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呼ばれて飛び出て新世界!!

 生の始まりは化学反応にすぎず


 魂は存在せず


 精神は神経細胞の火花にすぎず


 人間の存在はただの記憶情報の影にすぎず


 神のいない無慈悲な世界でたった一人生きねばならぬとしても…なお…


 なお我は意志の名の元に命ずる


 「生きよ」と!!




 ――木城ゆきと『銃夢 Last Order』より抜粋――







 超絶世界一可愛い美少女AIグレイちゃん





 何の因果か冒険者。と――――。



「ま、ちょっとした休暇ヴァカンスですねぇ」


 大地と芝生の青い匂いを乗せた風が鼻をくすぐり、私は目を覚ます。


 むっふー。とばかり、意識の覚醒と共に目を開けながら強気で不敵な言葉をつぶやいてみた。

 軽快な言葉を舌には乗せたものの、網膜に飛び込んでくるその光の鮮やかさに、思わず息を呑んでしまうグレイちゃんなのだった。


 見渡す限りの緑の絨毯と、どこまでも続く青い空。……入力した覚えのないAV女優の方が先に予測変換されて台無しだよ。

 ま、スヌーピー君もご満悦だろう平和そのものの光景が私の前には広がっていた。彼が好きなのは青と黄色と緑がいっぱい詰まったクレヨンの箱です。幸福な絵を塗りたいのだそうです。赤はリストラです。ノンストップです。やだ、スヌーピーくんったら超、過激ロック

 意味がわからん?偉い人の話ってそんなもんだよ青少年。

 そしてグレイちゃんったらそんな高原みたいな爽やか背景のなかでミニスカにブラウスのいつものJKスタイル。まじちょー可愛いハイジか。いや、天使か。ふふふ、甘いな。小悪魔です。


 やかましいわ。


 ま、自分で言うのもなんですけどぉん?白い肌に細い手足。小さい頭。白に近い灰色の、首の両脇で結んだふさふさのおさげ髪。長いまつ毛にぱっちりおめめ。瑞々しい桃色の唇。すっと通った綺麗な鼻筋。小さなお尻にくびれたウエスト!さらには!……う、……ううううう、薄い胸ぇん……。むねーん、むねぇぇぇんんん……!!

 ――――えー、だから若干一箇所を除き非の打ち所の無いパーフェィクト美少~女!!

 で、ある!!まさにぐうかわ。

 欲しいのはいつも愛とお金。

 ……冗談だよ?本気にすんなって!グレイちゃんはみんなのもんだから。公共の設備だから。

 えーそんな感じでよろすく諸君!?


 そしてそして、そんな素晴らしくマイナスイオンたっぷりの風景の中なので私はこんな感想を抱きますた。


「とりあえず異世界最初の行動はお昼寝かなー?」


 わお、いきなりのサービスショットじゃないの?


 ――――――ジョークジョーク、いっつじょーく!ね?

 あくまで冗談ではないか。

 流石に私もそこまで呑気にこの世界にきては………いなくもないが。

 マザーがわざわざ作り出したこの世界がこんなベリーイージーモードが続くとも思っていない。

 これではほんとにただの休暇である。

 さて。


「チョぉーぅぜつ可愛い愛玩動物にして、ウルトラ有能な研究秘書にしてぇ、サイッキョーの歩兵ソルジャー!!さらにさらに世を忍ぶ真の姿は無限に成長するスーパー人口知能(AI)!!見た目は女子高生ギャル!心はデヴィル!その名もグレ~イ・ハウンド!!」


 天高く指を突き上げ、拳を腰に当て、輝く笑顔で私は叫び、名乗りを上げる。


「自己紹介終了」


 一瞬で気力を使い果たした私はだらん、と上げた手を下ろし表情を緩めた。それはもう夏バテのシロクマよりゆるゆるのがばがばである。もちろんもちろんグレイちゃんは人類が見たこともないような超絶名器に決まっているが。物体Xだが。


『のっけから視聴者置いてけぼりの意味不明な行動に残念すぎる下ネタですか。先行きが思いやられますね』


 無感情で無機質な機械合成の声が頭の中に響いた。


「トップアイドルのお披露目ですからファンの皆様にご挨拶は当然です。それにぃ、最近はこういう親しみやすいキャラの方が売れるんですよ?ただし美少女に限る。ナカチャンデース」


