第六話 自分の居場所
――明日からまた学校が始まる。
宿題も半分手を付けないまま残ったままだ。
渋々、カバンの中に必要なものを詰め込もうと、夕飯を済ませて部屋に戻った私は、口があんぐりと開く。
私のエナメルのカバンが、見事に猫の寝床になっている。
夏の暑さと猫の体温で変な形で伸びたカバンを手に、私は猫を怒鳴り付ける。
「こんなんじゃ、学校いけないじゃん」
「what? why?]
実際はニャーニャーだけど、私にはそう聞こえた。
「どうしてですって? こんな歪になったカバンじゃ行けない」
不貞腐れて言う、私の足に猫が纏わり付く。
「歪でも、中には物を入れられるぜ。人のせいになんかすんなよ。迷惑極まりない」
「人って、いつから人になったのよ」
「屁理屈かよ。嫌だ嫌だ。女のヒステリーは」
猫はさっさと部屋を出て行き、そのドアにめがけて、私はクッションを投げつけた。
本当に腹が立つことばかり。
学校のことを考えるだけで、イライラして来る。
そんなことを言っても。結局登校してしまう自分が悲しい。
仕方なく、明日提出をしなければならない美術の作品に取り掛かる。
絵なんて書く必要性が分からない。受験にも関係ないし。一番大切なものを書けって……。
自然と猫の顔が浮かび、私は頭を振る。
気分転換に階下に水を飲みに行くと、猫がびろん大きくなって、弟の脱ぎ捨てたTシャツの上に寝ていた。
「臭くないのかねー」
縫物をしていた祖母が、メガネを直しながら、私に訊いて来た。
猫の居場所はいくつか決まっている。
私のエナメルのバッグの上と、弟の汗が染みついた洋服の上。何故か兄貴の物は汚さない。何か目上の人といるように気を遣っている。
気のせいだと思うけど、兄貴に対しては態度が明らかに違っている。
猫を持ち上げ掲げて、雄であることを確認する。
確かについている。モテ顔の兄貴に恋しているってことはないよね?
いたっ。
猫に爪を立てられて、右手の甲が赤い線が浮かび上がる。
それでも、猫には自分の居場所があるんだよね。
私は……。
「俺の隣」
え?
その後、しばらく猫は散歩から帰って来ていない。
私は猫の絵を一気に書き上げる。
私の美的センスは素晴らしく、トドに耳と髭が付いた絵になって、涙を流して笑ってしまった。




