第一話「今日から、また、仕事です。」
作中に登場する固有名詞は、実在のものとは一切関係ありません。
朝の木漏れ日が、カーテンの隙間から部屋に差し込み、彼女の寝顔を優しく照らし出す。小鳥のさえずりが可愛く響き、朝を明るく演出していた。
「…ん…ぅ…ん…。」
少しずつ目が覚めてきたのか、口から吐息のような声が漏れる。が、まだ眠り足りないのか、陽射しを避けるように寝返りを打つ。顔に光りが当たらなくなると落ち着いたのか、再び静かな寝息が聞こえてきた。
ちゅどぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーんっ!!!
「きゃあああああっ!?」
突然の爆音に跳ね起きる彼女。何事か、と、焦って辺りを見渡す。が、そこにあるのは、いたって平和な朝の室内。今の彼女の悲鳴のせいで、小鳥は飛び去ってしまったようだが。
「お〜。やっと起きた。」
ふと見ると、いつの間にか、部屋の入口に男が立っていた。料理でもしていたのか、なんだか妙にかわいらしいエプロンをつけている。そして、その手には…
「…なんのスイッチよ、それ…。」
「これですか?これはあなたの目覚まし用スイッチです。」
「は、はぁ?」
そんなものがあるなんて聞いていない。が、よく見ると、枕元にイヤホンらしきものが落ちている。そのコードは、彼女の寝ているベッドの中から伸びてきていて…
「ちょっと!勝手に人のベッドを改造しないでよっ!」
「仕方ないでしょ。こうでもしなきゃ起きないんですから。」
「ここまでしなくても、ちゃんと起きるわよ!…っていうか、まさか、私にイヤホンつけるために、夜中に部屋に入って来たりしたのっ!?」
「夜中じゃなくて明け方です。」
「なに不法侵入してくれちゃってんのよっ!!」
「…不法侵入は、あなたの得意技でしょうが。」
「な、なによ。」
「私の部屋に勝手に入り込んで、私のタロット紛失してくれちゃったり、ペットのウサギを勝手にケージから出して逃げられたりしてたのは、どこのどなたでしたっけ?」
「う…、…そ、それとこれとは別問題よっ!女の子の部屋は聖域なのっ!男が勝手に立ち入っちゃダメなのよっ!」
「…私より年上なのに、女の、子?」
「そこはつっこまなくていいのっ!」
「まぁ、いいですけど…。とにかく、寝坊させるわけにはいきませんから、ちょっと強引な手段をとらせていただきました。」
「なんでよ?」
「え?なんでよ、って…」
「今日は休みでしょ?連休最後の一日じゃない。好きなだけ寝させてくれたっていいでしょ?」
「…それは、昨日です。」
…………。
「…え?」
「だから。連休最後の一日は、昨日です。今日から、また仕事なんです。」
………………。
「えええぇぇぇっ!!」
「さ、理解したなら起きて来てください。」
「………マジですか?」
「マジです。」
「…今日って、何日?」
「21日です。」
「………マジですね。」
「マジです。」
……………………。
「ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダやだやだやだやだやだやだやだやだやだーーーっ!今日はお休みーーーーっ!」
「もぅ…何駄々こねてるんですか。」
「だってだってだってだってぇーーー!今日はお休みだと思ってたから、完全お休みテンションなんだもん!遅めの朝食食べて、部屋で好きな音楽聞きながら、まったりした時間を過ごすって決めてたんだもん!だもんったらだもん!」
「…朝っぱらからよく喋りますね〜。」
「お休みを満喫できると思っていたのに、急に仕事だと知らされたこの苦しみが、お前にわかるのかーーーーーっ!」
「別にサボるのは構いませんよ?…あの人が怖くないなら、ね。」
「…。」
「…。」
「…仕事行きまふ。」
「はい、いい子ですね。朝ごはん、もう出来てますから、すぐに来てくださいね〜。」
バタン。
…………………………。
「あああああああぁぁぁーーーーーーーっ!」
女の哀しみの咆哮が、部屋の中にこだました…。
数十分後…
「支度、出来ましたか?」
「オッケーよ。どう?今日もいい感じでしょ?」
「うん。ばっちり着こなせてますね。綺麗です。」
