7# GΦLD
リア充は爆発しろ、今すぐに!(ただしゲーム内なら許す!)
歩きながらガストが聞いてもないのにこの国の話しを俺にして来た。身振り手振りで丁寧に説明するガストから見れば俺はタダの漂流者だ。まあ実際何もわからんわけだし黙って聞こう。
どうやら今居る所は『アルティメア帝国』と言う国”だった所“らしい。なんでも五十年前に世界を巻き込んだ戦争があって。そのせいで以前まで大陸の全土を手中に占めていた『アルティメア帝国』が内乱により崩壊した。治安を維持出来なくなったアルティメア帝国の皇帝ジークムンドなんとかは国を建て直すため北方の『聖地』に山より高い壁を築き大陸全土に広がった領土を縮小。アルティメア帝国の再建を図った。
しかしコレがまずかった。帝国軍の居なくなった北方を除くその外の土地は無秩序極まりなく、暴力と血なまぐさい硝煙に包まれる事になったのだ。他国からもならず者がなだれ込み混沌と狂気の暗黒時代。それが十五年前まで続いた。
で、今は?と言うと。今は北方と中心部を除くその外の地域を『五大総長』と呼ばれるマフィアが牛耳っているらしい。死体の上に立つ成り上がりモンだとガストは罵る。
北方は相変わらず引きこもっていて国交は全くなく。中心部にはアルティメア帝国時代の貴族など上流階級の人達が暮らし、その警護は『ヴァンガード自衛軍』と言う帝国軍から割れた軍隊が守っているそうだ。
『五大総長』はその中心部から放射状に領土を切り取り治めている。差し詰めミックスピザと言ったところか。
その『五大総長』は互いに休戦協定を結び、他の総長の領土を浸食しないと取り決めた。今もその均衡は破られる事なく続いていると言う。
デンジャラス過ぎるだろコノ世界!と思ったが、なんとなく俺主役だし大丈夫じゃね?と楽観的に考えていた。
「で、この辺のボスは誰なんだ?」
「ああ、中心部からこの南側は五大総長フォンド=ブラウンっつうジジィの縄張りだ。つっても最南端のこの漂流街まで見ちゃいないがな」
「へぇ。ガストはマフィアなのか?」
「言わなかったか?オレはそこの『ギルド』で情報屋やってるんだ」
とガストの指差す先。商店の並ぶ通りの脇に看板が掛かってる。
『GФLD』
と書かれた看板。矢印の先には路地へ降りて行く階段が見える。コノ看板、どうやら『GOLD』の『O』に上からペンキで『I』を上書きしたモノらしい。階段を降りながら先導するガストに聞いてみる。
「ギルドってなんだ?」
「ああ?あー。簡単に言えば、街の『便利屋』だ。金さえ払えばどんな仕事でも請け負う所さ。ま、立ち話もなんだ取りあえず中に入ろう」
と、ガストは路地の中腹にある分厚い木の扉の鎖を外した。
中は板張りで奥にカウンターがあり、手前には丸テーブルが六つ。映画で見た西部劇の酒場の様だった。ちなみに客は一人もいない。
「ガスト。良いのか?」
「いや問題ねぇ。マスターを起こしてくる」
と、ガストは中にある木製の階段を駆け上がって行った。
俺は椅子を寄せ集めニコを寝かせ、自分も椅子にかける。天井を仰ぐと翼の長い扇風機がゆっくりと回転していた──。
「おーい」と言う声に俺は目を覚ます。どうやらうたた寝してたっぽい。眠気眼で辺りを見回すとニコがいない。
「ああ、二階のベッドで寝てるよ」
との声に振り向くと、カウンターの中で貧相なネズミ顔のオヤジが煙草をくゆらせている。だらしないシワシワのシャツに無精髭。頭にはタオルを巻き、黒の長髪は後ろで束ねている。オヤジは「ほい」と、特盛りのパスタらしきモノをカウンターに置く。
「腹、減ってんだろ?」
と、ニヤリと笑うオヤジのご厚意に甘え旨そうなそれを俺は口へかき込んだ。味はナポリタンのそれに近くて結構旨い。「おい焦んなよ」と水の入ったグラスをカウンターに置くオヤジ。なんか嬉しそうに俺を見ている。
「んま、俺の事はマスターとでも呼んでくれ。皆そう呼ぶからな。アンタはなんと呼べばいい?」
「はもほふ」
「いやいや悪かった。食べ終わったら教えてくれ」
「……っカイゾウだ」
「カイゾウか。俺は酒場『ゴールド』の店主だ、以後よろしく!」
とマスターは親指をぐっと突き出した。
「ギルドじゃないのか?」
「ああ。本当はゴールドなんだ。客の大半が『ギルド』なんて呼んでるだけだ。んまあ……どっちでも良いんだがな!」
はっはっはと笑うマスターに思わず此方も微笑んでしまう。マスターは気を良くしたのかカウンターに身を乗り出して俺を見据えた。
