32# 打ち寄せる闇と忘却の彼方
久しぶりのupでございます。ようやく落ち着いて書けそうで連休を利用してこのままガンガン行きたい所です!!
俺達がトラックの後部辺りに戻って暫く、揃いの戦闘服とベレー帽を被った大層な団体が現れた。
俺は組んでいた腕をほどき、目の前のいかにも隊長っぽい鷲鼻の髭に視線を合わせた。
鷲鼻髭は俺を一見すると「ふん」と鼻を鳴らせ、トラックの幌を部下に開けさせた。
「ほう……良くも集めたモノだ、これほどのクズ共を」
鷲鼻髭は顎をしゃくりながら片側の口角を歪にせり上げた。
もちろんクズ呼ばわりされた傭兵集団は鷲鼻髭を睨む。
「一応名乗っておこうか。私はブラウンファミリー私兵団を率いる、ボルトン=クライスラーだ。先程の夜盗……ゴミ共は我々が片付けた予定に変更はない」
ボルトンは「だが」と言いかけ、胸から取り出した細い葉巻に火を付けた。
「お前たちは此処より先は必要ない」
ボルトンはニヤリと笑いながら、葉巻の煙を虚空に漂わせる。
「でもまあ……万が一と言う事もある。お前たちにはこの街道にバリケードを築き、その億が一来るかもしれない敵に備えて欲しい」
いくら雇い主の私兵団だからと言って小馬鹿にされ過ぎじゃないか?いい加減にしないとプチっと片手で潰しちゃうぞ?
などと考えていた時、一人の傭兵が立ち上がりボルトンに罵声を浴びせた。俺はいいぞ、もっと言え。と心で応援していたのだが。
ボルトンはモーゼルみたいな自動拳銃を抜き撃ちし、かの傭兵は眉間に弾丸をくらいトラックの運転席側の壁にもたれて死んだ。
ボルトンは「話しの途中だ」とボソッと言うと自動拳銃を腰のベルトに押し込む。
ボルトンKoeeeeeeeee!!俺あぶねぇぇぇうえ!!とか思いつつ、自己防衛のために眼帯をせり上げる。
「我々が明朝この街道を通る時に残りの半額を払おう。……ふむ、内容によっては我々私兵団に加えてやらんこともないが……まあせいぜい」
「おう。ボルトン!」
再び話しを遮ったのは小便から帰って来たボルであった。
「久しぶりだなぁー!」とボルはボルトンの背中をバシバシ叩く。
すぐさま私兵団の団員達がボルに銃口を向ける、ボルトンはそれを右手で制し髭を撫でる。
「ウォロック大佐?……。まさかとは思いましたがこんな所で会うとは奇遇ですね」
「おう、お前も出世したみたいだな」
ボルは私兵団を見回す。
「ええまあ。どうです?大佐もウチに来ませんか?優遇しますよ?」
ボルは私兵団を横目にニヤリと笑った。
「やめとくよ。お前さんの仲間達と仲良くできそうにないからな」
ガッハッハッハッ!と笑うボルをよそに、私兵団の面々は鋭い視線をボルに送っている。
「それは残念ですねぇ。ではヴァンガードの皆さんによろしく」
「おう」
そうしてボルトンと私兵団は去って行った。
「知り合いか?」と俺がボルに聞くと、ボルは胸を張りながら「古い馴染みよ」と言い、話し始めたーーー。
side:蟒蛇ガンマク
当方、東亜街の忍『影走り』。フォンド=ブラウンの動向を探る任務で現在待機中でござる。
小高い丘から街道を見下ろし、先程まで燃えていた車両と私兵団と夜盗の戦闘を眺めておったが、相方は無事でござろうか?まあそんなことより当方、月を肴に酒でも舐めたいでござる。とまあ、任務と関係の無い事ばかりが逡巡しているわけで。
その時バサバサと大鷹が現れて、相方が降って来た。
「ガンマク、どうやら二手に別れる様だ」
そう言う相方、特級上忍『影無し』であり影走りの中で唯一御屋形様の言を取り次ぐ事のできる者。その名も『鷹目のシュウ』。
シュウ殿は目深に被ったハットを投げ捨て、顎に手をやると、男装の面の皮を剥いだ。絹のような白い肌と少々受け口な淡い桃色の唇、切れ長の鷹目は見ていて惚れ惚れするほど凛々しい。解き放たれた長い黒髪はすぐさま結い上げられ、黒の布地により美しい顔も鷹目を残して隠されてしまった。
「ガンマク。聴いておるのか?何を惚けておる。まさか酔っているのではあるまいな?」
「滅相もないでござる!!」
「ふん。貴様はフォンドを追え!我はこの場にて”鉄甲衆“が来るのを待ち監視する!」
「ハッ」
と、当方はフォンドの車両を追い掛けた―――。
side end
side:ボルトン=クライスラー
「隊長!先ほどの方はもしかして、あの竜騎士級で?」
部下の一人が少々興奮気味に擦り寄ってきた。
「そうだが?」
「ど、どう言うご関係かと……」
「……上官だった男よ」
「すると隊長は帝国最強部隊の”電撃強襲隊”に!?」
「まあな……。だが電撃強襲隊の様な大剣を振るう部隊なぞ時代遅れも甚だしい。そのような部隊が帝国最強を名乗っている時点で帝国は滅びる運命にあったのだ。時代は変わった」
そう、これからは五大総長……伝統や格式なぞクソ食らえ。出自や家柄に囚われない純粋な能力が問われる時代。だからこそ俺はジュード様に付いたのだ。古きは滅し新しきを創造できる方に!
