表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/15

第三話「巨人の運命、救います。〜後編〜」

作中に登場する固有名詞は、現実のものとは一切関係ありません。

「しっかしまぁ〜、見事なまでに大量のスプラッタね〜。」

「大規模な研究所だけあって、人も多いみたいですね〜。」

広大な研究所の中を、二人は走り続けていた。研究所は広大だったが、道に迷うことは一切無かった。壁に刻まれた銃弾の跡や、崩れ落ち、倒れ伏している、すでに物言わぬ状態の研究員や警備員達を辿っていけば、自然と漆黒の巨人の後を追うことが出来た。

「うっわ〜、見て見て〜。あれなんか口の上から半分が…」

「は〜い、ストップ。あまり詳しく言うと、規制に引っ掛かりますよ。」

「…なんの規制よ?」

「警告カテゴリ設定してないんですから、発言には気をつけてくださいね。」

「……なんの話?」

「どこか別の世界の話です。…っと、ここで上、ですか。」

「三階突入ね。いよいよ、お目当ての相手に近づいて来た、って感じ?」

「えぇ。さっきから軽い地響きも聞こえていましたし、三階で追いつけそうですね。」



ババババババババッ!


ダダッ!ダダッ!



二人が三階に上がると、様々な音が、はっきりと耳に届いた。銃撃の大音量と、それに混じって、巨人の足音。そして、人間達の悲鳴、断末魔の叫び声…。

「あらら〜。この研究員なんて上半身が…」

「スプラッタウォッチングはもういいですから。さっさと行きますよ。」

「はいは〜い。」

再び惨劇の中を走り出す二人。血まみれの研究員達の間を走り抜け、いくつかの角を曲がり、懲りずにスプラッタ実況中継をしようとするフィーアにツッコミを入れ、そして…



「見っけ♪」

二人の視界が、巨大な黒い背中を捕らえた。



…ゥォアアアアアアアアアアアッッ!!



地の底から搾り出したような唸り声が、空気をビリビリと震わせていた。怒りとも、悲しみとも取れる、巨人の声。それは、破壊と殺戮を楽しむ、殺人兵器の声ではなかった。

「…ふぅん。」

「…なるほどね…。」

ゆっくりと巨人に近づく二人。巨大な背中に隠れて見ることが出来ないが、まだ数人の研究員達が生き残っているらしい。

悲鳴が響いた。また一人、物言わぬ骸となった。

「………。」

フィーアもウィングも動じない。二人とも、研究員達が全員殺されるのを、待っているようだった。

巨人は、研究員達を追い詰めていく。腰を抜かして動けなくなっていた一人を、巨人が踏み潰した。悲鳴をあげる間もなく、彼は絶命した。

逃げる研究員。追う巨人。その後を静かについていく二人。

やがて銃弾が尽きたのか、銃声がぴたりと止んだ。研究員のものであろう、人間の足音も数が少なくなってきている。

「…そろそろかしら?」

「そうですね。」

二人は冷静に状況を見つめている。

やがて、人間の足音が消え、一際甲高い絶叫が辺りに響き渡った。最後の一人が始末されたらしい。


…ゥォアアアアアアアアアアアッッ!!!!


咆哮をあげる漆黒の巨人。それは、研究員達への怒りか、それとも、自分に対する嘆きなのか。


「…辛かったわね。殺戮の運命を無理矢理押し付けられて…。」

その言葉に、巨人が振り返った。真っ白な瞳がギラリと光り、二人を睨み付ける。その漆黒の巨体には、何発もの銃弾がめり込んでいた。

「でも、大丈夫よ。私たちが、あなたの運命、救ってあげる。…だから、そんなに悲しまないで。」

ニコリと微笑んで巨人に歩み寄っていくフィーア。巨人は身動き一つせず、彼女を睨み付けている。と、


グァァォォォッッ!!


