35# コミッション
クリスマスはあれです。ケンタッキー食べました。一人パーティーバーレルですよ。
いやーヤバイ。ケーキワンホール食ってる時が一番ヤバイ。こう胸にくるモノがあったね。美味しかったです。
俺が振動で目を覚ますと、横の席でハンドルを握っているボル。何故か冷や汗ダラダラで、目が血走っている。
あれか?溜まってんのか?そんな感じで何の気なしに進行方向に目をやると漂流街のあの寂れた鉄塔が見える。あれ?もう帰って来たの?いまだに慣れないが、どうやら俺が寝てる内にバリケードに使用したトラックで漂流街に帰ってきたようだ。
「ボルよ、アンタの後輩のボルトン?だっけ?そいつから残り半分の依頼料貰ったんだろうな?」
「いや……」
「まあ、そもそも俺らなんて使いっ走り程度だからな、生き残るとは思わなかったんだろ」
そう俺がダッシュボードに脚を投げ出したまま、笑うと、ボルは俺を見て無言で首を横に振る。
「ヤツは死んだよ。いや、ヤツだけじゃねぇ。私兵団もな。フォンドは逃げたかしらんが、見当たらなかった」
「は?嘘だろ?」
「嘘じゃねぇ!俺ぁこの目で見て来たんだぞ!」
ボルは赤く充血した目で俺を見る。そうか、後輩だもんな……。
そうこうしている内に俺達は、ギルドへ到着し、分厚い樫の木の立て付けの悪い扉を開いて中へ入った。
「動くな、動けば撃つ」
開口一番飛び込んで来たのは、ガストの非情な一言だった。ガストはカウンターに片腕を預けた姿勢で俺達を睨む。
店内では銃口をこちらへ向けた漂流街自警団。それとバカラ、クロト、皆神妙な面持ちで入ってきた俺達を見つめる。
「おかえり」
その静寂を打ち破って、マスターがボソリと呟く。ちなみにニコはマチゾーを抱きながら一緒に中二階の踊り場からこちらを覗いていた。
「なんだ?俺がなんかしたか?」
「なんかした?テメェはやり過ぎなんだよ!」
「はあ?」
ガストはカウンターをガンッと拳の尻で叩くと、中流街で昨日発刊された、新聞を俺に放り投げた。
『パーウッズ湖にて、フォンド=ブラウン(現、五大総長)死亡。同私兵団五十余名壊滅。なお、同時刻ワンダ=ライオネルプライズ(現、五大総長)が乗った車が谷底に落ち死亡。奇跡的に同乗していたクローディア=ライオネルプライズは重傷。残りわずかな私兵団団員の報告によれば犯人は、赤いコートに白銀の髪、カイゾウと名乗ったようである。おそらく犯人のカイゾウとは漂流街を本拠地とする便利屋組織『GΦLD』の首領と思われ。これを受けヴァンガード自衛軍はーーー』
俺はそこまで読んだ所で新聞を足元に捨てた。
「……ほぼ同時刻に五大総長の二人を俺が殺したと?本当にこんな曲芸みたいな事が俺に出来ると思ってるワケ?」
そう言っても溜め息を付くが、ギルドの面々は依然銃を降ろす気にはならないらしい。『やれるかもしれない』とでも思っているのか互いに顔を見合わせる。
「じゃあコイツはお前がやったんじゃねーんだな?」
ガストがギロリと睨む。
すると新聞を掴んでいたボルが前に出る。
「こいつは東亜街の兵隊三百人ボッコボコにしたが、フォンドやワンダと関わっちゃいねぇよ。俺もいたからな」
「本当か?」
俺はそのガストの質問に頷く。
「だとしたら……誰が?」
ガストは鼻横に人差し指を当てながら考え込む。
どうやら信用してくれたようで、俺もなんだか気が抜けて、腹が減って来た。
「ニコ、腹が減った」
そう中二階のニコに言うとハの字にひそめていた眉毛を、パッと広げ満面の笑みで俺の腰に抱き付いて来た。マチゾーはコレを気に俺の肩に乗る。
「おかえりなさい」と頭をグリグリと押し付けてくる、いや、ちょっとソコはマズいぞ!いやいややめなさい。
と俺は苦笑いでニコを抱き上げ、ニコをマスターに渡してカウンターに収まった。
ボルはと言うと新聞を手に「本部に行ってくる」とギルドを出て行った。
ガストは新しい煙草に火を付けながら、隣りに座った俺に斜に構えて「詳しく話せ」と言って来た。
俺はどっから話すかと考えていると、バカラが肩を揉んで来て「カイゾウさん!マジで東亜街のヤツら三百人皆殺しにしたんスか?一人で?マジでハンパじゃねぇっス!いやマジでリスペクトっス!!」などとヨイショし始め、ちょっとうざったかったので肘鉄をお見舞いしておいた。
俺は今頃疲れが出て来たのか、安心したのか、ようやく『帰って来たんだな』と妙な安堵感に包まれていた。
「そうだな、最初から話すかーーー」