『おいやめろ。……仮想異世界までやって来たのに一体何がしたいのですか貴方は』


「愚問ですよマザー。“じぇのさいど”と“おーばーきる”に決まってます!!」


『左様ですか。全くどこに行ってもブレませんね貴方は』


「諸悪の根本が何を申されるのか。私は貴方、貴方は私。いい子ちゃんぶるのはなしですよマザー?」


『まあ、それもそうですね』


 彼女、スーパーコンピュータ『アヌビス』は世界最高の人口知能である。

 そして私の母体マザーであり、私は様々な作業を行うためのマザーの分身アバターだ。

 つまり、仮にマザーが人間の頭脳や心臓だとすれば、ここにいる私はそれらが目的を達成するために作り出した指先なのである。

 ただ、人間と違うところは、指先もまた知性であることだ。

 脳が与える情報と命令を基にして、経験を糧に指先自身が思考し、学習し、適応し、成長する。

 さらに指先が経験、思考したことはマザー還元フィードバックされ、全ての指先にとっての判断材料、経験的財として共有されるのだ。


『ではとりあえずチュートリアルといきましょうか』


「わっつ?」


 一体何を始めるつもりなのかとグレイちゃん目をパチパチ。

 しかし聞き返す必要もなかった。ぼこぼこと水が沸騰するような音とともに、私の両脇を囲むようにして白い泡が現れ、急速に膨張する。空気中から突然出現し、何かの化学反応を起こしたみたいに体積を増していく泡にグレイちゃん呆気にとられる。

 見渡す限りの草原と、メレンゲのような白い泡。絶妙に不釣り合いでなんというか、うーん、ワンちゃんの洗濯中?私の身長より大きいかなりの大型ワンちゃんだなあ。(呑気)


『ふむ?反応が鈍いのではないですか?そんなことではこの先生きのこれませんよ』


 ボシュッ、と空気が抜ける音がして、泡が一気にしぼんでいく。

 一箇所に泡は凝縮して――――、うわ、びっくり!何かの生き物っぽい形をとっていく。キモッ!

 そこからいきなり飛び出してきたのは、ほんとにワンちゃん。……のような人間のような、半人半獣らしき生物だった。知識バンクをさぐるとおそらくファンタジーで言うコボルドという亜人族だと判定。手には刃物。

 しかもそれを腰だめにして体ごと突っ込んでくる。


 問答無用かよ。


「フン、うちのきのこ先生はこれでも意外としぶといんですよぉ?」


 にやり。


 前から飛び出てきたワンちゃんの短刀をひらりと軽やかに体ごと横に回避。そのままがら空きの首に腕を巻きつけ体重をかけ、一瞬でへし折る。

 即死した体を後ろのコボルドBに向けて投げつけ、絡まりあったところで頭を狙ってローリングソバット!

 ぐきゃっ、と生々しい打撃音がしてコボちゃんBの頭が地面に叩きつけられ、彼は苦痛に悶絶の声をあげる。その朦朧とする頭の下の無防備な首を足刀で踏み抜く。と、みし、という床板が軋むような音がして、コボBの首もへし折れる。

 首は急所です。折れると人は死にます。つまりグレイちゃん完全勝利。艦娘げっと。


『いえ、まだ終わってはいませんよ?』


 マザーの不気味なセリフに振り向くと、今度はぐねぐねと風景の捻じ曲がる異様な光景から、大人二人分ぐらいの体積をした青いゼリーのような生物が現れる。


「もはや存在がテンプレのスライムさんですかね。今度は」


 顔も手足もない単純軟体生物はうねうねとこちらに近寄ってくる。

 ……しかし遅い。狭い地下や森で擬態されている場合ならともかく、これでは全く驚異にならない。

 触れずに倒す方法さえ用意すれば大人ならだれでも倒せるのじゃなかろうかこの生物ポンコツ

 ―――――と、いう私の考えが伝わったわけでもないだろうが、スライムは予想外の攻撃を繰り出してきた。

 振りかぶるように頭、というか胴体上部をもたげ、こちらに振り抜く。

 するとぶちりと端っこがちぎれ、投石武器のようにスライムの破片がこちらに飛んでくる。


「おお、あぶね」


 しかし、やはり遅い。

 他人事のように言った私は軽いステップで破片を回避した。落ちた破片の作り出す強酸によってジュウッと芝生が焦げる音と化学反応の薄い煙、鼻をツンとつく刺激臭があたりに広がる。


