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ラジカライズアワー  作者: 九郎士郎
漂流編
5/39

5# 英雄探し(前編)

彼は一筋縄ではいかないようだ。

side:ガスト=ブライトリング


 今日オレが漂流街(ドリフトタウン)くんだりまで脚を運んだのは、他でもない『英雄』を探すためだ。そう英雄。オレのために自ら進んで命を散らしてくれる人柱とも言うが。今居るヤツらだけじゃ心許ない、もっと英雄がいるんだ。適当に食い詰めモンをスカウトして人員を補充する必要がある。『さあ!英雄よギルドに集え!』ってポスターやビラも作ったがあんまし効果は芳しくないし。『(トライヴ)』との小競り合いでケガ人も多く使える駒は限られる。そうでなくても来週の末にゃ縄張りを侵攻してくる『ギャング』『荒事師』にも対策を立てなきゃならん。問題は山積だ。


「便利屋ぁ♪稼業ぅわあ♬辛いぃのおぉぉよおぅ♪」

 何て、少々コブシを利かせた歌を唄い現実逃避する始末。オレは手帳の現在使えない戦闘要員に斜線を引く。

 しかしここは相変わらずクソ暑いな!何も無くてもイライラするわ!バザールに向かっているがどいつもこいつも使えそうもない。ああ今日はスカだなと天を仰いだ。いい天気過ぎて逆に腹立つわ!オレがこんなに悩んでんのに能天気に晴れやがって!

 ドンと何かにぶつかった。こんな人混みの中空見ながら歩いてるオレが悪いのだ、謝りましょう。こんな頭でよけりゃいくらでも下げましょう、タダで済むには越した事はない。プライド?んなモンで飯が食えてたまるかよぉ!


「お、わりぃ!」

 とオレはつぶやいた。何故ならぶつかったヤツは浮浪者みたいなヤツだったからだ。謝り損だよコノヤロウ!とか思いったが、相手は浮浪者だ。一C(クラウン)にもなりゃしねぇ怒るだけ疲れる。その浮浪者はジッとオレの全身を舐める様に見ている。さては俺から金をせびる気だな?金はやらん!ナメるなオレ様を誰だと思ってやがる!


「どうした兄さん?オレの顔になんか付いてる?」

「いや」

 ふん。オレの態度に金をせびれない事を悟ったか?浮浪者にしては物分かりが良いじゃないか。ん?生意気に武器なんて下げてるな?浮浪者じゃない?いやそれにしても体は貧弱だし裸足だし……。


「それより旅人……?じゃねーよなぁ?まあいいや、大変そうだけど、頑張れよ!」

「ああ」

 あれ?結構常識のあるヤツだったのかな?ちょっと八つ当たりみたいで悪かったなぁ。でも何者だ?荷物も無い商人なんて見た事ないし……うん、やっぱただの浮浪者だな。大方、夜盗にでもあったんだろ。可哀相だなぁ、ま、オレにゃ関係ない話しだがな!

 あの”赤いの“にまた会えたら、名前くらい聞いてやってもいいな。とオレは再び『英雄探し』を再開した──。


 暫くバザールで『英雄探し』そっちのけで、骨董品屋で腕時計を見てた。時計にゃ目が無いんだからしかたない。アンティーク調の銀細工に回路の歯車が周期的に動いてみせる時計。バルサドール製の舶来品らしいが……。


「おや?お客様。それに目をつけられましたか!コレはですね!今朝砂海から入荷したバルサドール製の時計ですよ!こちらにも同シリーズの金細工のコンビがありまして!きっと……「静かにしてもらえませんか?」はい……」

 自慢の商売トークを阻まれた恰幅の良い店主がシュンと小さくなるのを横目に見ながら。再び腕時計に視線を移す。ガンっと腕時計のガラスを小突くと簡単に表面のガラスが割れた。


「ああ!お客さん!なにを!」

 オレは黙って割れた腕時計を店主に放る。


「値段間違ってますよ?精巧に作ってあるが贋作でしょう。コレが五十六万C(クラウン)?良いとこ二千Cですよ」

「そんな!言い掛かりだ!何を根拠にそんな事を!」

「聞きたいのかい?言っても良いが大声で叫ばせてもらうよ?」

「いや……その。すいません行商人から買ったんで……」

「アンタは騙されたんだよ」

 頭を下げる店主に溜め息をつく。時計は商人にとって一番大事なモンだろうに、“時は金なり”って言葉知らねぇのか?一番狂ってもブレてもいけない物、それが時計だ。時計に関してはしっかり見ないヤツは信用できない。時間を守らないヤツは論外だ。

