第5話 消化不良
夏休みも後半。
記録的猛暑で何もする気が起きない私は、アイスをたらふく食べて、腹痛で苦しんでいると、猫が楽しげに尻尾をゆさゆささせながら出かけて行くのが見えた。
猫は恋をしているらしい。
盛りの時期じゃないと思うけど、お目当ては近所に引っ越した来たばかりの、新しい家で飼われている真っ白い猫。叔母の話では血統書付きのお高い猫らしい。
叔母は早速、保険を売り付けに行ったらしく、そんなことを夕べ祖母に話しているのが聞こえてきた。
本当にこの人は……。
夕飯時、一応家庭があるのに、飯の支度は良いのか?
テレビを見ながら思っている私のそばに猫が来て、世の中は便利になったからなと膝の上にのぼって、鼻先をペロンと舐めて来た。
魚くさっと言う私に、ニッと歯を見せて喉を鳴らす。
「本当なの?」
「弥生の話は主語がないんだよ。それじゃ何を聞かれているのかわかんねーだろ」
「うるさいな。猫に言われたくない」
思いがけず大きな声で言ってしまった私は、キッチンの方で話しこんでいる大人たちを見る。
母は料理に専念していて、叔母はまだ仕事の話を祖母に聞かせている。
それにしても、弟は昼間、野球の練習で軽い熱射病にかかりダウンしているし、父親も9時を過ぎないと帰って来ない。
兄貴は、自由人で友達の家に泊まってきたりで、家にいたりいなかったりで、見事にばらばらだ。きっと緊急事態でも起こらない限り、この家族はそろわないんだろうなと、私はため息をつく。
見られる心配は、必要ないんだよね。みんな無関心だし……。
「だけどさ、何であんた話せるの?」
「今更それを聞くか?」
私は、にっこりほほ笑んで、うんと頷く。
「チッ。俺は神だからな。長生きした特権だよ。それに……」
「それに、何よ」
「おバカなお前には教えない。教えたくない」
するりと膝から降り立った猫は、母の足に絡みつき甘えた声をあげる
叔母は帰る気配がない。
「クリ、お腹が空いたの?」
母が、屈んで優しい声で言う。それが私には気に入らない。
猫にはみんながこんな声を出して、何よ。
「ねぇ」
叔母の前に私は座り、母に向かって声を掛ける。
「何?」
母さんも猫と話すの? と聞いてやろうと思った。
「お腹空いた」
本当に、思っていることが言えない奴だな。
流れ込んできた声に、ムッとしながら、私は猫を睨んだ。