「…。(ホントこいつって、よくわかんないわね〜…ひねくれてんのか、素直なのか…)」
「…なんですか?」
「なんでもない。じゃ、さっさと行きましょ。」
「わかりました。」
二人とも、黒のワイシャツにスラックス姿。先程散々喚いていた女性も、朝食を食べたら落ち着いたらしい。切り替えが早いのか、単純なのか…。
そして、これから会社へ出勤…と、思いきや、二人はリビングへと移動。男がリビングのカーペットをめくり上げると、その下にあったのは不可思議な模様。魔法陣。
「………。」
男が言葉短かに何か呟くと、魔法陣がほのかに光を帯びた。さらに、
「ゲート。」
男が指を指して言葉を発すると、光を帯びた魔法陣から、静かに、光り輝く門が浮かび上がって来た。
「さ、では次の休暇まで、また頑張りましょう。」
「はぁ〜い。テキトーに頑張りま〜す。」
「…。ま、行きますか。」
そう言うと、二人は光る門を開けて、中へと入って行った…。
運命。
全ての生命に存在する、歩いていくための、道。
道を作るのか、選ぶのか、それとも誰かに手を引かれて歩いていくのか。それは全て、生き方次第。
そんな運命を見守る場所。
どの世界に属するわけでもなく、どの次元にあるわけでもない。
その場所が、一つの世界であり、一つの次元。
「運命監視室」
それが、その場所の名前…。
「………。」
真っ白な部屋。何もない、真っ白な部屋。その部屋の中央に、一人の女性が立っていた。真っ白なローブを身に纏い、床に届かんばかりの長い銀の髪を携えた、神秘的な美女である。
「……来ましたか。」
彼女が静かに呟き、振り返る。彼女の前に、光り輝く門が出現していた。そこから、先程の男と女が姿を見せた。
「お久しぶりですね。フィーア、ウィング。」
「お久しぶりです。ディスティーナ様。」
「あなたがたの世界時間では、確か三日間。休暇はいかがでしたか?」
「満喫させていただきました。ね?フィーア。」
「え?え、えぇ、勿論です。た〜っぷり休暇を楽しませていただきました♪」
「それはよかった。」
ディスティーナはそれだけ言うと、スッ…と空中に手をかざした。それにあわせて、巨大な水晶球が出現する。
「世界は無数に存在する…そこに暮らす人々は、違う世界の存在には気がつかないけれど、それは確かに存在し、苦しみの運命を歩む者も、数多、いる…。あなたがた、救済士の仕事は、そんな者達を、苦しみの運命から解放すること…。大変な仕事ですが、よろしく頼みます。」
「はい。」
「では早速ですが、今日の仕事です。」
ディスティーナのその言葉に合わせるかのように、水晶球が揺らめき、やがてそれは、どこかの建物を映し出した。
「この研究所にいる、漆黒の巨人を救ってほしいのです。」
「漆黒の巨人?」
「はい…。」
水晶球が再び揺らめき、その、漆黒の巨人の姿を映し出した。
確かに巨人だった。身の丈3メートルはあろうかという筋骨隆々の巨体は、全身漆黒で覆われており、真っ白な双眸が、ぎらぎらと光を放っていた。
「彼は、欲深き人間が生み出した、悲しき生命。どうか、彼を救ってあげてほしいのです。」
「了解しました。」
「…。(相変わらず簡単に返事するわね〜。疑問とか挟まないのかしら?)」
「フィーア?」
「ん?な〜に?」
「いえ…なんでもないです。」
「方法は、お二人にお任せします。彼を、必ず救ってあげてください。」
ディスティーナのその言葉と同時に、水晶球が形を変え始めた。そしてそこに現れたのは、門。
二人が門に近づくと、ひとりでに門扉が開いた。
「では、ディスティーナ様。行って参ります。」
「行ってきま〜す。」
「よろしく頼みます。」
ディスティーナに見送られて、二人が門の中へと消えていき、門自体も部屋の中から消失した…。
そして舞台は、どこかの世界の、どこかの研究所へと移る…
「…なんでディスティーナ様は、建物の中に転送してくれないのかしらね?」
「…さぁ?」
地上へ降りて早々、強固な鉄の門に行く手を阻まれ、やる気の下がった二人の姿がそこにあった…
二作目、開始させていただきましたo(^-^)o。今回は、重くて軽い(?)ストーリーを目指して書いていきます。よろしくお願い致します(^O^)




