告解
悪魔と一緒にいるようにと、熾天使セラフ様から命じられた私だが、神父としての職務も果たさなければならない。
そのうちの一つが告解だ。
罪の告白を受け、神の代わりに赦しを与える。
数千年前から変わらず行われているこの行為は、自らを律し、神と共に生きているということを、実感する儀式である。
本日も、告解室にいると、駆け込んできた女性がいた。
「神父様、私は罪を犯してしまいました」
「落ち着きなさい。そして祈りなさい。神は常にあなたのそばで、あなたを見ていらっしゃいます」
仕事をしている手を止めて、私はその女性を、網の目状になっている壁を通して見つめた。
横顔だけしか見てないようになっているのは、告解をする相手は私ではないという意味である。
彼女の前には主キリストが聖母マリアに抱かれている像が安置されている。
告解者は、私ではなく、神に告白を行うため、このような構造になっているのだ。
「私は、罪を犯しました」
「ええ、神はあなたのそばにおります。ゆっくりと、話してください」
落ち着いてきたようで、ゆっくりと話し出す。
「私は、友人に嘘をついてしまいました。私は、悪魔は常に心の内にいることを知っていながら、いないと言ってしまったのです」
「それについて、悔いてますか?」
私はゆっくりとした口調で聞く。
「ええ、とても悔いてます。神父様、私はどうすればいいのでしょうか」
「神は常に見ておられます。あなたが真に悔いているのでしたら、そのことを行動に移しなさい。あなたの罪は、それで赦されるでしょう」
「ありがとうございます」
「主と神と聖霊の名によって、あなたの罪は赦されました。よく告解へ来てくださいました。あなたの勇気が、あなたの罪を赦すのです」
「はい、分かりました神父様」
女性は告解室から出て行く。
いれ代わりに入ってきたのは悪魔だ。
「まだいたのか」
「うるせえよ。神の名においてとか、寒気がするよ」
こいつは、熾天使セラフ様によって、私と共に行動をするように命じられた悪魔だ。
私の本心ではないが、セラフ様がおっしゃるのであれば、私はそれに従う。
「告解しにきたわけでもないだろう」
「俺の告解を聞きたいか?」
「いやいい。どうせ山のようにあるだろ。きっと1日かけても終わらないさ」
「分かってるじゃんか」
私はため息をついて、告解室から出て、掃除を始めた。
すべての場所を簡単に掃除すると、誰かが玄関ドアを開けて入ってきた。
「こんばんは。本日はどのようなご用でしょうか」
私は片付けていたモップを壁に立てかけて、入ってきた男性に聞いた。
「…をくれ」
「何を差し上げるのでしょうか」
「命をくれ!」
彼は持っていたナイフを懐から取り出して、私に切りかかってきた。
「何をしているか、分かっているのですか!」
私はその刃をよけながら、ジリジリと祭壇の方へと追い詰められていった。
とうとう主キリストが磔刑処されておられる像の、すぐ足元まできた。
「助けてやろうか」
悪魔が彼のすぐ後ろでほほ笑んでいた。
ナイフを持っている手を、思い切り曲げて、それから紙くずのように、体ごと放り投げる。
ベシャァと嫌な音を立てて、その男は落ちた。
確実に死んでいるはずなのに、その男は立ち上がって、私を指差して叫んだ。
「神の計画は実行に移された!皆、気をつけよ!お主は選ばれたのだ!」
それからその場に崩れ落ち、絶命した。
私は携帯で警察を呼んでから悪魔に聞いた。
「神の計画が始まったようだ」
「そうらしいな。俺らもいよいよ行動を命じられる時期にきているということだな」
死体を見下げながら悪魔が、苦々しそうに言い放った。
何が起きるかは、この時には何らわからなかった。