第1章プロローグ「闇夜に舞い降りる吸血姫」
……ということで初投稿です。
和ロリと洋ロリの百合という性癖モロ出しの作品ですがよろしくお願いします。
――――『吸血鬼』
ヴァンパイア、バンパイア、ヴァンピールとも言われ、人の血液を吸い、吸われた人は眷属または同じ吸血鬼になると言われている伝説上の生き物だ。
地球上では確かに伝説上の生き物ではあるが、この世界――ガイアでは数は少ないが存在が確認されている。不死の王とも呼称され、人間よりもはるかに長生きの存在。そして人間よりもはるかに魔法の扱いに長けており、多くの固有魔法を持つ。そして人間と同じ言葉を話し、同じような姿をしている。分かっているのはそのくらいの謎の存在とされている。
そんな希少な存在でありその中でも世間に知られるほど人に関わった個体には異名が付くことが多い。
例えばかつて1つの都市に災害レベルの疫病をもたらした『病魔の理 アルカード』。
例えば霧の街に住み人間と友好に交流していた『霧の紳士 アーロン』。
そして今回の物語の始まりを飾るにふさわしい吸血鬼。
その名を『吸血姫 カルミラ』。
確認されている中で唯一の女性個体である。
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夜も遅く、道には人の子1人いない時間。満月と満天の星々がこの町を照らしている中、その町の上空を漆黒のマントを見にまとい、背中から生えるコウモリのような黒い翼を羽ばたかせて飛ぶ存在がいた。
腰まで伸びるその金髪は風になびき満天の夜空と調和し1つの芸術品のようだ。
そんな金髪からのぞき見えるその顔は童顔でとても可愛らしい。年齢は12、3歳程度に見える。そしてその表情はとても機嫌が良さそうであった。
この姿を見た人がいるならきっとこんな感想を持つだろう。
――なんて楽しそうなんだと。
そう、彼女――カルミラはとてもワクワクしていた。何故ならば今から彼女が向かう先には愛してやまない人がいたからだ。大好きな人に会おうとするのだから顔がほころぶのも無理はないだろう。
――くぅ……
カルミラのお腹が空腹を訴えた。
訂正しよう。確かにカルミラはワクワクしていた。愛してやまない人に会うのが楽しみであるからなのだが――1番の理由はそれではない。吸血鬼としての本能がそこにはあった。
「あはっ、ユアンは今日も吸わせてくれるかな? 吸わせてくれるよね? あははっ、楽しみぃ」
ユアンと呼ばれる少女の血液はこの世のどんな美食を持ってしてもかなわない――そう思えるほどカルミラは大好きであった。
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町の中央部。周囲の建物とは一回り大きさが違うひときわ目立つ洋館がそこには建っていた。カルミラはその洋館の裏側。広大な庭の木々にまるで隠されたように存在する別邸に辿り着いた。その別邸の二階の窓が開いている。フワッと翼をはためかせ、その窓に足をつける。
真夜中のため部屋の中は暗かったが、暗視能力をもつカルミラの双眸にははっきりと部屋の中の様子がうつる。最低限の家具しかないその部屋の質素なベッドに1人の少女が寝ていた。
カルミラの鼻にとても甘美な匂いが少女からやってくる。
――ゴクリ
極上の香木と比べても遜色ない匂いはカルミラの興奮を誘う。もう我慢できない。その匂いに埋もれて血を思いっきり吸いたい……そんな吸血衝動に駆られる。
窓から部屋に物音ひとつ立てずに降り立ち、そのまま静かに少女に近づく。近づくたびに強くなるその匂いはカルミラを狂わせる。年頃の少女から発するミルクのような甘い香り。それはカルミラの理性を飛ばすのに十分な戦力であった。
「ん……ふぁ」
体の中心が熱くなるのを感じた。カルミラは自身の吐息が強くなるのを自覚する。しかし自覚して止められるほど生理現象は弱くはない。
ベッドすぐ横まできて、少女の顔を眺める。
まるで人形のように整った小さな顔。夜にも負けないほど真っ黒で長い髪。その顔を眺めていると心臓がキュっとなり鼓動が早くなる。
「……ユアン」
カルミラはとても愛おしそうに少女の名を微かに呼ぶ。
鹿島柚杏。10歳。鹿島家により存在を無いものとされこの別邸に軟禁されている女の子。
カルミラはベッドに乗りあがった。フワリとした感触にそのベットが高級なものであることがわかる。たとえ存在を表沙汰にできないとはいえ貴族としての最低限の生活はさせてもらっているのだろう。
起こさないようにそっと布団の上からユアンにまたがる。もちろん体重はあまりかからないように、自分の足で姿勢を保つ。
「ん……んん…」
ユアンが少し息苦しいのか、声を漏らす。そのか弱い声はカルミラの嗜虐心を刺激する。
ユアンの美貌は視覚によりカルミラを狂わせる。
ユアンの匂いは嗅覚によりカルミラを興奮させる。
ユアンの声は聴覚によりカルミラを惑わせる。
そして布団を挟んでそのすぐ下で呼吸により上下するお腹はカルミラを触覚により刺激する。
