りゅうくんとサーカス
この子の名前はりゅうくん、小さな子供のドラゴンです。きれいなみどり色のうろこと、白い小さな角が、かっこいいって言われています。
お母さんは空を飛べないドラゴンで、うろこの色は白いです。いつもおいしいご飯を作ってくれます。朝から晩まで畑で働いている、はたらきものです。
お父さんは空を飛べるドラゴンで、うろこの色は青いです。いつもりゅうくんと遊んでくれます。いろいろなお仕事をしていて、昼はお家にいません。たまにおいしいお土産をもって帰ってくれます。
りゅうくんにはおじいさんがいます。銀色のうろこの色の大きなドラゴンで、空を飛ぶときは、とてもゆったりと飛びます。ながく生きていますので、色々(いろいろ)おともだちが多く、そのおともだちと、いろいろお仕事をしています。
りゅうくんのおじいさんは、おともだちの一人が、サーカスをするから見においでとさそわれました。それは面白そうだと、見に行くことにしました。
とても面白かったので、他の家族にも見てもらいたいと思いました。だから、ゆうじんにチケットをもらったのです。
りゅうくんのお父さんとお母さんは、おじいさんからチケットをもらって、喜びました。サーカスは楽しいと知っていたからです。
りゅうくんはサーカスを見たことがないので、よくわかりませんでした。しかし、みんなとお出かけするのは、楽しみでした。そして病気やけがでいけなくなってはたいへんだ、と思ったので、お母さんの言うことをよくきいて、いいこにしていました。
もっとも、りゅうくんは、いつもいいこですよ。
りゅうくんにはおばあさんがいます。紫色のうろこで、かわいらしい小さめのドラゴンです。元気いっぱいで、あちらこちらへ飛びまわって、色々(いろいろ)な所へ、旅をしています。こんどのサーカスへ、りゅうくんたちといっしょに行きます。
りゅうくんと、お父さんと、お母さんと、おばあさんは、四人そろってお出かけをします。大きな青いドラゴンが、大きな列車をひいて走る、竜の列車に乗って、サーカスがやっている町へと、やってきました。
サーカスの始まる時間が、お昼の3時30分ですので、その前にデパートで買い物をすることにしました。
りゅうくんは、かっこいいくつと、ぼうしを買ってもらってうれしかったです。でもおもちゃ売り場で、大好きなおもちゃにいっぱいさわれたので、それもとても楽しかったのです。
りゅうくんと、お母さんと、おばあさんが、デパートで買い物をしている間、お父さんはひとり、本屋さんへ行って本を買っていました。
お父さんはひとりでいるのも、好きだからです。というより、女の人たちのお買い物につきあうと、ひどく疲れると知っているので、ひとり、すたこらさっさー、と、逃げたのでした。
お母さんは、しかたないひとね、と肩をすくめています。
おばあさんは、いつものことね、と笑っています。
りゅうくんは、大好きなお父さんといっしょでないので、ちょっと寂しかったです。
四人は、サーカスの始まる時間が近づいたので、またいっしょになって、サーカスのテントへと歩きはじめました。もういちど竜の列車にのって、サーカスをしているところの駅へといきます。
駅におりると、赤い大きなテントが見えました。
りゅうくんは、こんな大きなテントは初めてみたので、ちょっとびっくりしました。
サーカスのテントには、もうすでにたくさんの人が始まりをまって、並んでいました。りゅうくんたちも並びます。りゅうくんたちは、ここに並ぶ前に、じぶんたちが座る席を予約していたので、その予約した人たちが並ぶ列へ並んでいきます。
お父さんは思いました。お休みの日だからかな?すごい人です。テントに入りきれない人もいるのでは?