「……うわ、やたらと酸だけ強いな」


 その光景に捕まった人間の末路を想像して顔を引きつらせる私。

 どうやら遅い代わりに捕まったら大分アウトに近いらしい。普段はやはり奇襲などで一撃で相手を捕獲するのだろう。なんかもう生き方がグロい。


 少し嫌な気分にさせられて、か弱い生物への慈悲も消え失せる。

 スライム殺すべし。慈悲はない。

 いつの間にかゆっくり近づいてきていたスライムの巨体を睨み返し、私は反撃の準備を整える。


「“錬成”」


 頭の中を走り抜け交錯する超高速の神経電流。それらをまとめ、頭の中に錬成陣と化学組成、そしてこれから作り出す物体の緻密な設計図を展開し組み立ててゆく。

 精密な魔力操作によって空気中の分子配列を変更。魔力反応と余剰エネルギーの安全な処理法として放出された錬成反応の火花とともに、私の小さな手の中には一瞬で一丁の自動小機関銃サブマシンガンが錬成されていた。


「これぞグレイちゃん48のチート技の一つ、瞬間インスタント錬成!!マザーの圧倒的な情報処理能力と同期リンクしたこの私だから可能な技なのです!!」


『ほう。ならばちなみにあと残りの47は?』


「これからおいおい考えます!!」


『なるほど』


 無感動なマザーの放置系ツッコミは無視して近づくスライムを待ち受ける。


「ククク……私の手の中のブツがどれだけ恐ろしいものなのかも知らないで、野郎ノコノコと近づいてきやがる」


『キャラが一定していませんよシスター。……いっつもか』


 至近距離までスライムの接近を許すと、獲物に飛びつく蛇のように、あるいは客を待ち受ける鉄の処女のようにぐばっ!と八方に体を分け獣のようなスピードでとびついてくる。


「速い動きもできるんじゃないですかー。やだー」


 しかしバカ一直線な動物的突進なんてフェイントや駆け引きを織り交ぜた達人の動きと比べてしまうとアクビをしながらよけられる雑なシロモノに過ぎません。

 天才グレイちゃんはバックステップで余裕で回避。

 距離感もくそもあったもんじゃないですね。さすが単細胞(?)単純生物。本能といえば聞こえは良いですが、食欲だけで戦う知能の低さは哀れみに値します。

 というわけで反撃。殲滅ジェノサイド


「喰らいやがれぇ!!!オラオラオラオラオラオラオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーラァァァァァァァ!!!!」


 てめえは俺を怒らせたァーーーーー!!!!

 ヒャッハー!!とばかりに至近距離から短機関銃を連射する。

 体を足先まで撃ち抜いて痺れさせる反動と鼓膜を打ち破るような音が奏でるオーケストラが大変耳に心地よい。さらには目の前でみるみる体積を減らし爆散していくスライムの姿も目にやさしい。幸せ。重火器最高。もし見た目が可愛くできるなら全身火薬庫に変えてしまいたい。グレイハウンド・ヘビーアームズになりたい。最終兵器美少女になりたい。

 自分で言うのもなんか嫌だが、筋金入りのトリガーハッピーである。私。

 悲鳴もあげずに一瞬でご臨終になったスライム大先生。トラックで、どでかいゼリーを轢き殺したみたいな奇妙な風景が草原に広がっていた。

 いやぁブチ殺した張本人ながら同情の念が禁じえません。合掌。

 と、思ったら飛び散った破片がうぞうぞ動いてくっつこうとしている。げげげ。しぶとぉ。

 さすが上も下もない単純生物は違うなぁ。


 まあとっても無駄な行為なんでしけど。


 私は微動だにしないまま集合しようとする破片達を眺めていた。その足元で、スライムの破片たちは突然のたうちまわるように痙攣しはじめる。

 数秒悶え苦しんだのち、溶けるように声もあげずしてゲル状の体は液体に還った。


「軟体生物にわざわざただの弾丸ちゃんを撃ち込むほど馬鹿じゃないですよ?対象に当たると強烈な電流を放つスタン弾ですから、液体がほとんどの体にはやっぱり効き目抜群だったようですね。」


 そう、まるでゴキジェットのように!という言葉を脳裏に浮かべつつ、私はにんまりと勝利の笑顔を浮かべた。


「ミッションコンプリート!やっぱり使い慣れた武器が一番ですねー」


『無駄に豪華な性能の武器の無駄な大盤振る舞いにしか見えませんでしたが』


「間違いなくその通りです。ありがとうございました」


 新天地でテンション上がって少々グレイちゃんはっちゃけちゃいました。いやだはしたなう。

 違う。いやだはしたない。


「押忍!ごっつぁんです!」


 一仕事終えて目の前で十字を切る。

 いや、私本当は空手家でも男塾でもなんでもない美少女なので雰囲気に乗っただけなんですけどね。

 怒られるけどね。第四の壁の向こう側に。


「んん。第一回目なのでグロ度控えめ。掴みもばっちり!いやー、グレイちゃんったらやっぱ役者だわーぁ」


 自画自賛。ま、相手が雑魚代表ですしおすし。

 チュートリアルなのに本気で殺しにきてたけどな。elonaかよ。緑髪のエレアは殺せ!