 オレは悔やんでいる店主に歩み寄る。


「まあ、でも壊すこたぁなかったな。悪かった」

「いえ!お客さんのおかげで偽物をお客さんに売らなくてすみましたし!悪徳商人を懲らしめる事も出来ます!私の鑑定眼も見破れませんでした!これを自戒とし精進して行きたいと思います!」

「いやいや。アンタみたいな商人の鏡が増える事がこの街には大事だ。その時計買い取らせてもらうよ」

「いやしかし……お客さんにそこまで……」

「でもオレも使えない時計買ってもしょうがないからな、こっちの十万の懐中時計とセットで十一万Cでどうだい?」

「え!その時計も買ってもらえるんですか!」

「これも何かの縁だろう?これを期にまた寄らせてもらう、その時は安くしてくれよ?」

「はい!ありがとうございます!慈悲深い人だ!こんな良い人始めてみたよ!」

 と、オレは金貨十一枚取り出し店主に渡す。店主は嬉し涙を流しながら握手を求めてくる。そしてベルベット生地に置かれた腕時計と懐中時計の二つを丁寧に包んだ。オレはトランクに入れるとその場を後にした。


 いやぁー良い事した後は気分が良い。コレであの店主には良い薬になっただろ、自分の鑑定眼が甘々だって事がさ。


 そう、本物なのに偽物って勘違いしちゃうあたりが(笑)


「くっくっく」

 吹き出しそうで顔が歪むわ!割った時計のガラス修復して上流街で転売すりゃ四十万にはなる、もう一本は本当に掘り出し物だから軽く見積もっても二十万は固い。実利四十九万Cか!いやぁボロい取引だったなぁー!

 なんて来た時とは比べ物にならないくらいの軽い足取りで来た道を戻る。英雄探し?んなもん知るかぁぁー!てくらい上機嫌のオレ。


「ふっふっふーん♪」

 てハミングしながら、緩い坂道を登っていると。先程の”赤いの“が少女に引っ張られ路地へ入って行く所だった。


「あの女……」

 と、すぐさま頭をシェイクして極楽気分を正す。あれは確か『狂犬』の妹だ。間違いねぇこんな所で何してやがる。

 オレはこっそりつけてみる事にした──。


 次に”赤いの“を見たのは狂犬と妹にナイフを突き付けられていた時だった。建物の屋上から双眼鏡で覗く。レンズの向こう側で何やら狂犬が怒っている。距離が距離なだけになに話してんのかわからねぇが……とりあえず謝っとけって!タダで下げるだけで命が助かるんだ安いもんだろーが?

 双眼鏡の倍率を上げ、オレは”赤いの“の顔を始めてちゃんと見た。灰色の汚い髪の間から赤い眼が覗き微動だにしない。


「笑ってる……?」

 そう、あの”赤いの“は恐怖に怯えるどころか口の端を上げ狂犬を嘲る様に冷笑していた。馬鹿じゃないのか首にナイフだぞ!死にたいのか?確かに『狂犬ベルカ』は小物だが殺しなんてヤツにとっちゃ息をするより簡単なんだぞ?

 すると、狂犬は妹を殴り始めた。あーあ。仲間割れか、今の内に逃げろよ!馬鹿!ボーっと突っ立ってんじゃねぇよ!もう心境はハラハラとしっぱなし、ふらふらとその場に留まってる”赤いの“が歯痒くて仕方がない。


「あ!」

 妹を蹴ってた狂犬を”赤いの“がど突いた。あーあダメだ!もうダメだ!死んだわアイツ!ほら仲間が出てきた!見てらんねーわ!

 オレは双眼鏡を外し上からその殺戮現場になるであろう砂地を眺めた。

 すると、”赤いの“が武器を握ったと思った瞬間。

ボッと砂嵐が起こった追って爆竹みたいな衝撃音。なんだなんだと見回すが砂煙りが邪魔で何も見えない。爆発か?いやいや!そんな訳あるか!有り得ないだろ!

 オレが下に降り、路地へ入ろうとした時。狂犬が死にそうな顔で飛び出して来た。ぶつかったがオレの顔なんか気にせず、一心不乱に駆けて行く。


「え?あれ?」

 オレは頭を傾げながら開けた場所へ踏み入れる。すると辺りには狂犬の兵隊が呻き声を上げて転がっていた。

 そして目の前にはアイツだ。狂犬の妹の頬をさすっている。きっとオレの目は今喜々爛々としてるに違いない。ここでスカウトしなくて何が『英雄探し』だ!そしてオレは角トランクを置き、手を叩いた──。

お気付きかと思いますが彼は守銭奴ですよ!みんな逃げてぇ!


次回へのヒント:プロデュース!

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