お母さんは思いました。あらかじめ予約をしていて正解でしたね。おじいさんのアドバイスに感謝です。
そうです、おじいさんがサーカスを見た時に、人が多いことが分かったので、あらかじめ席をとっていたほうが良いよと言われていたのです。
お父さんは思いました。
余分にお金をはらって席をとっておくのは良かったです。そうでなければもっとはやくに来て前のほうに並んでいなければなりませんでした。それはとても疲れるし、時間がもったいないなと。
仮に1時間前から、並ばないとテントに入れないとします。1時間あれば安くても1000えんはお仕事でもらうことができます。つまり、1時間と1000えんは、同じなので、長い時間並んで疲れることも考えると、席を予約している方が得だなあと思いました。
お母さんも同じ考えです。それにりゅうくんが、ちゃんと初めてのサーカスを見られるように、とも思っていたのです。
列に並んでいる間、退屈で足元の小石で遊んだり、お父さん、お母さんにまとわりついている、りゅうくんをあやしながら、この状態で、長く並ぶのは、とても疲れたでしょうね、と思います。
予約しておいて正解でした。
おばあさんは、そんな息子夫婦と、可愛い大好きな孫のりゅうくんを見ながら、楽しそうに、あらあら、まあまあ、と笑っています。
りゅうくんは、早く始まらないかな?と思っていましたが、お母さんが遊んでくれるので、楽しく、並んでいました。
サーカスの開演時間になりました。ぞろぞろとみんなが、赤い大きなテントへ入っていきます。テントのまわりには、いろいろな屋台が出ていました。
りゅうくんは、綿飴の屋台があるのを見つけて、食べてみたいと思いました。お母さんは、いいわよ、帰りに食べましょうね、と言いました。
りゅうくんと、お父さんと、お母さんと、おばあさんは、赤いテントの中へ、入って行きました。テントの中は少し暗くて、りゅうくんはドキドキしています。ごおごおと音のする、空調に手をかざしたりしています。
青い座席に、りゅうくんたちは並んで座ります。テントの中の席は階段みたいになっていて、席の下は空洞です。りゅうくんは、下がからっぽなので驚きました。
人がたくさん、大きなテントに入ってきます。
「まるで映画館みたいだね」とりゅうくんは言いました。
「暗くて、階段の席だからね」お父さんは言いました。
サーカスが始まるまでの間、男のピエロさんと、女のピエロさんがお客さんと、大きなボールのやり取りをしていました。
しばらくして、大きな声で開演のアナウンスが聞こえます。ミラーボールがキラキラ光って、お客さんが、どよめきます。
奇麗なおねいさんの、踊りが最初でした。お父さんは鼻の下をのばしています。お母さんは、それを見て苦笑いです。
テントの天井からたらしたロープで、くるくると回りながら、おねいさんが上下に移動しています。
「お母さんあれできる?」りゅうくんが聞きます。
「むりむりむり」お母さんは、首を左右にふって答えます。
りゅうくんはそんなお母さんの反応が面白いのか、出し物の度にお母さんに、同じようにたずねます。お母さんは少し、困ってしまいました。
女の人ひとりの、空中ブランコにはらはらしながら、手をたたくりゅうくんです。何人もの奇麗な衣装をつけた男女のダンス、で、ロープや布をつかって、空で踊っている姿に、目は釘付けです。
あいまあいまに出てくる男のピエロさんと、女のピエロさんの、こっけいな、演技に、りゅうくんも、お父さんも、お母さんも、おばあさんも大笑いです。
お父さんは思います。ああいうピエロの演技が一番難しいのですよねと。そして、一番印象に残るんですよねと。
りゅうくんは、高い台の上に椅子をかさねてその上で逆立ちする人をきらきらした目で見て、いっしょうけんめい拍手しています。
お父さんも、てにあせにぎっています。お父さんは、この出し物がいちばんどきどきすると、いつも思っているのです。出初め式みたいだなと、ふと思いました。
りゅうくんは、大きな音楽と薄暗い明かりのなか、だんだんと眠たくなってきました。お母さんは、ねないでーと、ひっしになって、起こそうとします。
しかし、りゅうくんは、天井まで斜めにはられたロープの上を歩く出し物あたりで、眠ってしまいました。
お父さんは思います。あかんぼうって、大きな音楽が流れていると、自分を守るのために、眠ってしまうことがあると聞いたことがあるなあと。
おばあさんは、
