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ラジカライズアワー  作者: 九郎士郎
漂流編
4/39

4# フラグを探せ!

さあショータイムだ!

 俺は人混みから離れて壁際で座り、一人佇んでいた。イベントも起こりそうも無いし、フラグもない……どうすりゃいいんだ!うわあああ!って。叫んでみた所でどうしょうもないと小さく溜め息をつく。


「おにーさんっ!」

 と、可愛らしい声に顔を上げると、クリーム色の髪の少女が満面の笑みで眼前に迫っていた。少女は緑色の瞳をパチクリさせ俺の顔を覗き込む。俺は少女に妙な恐怖を感じ、とっさに手の平で少女を押し返していた。そのせいで少女は転んでしまう。


「つ……」

 少女は立ち上がる。その格好は大きなポンチョをスッポリと被り、頭にバイザーを斜めに掛けた変わった格好だった。俺は立ち上がり、謝ろうと思い少女に近寄った。


「……わ「ごめんなさいっ!」は?」

 と、逆に謝られてしまった。少女は頭を起こすとフルフルと怯えた様に体を揺らしながら上目遣いで瞳を潤ませた……。なにこの小動物。ふっ。まさか!なんの冗談だ!こんな事でテンションハイな俺がいるだとーっ!まあまて、俺は健全な大学生だ。うろたえるな、久しぶりに家族以外の女性と話したからってどうと言う事はない。相手は子供だ、逃げるな俺、ファイトだ俺、たかがゲームじゃないか!とりあえず声をかけてみよう!


「……大丈夫か?」

「ごめんなさい、驚くよね突然近寄ったら……」

 喋れた!通じた!ヒャッホーイ!喉と初体験で二重の喜びだ!そんな端から見てもわからない喜びに打ちひしがれながら黙っていると。少女が赤の布を引っ張った。しまったー!こんなタイの坊さんみたいな格好で『大丈夫か?』なんてカッコ付けて言っちゃって超ダセェー俺!リアル天国と地獄じゃねーか!orz!orz!


「あの……お願いがあるんです」

「え?」

 俺は少女に手を引かれるまま、路地へ連れて行かれた。ははーん。さてはフラグだな?と、イベントの予兆に期待しながら路地を歩く。


「ハァ……フゥ……」

 路地を歩いていると少女の歩き方が突然弱々しくなり、へにゃりと壁にもたれてしまった。どうしたんだ?と、手を放し前に回り込む。少女の顔が真っ赤で息が粗い。風邪かしら?なんか高熱病の類だと俺がヤバい、いやしかしほっとく程俺は悪人でもない。医者にでも連れてってあげようと少女の肩に手を置く。


「はぁあん!」

「うわ!」

 手を置いた途端に、少女は身体をビクつかせ叫び声(?)を上げた。思わず手を放したが、少女の顔はよりいっそう赤くなり粗い息を上げながら朧気な頭を正す様にキッと俺を睨んだ。マジで大丈夫かコイツ?俺の心配をよそに少女は「ついてきてっ!」と半ば怒った様にずんずんと路地の奥へ、進んで行った。


 暫く歩くと、開けた所に出た。廃墟の高い壁に囲まれた砂地。その影った所で蠢く何か。よく見るとそれは人間だった。厳ついマッチョな強面のお兄さんや鉄パイプを肩にかけた人が数人コチラに近寄って来る。え?なに?と少女の方へ振り返ろうと首を捻った時、鋭利な突起の何かが俺の背中を突いている感触。


「動くと刺すよ」

 と少女の冷たい声が響く。表情はわからないがきっと怒ってる。俺は正面の男達に向き直ると手前の男がナイフを抜き、俺の首元に突きつけた。

 ははーん。あれか、俺は罠にハマったわけだな?死ぬなコレ。突起物でサンドイッチされててもなんだか妙に冷静で、まあコンテニューすればいいしなとその時の俺は安易に考えていた。


「俺様は『狂犬ベルカ』テメェは”ギルド“か?ガストと知り合いか?」

 はあ?いきなり訳わからん事いっぱい言われても答えようがないんですが?ギルドやらガストって誰よ?つか狂犬とか(笑)自分で名乗っちゃだめだろ!そう言うのは!


「テメェ!何笑ってやがる!殺すぞ!知ってんのかどうなんだ!」

「……悪いが知らないな」

 俺がそう答えると、背後の少女がさらにナイフを押し付けて来た。チクチク痛い。

「兄ちゃん!さっきコイツ、ガストと話してたよ!ニコ見たもん!」

 ニコって言うのか。て、兄貴かよコイツ!それに何妹にやらしてんだよ。さっき話してた?もしかして、ぶつかったヤツの事か?あの胡散臭い丸サングラスね。でも知り合いじゃないよね、人類皆兄弟って思想ならアリだけど。


「誰だ?」

「ニコ!またかテメェ!」

 とベルカは茶色の短髪を振り、脇に逸れるとゲンコツをニコに喰らわせる。吹っ飛ばされたニコは壁に激突し、鼻血を流す。それでは終わらず、壁際で縮こまっているニコへベルカは執拗に蹴りを喰らわせている。


「何度いっったらぁ!テメェは理解すんだ!コラァ!」

 「ぐぅ!」と重たい呻き声を上げながらはニコは反撃する事も出来ず、ただただ耐える。


「おい止めろ」

 と俺は、ベルカの肩を突き飛ばした。バランスを崩したベルカは砂地に身を転がす。ニコを見ると既に気を失っている。

 何だかワッと血が沸き立つのがわかった。昔から何事も静観し、関係ないと冷めた俺ね性格からは考えられない気持ちだった。コレは”怒り“だ!


