28# 片翼の妖精へようこそ!(後編)
遅くなりました(汗
誤字脱字がありましたら知らせていただけると嬉しいです。
夕日が沈む少し前、オレンジ色に染められた街をしばらく歩くと一際大きく丈夫そうな建物に行き着いた。ここに来る道筋で何人か柄の悪い男達がいたが、鼻息荒く目が血走る集団を前にすぐ道を空け、喧嘩になることはなかった。他にも道端に立つ女性と思しき人々が沢山いたがそれより気になったのが、通り過ぎる人々の奇異なモノを見るような視線である。基本俺が見られるのに慣れて無いせいだと思うが……。
石造りの建物には大きな紫のネオン管で”pixy”と書いてある看板がかかっている。ホテルの様に開けたエントランスに踏み入れると吹き抜けになってる高い天井と鳥が羽を広げたような中二階へ昇る階段が目に入った。さらに床には歩く導線に沿って赤絨毯が敷かれ、見るからに高級店の雰囲気。
これは高い!と一般庶民の俺の頭は瞬間的に拒否反応を示したが周りの自警団、ボル、バカラ達の賑やかさは変わらないので杞憂であると言い聞かせる。他にも衛士みたいにサーベルを下げた男達が目に付く。
これがこの世界の銭湯か!!どんな風呂があるのか確かにテンションがあがるな!と俺は腕を組んでいると、バカラがやってきて鍵を渡してきた。
「カイゾウさんの鍵っス!」
鍵?ああロッカーとかのね。なんか昔、家族で行った健康センターとか思い出すわ。
「じゃあまた明日!!」
「明日ってお前……」
と言う間にバカラは過去に見ない程の走力で走り去って行った。なぜかサムアップしながら。
「そんなに風呂が好きか」
手の中の金色の鍵を見つめた後、ふと周りを見る自警団の奴らはいなくなっていた。もちろんボルもいない。一人だけポツネンとただっ広いホールに残された俺。
どうしたものかと辺りを見回していると「お客様」と背後から声。
振り向くとそこには誰もいない。いや見下ろすと丸々としたダンゴ鼻の小男がいた。
「なにかお困りですか?」
そう手を揉みながら笑顔を浮かべるダンゴ。
「いや、(風呂が)どんな感じなのかなと思ってね」
と、鍵を差し出すとダンゴは「ぶっ」とちょっと吹き出してペコペコと頭を下げる。
「もちろんお客様が満足していただける様に当店では色々用意しておりますが?お客様の好みなどございましたらなんなりとお申し付けください」
「んーそうだな。どんなのかわからんから、色々試してみたいな」
そう俺が言うとダンゴは手を口に当て「旦那ぁ好きですねぇ」と肘で小突いてくる。急にフランクになったダンゴが不思議だったが俺は「まあね」と返した。
「失礼かと思いますが、もしやカイゾウ様で?」
「そうだが?」
「ああ!そうでしたか!お噂はかねがね聞き及んでおります!」
どんな噂だろうか?きっと悪い噂に違いない。
しかしダンゴからは歯の浮くような美辞麗句しか浮かんでこない、俺はこそばゆい思いをしながら「いや、いや」と受け流していると。
「どうかされましたか?」
と今度は綺麗なレース調のナイトドレスに身を包んだ艶っぽい女性が現れた。妙に薄くタイトなドレスは一言で言うとセクシーである。
その女性は水っぽい乳白色の長い髪を耳にかけると、俺とダンゴにむかって、ヒールの踵を鳴らしながら近づいてきた。両脇にはメイド服の付き人らしき娘達が女性に付いていた。
なんだろうか?このセレブリティな女は?
そうボンヤリ考えていると、女性の顔が俺の眼前に迫っていた。近っ!
