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第十話「プリンセスの運命、救います。〜前編〜」

作中に登場する固有名詞は、実在のものとは、一切関係ありません。

「王道?」

「王道です。」

フィーアの問いに、オウム返しで答えるディスティーナ。ただ今、いつものように、今日の仕事先の説明を受けている最中である。

「王道というと…」

「…全日本?」

「何の話ですか?」

「どっかの異世界の話。まぁ、それはともかく…。どういう意味なんですか?ディスティーナ様。」

「今回の仕事は、ファンタジー物の王道…。プリンセスの救出です。」

「おおお〜!」

「これは…まさに王道ですね。ですが、通常それは、ナイトの仕事では?」

「通常は、そうです。ですが、今回は少々状況が違っているのです。」

「状況が?」

「はい…。」

ディスティーナの声色が、にわかに曇る。

「本来、プリンセスを助けるためのナイトは存在しています。ですが…彼は不幸にも…」

「え……。」

「椎間板ヘルニアで、動けなくなっているのです!」



………………。



「…え〜と。」

「なんと、おっしゃいました?ナイトは?不幸にも?」

「椎間板ヘルニアで動けなくなっているのです。」

「ジジイですかそいつはっ!それとも運動不足の若者かっ!」

「あるんですねぇ、どこの世界でも。腰はやっぱり大切ですね。」

「ウィング…、ちょっとは突っ込もうよ。」

「え?…そうですね。…こんな大事なときに動けないなんて、困ったナイト様ですね。」

「…な〜んでそんなに冷静かなぁ…。」

「性格ですから。」

「ともかく、ナイトが動けない以上、プリンセスの運命を救えるのは、あなたがた、救済士しかいないのです。よろしく頼みます。」

「はい。」

「了解で〜す。」



と、いうわけで。



「やってきたわね〜地下迷宮の入口。」

「要塞の地下迷宮の奥深くに、プリンセスを閉じ込める。王道ですね〜。」

「塔の最上階か、地下の奥深く、の、どっちかよね〜。」

「ということは、下に行けば行くほど敵やトラップが強力になっていくのでしょうか。」

「王道なら、そうよね。…ところで聞いてなかったけど、どういった経緯でさらわれたのかしらね?そのプリンセス。」

「そういえば…。ディスティーナ様、その辺りのことは言っていませんでしたね。」

「う〜ん…、この要塞からして、相手は人間っぽいけど…。だとしたら、略奪結婚、とか?」

「結婚したい相手を、地下迷宮に閉じ込めたりするでしょうか?」

「あ、そうか…。じゃあ、単純に人質?」

「その理由が、一番濃厚でしょうね。」


などと、話をしていると…


「おい!」

「ん?」

突然の怒鳴り声に二人が振り返ると、黒い鎧に身を包んだ数人の兵士が、こちらを睨み付けていた。すでに槍は二人の方に構えられている。

「あらら。ちょっとのんびり話し込みすぎたかしら。」

「ですね。ちょっと迂闊だったでしょうか。」

「なんだ、貴様ら…怪しい奴め。」

「出た〜。王道セリフ。」

「王道を地で行ってますね〜。見事な悪役門番です。」

「何をごちゃごちゃと言っている!怪しい奴は全員牢獄行きだ。大人しくついてこい。もし抵抗するようなら…」

「バインド。」

ピタリ、と動きを止める兵士御一行。全ての神経を束縛されているため、喋ることすら出来ない。

「しっかし、ホント便利よね〜、その力。」

「まぁ、いろいろと制約はありますけどね。対象から離れ過ぎると、効果が消える、とか。」

「じゃあ、私達が迷宮に入ったら、この人達また動き出すわけ?」

「まぁ、そういうことですね。」

「ウィング、ここに残ってたら?」

「とんでもない。あなた一人だと不安なので、しっかり同行させていただきます。」

「この人達は?」

「兵士に追い回されるのは、最初から覚悟の上ですから。」