「何しやがる!」

「何って。お前らをブッ飛ばしたいかな?」

「ブッ飛ばす?」

 ハハハと笑い出すベルカ。指で輪っかを作ると口笛を吹いた。すると路地の脇からゾロゾロと鈍器や刃物を持った男達が集まってきた。


「……」

「どーした?ビビって動けねぇか?ハハハ!」

 と、高らかに笑うベルカをよそに俺は別の事で驚いていた。

 目の前の虚空に『ShowTime!』と紫色のネオンサインみたいのが書いてあるのだ。その上、出てきたゴロツキ共の体が黄色い立方体の枠で覆われている。ベルカだけは赤色だ。その上視界の右上には『25/25』と白い字で点滅している。その時俺は即座に理解した、これは『戦闘画面』だと。おそらく枠に囲まれているのは敵である。『25/25』は敵の総数だろう。『ShowTime!』の文字が消えて今は『Ready…』となっている文字を空に向けると。視界の真下に複数の矢印が出て『Target!(ターゲット)』と表示された。なるほどなるほど、ようやくFPSっぽくなってきたな。と蛮族ブレードを手に握る。


「お前ら!コイツをミンチにしろぉ!」

「オオォォー!」

 と、ゴロツキ共の野太い叫びに呼応して、蛮族ブレードの柄を握りしめると。うすっらと見えた『Ready…』が白の『GO!!』と言う文字へ切り替わる。

 俺はダッシュで襲って来るゴロツキ共の肉圧になんの身構えもせず立ち尽くしていた。ヤバいのはわかるしどうにかしなきゃいけないのもわかるが、身体が思う様に動いてくれないのだ。とりあえず見ろ!避けろ!と命令しているが、身体は動こうとしない。ああ、コレが腰が抜けるって事か。せっかくゲームらしくなって来たのオシマイだな。くっそ。そもそもシューティングゲームなのに、初期装備が変なブレード一本ってなんか間違ってないか?とか考えて、うわぁとパニックで目を瞑ってしまった。


「……」

 しかし、ゴロツキ共の攻撃は来ない。それに静かすぎた。俺は目を開けると、ゴロツキ共は固まっていた。いやスッゴい遅いのだ。なんかスローよりやや速いがまだまだ此方に来そうもない。凶暴な顔で重力に逆らって有り得ない角度の前傾姿勢のまま、武器を振り上げて『ゆっくり走っている』のだ。なんともマヌケな。

 チャンスだと、ゴロツキ共に向かってダッシュした。だが俺の体もやけに重い。しかしゴロツキ共と比べては全然速いんで思いっきり蛮族ブレードを、武器を振り上げている脇腹に叩き込む。おんなじ様に他のゴロツキ共にも打ち込んで行く。視界の右上にある敵の総数が段々と減っていく。

 最初に蛮族ブレードを打ち込んだゴロツキが打ち込んだ斬撃を中心にくの字に曲がり空中に浮いてる頃には、残存敵数『1/25』になっていた。俺は舞い上がる砂塵を背景にそっぽを向いているベルカの背後にまわり、潰れた刃の蛮族ブレードを首元に押し付けた。

 その瞬間『DESTROY(デストロイ)』の文字が視界一杯に広がり。ドンッと言う音と共に時間が動き始めた。同時に戦闘画面は消え去った。そして俺はベルカの頭越しに見えた光景に唖然とした。ゴロツキ共が凄まじい音を立てて、まるでボーリングのピンみたいに弾け飛んで、同時に悲鳴やら嗚咽やら砂が溢れ出す。


「お前……何をやった?」

 蛮族ブレードで押さえられているベルカが自分の置かれている状況を理解して、恐る恐る俺に質問した。最初の威勢は完全に失われている。何?ってそりゃあ。


「ブッ飛ばした」

 ちょっとやり過ぎたけどね。テヘッ。なんて思いながら恐怖に怯えるベルカを突き放す。


「ばばばばバケモノかよ!」

 と、倒れながら後退るベルカ。バケモノとは失礼だな君は。確かに自分でも驚いけど。妹に暴力を振るうよりはいくらかましだ。みっちり説教してやろうと、ベルカに一歩近寄ると。ベルカはあわわと、ダッシュで逃げて行った。ちょっとまてよ!妹のニコどうすんの?

 俺はまだ目を覚まさないニコへしゃがみこんだ。降りかかっている砂を払い、腫れた頬をなぞる。多分大丈夫だろうけど、治療したいなぁ。などと考えていると背後から気配。向き直り蛮族ブレードを構える。


「ハッハッハッハー!お見事お見事!良いもん見せてもらったぜ!」

 と路地から手を叩きながら出てくる男。それは先程ぶつかった丸サングラスのトランク男であった──。

改蔵のキャラクター大丈夫?変わってない?


次回へのヒント:守銭奴

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