6# 英雄探し(後編)
私は普通だぞ!(なにが?)
顔に満面の笑みをたたえた丸サングラスの男は、置いたトランクに腰掛けると煙草にマッチで火を付けた。煙草を差し出されたが俺は嫌煙者であるから手の平を押し出して断った。それを見て丸サングラスはそっぽを向いて煙りを吐いた。
「いやぁー痛快だった!アイツはここらじゃ『狂犬』て呼ばれててな誰にでも噛み付くチンピラなんだが、兄さんのおかげでこの度めでたく『負け犬様』だ!」
アッハッハッハとなかば大げさに笑う丸サングラス。そう言う俺は妙に胡散臭いコイツと笑う気になれず、蛮族ブレードに手を掛けたままだった。しかしコイツは何やら情報通っぽい、この世界を知るためにも利用したいと思った。第一結構な騒動だったのに、警察はおろか野次馬の一人さえ現れず、少し先の通りではバザールを行き交う人々が”何もなかった“様に先程の賑わいを見せている。それほど危険な街。俺がいわゆる”事件現場“と言うゴロツキが転がっている場所から逃げ出さないのは気絶しているニコ。それに目の前のコイツが悠々と構えて煙草をふかしているからだ。
「でだ。兄さん名前聞かしてくんねぇか?」
「……なぜだ?」
ホイホイと答える事はできない。うっかり答えてどんな地雷が埋まっているかわからないのだ、出来るだけ引き伸ばして情報を取り入れる必要がある。
「なぜ?ああ、なるほど。安心してくれオレはコイツらの仲間じゃねぇ。ガスト=ブライトリングっつぅしがない情報屋さ。見たところ同年代だろ?呼び捨てでかまわない」
「改蔵だ。改蔵榊」
「カイゾウね。ほうほう」
とガストは手帳に何か書き込んでいる。多少不信感はあるが話せばわかるヤツっぽい。黄色い枠が出てない所を見ると殺意もないし。
「ガスト。コイツを治療したいんだが……」
と、俺は顎でニコを指すとガストは書いてる手を止めて、ニコを見る。
「気にすんな。それくらいじゃ死なねぇさ」
死なないとかそう言う問題じゃねーよ!せめて休める所に連れて行かないと!治安あんまり良くないんだからさ!襲われたらどうすんだアホ!
「違うぞ……」
と言いかけた時。ガストは俺とニコを交互に見ている事に気付いた。ガストは目の側を掻いて呆れた顔をしていた。
「なかなかの悪党だな!オレにまかせろ。とりあえず連れて行くしカイゾウも付いて来くるんだろ?」
悪党?コイツなんか勘違いしてないか?まさか俺がロリコンだとでも思ってんじゃねーだろうな?ざっけんなタコ!ぶっ殺すぞ!
「ガスト。お前はまだ勘違いしている」
そうだ。ロリコンと勘違いされたらたまったもんじゃない!俺はノーマルなの!
ガストは軽く唾を飲み込んで、「わかった」と頷いた。
「少し歩くが休める所に案内するわ」
そうだな俺も休みたい、なんか全身が筋肉痛みたいにピシピシ痛いし。あ、後セーブして一回出たいな腹減った。とりあえず最初にセーブするよね?俺はする派。しかしセーブポイントとかあんのかな?宿帳形式?それとも教会?まあ行けばわかるか。
と、俺はニコを背負い立ち上がる。
「お、オレが運ぼうか?」
「いやいい」
なんだ、結構良いとこあるじゃん!さすがファミレスみたいな名前してんのは伊達じゃねぇな(笑)
俺はなぜか頭を頭を抱えるガストの後ろを付いていった──。
side:ガスト=ブライトリング
オレは最初食い詰めモンのコイツを奴隷、ゴホンっいや英雄として迎えようと思ってた。だから左目の義眼に仕込んでる『イグザム』を使いコイツの戦闘能力を多角的に分析していた。『イグザム』は生体エネルギーから放出する波動を検知出来る機械だ。しかしこのカイゾウと言う男から出た結果はどうだ。
身長:0cm
体重:0kg
筋力:error
俊敏:error
精神:error
総合:─
壊れたのかな?と手帳に書き留めながら思う。
「ガスト。コイツを治療したいんだが……」
と言うカイゾウの声に、ガキをみる。『イグザム』を通して見ると呼吸も脈も正常、なんの問題もない。
「気にすんな。それくらいじゃ死なねぇさ」
と言って改めてカイゾウを見ても『解析不能』、今度はガキを解析する。
身長:125cm
体重:38kg
筋力:F
俊敏:F
精神:E
総合:F
と出た。まあガキならそんなもんだよな。ちなみにオレの『イグザム』は大して内容がない。ただ単に安物なんだが(笑)はっはっは。まあ多分故障だなと目尻付近のスイッチを切り替え、正常に戻す。
ああやべぇ解析に集中しすぎた。あれか、ガキを治療したいんだったな……。ん、なるほど、ガキを人質にして狂犬からの報復を防ごうって腹か。悪くないな。
「なかなかの悪党だな!オレにまかせろ。とりあえず連れて行くしカイゾウも付いて来るんだろ?」
まあ、狂犬がガキを取り返しに来るとは思えんが……。カイゾウは結構心配性なのかね?
すると見るからにカイゾウは怒ってた。
「ガスト。お前はまだ勘違いしている」
そうカイゾウは息を深く吐き出した。あ!そうか!カイゾウは取り逃がした狂犬を殺すために、ガキをエサに誘き出すって事を言いたいのか!……さっきアレだけ暴れたのにまだ暴れたりねぇのかよ!恐るべし!カイゾウ!
「わかった」
オレは今までの便利屋連中とカイゾウを同一視していたが、コイツは……鬼だ。しかし鬼でもオレが生きるためには必要。むしろオレが鬼神の如き英雄を欲していたんじゃねぇのか?このゲットーから抜け出すためには圧倒的なパワー。一気にパワーバランスを骨組みごとブッ壊す破壊神が必要だったんじゃねぇのか?オレはコイツを利用して、駆け上がってやる!とりあえずコイツを『ギルド』のメンバーにするまでは機嫌を取らなきゃな!
「少し歩くが休める所へ案内するわ」
そう言うと、カイゾウはガキを背負った。あ、しまったオレがやるべきだ。
「お、オレが運ぼうか?」
「いやいい」
ああ、やっぱり怒ってるよ!まずいなぁーどうするかなぁ?それから『ギルド』への道のりオレはカイゾウへの対応を考えた──。
短いですね(笑)ようやくストーリーに入れる予感!
次回へのヒント:説明会