第二話「巨人の運命、救います。〜前編〜」
作中に登場する固有名詞は、実在のものとは、一切関係ありません。
「なんか、前にもあったわよね〜。洞窟の中に転送してくれれば楽だったのに、ご丁寧に入口に転送してくれた、ってこと。」
「そういえば、ありましたね〜。あの時は、罠やらモンスターやら次々突破しなきゃならなくて大変でしたね。」
「ディスティーナ様ってさぁ、もしかして、私達の仕事してるとこ見て、楽しんでんじゃない?」
「そうかもしれませんね〜。映画鑑賞感覚?」
「だとしたら、なんか嫌な感じよね〜。」
「まぁ、仕方ないんじゃないですか?あんな何もない部屋にこもりっきりじゃあ、娯楽の一つも欲しくなるでしょうし。」
「…あの人、神様よね?」
「はい。運命の女神だ、と、聞いてます。」
「神様って、そんなに庶民的なの?」
「さぁ…?」
…全部聞こえてますよ、お二人さん…
「!?」
…申し訳ありませんが、あの転送術は、空と繋がっている場所にしか送れないのです。だから、屋内に転送することは出来ないのです…
「…やっぱり、見てたみたいね。ディスティーナ様。」
「…空と繋がっているのが条件なら、別にこの門の内側に転送してくれてもよかったのに…」
…………。
…ゴゴゴゴゴゴ…
「わ!わわわわっ!」
「も、申し訳ありません!ディスティーナ様っ!ちょっと我が儘を言ってみただけですのでっ!」
…………。
「…。」
「…。」
「…ふぅ。」
「…なんとか、怒りを受けずにすみましたね。」
「…あ〜…怖かった〜…。やっぱ、あの人にだけは逆らえないわ〜。」
「まったくですね…。さて、では改めて…どうしましょうか。」
「でっかい門よね〜。どうしよっか?」
二人の前に立ちはだかっていたのは、高さ、裕に5mはあろうかという、巨大な鉄の門であった。周囲も同じ高さの壁で囲まれており、一介の研究所の外壁としては、あまりに異様な雰囲気であった。
「研究所っていうか、収容所って感じ?」
「逃げ出さないように…なんでしょうかね。あの、漆黒の巨人が。」
「そういえば、あの漆黒の巨人って、結局なんなのかしらね?」
「おそらく生体兵器でしょうね…。おおかた、最強の兵士を作り出す計画、みたいなものでも進めていたんでしょう。」
「まぁ、あの巨体が何百何千も迫って来たらイヤだよね〜。」
「ま、細かいことは中で調べさせてもらいましょ。で、どうしますか?」
「方法は…鍵を開けるか、乗り越えるか、破壊するか…って、とこ?」
「乗り越える、は、却下ですね。あいにく私達には飛行能力がありませんし、よじ登ろうにも足場が乏しいですし。」
「鍵は…あれ?鍵穴はどこ?」
「見当たらないですね…ってことは、センサータイプでしょうか?」
「ウィング、なんとかならない?」
「私の力は生体に関するものが大半ですから、鍵を開けたりとか、そんな力は持ってないですね。」
「むぅ〜…。じゃあ、門に穴空けて中入るしかないじゃないの〜!」
「…最初から、そのつもりだったんじゃないですか?」
「…。ま、ね〜。」
「では、お願いします。」
「ふふっ、お姉様に任せておきなさいっ。」
そう言って、フィーアが門の前に立った。スッ…っと左手を頭上にかざし、静かに瞳を閉じる。
「…我が左手は悪魔の拳。砕く全てを灰へと変える、破壊の意思…」
フィーアの左手が、重く、深い、紫色に染まっていく。左手から溢れ出すオーラが左腕全体を覆っていき、やがて、左腕全てを紫色へと変えた。
「…デモンズフィスト…」
瞳を開けるフィーア。その左目も、重い紫色に染まっている。
トンッ、っと、左手を門に合わせる。そして、そこから一気に振りかぶった。
「せやぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」
………!
………ビシ…ビ…ビビ…
……パァーーーーーーーンッ!!!
