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神様のハナシ

「お待たせ致しましたソレルさん。商談成立ですよ」


「商談……SHOUDANですってよ奥さま聞きまして?はは……わろえない」


 やれやれ。


 にこやかに御者席の脇に立つロリカの後ろに、頭を抱えてわたしも続きます。

 何故だか今現在も理解できないんですが、キャラじゃないことをやっちまったグレイちゃんはチョーベリーブルーに独り言を言います。やだぁ、ちょっと死にたい。ラルティザン・ドゥ・ザヴ―ルのドボシュ・トルテ食べたい。おっぱい。


「左様ですか。では早速出発いたしましょう」


「あら、何のお話だか聞いてはくれないのですか?」


 聞きたくないんだろ空気読め。


「何故だかおじさん、ひどく嫌な予感がするので聞きたくありません。そう例えば胃に穴が空きそうな」


 いい勘してますね。さすが。さっきから思ってましたがこのおっさんも多分普通じゃないんだろうな。

 …………この世界で何が普通か、なんて今の私にわかりっこないですけどね。


 はぁ。あんまりブルーだとわけわかんない悩みまで出てくるなぁ。

 普通とかマジどうでもいい。

 はぁ。


 前話終盤のあの怒涛の追い込みはなんだったんでしょう。テンションおかしくなってたわ。

 いろんな工程すっ飛ばしていきなりお友達認定されちゃいましたが。


「天意に急かされてるとしか思えない……」


 お前はどこぞの武将か。

 毘沙門天か。


「あら、宜しくしてくれるのではなくて?」


 馬車の荷台に乗り込むとロリカは常に浮かべている余裕の笑みを、沈んだ気分から抜け出せないこちらに向けます。

 私は大仰にお手上げです。とばかり両手を広げて見せました。


「頭痛がします。……本当のところ、何が目的なんですか」


 荷台に膝を丸めながらじとっとロリカの笑顔を見上げます。

 態度が見えなくてもこの女にはどうやら他の感覚で他者が今どんな状態にあるのか把握できていると思われます。非現実的?ハハ、ファンタジーの世界ですよここは?


