第四話 よろず相談所
私は未だに猫を猫と呼んでいる。
最近、猫の扱いが私より優遇されている気がする。食べているものときたら、マグロの刺身。母の勤め先は割烹料理屋。客の食べ残しをもらってきては、それをボイルして食べさせてもらっている。兄貴もバイト先から貰って来た肉の切れ端をくれてやったりと、みるみる肥えていく姿ときたら、トドだねと言う私に、弥生にだけには言われたくないといった風に、片目だけを開けチラッと見るや否や、大あくびをしてみせる。
中学3年生の夏がどんなに重要かと、さんざん聞かされて入った夏休み。
大半の子が塾通いを始める中、私はどうしたら学校に行かなくても済むのかを考えていた。
「とにかく、人と関わるのが面倒臭い。いっそのこと、離れ小島に一人で暮らしたいよ」
猫に向かって本音をぶちまけて言うのが、私の日課になっていて、腹たちまぎれに猫の髭を引っ張る。
どんなにひどいことをしても怒ったりせず、ファ~と呑気に欠伸をして見せるのは、大物なのかこいつ?
酷い罵声も愚痴も目を瞑って、耳だけをピクピクと動かして聞いてくれているし、便利っちゃ、便利だけど、なんかムカつく。
「あんた、何とかしなさいよ」
「そんな事が出来たら苦労しないよ」
パッと目を明けた猫が、シーッと牙を剥いて見せた。
「何それ?」
「うざい奴には威嚇をしてやればいいんだ。あんたなんか怖くないよって。でも、手を出したら、自分の負けになる。そこまで愚かじゃない。私は賢いを見せつけてやるんだな」
動物やぬいぐるみと話す人って、何も言い返されない安心感からだと思うんだけど、クリに関してはことごとく裏切られ、お前になんか二度と話さないと毎度宣言してみせる私。
だけど不思議と、不満や怒りで満タンになる頃、猫は絶妙なタイミングで、私のそばに来て喉をゴロゴロと鳴らし始める。
「言ってみな。俺様が思いっきりバカにしてやるから」
耳にそんな言葉が流れ込んできて、ドッと涙があふれ出す。
今日も私の負けだ。
投げつけたクッションを枕に、猫は気持ちよさそうに昼寝をし始める。
「バカヤロー」
「言う相手がちげーし」
いつか見返してやる。




