表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風来坊  作者: kikuna
6/18

第六話 自分の居場所

 ――明日からまた学校が始まる。


宿題も半分手を付けないまま残ったままだ。

 渋々、カバンの中に必要なものを詰め込もうと、夕飯を済ませて部屋に戻った私は、口があんぐりと開く。

 私のエナメルのカバンが、見事に猫の寝床になっている。

 夏の暑さと猫の体温で変な形で伸びたカバンを手に、私は猫を怒鳴り付ける。

 「こんなんじゃ、学校いけないじゃん」

 「what? why?]

実際はニャーニャーだけど、私にはそう聞こえた。

 「どうしてですって? こんな歪になったカバンじゃ行けない」

 不貞腐れて言う、私の足に猫が纏わり付く。

 「歪でも、中には物を入れられるぜ。人のせいになんかすんなよ。迷惑極まりない」

 「人って、いつから人になったのよ」

 「屁理屈かよ。嫌だ嫌だ。女のヒステリーは」

 猫はさっさと部屋を出て行き、そのドアにめがけて、私はクッションを投げつけた。


 本当に腹が立つことばかり。


 学校のことを考えるだけで、イライラして来る。

 そんなことを言っても。結局登校してしまう自分が悲しい。

 仕方なく、明日提出をしなければならない美術の作品に取り掛かる。

 絵なんて書く必要性が分からない。受験にも関係ないし。一番大切なものを書けって……。

 自然と猫の顔が浮かび、私は頭を振る。

 気分転換に階下に水を飲みに行くと、猫がびろん大きくなって、弟の脱ぎ捨てたTシャツの上に寝ていた。

 「臭くないのかねー」

 縫物をしていた祖母が、メガネを直しながら、私に訊いて来た。

 猫の居場所はいくつか決まっている。

 私のエナメルのバッグの上と、弟の汗が染みついた洋服の上。何故か兄貴の物は汚さない。何か目上の人といるように気を遣っている。

 気のせいだと思うけど、兄貴に対しては態度が明らかに違っている。

 猫を持ち上げ掲げて、雄であることを確認する。

 確かについている。モテ顔の兄貴に恋しているってことはないよね?

 いたっ。

 猫に爪を立てられて、右手の甲が赤い線が浮かび上がる。

 それでも、猫には自分の居場所があるんだよね。

 私は……。

 「俺の隣」 

え? 

 その後、しばらく猫は散歩から帰って来ていない。

 私は猫の絵を一気に書き上げる。

 私の美的センスは素晴らしく、トドに耳と髭が付いた絵になって、涙を流して笑ってしまった。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