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De-Intellectualization (知性化解体) シリーズ

有意義な仕事をしよう

作者: 宮沢弘

(*** 有意義な仕事をしよう ***)


 昨夜、帰宅した時間は遅かった。遅かったというより、明るくなりかけていた。仮眠をとると、すぐにまた家を出る。

 研究室に入る。昨日、どこまで考えていたを確認しようと、研究ノートを開く。

 何か、違和感を感じる。だが、違和感の正体がわからない。

 窓の外に目をやってから、もう一度研究ノートに目を戻す。

 違和感を何に感じていうのかは、わかった。自分で書いたはずのことが理解できない。いや、いくらかの割合は理解できる。だが大切そうな部分が理解できない。

 しばらく、研究ノートの昨日書いた部分を何度も読み返す。

 気分が落ち着かない。正体不明の不安だけが胸、それとも頭の中で渦巻く。


  ****


 数日前のところから読み直してみる。

 やはり分からない。

 研究ノートを放り出し、本棚の前に行き、学会の雑誌を何冊か開き、論文を読んでみる。

 やはり分からない。


  ****


 隣の棚から、本を取り、開いてみる。

 やはり分からない。

 入門者に向けた本を取り、開いてみる。

 やはり肝心の部分が分からない。

 目眩がする。


  ****


 計算機にログインし、作っていたプログラムを開く。

 読めない。声に出して読み上げることはできる。だが、それで何をしたいのかが頭のなかで組み立てられない。

 そのまま資料にもメールにもアクセスできるコミュニケーション・ソフトウェアを立ち上げ、覗いてみる。先日策定に関わった規則とそのディスカッションを眺める。良い規則だ。自分に何があったのかと不安になったが。安堵する。

 だが、そのディスカッションの中での私の発言に目が留まる。その発言への返答は、「そのような変更はできない」というものだった。私がつけていたコメントを何度も読み直す。私は何を気にしていたのだろう? ディスカッションの流れを読み、私の発言を何度読みなおしても、私が何を気にしていたのかがさっぱり分からない。いや、なぜそのような事を気にしていたのかがさっぱり分からない。

 コミュニケーション・ソフトウェアで他の資料にも目を通す。何人もが考えて書いているだけあって、どれも良いものだ。完璧とまではいかないのかもしれないが――完璧なものなど作れるはずもない。充分に良いものだ。

 だが、目眩がする。私自身の連続性についてなのだろうか、さっきの目眩とは違うが、それでも目眩だ。

 コミュニケーション・ソフトウェアで幾つもの資料を読み、一日を過ごす。


  ****


 翌朝、職場に着く。

 雑誌や本を片付けよう。

 なぜ研究などやっていたのか、自分でも全く理解できない。有意義な仕事に時間を使えたはずだ。社会や組織を運営すること。それ以上に重要な、有意義な仕事がこの世にあるだろうか。

 いや、今からでも遅くはない。有意義な仕事をしよう。プライベートな時間を充実したものにしよう。人間らしく。


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