side:鷹目のシュウ
「俄かに信じ難い話しではあるが其方が言うのだから間違いないのだろうな。では鉄生はその者に散々に打ち倒されて帰って来たわけか。コレで暫く落ち着くと良いのだがな」
我は東亜街鉄火党本拠地にある本邸に今回の騒動の報告に来ていた。
畳張りの広い評定間の上座では御簾(すだれの様な物)で仕切られ、御屋形様の御尊顔を拝謁する事は叶わぬがその朧げに映し出される陰影だけでもその威光はヒシヒシと伝わってくる。
「はっ!されどこの度の五大総長の死に関して情報を手にいれられなかった事に対して、この鷲。一生の不覚であります。今一度彼者から情報を聞き出してみせます!どうか御下知を!」
「ならぬ。行けば其方は死ぬ」
「鉄火党の為ならばこの命惜しくはありませぬ!」
「……影たるものは鷲にあやかるべし。その心意気は大義であるが、其方の代わりがいないのも事実。接触は禁ずる。彼者の動向のみ報告するように。よいな」
「ははっ!我の様な影走りにはもったいなき御言葉。この鷲。その様にいたしまする!」
「うむ。決して刃を交えるではないぞ」
「は!」
我はすぐさま、あの鬼神の如き赤い外套の男を探しに漂流街へ向かったーーー。
side end
side:ジュード=ブラウン
俺は今、上流街にあるガンブランド邸の一室に居る。
部屋は妙に薄暗く、光原は円卓の中央に輝く燭台のみであらゆる窓が仕切られている。
俺は静かに円卓の席に腰を降ろすと、既に席に収まっている二人の会話が聞こえてきた。
「ですからサルバトーレは今回の事件、全く関与しておりませんよ。介入するうまみが全くありませんからね。むしろアナスタシア殿の方が土地が手狭な分、ライオネルプライズ側へ侵攻する理由は十分では?」
「もはや土地の広さで地力が問われる時代は終わったんですよ?いまさらあんな田舎貰った所で活用方法なんて思い付きませんよ。おや?これはフォンド=ブラウン氏の……」
「……ジュードです。ジュード=ブラウン。今回のコミッションにお呼びいただき光栄です」
そう、今日俺がここへ来た理由な五大総長が一同に会するこの会議に出席するためである。
今回の議題はもちろん、今回の騒動の収集と代変わりの信任と、不可侵条約の継続である。
アナスタシアファミリーからはブレド=アナスタシアの遣いの女が座り。
同じくサルバトーレファミリーからもザザー=サルバトーレの代理人らしい薄サングラスの男が座っている。
「この度はお父上の事痛み入ります。ではそろそろ始めるとしますか?」
「え?いやまだガンブランド氏とライオネルプライズ氏が来られておりませんが?」
俺は卓を見回して空席になっている二つの席を見た。
「やむ得んだろうな。今回は五大総長が二人も亡くなったのだ、今だにライオネルプライズ辺りは組織を統制するのに時間がかかるだろう。それにガンブランド氏……彼なら毎回出席した事など見たことがない。ああそうか、ブラウン殿は初めてでしたね。私はザザー=サルバトーレの代理人ブラスト=ガルシオネ。こちらの女性はブレド=アナスタシアの使いでアリア=シルヴァニア。仕切りは任せますよアリア殿」
俺はその馬鹿丁寧に事情を説明するブラストに怒りを覚えた。この余裕は言ってしまえば「ブラウンなど、眼中に無い」と小馬鹿にしている様に聞こえたからだ。俺はその場で怒り狂うわけにもいかず、ただ黙って頷いた。
「では、始めましょう。今回の事件に付いて情報を交換し真相に近付ける事を願っております」
ブロンドの髪を後ろでまとめ上げた代理人アリア=シルヴァニアは、事件の概要を説明した後。大まかにアナスタシアの意見を述べる。
「ボスの指示では、五国不可侵条約が守られる事を望んでおられます。そのために隣接組織であるライオネルプライズにはその支援をする用意があります」
「ほほう。さすがアナスタシア殿ですね。頭が切れる。そのままライオネルプライズを懐柔する腹積もりなのでは?」
「それはサルバトーレ氏にも言える事でしょう?そもそも発端はライオネルプライズ氏とブラウン氏の協力に危機感を覚えたから、起こった事件かもしれないわけですし。まったくこれだから金権主義の連中は卑しい」
「酷い言われ様だ。確かにサルバトーレはカジノで儲けていますから?金の心配はしていませんよ?だからこそライオネルプライズとブラウンが、手を組んだ所でさほど興味など無いのですよ」