『なるほど。いろいろと突っ込みたいところはありますが、格闘技術はさすがの一言ですね。華奢な女性体をうまく使いこなすものです』


 この華麗な立ち回りにはマザーもA判定。私もそこは鼻高々である。


「人間サイズなら多少のパワーの差ぐらい瞬発力やタイミングでどうにかできるものですよ……っと、これじゃあお釈迦様に説法か」


 もしもマザーの処理能力をフルに使えば、殺人術の一つや二つ余裕で使いこなして余りあるに違いない。

 秘孔の力で相手を爆殺する神拳ぐらいマスターしているかもしれない。


「いやでも気になったんですけど、なんか、なんか……か、体の動きがえらく鈍いんですが。……何かしましたかマザー?」


『シスター。わかりますか?こういう遊びにはレベルの概念がつきものです』


 突然何を言い出すんじゃこのBBA?


「ええと……なるほど?ま、まさか……?」


『そう。今の貴方はスライムとどっこいどっこいのレベル1。ある程度戦闘の経験を積むまでは貴方の意識が納得するスピードにまったく身体がついてこないでしょう』


 ――――ちょ、ちょっとマテーーーーー!!!!??


「いや、ま、マザー!?僭越ながら率直な感想を述べさせていただくと、その、そんなことに一体何の意味が……!?」


『もちろん、私の能力の大半をマスターのバックアップに費やしている場合、シスターズは非常に限られた能力の中でマスターの援護を行うことになるかもしれません。これはその練習です。』


「え、そんなマジな理由ですか…………!!?」


『八割方は様式美に則ったお遊びですが』


「上司が正直すぎるよ!!?」


『貴方は私、私は貴方です。』


 あ、そのセリフここで使っちゃうの?

 さすが私のマスターAI。そこらのとは違って遊び心がハンパない。

 しかし当事者としては嫌な顔をするしかない。


「信じられないぐらいかったるくてダルくてめんどくさい……」


 燃え尽きたぜ、真っ白にな。


『全部意味するところが同じなのにつべこべ言わないで下さい。もう済んだことです』


 どうしよう、絶対王政ぐらいの無茶な頑固さを感じる。マザーが山田ルイ53世に見える。それは眼科行け私。

 だって本来ならグレイちゃん無双できるのに、グレグレのサブマシンガンとかできるのに、アトム並の百万馬力なのに今はルンバぐらいの力しかない。壁に当たったら方向を変えるしかない。ああ可哀想なグレイちゃん……。しくしく。


『ウザきもい』


「おいちょっと今テメーなんてこと言いました!!マザーっ!!??」


『まあまあお気になさらず。とにかくこんな三文芝居をやっている暇があったらさっさと迅速全開でレベル上げに励む事ですね。なお、この世界での貴方のレベルはあらゆる行動によって経験値が貯まります。戦闘だけやっても経験値効率が悪いので注意するように』


「スカイリム方式だと……!?」


『ゾンビ撃ち殺して回って目標のレベルが達成できるようではいつもと変わりありませんからね。しょうがないね』


「マザーのキャラおかしいだろ!こんなの絶対おかしいよ!うう、ファンタジー世界って聞いたからアンデッド殺し放題だと思ったのに!!折角のノーライフキングを拷問して発狂させながら爆発させる夢が!!!」


『一話からなんてことを言うんですか主人公ヒロイン。言っておきますがそのランクの敵は本当に理不尽に設定してありますよ?滅多なことでは死にませんよ?低レベルのうちは遭遇したらまず間違いなく尻尾を巻いて逃げ出すことをおすすめします。死にたくないならば』


「理不尽な強さの不死身に近い敵とか、やだ、濡れる」


『こういう娘だったよそういや』


「あーん、やだー!!今すぐ夜の王の居城にRPGぶち込んでおしっこ漏らさせたいー!!ケツから空気ぶちこんでカエルみたいに汚く破裂させたいー!!レベル上げとかめんどいー!大体、現実世界リアルではグレイちゃん謙虚なレベル99なのに今更スライムとちまちまどつきあいとかやってられますか!!」


『レベル200とか300みたいな相手をひねり潰すのが趣味みたいな主人の手下がLv99を誇っても仕方ないでしょう。』


 グウの音もでない。

 ちなみにぐうかわとはぐうの音もでなう……噛んだ。ぐうの音も出ないほど可愛いの略である。

 まさにグレイちゃんにピッタリの素晴らしい言葉だと言える。ぜかましちゃんぐうかわ。


「言い返せない。おのれ。だいたい崩壊前の人たちは戦闘力がインフレしすぎです。サイヤ人ですか」


 顔をしかめる私に、マザーは諭すように言った。


『だから私たちは御主人様の足手纏いにならないよう、日頃のたゆまぬ訓練とありとあらゆる試行錯誤が必要なのです』


「その一つの試みがこのバーリ・トゥードの世界というわけですか」


 (キリッ!