「寝かしておきなさい、そろそろ出し物も途中休みですから」と、冷静です。
りゅうくんのお父さんは、眠っている間に、どんな出し物があったのか、りゅうくんに、話してあげられるようにと、しっかり見るようにしました。そのころの出し物は、逆さに寝転んだ男の人が、ふすまを足でまわすものでした。
次は、おおきな二つのリングが、はしについた、器具が、たてにまわって、それぞれのリングの中で男の人二人が、歩いたり走ったりして、ぐるぐると回っているというものでした。どちらもすごく、お客さんのおうえんする声や感心する声がひっきりなしにかけられていました。が、りゅうくんはぐっすり眠っていました。寝顔は、いつもどおりかわいかったです。
途中休みが終わります。りゅうくんはまだ眠そうだったので、お父さんは、りゅうくんをひざの上に抱いて、耳元に語りかけます。
「ほら、舞台には網で、かこわれているよ」
「見えるかな、まだ薄暗いけど、中にはライオンがいるよ」
「あ、明かりがついた。見てごらん、色の白いライオンだ、何匹いるかな?」
「……4ひき?」ねぼけまなこで、りゅうくんはこたえます。ぐりぐりと、頭をお父さんのからだにすりつけながら、ぼんやりと言います。かわいいです。あ、今あくびをしました。どうしましょう、サーカスよりもりゅうくんと戯れている方が楽しいような気がしてきました、お父さんです。
りゅうくんはおもしろそうに、白いライオンの芸を見ています。
お父さんは思います。飼いならされた獣というのは、なんだか見ていて、さびしくて、悲しくなるなと。しかし、芸をしている間にちょっとだけ見えた、調教師と獣のちょっとした、信じ合う心みたいなものに、ほっこりとしたものを感じました。……そこまでが芸なら、なるほど、すごいものだな、と思いました。
りゅうくんは、次から次へと出てくる動物の芸に夢中です。シマウマに、ゾウに、キリンと、良く知っている動物が、器用にふるまうのに拍手喝采です。
りゅうくんは、バトンや、リングを宙に投げ上げて受け止める、ジャグリングも、見て楽しみました。途中なんどか失敗すると、みんなが、がんばれがんばれと手を叩いて応援するのといっしょに、りゅうくんも手をたたいていました。
お父さんは、失敗しても、もう一度、もう一度と、お客さんの拍手で、挑戦し続ける芸人さんを見て、なにかむかしにたようなモノをみた覚えがあるな?と考えます。
ああ、昔テレビで見た、色ものバンド出身のコメディアンが、黒いおひげをつけて、ダンスをしながら、色々(いろ)な芸に挑戦していたものに、似ているのか、と思います。
お父さんは、頭の中でそのコーナーの音楽を再生しながら、ジャグリングの芸を楽しみました。
りゅうくんは、大きな音をたてて、網の中でバイクが回っているのをみて、びっくりしています。
「うるさいー」と言って、おおはしゃぎです。
「お父さんも、こどものころに、見た出し物のなかで、これを唯一覚えていますね。うるさかったから」と、お父さんは、笑っています。
最後の出し物は、二対ある空中ブランコでした。ちょっとずつ疲れてきて、時間を気にしていた、りゅうくんでしたが、最後まで、しっかりと、楽しみました。
空中ブランコだけの、ピエロさんが、色々(いろ)みせてくれて、お父さんも大喜びです……もしかすると、りゅうくんより楽しんでいたのかもしれません、というか、きっとそうです。
りゅうくんは、おみやげにピカピカひかる、ロッドを買ってもらいました。
「かくどによって、先がひかったり、しなかったりするのはなぜ?」とりゅうくんが不思議そうに聞きます。
「光源からロッドの上の部分へ透明度のやや高い反射板をつかって、周囲に光を出しているのですが、直角に近い角度で見ると、反対側の風景へ光が突き抜けてしまうからかな?あと、周囲があるていど暗くないと、反射板として機能しないから……、向こうが暗いと鏡になるガラス窓みたいなものですよ」りゅうくんのお父さんが説明します。
「うん、わからん!」」元気いっぱいのりゅうくんでした。かわいいです。
お母さんは、サーカスのパンフレットを買いました。お父さんも後で見せてもらおうと思います。とても楽しそうでした。
りゅうくんも、お母さんも、おばあさんも、とてもサーカスを楽しめたようです。よかったです。
そうそう、りゅうくんは、綿飴を買うのを忘れてしまいました。
今も思い出していないようですよ?
このお話はフィクションですよ
おしまいです