「……ふぅ〜。」
「お見事です。」
「我ながら見事に成功だわね♪。」
満足そうに門を見つめるフィーア。そこには、直径1メートルほどの見事な穴が開いていた。
破片は残っていない。砕いた部分は灰になって、風に紛れてしまったらしい。
「でも、あの前フリは必要なんですか?」
「勿論必要よ〜。」
「こないだモンスターと戦った時、一瞬で発動してませんでしたか?」
「あの時は緊急事態だったじゃない。」
「じゃあ、前フリ無しで普通に使えるんじゃないですか。」
「馬鹿ね〜。雰囲気作りって大切なのよ!なんか、必殺技発動っ!って感じでカッコイイじゃない♪」
「雰囲気って…他に見てるのって、私しかいないじゃないですか。」
…私は、好きですよ。そういうの…
「…上にいましたね、もう一人。」
「ディスティーナ様〜ありがとう〜♪」
「…じゃあ、先に進みましょうか。」
そそくさと穴を抜けて中に入っていくウィング。フィーアもその後に続いた。
「…妙に静かね〜。今日はお休みかしら?」
「普通なら、門を破壊した時点で警備員の2、3人くらい、出てきそうなものですけどね。」
「ま、好都合よね♪。」
「ですね。」
門を抜けた先にあった、巨大な研究所。だが、周囲に人の気配がまるでない。
すんなりと入口のドアの前までやって来た二人。
「さてと、もう一発、悪魔の拳を撃ち込んでやりますかね♪」
「…いえ、その必要はなさそうです。」
「へ…なんで?」
それには応えず、ウィングはドアを蹴飛ばした。
…バァン!
「あら…開いた。」
「僅かですが、ドアが閉まりきっていませんでした。ここに立っていた警備員か誰かが、完全にドアが閉まったのを確認せずに、慌てて中に入った…って、ところでしょうか。」
「じゃあ、やっぱりお休みじゃないんだ。」
「おそらくは…。ちょっと待ってくださいね。」
そう言うと、ウィングは小さく何事か呟き、
「サーチアイ。」
力を持つ言葉を発すると、空中に、白い瞳の紋様が出現した。
「少し、中を探ってみます。」
白い瞳が研究所の中へと入り込む。
…数分後。
「………。」
白い瞳がウィングの元に戻ってきた。
「ね〜ね〜、どだった?」
「…自業自得な展開が繰り広げられていました。」
「…はい?」
「今なら入っても大丈夫でしょう。行きますか。」
「??…まぁ、いっか。」
ウィングはさっさと研究所の中へと入っていく。ウィングの言葉の意味がよくわからないまま、フィーアも研究所の中へと入っていった。
「…あ〜らら。」
「…ね?」
研究所、地下。ウィングのサーチアイでだいたいの構造はわかっていたので、二人はすんなりと地下実験室へと向かうことができた。漆黒の巨人が生み出され、様々な改造、強化が行われてきたであろう場所。しかし、二人がそこで見たのは、漆黒の巨人が入っていたのであろう、砕かれた巨大なカプセルと、無残な姿に成り果てた、数人の研究員の姿であった。
「自分達が作り上げたものに反乱されて殺される、か…。まさに自業自得ね…なむなむ〜。」
「命を冒涜した罰ですね。…データがいろいろ残ってます。」
破壊されずに残っていたコンピュータを調べていたウィングが、モニターを見ながら言葉を続ける。
「漆黒の巨人…やはり、最強の兵士を生み出す計画だったようですね。不眠不休で活動可能。人間の数倍の戦闘能力を有し、その脳にインプットされているのは、破壊と殺戮のみ…。」
「…なんか、無茶苦茶ね。判断能力とか、主従関係を把握できる知能とか、そういったものは組み込まれてないのかしら。」
「最終仕上げの段階で組み込むつもりだったみたいですね。でも、それ以前の段階で、破壊と殺戮の本能が暴走しちゃったみたいですね。それと…」
「それと…?」
「この漆黒の巨人を生み出すために、何人もの人間が実験台にされて廃人になったそうで…。」
「うっわ〜…。ますます自業自得ね。」
「ですねぇ…。ま、私達の仕事は、この漆黒の巨人を救うことですから、直接的には関係ありませんけどね。」
内容の重さの割に、さばさばした感じで会話をしている二人。と…
……………!
「………?」
「どしたの?ウィング。」
「今、何か音が聞こえたので…」
そう言うと、素早く言葉を呟くウィング。
「サーチイアー。」
今回現れたのは、白い耳。それがスッ…と上へと上って行き…
「………おや。」
「どしたの?」
「悲鳴と銃撃の音…。まだ生き残ってる所員が、巨人に抵抗しているみたいですね。」
「てことは、巨人も上かぁ。んじゃ、私達も行きましょかね。」
「ですね。」
血と破壊に染まった地下を後に、上へと戻る二人。
漆黒の巨人と相対するのも、もう間もなく…。
第二話、書き上げることが出来ました〜(^O^)。明日からは仕事なので、第三話の掲載はググッと遅くなりそうですが(^.^;)。読んでいただいて、ありがとうございましたo(^-^)o。次回も、よろしくお願い致します。