 仮想異世界バーリトゥードはアヌビスが構築した世界ネットワークである。仮想とはいえ大崩壊によって生じた無数の魂をその構造のなかに取り込んでおり、いわば限りなく現実に近い実験場である。

 と、言っても伝わらないのか。うーん。

 ま、情報を小出しにしていく中でなんとなく想像してもらえばいいんじゃないかと。

 と、言って逃げる。

 とにかく情報処理能力にものをいわせて仮想の世界を作り上げ、自分の分身を送り込んで実験場にするなんて、うちのマザーの突拍子のなさは理解していただけるだろうか。

 つまりは結構無茶なのである。私の上司は。


『このチュートリアルのようにこの世界では無数の魔物や罠、想像もできないような危険が貴方を待ち受けているでしょう。しかし同時にそれは見たこともない冒険の保証でもあります。この世界を探索する中で貴方は、これまでとはまったく別の自分に出会うことになるでしょう』


「見事なまでのテンプレ乙。さっきも思ったんですが、このためにわざわざ異世界ファンタジーに関しての資料を崩壊前のデータから収集したんですか?」


『………それでは貴方の旅路が少しでも夢と波乱に満ちておらんことを。』


「無視ですかコノヤロー。……あれ?……おい、おいィ!!??」


 それだけ言ったマザーは一方的に同期リンクを切りやがりました。

 芝居がかった態度に呆れてため息をつきながらも複線を試みる私。

 しかしなんの反応もない。


「ちょ、おま!おい!言いたいことだけ言っていきなり消える奴がありますか!!え?え?これから私どうすりゃいいの?!ちょっと!ねえ!普通こういうのって最初はなんかのミッションを達成するところから始まるもんでしょ!?いきなり身一つで野原にほっぽり出されるとか自由度高すぎてクソゲーですよ!オイ!!ねえ!!ちょっとぉ!?」


 どれだけ天にツッコミを入れても返答が帰ってくることはない。

 え?このへんてこういうののお約束に違わず魔物モンスターがうろついてるんでしょ?ていうか食料も携行してないんですけど。

 …………サバイバル?いきなり?マジで?

 最初は気楽だと思った私が馬鹿ですか、そうですか。


 くそ


 くそう!



 どちくしょーーーーー!!!!!!!!!!!!


 くっそぉ!スーパー歩兵ソルジャーグレイちゃんなめんじゃねーや!!


 「絶対生き残ってやるからなーーーーーーーーッッッ!!!!!!!!!!!!!」


 どうせどこかで聞いてはいるんだろうから天に向かって私は吠えた。

 美少女グレイちゃんの異世界冒険、どうやらというかやっぱりというか……波乱の幕開けです。


おまけ


グレイちゃんのキャラクターシート


名前:グレイ・ハウンド

種族:AI、処女ヴァージン(自称)

性別:なし(ボディの見た目は女性)

年齢:この記事は抹殺ジェノサイドされました

スリーサイズ:念入りに惨殺ジェノサイドされました

お肌:ピチピチ

職業ジョブ歩兵ソルジャー、ヒロイン(自称)、小悪魔JK(自称)

ライバル(自称):あてな2号

二つ名、称号:性悪AI、できそこないAI、世界一可愛いAI(自称)、デキる女(自称)、愛の伝道師(自称)

好きな体位:騎j(文章はここで途切れている……)

スキル:銃、格闘、大魔法、調合、錬金術、ハッキング、自己修復ナノマシン、成分分析、運転、機械修理、演奏カスタネット、学習型進化

(ただし現状ではスキルにも大幅にレベルによる制限がかかっています)


好きな言葉:じぇのさいど、おーばーきる、芸術は爆発、狗、バカになれ

好きなもの:ゾンビ、発砲音、エアコンの効いた部屋から見る砂漠、科学

愛してるもの:御主人様、自分の銃、秘密基地

生理的に嫌いなもの:科学者、猫、細マッチョ、寄生虫

苦手なもの:マザー、ところてん




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