第六話 エゴサーチその二、動き始めた眼多な顔す
本編の主人公浪藤吉藤吉浪の高すぎる自意識の金字塔すなわち中二病に訪れたはじめての障壁、ニューバランスひそひそとの激闘を地の文が追っていくうちに、物語は誰も知らない袋小路へと突入した。
何処行った?矢印小説・・・
視点は無事に帰って来ることができるのであろうか。
光が窓から差し込んでいる、なぜ私は小説家という職業を選んだのだろう?
創作という行為と創作物とが価値をあげ、一度の原稿料で約三ヶ月分の生活費は捻出出来るとはいえ、惑星の自転公転その他諸々の大規模な現象と条件の変化が起こり、それはすべての、価値観の転覆というにふさわしいものであって、恒星はもはや用済みとなってしまった、突如現れた二つの光の筋、それは並走する巨大な円盤状に並んだリボンだと研究され伝えられ、はっきり言って以前の恒星と桁違いの巨大なものであるとされているが、ひとことでその二筋の光がすでに滅びた恒星の代わりをしている。
この二筋は宇宙のすべてを支配しているのだろうか?
正確な周期で、それはおおよそ3ヶ月サイクルであるが、惑星全体は突如二筋に覆われてたった二週間ほどしたら消えていく。
大雑把にしか説明しないしそもそも説明出来ないが、全ての事の次第はこうだった。
まず恒星がバターみたいに消えてなくなった。
次に惑星が公転と自転をピタッと止めた。
世界が緩やかに破滅崩壊を始めた。
巨大な高層ビルほどもある結晶が無数に空から降ってきた。
ここで二筋が惑星を覆った。
結晶は光と呼応してエネルギーを産み且つ光に包まれているあいだ中いかなる物質とも結合して、加工することが出来た。
光は一年間惑星を満たし続けた、そして人類は都市を作り上げた、惑星の物質と結晶とを混ぜ合わせて。
光がたったひとつの条件で、あとはすべての用途を満たす魔法だった。
一年後より光は三ヶ月サイクルで二週間滞在するようになった。
文明はかなり高度である。
頭でイメージしたもので叶わないことが何もないと言い切れるほどだ。
ただ三ヶ月サイクルに移行してからはエネルギー資源を計算し、必要と見なされたる施設以外に予備のエネルギーを国家が与えることはなくなった。
理不尽なようだが小説家に与えられるパソコンは、エネルギー供給含めなかった。
価値観は転覆した。
全ては逆算のもとに敷かれており逆行しているかのようだった。
一度結晶を体内に埋め込んでしまえば食糧がいらない。
増やし奪うための加工は消えた、如何に次のサイクルへと繋いでいくかという加工だけが残った。
動植物鉱物、どれを結晶と結ぶか、つまりどれを絶滅させずに置くか。
そして結局結晶をDNAが複製することが判明する、よってその純度をいかに後世に向け劣化させないでおくか。
これが今や世界だ。
私はというと、三ヶ月ごとの光を待ち、二週間で今まで溜め込んでおいたものを一気に自部屋で書き上げる。
光とともに空中にディスプレイが現れ、旧式のキーボードに対応するものが机の面に浮かび出す。
ちなみにこれはさいしょの一年間で確保したもので今は手に入らない。
小説家としての申告さえしていればデータ保存媒体だけは支給される。
冒頭に述べたがなぜ私は小説家という職業を選んだのだろう?
キッチリやってきてキッチリ去ってゆく光を相手にするのでは、これまでの出版業界の締切のシビアさとは比にならない、給料もキッチリ三ヶ月の生活費であるから、万一これを逃してしまえば命取りだろう。
ちなみに今のところ漏れは一度もない。
それ以外の日々は、とにかくアイデアと構想に費やす。
裏ルートで紙とインキの原料を入手し、それでアイデア分くらいはメモ可能なのだ、紙を漉き乾かしインクを抽出し夢想する。
牧歌的である。
このメリハリが私のミューズなのであろうか・・・
さあ光が部屋に漲ってきた。
創作のはじまりだ・・・
しかし、ディスプレイに現れたのはいつものようにワープロの画面ではなく、もっと具体的でリアルな映像であった。
小説家が原稿用紙を机に置いて文章を書こうとしている。
しかしその上からの眺めが異様で不気味であった。
一枚の原稿用紙に、ひとりの青年が写りこんでいる。
その厚みのない世界に、もちろん遠近感によりこちらからは立体として見て取ることは出来た。
恐らく青年は今小説家が書こうとしている物語主人公である。
妙だった。
自分の頭の中の住人が、ありありとして生きている姿を眺めることになるなんて、小説家には信じられない光景だった。
そしてこのミニチュアな青年を、生かすも殺すも全ては彼次第だった。
反して彼の意思とは無関係に、ミニチュアな青年も意志をもって何事かをなしているようだった。
ご存知の通り作中の人物が作者の手を離れることなんてそう珍しくもないだろう。
青年は思い耽っていた。
そこは恐らく自部屋なのだろうけど、同時に牢獄のようでもあった。
彼はパソコンを使っている、いわゆるネットサーフというやつだ、誰でもやってる。
彼は自分の名前を検索ボックスに入れてみる、エゴサーチという行為で、一日の惰性としてもう定着してしまっている。
そして決まって完全一致を得ない。
それもそうだろう。
彼の名は浪藤吉藤吉浪。
そんなふざけた名をつける親などいてたまるか!
この世にそんな名をした人物など、彼以外にはいない。
そしてそれを確認するときに、形容し難い開放感が彼の中に広がっていくのであった。
しかし・・・・・・
その日彼は見つけてしまった。
浪藤吉藤吉浪の名を、インターネットのなかに・・・
さあ長らくお待たせしました。
いよいよ次回矢印の再登場、エゴサーチその三、牢獄にて、ドーンミスイット!
二次創世記
まず恒星がバターみたいに消えてなくなった。
次に惑星が公転と自転をピタッと止めた。
世界が緩やかに破滅崩壊を始めた。
巨大な高層ビルほどもある結晶が無数に空から降ってきた。
ここで二筋が惑星を覆った。
結晶は光と呼応してエネルギーを産み且つ光に包まれているあいだ中いかなる物質とも結合して、加工することが出来た。
光は一年間惑星を満たし続けた、そして人類は都市を作り上げた、惑星の物質と結晶とを混ぜ合わせて。
光がたったひとつの条件で、あとはすべての用途を満たす魔法だった。
一年後より光は三ヶ月サイクルで二週間滞在するようになった。