そして最後は味覚。もう何度唾液を飲み込んだのだろうか。口にその血を含み舌全部でその味を楽しみたい。そんな欲求に思考が埋め尽くされる。ゆっくり、ゆっくり体を倒していく。顔と顔がどんどん近づいていく。ベッドに手をつき四つん這いでユアンに覆いかぶさる。ここだけ切り取ってみるならば、まるでカルミラがユアンを押し倒したかのようだ。
「あはっ、濡れちゃったぁ」
唇が触れそうになるギリギリまで顔を近づいたことでユアンの香りはカルミラの鼻腔を直接刺激する。あんな遠くにいても理性を保てなかった匂いだ。興奮しすぎて意識が飛ぶかとカルミラは思った。お腹の奥が先ほどからキュンキュンとしている。
「もう……だめぇ……」
カルミラの口はユアンの唇のさらに下、ユアンの細く真っ白でシミどころかホクロ1つない首に向かう。小さく口を開けて普通の人間よりも少し大きめの犬歯を首筋に当てる。
「いららきます」
犬歯を首筋に食い込ませ血を吸い、その甘美な味を口いっぱいに堪能する。
――――――ことはできなかった。
「……こら!」
コツンとカルミラは頭を軽く叩かれた。
その衝撃で正気に戻る。
カルミラの目の前にはジト目でこちらをにらみ、軽くこぶしを作ったユアンがいた。
「もぉ、ミラ。勝手に吸わないって約束、したよね?」
「……ふにゃ、ユアンごめん」
「まずは起こしてよね。まったくもぉ、まったくもぉ」
「ユアン、いつから起きてたの?」
「ミラが窓に来た時からだよ」
つまりカルミラが匂いに翻弄され、まるで性的に興奮してるかのような姿をしっかりと目撃されてたわけである。その事実に気づき、カルミラの顔は羞恥により真っ赤に染まる。
「……そのぉ、ホントごめんね…。匂い嗅いだらガマンできなくて…」
「私そんなに匂う? もしかして臭い? お風呂ちゃんと入ったのだけど……」
「臭くないよ! ホントいい匂い。ずっとその匂いに埋もれたいくらい」
「そっか! じゃあ、はい!」
ギュッとユアンはカルミラを抱きしめ自分の横に寝かせる。不意打ちによりカルミラの思考は停止する。
「はわわわ」
「クンクン、ミラもいい匂い。安心する匂い」
「ん……あっ、くすぐったいよぉ」
「動かないでミラ。これは血を勝手に吸おうとした罰なんだから」
「な、生殺しすぎるぅ」
ゼロ距離で感じるユアンを視覚触覚嗅覚聴覚でフルに刺激されるカルミラ。吸血衝動に襲われるが……先ほど叱られたばかりであり、すぐにまた約束を破るわけにはいかないと理性を理性を理性を理性を理性を……
「あれ? ミラ? おーい?」
意識を飛ばすことで回避するカルミラであった。
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ユアンはベットの裾に座っている。そしてその真横にカルミラが座り正面からユアンに抱きつく。2人の幼女が抱き合う姿はとても愛おしく温かい目で見守りたくなるものがあるだろう。――そこに吸血行動が共わなければ。
カルミラの口先がユアンの首筋に当てられ、カプリと噛み付いた。
「ん、あぁ…」
「…………」
吸血の瞬間から唾液による麻酔が効くまでのほんの数瞬の痛みによりユアンは声を漏らした。しかし麻酔が効いてからはむしろ心地よく感じる吸血行為によりユアンは恍惚な表情となる。
一方カルミラは一心不乱に吸血し続ける 「待てっ」とずっと言われた犬がやっと「よし」という許可命令をもらったかのようだ。
満足するまで吸血したのかカルミラは首筋から口を離す。そして最後にペロッと吸血痕を舐めた。
「ひゃ! やっぱり舐められるのは慣れないかな」
「でもユアン、舐めないと吸血痕がついたままになるよぉ」
「でも、慣れないのは慣れないもん」
ユアンは首筋を手で触る。すこししっとりしてる以外は何もなかった。吸血痕もしっかり消えている。
「よし、じゃあ今日もお話聞かせてよ。昨日の続き気になってるの!」
「有栖川領の摩訶不思議な屋台の話の事だねぇ。あの屋台はね、昨日も話した通り……」
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『吸血姫 カルミラ』は世界のどこにでも現れる神出鬼没の吸血鬼。悪事を働く事はなく、現れても数日経つといつの間にかどこかへ消えている。それにより目的不明の吸血鬼として世界に知られている。
しかしその正体はただの旅好きな女の子であった。数日で消えるのは飽きて次の場所へ移動するからである。
そしてここ、大東亜連邦鹿島領に来て鹿島柚杏に出会ってからは吸血行為の見返りに今までの旅の話をユアンに聞かせていた。
生まれてから1度も家の敷地から出たことのないユアンにとってカルミラとのお話は数少ない娯楽の1つであり……たった1人の友人とのおしゃべりの時間だった。
ユアンはこれにより外の世界に対して強い羨望を抱くことになるのだが……それはすこし先の話。
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「……というわけで、屋台は無事に元どおりになったんだよぉ」
「すっごい!」
夜は更けていくが2人の少女の笑い声は今日もまだまだ続くようだった。