突如、巨人が咆哮をあげ、フィーアに向かって殴り掛かった。


「バインド。」


が、その拳は、フィーアに当たる寸前にピタリと静止した。

「ウィング、ありがと。」

「どういたしまして。」

このくらい当たり前。そんな会話を交わす二人。何気ないが、深い信頼感がある。そんな二人の雰囲気だった。

漆黒の巨人は、ウィングに全神経を束縛されたため、ピクリとも動かずに静止している。フィーアは、その巨体にそっと手を添え、優しく語りかけた。

「わかってる…あなたは、戦う以外の知識を与えられていない。だから、どんな主張をしたくても、その圧倒的な力を奮うしか方法がわからない…。」

瞳を閉じ、子供をあやす母親のように、優しく語りかけていく。

「大丈夫…もう苦しまなくていいのよ。あなたは、もうすぐ今の運命から解放される…。」

そう言うと、フィーアは右手を頭上にかざした。


「我が右手は、天使の拳…。聖なる光で全てを包み、清らかなる世界へと導く、浄化の力…。」

彼女の右手を神々しい光のオーラが包み込み、彼女の右腕を輝く白銀に染め上げた。

「エンジェルフィスト…」

白銀に染まった右手を、漆黒の胸板の上に、そっと乗せる。そして、


「…はぁぁぁああっ!!」


気合いと共に、白銀の拳が胸板を打ち貫いた。



光の球体が膨れ上がり、巨人の体を包み込む。


一瞬の後、光は空中へと四散し、巨人の姿も跡形もなく消失した…。



「次は、平穏の世界を生きられますよう…。」

フィーアは、静かに祈りの言葉を呟いた。



「…それにしても、フィーア。その力使うとき、ホント変わりますよね。」

「そう?私はそんなに変わってるつもりはないんだけど…。」

「エンジェルフィスト使うとき、すごく美しいですもん。」

「…それは、どういう意味なのかな?」

「見とれるくらい美しい、って意味です。」

「そ、そう…。(な〜んか、釈然としないわねぇ…)…ねぇ、ウィング。」

「なんですか?」

「…あのコ、ホントに救われたのかなぁ?」

「…そうですねぇ。」

「もっと他に、助けられる方法はなかったかなぁ?浄化とか言ってるけど、結局は殺しちゃったわけだし…。」

「…人の世を、異形の姿のままで生きていくのは、辛いでしょう…。私は、ああするのが最善だったと思いますよ。」

「そうかなぁ…。」

「エンジェルフィストの力で浄化された魂は、幸福な生まれ変わりを約束される。そんなに気に病むことは無いと思いますよ。」

「…そっか。…ふふ、なんか、楽になった。」

「それなら、よかった。」

「ま、疑問感じたりしてもどーしよーもないわよね〜。私達だって出来ないことはたくさんあるんだから。出来る範囲で運命を救う。よね。」

「そうですね。私達は、あくまでも手助けをする立場ですから。それに、仕事の度に立ち止まったりはしていられません。世界は、無数にありますから。」

「…そういう、冷めた現実的感覚が、私にも必要なのかなぁ…?」

「いえ、あなたはそのままでいいと思いますよ。二人とも冷めてしまったら、人を救うなんて、とても出来ませんよ。」

「そういうものなの?」

「そういうものです。」

「そうなんだ。」

「そうなんです。」

そんなことを話しながら、帰路につく二人。大きすぎる仕事を背負っているが故、悩みも不安も、当然ある。それでも、世界は無数に存在し、救うべき相手も数多い。

「明日もどっかの世界で頑張りましょ〜。」

「はい。」

出来ることを、やり続けるしかない。



漆黒の巨人、救済完了。


第三話完成ですo(^-^)o。今回でフィーアとウィングの能力に関しては表現できたかな、と思っています。次回はまた、全く違う感じの相手を救う、予定…。また読んでいただけると、嬉しいですo(^-^)o

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