鼻先がくっ付くぐらいの距離にある二つの碧眼は俺の顔をまじまじと見つめる。
「お客様。私が御案内しますわ!」
「お、お願いします」
思わず敬語で答える俺。え?誰なのこの人?風呂屋の人?強引に手を引かれた俺は仕方なく、女に合わせて早足で歩く。その後ろをバタバタと二人のメイドがタオルとかリネン系のなんかを持ちながらついて来る。ダンゴはホールの真ん中で微笑みながら手を振っていた───。
side:ガスト=ブライトリング
「まさかカイゾウがなぁ……」
住民説明会はつつがなく終わり。オレはギルドの天井に向かって煙を吐く。まあ英雄、色を好むと言うししょがないのかなぁー。とこれからカイゾウにかかる金に対して少し落ち込んでいた。
するとマスターが野菜ジュースを俺の前に置いた。
「頼んでねえよ?」
「最近忙しそうだからな、栄養偏ってんじゃねぇかと思ってな。大事なのはバランスだぜ?」
「バランスねぇ……」
今まさに収支のバランスが崩れてるとこなんだが……。うーむ。
「そういやガスト。カイゾウとか他の連中はどこ行ったんだ?」
「そろいもそろって娼館だよ」
「カイゾウもか?」
「ああ。むしろ一番張り切ってたぞ」
「それはおかしいな。アイツ”どんな風呂があるのかなぁ”とか言って石鹸とタオル持ってたぞ?」
「は?」
「おそらくアイツ、何かと娼館勘違いしてんじゃないのか?」
「……」
ありうる。確かに「毎日でもいい」と言ったカイゾウはなんかおかしい。
「アイツ……何しに行ったんだ?」
オレとマスターは互いに首を傾げた―――。
side end
side:シルヴィー=ハーティネス
ギルドの団体が来ると言うからどんな野蛮で粗暴な奴らかと思ったら、こんな可愛い子がいるなんて!本当はやり過ごすつもりだったけど思わず手を引っ張って来ちゃった。他のイモなんて相手してられないしね。もう可愛いチェリーちゃんをどう料理しようかって今から楽しみ♪
まずは私の片翼の妖精きっての魅力的な体で誘惑し、じらして言葉攻めにしちゃおうかしら……。
なんて考えているとチェリーちゃんは部屋に入るなり「うおーすげー」と言いながら、服を脱ぎ始めた。
あら?顔に似合わず大胆なのね。しかたないわ、押し倒してごらんなさいと私は身構えた……。けどあろうことか、そんな私を無視してチェリーちゃんは奥の湯船に飛び込んでいった。
え?ウソ?なんで?私の魅力がわからないの?!信じられない!
「「姉様……」」
メイドの二人にも心配そうな目で見られてる。
チェリーちゃんは奥の湯船で楽しそうに端から端まで泳いでいる。まるで私の存在さえ否定するように……私は思わず拳をキュッと握る。
「そんなの許せない……いえ、許されるわけない」
私はプロよ。こんなことでへこたれてたまるもんですか!見せてあげるわ!私の!このシルヴィーハティネスの本気を!
そして私はドレスを脱ぎ捨てた―――。
side end
いやー最高!風呂最高!人生の洗濯なんて上手い事言った人も居たがほんとだよなー。日本人の俺としてはもう少し温度が高い方がありがたいんだけど。まあ贅沢は言うまい。掛け湯とか泳いだらダメとか作法なんて無視無視!今日は目一杯だらけてやる!
銭湯の風呂とはまず規模がぜんぜん違う。泳げる!潜水できる!広い!それにすぐに休めるように入り口にはキングサイズのベッドもある。なにここ天国ですか?
ひとしきり動き回った後ボンヤリ湯船に浸かっていると。ポチャっと音がして振り向いて即行で元に戻る。なんかすすすすすすすすすすすすごいものを見た。あれ?夢か?見間違いじゃなければさっきのお姉さんがぜぜぜぜぜぜぜぜぜ全裸で湯船に入ってきてるんですけどおおおおおおお!?おい。なんだこのイベント!!聞いてねええええぞおおおおおお!!!
「なんで入ってきてるんですか?」
背を向けながら、よく噛まずに言えたものだ。と言うか俺死ねい!なにげに酷いこと言ってるぞ俺!
「ご迷惑でしたか?」
「いや、迷惑とかそう言うことではなくて……」
「今日初めてですよね?」
「はい」
「私そんなに魅力ありませんか?」
「いえ、綺麗とは思いますけど、俺は風呂に入りに来たのでそう言うのは困……」
「ウソがヘタですね」
とお姉さんは俺の背中へ抱きついた。
全身に雷光が走った。俺は顔から瞬間的に何かが吹き飛ぶ衝撃を受けた。童貞にはキツイ仕打ちだ。それがたとえゲームでも関係なっかった。もうね肌が柔らかい!こんなに女性って柔らかいのってくらい柔らかい!(※混乱中)死ぬ死んでしまう!!!その上二つの弾力ある塊が背中を通して顕著に感じられる。まずい俺の何かが!何かが崩壊する!