「ちょっとお祈りに行くんです」


「目的地聞いてんじゃねーんですよ」


 まじでどーして頭痛の種になるのが目に見えてる人間と一緒に馬車なんか乗ってるんでしょーね私は。

 遊び心、猟犬ハウンドを殺す。にならなきゃいいんですが。

 動き出した馬車の音が私を不安にさせる。いつまでこの女と狭い幌馬車の荷台に同乗しなければならないのだろう。


「………この馬車、どこへ向かってるって言いました?」


「お祈りですよ。星降る天使の丘、知りませんか?」


「残念ながら。ていうかそれはまた、エセ占い師の館かなんかですか。バカップルでも今時そんな名前つけませんよ。…………いやそうでもないのか」


 一時期世界有数の国家を席巻したというキラキラネームの存在が脳裏によぎる。

 我ながらアホなことばっかり覚えとるのう。

 いやぁ済んどる。済んどるなぁ、です。


「メギドの丘なんて呼ぶものもいるようですね」


「なにそれ。どこのエロゲメーカーの考えたネーミングですか。だっせえ」


 「エロゲってなんですか」と聞かれたので「人生。」と答えておきました。

 模範解答ではないでしょうか。


「メギドという名前の天使が降りられた地だと言われていて、丘の中央には天使様の建てられたと云われる石碑が立っています」


 メギド。天使メギドw

 明らかにそんな優しい語感じゃないんですが。

 大天使メギドラオンに進化するんですか。

 すげえ怪獣みてえ。宇宙恐竜メギドラオンでございます。


 何言ってんだ私。


 すごいこんな人間臭い寒い一人相撲とるAIほかにいませんよ。

 中に誰もいませんよ。

 ………………………、


「あかん。キャラがブレブレや」


 もう一度思い出せ自分のキャラを。グレイちゃんは可愛くて知的でサディスティックなのだ。


「一人で頭を抱えてどうしたんです?」


「誰のせいだと思ってんですか!」


 見えないくせに正確に人の挙動を察するなよ。です。


「ていうかこんな幌馬車持ち出してきて行商に行くんじゃないんですか?商人のくせにわざわざ遠出してお祈りとかなんなんですか」


 なんなんですかってなんですか。

 ええいもう何が鬱陶しくて腹が立ってんのかわからんくなってきたワイ。

 口調も刺々しくグレイちゃんは詰問します。


「あら、貴女には信仰はないのですか?」


「私が忠誠の剣を捧げるのは我が主のみです。銃弾なら割とホイホイ何にでも捧げられますが。……それに、神様をこの目で見たこともありますが、信仰する気にはなれませんでした」


「あらあらあら、なかなか聞いたことがないお話ばかりです。非常に興味深いですわ。神様とお会いになったとは、もしかして高位の聖職の地位にいらっしゃるのですか?いえ、ですが成程、しかし信仰はされていないと。珍しいお話ですね。一体どの神様があなたの前に降臨なさったんですか?」


 ………え?


「もしかしなくともそういう世界観ですか……?この世界ではぽんぽん神様がいる上に、ちょくちょく現世の民の前に姿を現してお戯れになりあそばすと」


「不遜極まる物言いですが。まあ多角的な物の見方をするとそう捉えることもできるでしょうか。大いなる元素の神々や熾天教の大天使様をはじめとして、神に仕える方の前にその姿を以て啓示なさることもあるようですね。というか、そういった奇跡の話を聞いたこともないのですか?」


「ええまあ、何分遠いところからきたもので……。」


 何とも言えないので視線をそらす。

 スケールでっけーわ。マザーも随分気合入れて作ったもんですね。

 とりあえずロケラン撃ち込んでおしっこちびらす目標に神様も入れておこう。

 夢はでっかいほうがいいよね!――――――――――ゲームだしっ!


「そうですか。世界は広いですからそういうこともあるのですね」


 随分な言われようだよオイ。


「では貴方がお会いになった神というのは何とおっしゃるのですか?」


「名前なんて誰も知りませんよ。ただ、私たちは終末の夢幻龍と呼んでいました」


「ムゲンリュウ?」


「ほんのわずかな片鱗の力を以て世界の終末を引き起こした存在。その姿を目にしたものはきっと誰もが脳裏に神という言葉を思い浮かべる。名乗らずとも。それが私の目にした神の姿です。」


「ええと、よくわかりませんが、そんなものがあなたにとっての神なのですか……?」


「他の神様には残念ながら会ったことがないので。神そのものがどういう存在か、あれは一つの答えを見たと言えるでしょう。けれど信仰は別です。許しを請うというならともかく、救いを求めて神に祈る、という概念を私たちが理解することは、まだ少しばかり難しそうですね」


「くふふ。くすくすくす」


「なんですかいきなりニヤニヤと」


 わりかし真面目な話してたつもりだったんですけど、何故かロリカは口元に手を当て、一際機嫌よさげに笑っています。


「やはり貴女は私の知らない色々なことをたくさん知っていらっしゃるようです。お友達になって大正解ですね」


「お友達ですか……」


 ゲッソリ。ゲソゲソ。烏賊焼き食べたい。

 聞いた途端に再び両肩に疲労が重くのしかかり、肩を落とす。


「そうです。まだまだ私の知らない遠い異国の話をいっぱい聞かせてください。」


「むしろ聞きたいことがいっぱいあるのはどう考えても私の方なんですが」


どうして今の私が語り手側につかなければいけないのかと恨みがましい声を出すと、キョトンとした顔をしてロリカは小首をかしげます。


「グレイさんも私に聞きたいことがあるんですか?」


「それはもう、山の兎の性欲のようにたーーっくさん!!」


「その例えはどうかと……。では私も何かお答えできることがあればお答えするとしましょうか」


 え?お……。


 ヒャッハー!!?ようやく質問タイム到来ですよ!