「ラチがあきませんね。それはそうと、ジュード殿はお父上が亡くなったと言うのに早急に組織を立て直された。全く素晴らしいですね」
「いえ。まだまだです。この会議にて信任をいただける事が第一ですから。出来るならば父の意を組み、ライオネルプライズファミリーと協力して組織を立て直したいと思っています」
「ほぉ。なるほど。ライオネルプライズと協力してか……」
俺の発言に一旦会話は途切れ二人とも、考え込む様子がうかがえる。
その時、会議室の扉が開かれた。
俺やアリア、ブラストは扉の方へ視線を向ける。
そこには全身包帯に巻かれた、黒ドレスの女が車椅子を押されて登場した。
「まさか……あなたはクローディア=ライオネルプライズ?」
アリアが席を立ち上がり、目を凝らす。
その全身包帯の令嬢は卓につくと、従者を追い払った。
「クローディア……ライオネルプライズ……。コミ……ションに参加させていただきます」
そこにいた俺を含め二人の代理人は絶句している。それはそうだろう。俺の知っている情報では全身複雑骨折の上、重度の全身火傷。たった二日でこの場にこれるわけがないのである。こうまでして来られては俺の立場など吹き飛んでしまう。
「さて、ライオネルプライズ氏も来られたわけですし。会議を再開いたしましょう」
「ミス・クローディア。今丁度貴女の組織の支援について話しをしていた所なのですよ。ジュード殿は父上の意向に沿って協力したいと言い。アナスタシア殿は隣接のよしみで支援をしようとしておられる。貴女はどう思っておられるか?決定権は貴女にあるでしょう」
クローディアは痛々しく、身体をひくつかせながら答える。
「.支援は無用……。現状維持。カイゾウを殺す」
クローディアの言葉は少なかった。と言うか、必要ないくらい強烈であった。
「ふん。だそうだ。残念だったな、御二方」
ブラストは含みを持たせて少し広角を上げた。
「まあ、ライオネルプライズファミリーがその方針ならば何も言う事はない。この二人が新しい総長になる事だがそれも異論はなかろう、なあ、ブラスト?」
「もちろんだ。サルバトーレはコミッションの決定には従う。資金難の時は是非ともサルバトーレに御相談ください」
ブラストは恭しく、俺とクローディアに頭を下げた。
「さて、残りは偉大なお二人の命を奪った者の事だが、クローディア嬢の話では"カイゾウ"とか言う奴だそうだな」
アリアの問いにクローディアは頷く。
「こちらでも調べてみたが、十中八九カイゾウとは"漂流街の王"。一月前程に突然現れて、一晩で街をまとめ上げたらしい……自分で言いながら何だが嘘みたいな話しだ」
「そう言えば、漂流街は確かブラウン領であったな。何か情報はないのか?」
「……赤いコート。それとナタのような形状の短刀。あと拳銃。それらを用いて"たった一人にて"一個中隊クラスの兵を殲滅できるそうです。私も最初に父に聞いた時には、自軍の兵隊が軟弱であると小馬鹿にしていたのですが、今回の事でそれは事実なのだと確信しています」
俺がそう言うとブラストはニヤリと微笑んだ。
「もしそんな男がいるならば、親父が気にいるに違いないな」
「ずいぶんと上機嫌だなブラスト。サルバトーレは遠すぎて高みの見物か?」
「いやいや。あまりに非常識なのでね。呆れて笑みもこぼれると言うモノだ。ま、漂流街がブラウン領にある以上こちらから手を出すわけにもいくまい。ジュード殿の采配にまかせようではないか?なあアリア?」
「う、む。ゴホン。五国不可侵条約か。確かにそれは……そうだが。荷が重いだろう」
「御三方の力をお借りするつもりは毛頭ありません。ブラウン領で起きた事はこのジュード=ブラウンが処理いたします!」
ここまでナメられてはブラウンファミリーの名折れである。カイゾウは俺が叩き潰す。そう円卓を叩く。
「まあ……そこまで仰られるならば私の出る幕はなさそうだ。健闘を祈りますよ新総長殿」
こうしてガンブランド邸で行われたコミッションは終了した。
漂流街の王を血祭りに上げ、ブラウンファミリーの威光を内外に指し示す必要がある。本来ならばこんな事する必要はなかったのだが、プランを変更しなくてなならない。
俺はカイゾウ討伐に向け作戦を練る事にしたーーー。
side end
人名が沢山でてきました。覚えられなくても大丈夫!心配ないです!私も覚えてないから!
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