の魔力を自由に操作できる段階まで昔の沙夜は四日かかったのだ。
それでも平均よりずっと速かったのだが、この妹はたったニ回魔力を注いだだけで身につけてしまったのだ。
「て、天才……」
沙夜はそう呟いた。
ユアンは魔力を操作できるようになるまでの早さもさることながら、その魔力総量と魔法力がズバ抜けて大きかった。しっかりとした教育を受ければ『五色の魔法使い』にだってなれるかもしれない。
しかし悲しいことにユアンは学校に通うことができない。家庭教師や沙夜の魔法教育ではユアンの才能を伸ばすには限界がある。
才能はあるのに世に出ることができない妹を見て、痛まれない気持ちになる沙夜であった。
■■■
「大丈夫? お姉ちゃん」
沙夜のことを心配してユアンがそう問いかけた。
魔力の逆流により気分を悪くした沙夜は椅子に腰掛け、楽にしている。
吐き気はもうないが、全身に疲労感を覚えている、
「少し休憩すれば治るから大丈夫よ。それより柚杏はすごいね。こんなにも早く魔力操作を習得できるなんて思ってもなかったわ」
「えへへ……」
姉に褒められ、ユアンは微笑みを浮かべる。
そんなユアンが可愛くて、沙夜はユアンを抱き寄せて自分の膝の上に乗せた。両手でギュッと抱きしめる。
「もふもふ〜。ユアン暖かい」
「きゃはは、くすぐったい」
くすぐったくてケラケラとユアンは笑う。
「柚杏を抱っこしてたら気分良くなるからもう少しこのままでいい?」
「しょーがないなー」
顔を「にへ〜」と緩ませ嬉しそうに姉の頼みをユアンは許す。
わたしの妹ホントかわいいなぁ……と、沙夜はユアンを強く抱きしめる。
「ねぇ、お姉ちゃん」
「ん、なぁに?」
抱っこされているユアンが沙夜の方を上目遣いで振り向き、
「だいすきっ!」
「はぅ……」
ユアンの無邪気な笑顔でそう言われ、沙夜は萌え死にそうになる。
可愛すぎる妹に慕われる嬉しさに口元が緩む。
「私も大好きよ、柚杏。もう、ちゅーしちゃいたいくらいです!」
「お姉ちゃん、ちゅーする?」
コトンと首を傾けてユアンが誘ってきた。
沙夜はそれに答えるように、ゆっくりと顔を近づけ……
ユアンのほっぺにキスをした。
「むぅ、ほっぺ〜」
「口のキスはホントに大事な人とするものですよ」
「私、お姉ちゃんの事ホントに大事で大好きだよ」
「んー、その好きじゃなくて結婚したいと思えるくらい好きな人よ」
「私、お姉ちゃんと結婚したい!」
「ん、んん……。お姉ちゃんとは女の子同士だし、姉妹だから結婚できないの、ごめんね」
「むぅ〜」
まだ子どもなのもあるが、異性と触れ合う機会が皆無なユアンは異性好きという感覚……恋愛観がかなり乏しいようだ。
かなり不服そうなユアンを、沙夜はなだめるように頭を撫でた。
そのまま目を閉じて、ゆっくりとした二人っきりのひとときを楽しんだのだった。
■■■
コンコン
「沙夜様、お嬢様。お昼はいかがなさいますか?」
「あら、もうそんな時間かしら」
女中の純子のノックの音で沙夜は目を覚ました。どうやらユアンを抱っこしたまま少しうたた寝していたらしい。自分に抱っこされているユアンも今もヨダレを垂らして寝息を立てているため、2人揃って寝ていたみたいだ。
ポケットからハンカチを取り出して、ユアンの口元を沙夜は拭く。
仕事を少なくしてもらってまでユアンの魔法教育に時間を当てていたのに、うたた寝したとなっては兄や父に申し訳なかった。まぁ、ユアンが思っていたよりも優秀で、すぐに魔法習得できそうなのでこの程度は許容範囲であろうが。
「ここで、この子と一緒に食べますから持ってきてくれますか」
「承知いたしました。…………ふふっ、沙夜様とお嬢様は本当の姉妹みたいに仲がよろしいのですね」
沙夜がユアンを膝の上で抱っこしている様子を見て純子がそう言った。純子は『幻魔』によってユアンの事を他貴族の人間と思わされているため、仲睦まじいその様子を「姉妹みたい」と言ったのだ。
その事を理解している沙夜は、
「そ、そうですね……」
と微妙な笑顔でそう返した。
初めてポイントつけてもらいました。
飛び上がるほど嬉しかったです。
本当にありがとうございます、これからも更新頑張りたいです。
用語解説
【魔力総量】
魔法を使うことで消費される体力とかスタミナみたいなもの。ドラ○エでいうMP。一般的に個人が所有する魔力総量は生まれつき決まっており、訓練などで増えることはない。血縁などに左右されやすい。
【魔法力】
魔法を使う時の出力。これが大きいほど魔法適正が大きく、一度に多くの魔力を使うことができる。これは魔力総量と違い訓練で多少は伸ばせるが、それでも才能によるものが多い。ドラ○エでいう、かしこさ。