「なるほどね。」



「というわけで、地下迷宮に入ったはいいけど…。」

「まぁ、さすがに迷宮、というだけはありますよね…。」

う〜ん、と、頭を悩ます二人。破壊、浄化の力を持つフィーアと、神経系操作の力を持つウィングであったが、迷宮を迷う事なく進めるような能力は持ち合わせていなかった。

「デモンズフィストで壁とか壊しながら進んじゃダメなの〜?」

「まだ生き埋めにはなりたくないので、やめてください。」

「ふぅ…めんどいわねぇ。なんで迷宮って、こんなに入り組んでるのかしら。」

「入り組んでるから、迷宮なのでは?」

「お〜、なるほど。うまいこと言ったものね。」

「…それにしても、ホントに困りましたねぇ…。」

冷静なウィングも、今回ばかりは効果的な打開策を見つけられずにいた。

「マップでも作りながら、地道に進んで行くしかないですね。」

「それしかないかしらね〜。…はぁ、ゲームの世界ならオートマッピングなのに〜。」

「現実とゲームは違う、ってことですよ。さ、プリンセス救出、頑張りましょう。」

「は〜い。」



その頃…



「…………。」

当のプリンセスは、迷宮の最下層。不気味な冷たさが漂う部屋の中に捕らえられていた。

なにやら、薄紫色の液体が満ちた球体。清楚なドレスに身を包んだプリンセスは、その球体の中を静かに漂っていた。

「…………。」

そのプリンセスを見つめる、一つの影があった。濃紺の法衣に、まがまがしいオーラを放つ装身具を多数身につけ、手には魔物の骨で作られた杖を持ち、その顔は、醜く深いシワに覆われている。その、人ならざる瞳の光りは、悪魔に魂を売った者の証であった。

「………時は近い。」

低音の、深く、重く、意味深な言葉。プリンセスが捕われている球体の奥には、小さな黒い穴が、静かにその口を開けていた。

「儀式まで、何事も起こらねばよいが…。」

静かに瞳を閉じ、呟くと、老人はプリンセスに背を向けて、その場を後にした。


囚われたプリンセス。悪魔に魂を撃売った男。謎の黒い穴。そして、儀式。


迷宮の奥深く、果たして、何が行われようとうのだろうか…。


その頃…。


「デモンズ、フィストーーーーーーッ!!!」

グシャアッ………パアアアアアアアアアアアアアンッッッ!!!

風船が割れるような音を残して、スライムは砕け散った。

「一撃粉砕。お見事ですね。」

「ったく、気楽なんだから…。少しは代わりなさいよっ!」

「私の力は、単細胞生物のスライムには効果が薄いんですよ。ある程度以上、神経系が発達した相手でないと…。」

「…はぁ〜…。それってつまり、単細胞なヤツとか、神経がほとんど死んでるようなヤツとか、そういう類のヤツらは、全部私の担当、って、わけでしょ?」

「まあ、簡単に言えば。」

「そういう連中って、要するに、スライムやゾンビでしょ!?なんで女の子が、そういう気持ち悪い系ばかりを相手にしなきゃなんないのよっ!」

「その手の愛好家がファンにつくかもですよ?」

「いらないわよっ!」

「さ、文句ばかり言っていないで。私はマップ作りもしなきゃならないんですから、頑張ってください。」

「ずぅえっったいに、不公平だーーーーーーーっ!」

二人は、騒がしく地下一階を進んでいた。

危機感の全くない二人。果たして、大丈夫なのだろうか…。





「…しっかし、地下一階にスライムかぁ…。」

「どこまでも王道な仕事ですね。」

王道の地下迷宮を突き進む、非王道の二人であった…。




今回は、超!王道なRPG世界、って感じを目指して書いてみているのですが、いかがでしたでしょうか。…まあ、主役はあの二人ですから、王道な展開には一切ならない予定ですが(^-^;)。後編も、気長にお待ちいただけると、嬉しいです〜。

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