「カイゾウよ。どういう用事でガストに付いて来たか知らんが、ギルドの『便利屋』に誘われたなら悪い事は言わねぇ。ガストに黙って帰りな」
「? 別に誘われたわけじゃないが……なぜ?」
「死ぬからだ。ガストに付き合うと命がいくつあっても足りんぞ?」
薄々は感じていたが、どうりで胡散臭さいわけだ丸サングラスは大体小悪党と言う相場は正しいな。けど、せっかくイベントに入ったのにみすみすそれを逃すのもどうかな?と考える。まぁいざとなればリセットしてやり直せばいい。
「いや、もう少し厄介になるつもりだ。戦えと言われれば戦う。第一俺には帰る場所がないからな」
「……そうか。カイゾウが良いなら良いんだ。俺はもう何も言わない、それだけの覚悟があればいずれ……」
「……?」
「ギルドの顔になるかも知れんな」
お世辞だろうが悪い気はしない。フォークを空の皿に置くと、ちょうどガストが軋む扉を開けて入って来た。トランク以外に何か袋をぶら下げている。
「カイゾウ!受け取れ!」
と、その袋をコチラへブン投げる。中には下着と黒のタートルネックとこれまた黒のカーゴパンツが入っていた。
「それに着替えてくれ。ああ後あのガキは暫くココの接客をやらせる事にしたんだが、それでいいか?」
半ば呆然とする俺にまくし立てる様に言うガスト。俺が頷くと、ガストはカウンターに寄りかかる。
「マスター、カイゾウにシャワー貸してやってくれ。あと何でも良いから履くモンとな、用意が出来たら装備を買いに行く」
「おおおう」
ちょっと流される?お前の木偶にはならんぞ!
「まてガスト。お前は俺に何をさせる気だ?」
「何って。取りあえず格好が整わなきゃどこへ行っても相手にしてくんねぇだろ?」
「お前は俺を便利屋にしたいんじゃないのか?」
「マスターから聞いたのか?気にすんなオレはカイゾウの心配してんのさ、便利屋なんて話しはどーでも良いんだ」
「どーでも?」
「ああ、どーでも良い。ただ何もしないままカイゾウが明日死体になってたら寝覚めが悪いからな。こう言う商売してると気が滅入る、だからこれはオレの偽善だし決めるのはカイゾウだ」
「……」
「なぁ?ちっと偽善に付き合ってくれねぇか?良いことしたって気持ちになりてぇのよ」
う。コイツの話しにも一理ある。ここまで言われて断ったらなんかガキみたいでカッコ悪い。まあ、なんかあったらトンズラすりゃ良いし、装備買ってくれるって言うし断る理由も見つからない。
「わかった。頼んだ」
「おう、まかせな!」
と、俺はガストに押されるがまま、カウンターの奥。キッチンの脇のシャワー室へ押し込められた。
赤い布を脱ぎ捨て。シャワーのカランを回す。温水だ!ヒャッハー!と近くにあった石鹸でだだ長い髪を洗う。灰色だった髪は黒い汁を出しながら白くなって行く。側に立てかけてある棒タワシで身体を隈無く擦るとこれまた真っ黒い汁が出た。
どんだけ汚ぇんだ俺は。暫く洗っては流しを繰り返し、ようやく綺麗になった頃には髪は真っ白。肌は擦りすぎて赤くなっていた。
で、バスタオルでワッシャワッシャ髪から水分を拭き取っていると、鏡があった。
「え?誰これ?」
そこに映っていたのは、赤い眼で少々目つきの悪い美青年だった。ちょっと右手を挙げたり下げたり顔を引っ張ったりしてみる。
「すげぇ、スーパーイケメンじゃねぇか……」
自分の顔だと理解した俺は、テンションMAX。現実の顔も嫌いじゃないが、比べモノにならないくらいブッチギリ綺麗な顔だった。これで身長が百八十を超えていれば完璧であるが、前の体格のまんまなのでギリギリ百八十には届かない。しかし、イケメンだ。くっそ確かにどんな表情してもブサイクにならない。『だがイケメンに限る』と言うやつだ。
散々顔をいじくって基本的に無表情な事がわかった。で鏡を見てんのも飽きた俺は歯を磨いた後、真新しい黒のタートルネックのニットと同色のカーゴパンツに着替え、マスターが用意したサンダルを履いて酒場に戻った。
「おう!遅かったな……」
と、ガストが右手を上げたまま固まっている。あれですね俺がイケメンだからですね?わかりますわかりますその気持ち。イケメンに会うと何もしてないのに敗北した気持ちになっちゃうんですよ。ガスト、君の気持ちは痛い程わかる。さらに声を掛けたところで皮肉にしかならないことも。
「行かないのか?」
「ああ、付いて来い!」
俺とガストは酒場を後にした──。
贅沢な悩み言っちゃってさ……orz
次回へのヒント:白髪にコート