「や、やめてくれ!」
と俺はお姉さんの肩をつかみ強引に引き離す。
「ここはこんなことするとこじゃないだろ!(カタコト)」
するとお姉さんは上気した顔で少々目をトロンとさせ、手のひらを俺の頬に寄せた。
「勘違いっ……してるのはっあ……あなたよ?……あれ、なんれ」
お姉さんは体をビクつかせて息荒く語りかける。俺はとっさに手を離す。素手で女性に触ってしまったじゃないか!町蔵おおおおおおおころおおおおおおおおす!!!!!!
「私はシルヴィー……あなたの好きにして」
シルヴィーは唇を近づけそのまま湯船に俺を押し倒した。両手の使えない俺にはどうすることもできない。同時に俺の中で何かが切れた。同時に意識も途切れた―――。
―――そして今に至る。俺は服を着て風呂の窓から朝日を臨んでいる。ぶっちゃけた話、肝心なことは全く覚えていないのだ。ただ結果として失神してるか寝てるかしてる女性が十二人たおれているだけなのだ。
室内は風呂のおかげで風邪をひくこともなく暖かいが、裸と言うのも忍びないと思った俺は早々に酷く怯えていたメイド一人を捕まえ。服を着させてあげてくれと頼んだ。
メイドは意外だったらしく胸をなでおろすと、忙しく女性達に服を着させ始めた。俺をなんだと思ってんだ?
シルヴィーはベッドにもぐりながらなにやらニヤけている。それを見るとなんだかこっちまでニヤけそうになる。
わかったことが一つ。あの汚い奴らが「風呂に行く」と言うのは「風俗に行く」と言う隠語だったっていうこと。まあ俺がちゃんと聞かなかったのが悪いんだけどね。さて帰るかとドアを開けるとホールに自警団、便利屋、バカラ、ボルが俺を見上げてた。なぜか全員満面の笑み。
俺が無愛想に集団を掻き分け帰ろうとすると、急に首が絞まる。
ボルが満面の笑みで俺の頭を脇に抱えているのだ。
「ボル!!てめぇー!!」
「カイゾウさんっ!!十二人咲きっスか!!タフすぎるっス!!」
首を絞められながら、目の前のバカラがスゲー目をキラキラさせながら俺を見る。周りの奴らもニタニタと失笑をこらえているようだった。
「ダアっ!!」
とボルの腕から頭を抜いて襟を正すとボルはポンッと俺の肩を叩いた。
「まあ俺も、長年竜騎士級と呼ばれてきたがお前みたいなヤツは見たことが無い。潔く負けを認めよう!そして今日からカイゾウは新たな称号を得る!」
「はい?」
「その名も”夜の竜騎士級”だ!!」
もう爆笑された。腹筋死多数。なぜ俺がこんなに笑われなければならんのか!その日はガストとマスターにも笑われ、よくわかってないニコにも微笑まれ。一日中小さくなっているしかなかった。そしてその不遇な称号はなかなか消えることはなかった。
後日談だが、町蔵にぼやかしながら昨晩の記憶障害の事をそれとなく聞いてみると。「そりゃお前、多分ヤバいぞ。そう言う能力にはかなりの補正がかけてあるから(俺様のために)良くて絶倫、下手すりゃ腹上死だな。メンゴメンゴ」とか言って笑ってた。もう何回町蔵を頭の中で撲殺しただろうか、俺は絶対に女性にはかかわらないと誓い、呆れて息を吐いた───。
side:シルヴィー=ハーティネス
「う……もうむり……うん?……ウソ!?寝ちゃったの私!」
「「シルヴィー姉様!」」
メイドが心配してベッドの両脇から顔を覗かせる。なんだか恥ずかしい……。そうか負けちゃったんだチェリーちゃんに……。もう顔で判断するのはやめる……。
「大丈夫。心配しないで……でも今日は立てそうにないからこのまま寝かせて……」
「支配人が」
「言ってた」
「「あの人、漂流街の王だって!!」」
「そう、でももう関係ないの。私なんかじゃ慰められそうもないもの」
もう会うこともないかもしれないけど、がんばってねチェリーちゃん、いえ”漂流街の王様”―――。
side end
ある意味 伝説 !!
次回へのヒント:フォンドファミリー