9# ベオウルフ
更新が遅くなってしまいました。
カイゾウ完全にヒモ状態(笑)
思ったより治安がいいなぁ?と思い、ガストに聞いてみるとどうやらこの表通りはギルドが仕切ってて比較的治安が安定しているそうだ。たまにギルドに取って代わろうと言う族やマフィア崩れが暴れる事があるそうだが。その都度ギルドが鎮圧して来たらしい。
そんな事をガストと話しながら石畳をカンカンと踏みつけていると、一際丈夫そうな赤レンガ造りの建物があった。
『ガンナーズヘヴン』とアルファベットで書かれた鉄製の看板が鈍く光っている。ガストがノックしようと腕を上げた時、ドン!とドアが開いた。
慌てて出て来たのは迷彩服を着た男達だった。
男達は俺らに背を向けたまま動かない。
「貴様!我々ヴァンガードに楯突くとはいい度胸だ!」
「そうだ貴様!このまま連行しても構わんのだぞ!」
「銃を下ろせ!国家反逆罪で捕縛許可も出ているんだ!大人しく我々と本部に」
その時ズドンッ!と言う馬鹿大きな破裂が響いた。男達が邪魔で店の中は見えないが、どうやら店主かなんかが銃を発砲したようだ。
その行為によりヴァンガードと名乗った男達は背を向けて走り去って行った。
あれ?確かヴァンガードってのは大陸の中央にある『上流街』に居る軍隊じゃなかったか?などと俺は顎に人差し指を引っ掛けていると、ガストは察したのか「ああ。この辺じゃヴァンガードなんてのはあんな扱いだぜ?役に立たないからな」と言って、開け放されたまんまのドアから店内に踏み入れた。
「ようジャイロ。儲かってるか?」
「儲かっているように見えんの?」と自虐的に質問を返した男は散弾銃をカウンターの下にしまう。二十代そこそこの男の容姿は口元まで覆う茶色のツナギに黒のニット帽。鼻先には小さい火花除けが掛かっている。
男は片眉をひん曲げながら金網を挟んでガストと談笑している。
板張りの狭い店内には銃は無く、あるのはホルスターなどの革製品、銀細工のアクセサリー、銃のカタログなんかが積み上げられている。
俺が店内を見回しているとガストがちょいちょいと手招きする。
「ジャイロ紹介するわコイツはカイゾウ。元居た街じゃ名うての銃使い(ガンナー)だったそうだ」
ちょ!お前何言ってんの?勝手に吹いてんじゃねーよ!てか、本物なんて握った事無いから!
ハードルを上げられて俺が苦笑うと、ニット帽の男は薄ら笑いながら俺を見上げた。
「わかってんよ。ガストは大体大げさに言うんだ。んまオレっちは銃が売れりゃそれで良いのよ。おっと、銃鍛冶のジャイロ=ジェットイーグルだよろしくなルーキー」
「……よろしく」
俺はジャイロの受け取り口から伸ばした右手を掴む。
「でよ。コイツに合う銃ってあるか?」
「綺麗な手だからなぁ。ド素人なのはわかるぜ」
握手しただけで素人なのを看破された!ちくしょう!なんか恥ずかしいぞコノヤロ。
ジャイロはうーんと唸りながら金網の奥の棚で銃を見繕っている。無理無理と呟きながら棚から脇に銃を移していた。
完全に小馬鹿にされてんな俺。ガストは基本的に興味なさげに腕を組んでいる。
「ジャイロ」
「あ?なんだい?」
「この店で最大口径のセミオートマチック銃をくれないか?」
ジャイロの完全に冷めた視線が痛い。ガストは面白そうに頬を緩ませる。
「あのなぁー!ガキじゃねーんだから『大口径=強い』って考えはやめろよ。丁度具合の良いの選んでやっからよ!」
「……」
う、クソ。ジャイロに馬鹿にされた。泣きそうです。
「ジャイロ出してやれよ。撃ってみりゃわかんだろ」
ナイスガスト!俺頑張る!