ウォロック大佐……もはや貴方の様な古い人間が生きていい時代じゃない。貴方はどうせ根性とか気合とか数値化できないような精神論をふりかざすのでしょうね。それじゃ行き詰るのが目に見えてる。必要なのは新しきビジョンと圧倒的な物質力。それがわからないようなら砂海に沈むしかない……。
「隊長?」
「おお、スマン。ではパーウッズ湖へ向かうぞ」
「ハッ!!」
side end
「で、名前が似てるから親近感が湧いてよ。もう個人的に鍛え上げてやったわけよ。そしたら、なんか知らんが戦術とか算用にめっぽう強くなっちゃて、無駄に俺に歯向かう様になって理詰めで責めてくんのよ。電撃強襲隊は無理無理言って出来るもんじゃねぇーのにグダグダと確率がどうのとか、頭がどうにかなりそうなくらいによ。もうそんときは”うるせぇ!気合だ!”って言ってゲンコツ食らわすのがパターンでな。まあーヤツもきっと良い思い出になってるだろーよ!」
とガハハハと笑うボルをよそに、俺はボルトンにすごく哀れみを感じていた。ただ単純に”大嫌い”だったんだろーなと。そして性格が冷徹になったのはボルが原因じゃないのか?とも。数々の繊細な心を持った人達がボルによってハートブレイクしていく様が容易に想像できる。
「ボル。背中から撃たれなくて良かったな」
「背中?冗談言うな、兵士たるもの背中を見せて逃げられるか!俺は死ぬときも前のめりよ!」
「そうか」
もういいや。なんか無理。この脳筋野郎には一生繊細な心と言うものが伝わりそうもない。こう言う時はスルースキルにかぎる。
ふと周りの傭兵達を見ると人数が若干減ってた。その減った傭兵達でさえ火をおこしなにやら持ち寄った酒で酒宴の様相をていしている。緊張感と言うモノがまるでない。ここは熱血脳筋野郎の出番ではないかと、向き直ると、先ほどまでここに居たボルがいない。いやすでに酒宴に混ざってた。俺は首をすくめながら首を横に軽く振った―――。
side:?????
盛者必衰の理。帝国が滅びの憂き目に遭い、あたかも権力が己の手中にあるが如きに振舞うマフィア共。笑止。世は東亜の民にのみ恩恵を享受するべきなのだ。鉄火党の奴らのやり方は古い、我ら鉄甲衆がその刃と成りて神仏に成り代わり、有象無象に跋扈する悪党どもに天誅を喰らわす!
「ゆくぞ!!敵は”ぱうっず湖”にあり!!今宵我ら鉄甲衆がこの大陸中にその名を轟かすのだ!!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」」」
鉄甲衆総勢三百名が黒き鋼を身に纏い前進を始める。
「報告!!物見のによれば街道の中腹に傭兵と思われる一団あり!!」
「数は!!」
「三十!!」
「構わん!このまま全軍にて磨り潰す!!」
「ハッ!!」
side end
side:ワンダ=ライオネルプライズ
パーウッズの広大な湖を隔てて西がフォンドの縄張り、東が我が領土。大型汽船も接岸でき帝国時代は内陸に物資を運ぶ流通路として大いに栄えた。だが今はどうだ?あるのは廃墟と沈没船、うずたかく積まれたドラム缶にコンテナぐらいで墓場のようではないか。どうしてこんなことになってしまったんだろうな?
私は黒々と波打つ水面に散らばる月を眺めながらパイプの煙を吐いた。
フォンド。なぜだか今日は昔のまだ”何者でもない頃”の事ばかり思い出すよ。あの頃の私たちは明日食うモノも満足に得られなかったし、命を粗末に扱う日々でそこから抜け出す事ばかり考えていたな。それなのにどうもあの頃の私たちが羨ましく思うときがあるんだよ。
もしお前が私と同じ気持ちだとしたら、きっと今回の会談で何かを見つけられると思う。
「お父様。お体が冷えますわ。車にお戻りくださいませ」
「いや、ここでいいんだよ」
「ではこれを……」
娘のクローディアが紫のストールを差し出した。
「ありがとう……でもそれはお前が持ってなさい」
そう私が言うとクローディアは強引にストールを私の首に巻いた。
「ダメです。お母様ならきっとこんな風に巻いて差し上げたに違いないですわ!」
「……クローディア。お前は母さんの代わりじゃない。家を守る必要もない。お前の人生はお前のモノで、他の誰のものでもない。好きに生きていいんだ」
「わかっていますわ。だからこうしてここにいるのですから」
そう言ってクローディアは踵を反すと車に戻って行った。
私はつくづく果報者よ。この子のためになんとか平穏な日々を残してやれないものか……私の残りの人生すべてをそこに賭ける―――。
side end
もうね。いよいよ戦いたいわー。
次回へのヒント:世界は夜に動く