 長かった!辛かった!苦労した!

 とはいえまずは何から聞けばよいのか。


 まあオーソドックスにここはどこ?私は誰?から行きましょうか。


「では遠慮なく。まずここは一体どこですか?」


「え?星降りの丘近くの小径ですけど」


 さっき言ったじゃん。みたいな顔をされます。

 お前本気で私をアホだと思ってるだろ。


「いやそれはさっき聞いた」


「まあそうですね」


 ロリカは、では何がしたいのかと困惑している表情を浮かべた。

 確かに当然の反応かもしれないが今の私にはそれすらももどかしい!!


「そうじゃないんですよ、私が聞きたいのは!?いいですか!?今の貴女は私のことを宇宙人だと思うべきです!空から急に降ってきた異星人にここはどこか尋ねられて、貴女は何と答えるんですか?」


「う、ウチュージンですか……?ナニソレ……?」


「ええいまどろっこしい!ちんたらしてると刈り上げにしますよ!ここが何ていう世界のどこの大陸の何と名付けられた国家なのか!!まずはそこから行きましょう!さあ早く答えrのです!ハリーハリーハリー!!ターーイムショッーーーク!!」


「いや、ちょっと待ってください、近い近い……!」


 今にも胸ぐら掴みそうなぐらいにじり寄る私に流石にロリカもたじたじです。

 だが甘い!!そんなんで今のグレイちゃんが引き下がるわけないだろ!

 グレイツォ容赦せん!!


「え、ええと?ここはロクソソ=ルスのザルエラの大陸、魔導諸国連合の円卓のひとつ、法のバシリカの治めしバシリカ法王国にあるギエナの城下町……の領土です。……ね」


「ロクスソルスの何だって?バリ・トゥードじゃないんですか?」


 歯で作ったモザイク画とか置いてるとこじゃなかったですっけそれ?


「いやロクソソ=ルスですよ……?細かいですが、なんかそこ大事だと直感が告げています。天上と冥府に連なりし三界の一つで、我々肉体を授かりし者が住む世界です。バリ・トゥードという地名は残念ながら存じ上げませんね……。でもどぉっかで聞いたことがあるような気もするのですが。」


 三界の一つですってよ。ありきたりですね。

 しかし妙です。マザーから聞いた世界の名前はバーリ・トゥードだったと思いますが?

 何でもあり(バーリ・トゥード)はゲームのタイトルみたいなもんなんですかね?


 めんどくせーな。


 まあしかしなんていうか、流石に地名を聞いただけだと全く意味がわかりませんね。

 ファルシのルシがパージでコクーンぐらい意味不明ですね。

 まあファンタジーの設定なんてそんなもんですが。言ってしまえば世界の設定なんてオタク以外には無用の長物です。意味がわかるとおぉーっってなるんですけどね割と。興味ない人間には妄想ですからね。

 ええと何の話してるんですっけ?


「なんでしたかねぇバリ・トゥードか……。生活に関係ない用語なのは間違いないなぁ」


「もうそれはいいです。どうせ大したことじゃないですから。ほら、話の続きいきますよ」


 マザー涙拭けよ。


「え?いや続きって言われても?」


「固有名詞並べただけで説明したつもりになってんじゃねー、ですよ。観光客の皆さんもポカンですよそんなんじゃ。宇宙人にここがどんなとこか説明しろって言ってるでしょうが」


「ギエナの街の特産品はティコジュースですよ!!?」


「わっかんねーよ!!ってか話題飛びすぎだろ!!」



 はあ、前途多難です。

 ラルティザン・ドゥ・ザヴ―ルのドボシュ・トルテ。

 東方M-1ぐらんぷりのネタですが、もしかするとそれにも元ネタがあるのかも知れません。二次元のネタって迂闊に人に説明すると本当は更に三次元に元ネタがあったりして大恥かくんですよね。

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