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第四話「受験生の運命、救います。〜前編〜」

作中の固有名詞は、実際のものとは一切関係ありません。

「…じゅけんせい?」

「はい。」

「じゅけんせい、って、あの、受験生?」

「はい。」

「受験生の運命を救う、…ですか?」

「はい。」

今までとは全く毛色の違う仕事内容に、二人は思わず話を聞き返していた。

ディスティーナから語られた、今回の仕事内容。それは、とある受験生の運命を救う、というものであった。しかも、その受験生が何者かに襲われる、とか、そういうことではなく、

「彼を、大学に合格させてください。」

と、いうことだったのである。


「…う〜ん。」

二人とも、了解しました。と、すぐに答えることが出来なかった。

破壊と浄化の力を持つフィーアと、神経系を操作する力を持つウィング。何かと戦う、とか、誰かを護る、とかなら、今まで幾度も経験しているし、すぐにでも仕事にかかることが出来る。が、受験に合格させる、という仕事は、初めてのものだった。

「…ディスティーナ様。」

「なんですか?」

「その受験生の彼は、合格しないと、苦しみの運命を歩むことになる…ということなのですか?」

「…いえ、彼はすでに苦しみの運命を歩んでいるのです…。」

「すでに?」

「彼は…現在4浪中なのです。」

「…はい?」

「今回の受験に失敗すれば5浪…。5浪は、さらに辛く、苦しい、運命の深海…。今の段階ですでに苦しんでいるのに、5浪なんて、どれだけ苦しいことか…。」

「………。」

「というわけで、必ず彼を合格させてあげてほしいのです。」

「…ディスティーナ様。」

「なんでしょう?」

「他に、苦しみの運命を歩む者は、いなかったのですか?」

「数多くいます。彼もその中の一人です。」

「………。」

「…苦しみの運命を歩む者を、好みでえり分けるつもりですか…?」


…ゴゴゴゴゴ…


「い、いえ!滅相もありません!」

「そ、そうそう!滅相もないですっ!」

「…救済士が、差別をしてはいけません。」

「は、はい…。じゃあ…どうしよっか?」

「簡単なのは…やはりライバルを減らすことでしょうか?」

「じゃあ、他の受験生を一人一人再起不能に…」

「他の方に迷惑をかけることは許しません。」

「…まぁ、そうでしょうね。…でも、それじゃあホントにどうしましょうか…?」

「心配いりません。すでに手は打ってあります。」

「え?」

「彼の家には今夜、二人組の家庭教師が来る、ということになっていますから。」

「二人組の、家庭教師?」

「…それって、まさか…」

「もちろん、あなたがたのことです。」

「ちょ、ちょっと、ディスティーナ様っ!」

「無理ですっ。私達、向こうの世界の学問なんてわからないんですから。」

ウィングの主張は、もっともであった。世界が違えば、文化も価値観も生き方も、全てが違う。救済士は、行った世界の言語を喋ることが出来る能力は与えられていたが、それ以外の知識的な能力は与えられておらず、全ては、彼らが元々持ち合わせている知識に委ねられていた。そんな者が、いきなり異世界で学問を教える、ということなど出来るだろうか。

「大丈夫です。」

が、ディスティーナは、きっぱりとそう断言した。

「見たところ、彼の学問の力量には問題はありません。問題は、別のところにあるのです。」

「別?」

「はい。」





「…あ〜…。」

ディスティーナの話を聞き終えた二人は、一応納得したようだった。

「まぁ確かに、それなら不可能じゃあないかもだけど…。」

「それはそれで難題ですよね…。」

「…。改めてお願いします。行ってくれますね?」

「…はい。」

これ以上渋っても無駄。そう悟った二人は、渋々仕事を引き受け、門の中へと入って行った…。



「ディスティーナ様ってさぁ…、助ける相手、その時の気分で選んでない?」

「そうですねぇ…。受験生ですもんね。」

「受験なんて自力でなんとかしろ、っての…。世の中、命懸けの運命を背負った人は山ほどいるってのに…。」

「…ま、愚痴ってても始まりません。…それに、あれ以上あの人を怒らせるのは…」

「…得策じゃないわね。」

「まず間違いなく上から監視してるでしょうし、引き受けた仕事はきちんとこなすとしましょう。」

「はぁ…仕方ないわね〜。ちゃっちゃとやっちゃいましょか。」

「ですね。」



そして、舞台は、どこかの世界の一般家庭へ…



ピンポーン♪



「はいはいはいはい…」


ガチャ…


「こんばんは〜。」

「家庭教師に参りました。よろしくお願いいたします。」

「あらあらあらあら、どうもどうもこんばんは〜。ご苦労様です〜。ささ、どうぞどうぞ〜。」

朗らかな、というか、のんきな感じのする母親に招き入れられ、二人は家の中へと入って行った。

時刻は夕方6時。まだ父親は帰って来ていないらしく、奥のリビングから、テレビの音だけが聞こえてきている。

「康彦〜。家庭教師の先生がいらっしゃったわよ〜。」

そのリビングに通された二人。そこに、彼がいた。

テレビを見ていた彼は、母親の声にぴくりと反応だけすると、テレビを切り、母親と二人の方に向き直った。体中から無気力感が溢れ出し、何かをしよう、という意志が感じられない。眠たそうなその目は、完全に死んでいた。

(…うっわ〜…。)

(聞きしに勝る無気力っぷりですね…。)

心の中で、二人は深々と溜め息をついた。

ディスティーナが言っていた、学問とは別の問題。それがこの、やる気のなさ、だった。


(ねぇ、ウィング〜、どうすんのよ?完っ全に目が死んでるわよ。)

(う〜ん…まさかここまでとは…)

(あ〜、もぅっ!なんでこんなやる気のない奴を、わざわざ救わなきゃなんないのよぉっ!)

(…ま、正直、同意見ですね。)

「あの〜、先生?」

「は、はい!?」

母親の言葉に、慌てて言葉を返す二人。

「そろそろお願いしたいんですけど、よろしいですか〜?」

「あ、はいはい。じゃあ早速始めますね。それじゃあ〜康彦クン、部屋に行きましょうか?」

「……。」

フィーアに特に声を返すわけでもなく、彼はむっつりとした表情のまま、二階へと続く階段へと歩いて行った。

(な、なによぉ〜、あれぇっ!)

(…まぁまぁ。あまり、まともな反応は期待しない方がいいですよ?)

怒るフィーアをなだめながら、二人も彼の後に続いて歩いていった。

「康彦〜。ファイト〜!」

母親の脳天気な応援が、その背中に投げ掛けられた…。


漆黒の巨人とはかなり雰囲気を変えてみたつもりなのですが、いかがでしたでしょうか?次回は後編…まだ固まっていません(^.^;)。時間かかるかもですが、また読んでいただけると嬉しいですo(^-^)o

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