表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風来坊  作者: kikuna
15/18

第十五話 告知

 日に日に衰弱して行く猫と裏腹に、私は体調を取り戻していった。

 皮肉なもんだと言う私の腕の中で、猫は微笑もうとしているのが分かった。

 差し出した私の手から、猫を預かった獣医の顔色が変わる。

 隣に立つ看護師に目配せをして、何か指示を出している。

 向き直った獣医は優しい声で、ちょっと検査してみましょうねと言った。

 言葉とは裏腹に、バタバタと検査が行われていた。

 不安で、私と母は顔を見合す。

 涙が出そうになった。

 

 「お待たせしました」

 一時間後、獣医は重々しい口調で私たち親子に声を掛けて来る。

 「クリちゃんを、こちらで預からせてください」

 それが最初の言葉だった。

 「クリは、クリの体はどうなってしまったんですか?」

 母の声が上ずる。

 「残念ですが、白血病です」

 「猫に白血病なんてあるんですか?」

 私の問いかけに獣医は、検査結果を見せる。

 「人も動物も今はかかる病気は一緒です。薬もほぼ一緒で」

 ここでいったん話を切った獣医は、私たち親子を見交わす。

 「クリちゃんの治療には保険がききません。かなりのご負担を請求することになりますが……」

 「もし、もし、それをしなかったらどうなるんですか?」

 私は、食い入るように訊いていた。

 「もって三日だと思います」

 我が家にはそんな余裕はない。

 私はうつむいてしまうと、母が涙声で、お願いしますと言う。


 ふらふらになった躰で、行くなよと帰ろうとしている私に猫が声を掛けて来た。

 「あなたの為よ。悪いことは言わないちゃんと躰、治して」

 ニャンと短く鳴く猫に駆け寄り、私は何度も頭を撫でながら小声で呟く。

 「夜道、誰がお前を護るんだよ」

 消え入りそうな声で言う猫が、涙で曇る。

 「そんな躰で、私を護るなんて100万年早いわよ」

 「1000年だよ。俺が待ったのは、1000年なんだ」

 え?

 こんな時にさえ冗談を言って、弱弱しく笑って見せる猫。

 「バカ。早く治りなさい」

 涙が止まらなかった。

 治る見込みがないって、ふざけんな。絶対にクリは治る。あいつが死ぬわけがない。だって、猫が帰り際に行った言葉を思い返し、私はむせび泣く。

 遠い遠い記憶。

 思い出させそうで思い出せない切ない何かが、どっと溢れだし、その夜、眠ることなく私は泣き続けた。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