ジャイロは眉をひん曲げながら渋々棚の上段を探り。鈍色の大型銃を取り出した。
ゴトリと置かれたそれは、何かとゴツい。持ってみると大して重くはなかった水鉄砲レベルだ。そう言えば蛮族ブレードを持った時もこんな感じだったなと俺はその銃を手の平で踊らせる。トリガーガードを軸に回したり、スライドを引いて構えてはカチンと空撃ちしたりときっと顔は笑みで歪んでた。
「んな弾無しで遊んでないで裏の射撃場で撃ってきなよ」
と、ジャイロは弾丸の詰まった弾倉をぶっきらぼうにカウンターに投げた。
ガストは脇に積んであった黒グローブを俺に渡す。
ジャイロは背を向けて手を振り、早く行けと急かす。
眼にもの見せてやる!と俺は指に密着するグローブを付け、マガジンを差し込み。ガンナーズヘヴンを出た──。
side:ジャイロ=ジェットイーグル
ガストとルーキーが出て行った後。オレっちはヴァンガードのクソ野郎共が来る前の作業に戻った。スライドの磨き作業をしていると外から『ダァン!!』と言う射撃音が聞こえた。
小窓から顔を出すと、あのルーキーが片手で『ベオウルフ』を構えている。
「馬鹿が、手首やったな」
思わず呟いた。遠目に見えるルーキーは手首を揉んで銃を片手で横やら縦やら素人丸出しで構えている。
言わんこっちゃない。『ベオウルフ』は五十口径のマグナム弾を撃ち出す猛獣狩り用の自動装填式拳銃だ。正しい射撃姿勢で尚且つ熟練した銃使い(ガンナー)じゃないと、手首を痛める。理想は銃を握ってない方の手でグリップエンドを包み、両腕を伸びきらない程に軽く曲げる事。それにより発砲の反動を上方へ逃がし、再度照門と照星を合わせ狙いを付ける。それでもまず『ベオウルフ』じゃあ当たらないだろう。反動が強すぎるのだ。それこそ素人が撃てば最悪骨折と言う事もありえる。
「オレっちも大人気ないな」
と、ちょっと反省した。いくら頭に血が上ったからってルーキーを怪我させたらガストに怒られちまう。
まあルーキーに世間の厳しさを教えてやるって意味ではいい薬になるだろう。
小窓を覗けばルーキーはまた、半身でベオウルフを片手で握りしめている。
「ちっ」
とオレっは見るのを止め。ルーキーに似合いの銃を探し始めた。
ダァン!ダァン!ダダァン!ダァン!ダァン!……
突然、連射音が聞こえた。振り向くとルーキーは既に射撃を終え。コチラへ歩いて来る。ガストが拍手してんのが気に入らないが、大方ヤケクソにバラまいたんだろう。
さて情けない顔でも拝んでやるか。と思っているとドアが開いた。
しかしルーキーは期待を裏切った。「コレにする」と一言いうとゴトリとベオウルフをカウンターに置いた。
ガストを見ると満面の笑みで金貨の入った袋をトランクから取り出す。
「ジャイロ。あと替えの弾倉二つと、弾丸三箱売ってくれ!」
「本当にそれにすんのかよ?」
「本人が良いってんだ問題あんのか?」
「いや……ないけどな」
その後の事は妙にフワフワした気分であんまり覚えていない。ルーキーが腰下げ大腿ホールドのホルスターを買ったくらいしか覚えていなかった。
ガスト達が帰った後も、ボンヤリとカウンターで頬杖をついていた。
「あ、そうだ」
と立ち上がり裏の射撃場に出る。夕日は赤く沈もうとしていて、オレっちは長くなった影を引き連れ砂を蹴る。ルーキーの立っていた所に落ちていた薬莢を拾う、そして狙ったであろう人型ターゲットへ近づいた時、右肩だけに穴が空いてるのに気付いた。
マグレでもなかなか当てれるやつはいない。ふーんと少々感心しながら店に足を進めたが、信じられない光景にぶち当たった。
射撃場には五枚のターゲットが置いてあるのだが……。
その五枚のターゲットの右肩全てに穴が空いていたのだ。
「は……?」
呆れた。今まで銃のアキュライズを続けてきてこれほど呆れた事はない。確かにあのルーキーは素人で、皮膚も柔らかくトリガーダコもなかった。むしろ銃に触った事さえ無い感じだったのに。さらに片手だぞ?
「……はっはっはっは」
笑うしかないとは今日の事を言うのだろう。
ルーキー……アイツの名前はなんだったかな?──。
side end
度々ジャイロは出る予定です。
次回へのヒント:ぼったくり