3# つい魔が差して二次元
いよいよはじまる二次元世界w
店と表を仕切るガラス戸を閉め、鍵を掛ける。カーテンを引いたらもはや俺の邪魔をする者は居ない。思う存分ゲームに集中できるのだ。と、その前に腹が減ったのでちゃぶ台にあるカレーライスを食べる事にした。
夕食後、部屋に向かう途中親父の部屋に差しかかる。明かりが点けっぱなしだったのでヤレヤレと、襖を開けた。そこには当然の様に佇むタマゴ『M.R.I』と、起動済みでスクリーンセーバーのパッ○マンがエイリアンを食べてるPCのブラウザ。
「……」
きっと、魔が差したんだと思う。今日親父がやって見せなければ、今日俺がたまたまPCゲームを買わなければ。きっと『M.R.I』に触れもしなかっただろう。その時俺の心にあったのは純粋な好奇心。『もし、このゲームをM.R.Iで起動したら』そう思った俺は吸い寄せられる様にゲームをディスクドライブに挿入していた。
親父が説明した通りに『M.R.I』のアイコンをクリックし。『Rajikaraizu』を選択する。タマゴ型の機械の表面の突起を押すとキキキとリクライニングチェアーが出現。服を脱ぎ親父並みの貧相な体を全開にした俺はリクライニングに座る。もう止まらなかった。『主役になれる』と言う妄想に酔っている俺を止める物は何もなかった。パーマ機みたいな金属製の輪っかを引き寄せ、目と口、耳をマスクで覆う。左手でカプセルを閉めた──。
──真っ暗だ。最初ヒィーンと言う音と頭にほんのり暖かさを感じた以外何にもない。今は真っ暗闇の中で歩いている、いや歩いているのかさえわからない。足が見えない、足は動かしていると思う。顔を触ろうと手を伸ばすが手も見えないし、触った感覚もないのであるかわからない。意識だけが虚空を漂っている感覚とでも表現しようか。
その時、真下から一瞬で音も無く白い世界に変わった。高速道路のトンネルから抜け出した時の光に似ていた。そしてストンと何かに『落ちた』落ちたと言うのは尻餅を着いたとか触覚的な感覚でなく、例えるなら夢の中で動いていてビクンと現実でも動いてしまい、それ自体に驚いて起きてしまう感じ。
身体が熱い。ジワジワと身体の末端まで暖かさが流れ混む。シャリっと砂を掴む感覚。ああおそらく俺はどこかで腰を下ろしているんだ。瞼の裏が明るい、耳にも何やらガヤガヤとした喧騒が聞こえる。俺は少しずつ瞼を開いた。
まず始めに目に飛び込んで来たのは青空と照りつける陽光だった。それを縁取るように白と灰色の混ざった汚い髪の毛。これは前髪だなと思わず笑みがこぼれる。遂に俺は二次元の世界にやって来たんだ!と一人でガッツポーズをする。握った拳を見る限り俺の肌は白い。顔が見れないのは残念だが髪の毛はボサボサの長髪で頭を触ると禿ではないらしい。身体は本来の身体とあんまり変わらずひ弱で服は深紅の布一枚。え?そんな装備で大丈夫か?そのボロボロの赤布は右肩で結ばれタイの坊さんみたいになっている。もちろん下着は無い。他にはなんか無いか!?と辺りを見回すと。背中と日乾しレンガに挟まれた隙間に紐の付いたデッカいナタみたいのが出てきた。中華包丁程の広さで長さは約二倍、厚みが出刃包丁の三倍はあろうかというでっかいナタ。刃はボロボロで刃と背があんまり変わらない。持ち手はサーベルみたいに輪っかになっており握ってもすっぽ抜ける事はなさそうだが、両手で握るには長さが足りない。ナニコノ蛮族が使う武器みたいなの……。命名『蛮族ブレード』俺は蛮族ブレードを握ると結構振れた。思ったより重くないのだそれこそ万能包丁レベルだ。さすがはゲーム。俺は繋いである紐を肩に通し袈裟懸けにした。立ち上がって辺りを見回し状況を確認する。
どうやらここはバザールの露天と露天の間の小路を少し入った所らしい。地面は砂。サラサラとした砂漠っぽい砂である。落ちていた野球ボールくらいの石を拾い思いっきり握ってみたが割れない。なるほど。ちょっと身体強化されたぐらいなんだなと、顎に手を当てて納得する。
さて、どうするか。崩れた日乾しレンガから顔を出すと砂漠が広がっている。振り返れば建物が一杯、ここは街かなんかの端っこらしい。迂闊に出て殺されちゃったりする事だってありえるわけじゃん。暫く対策を考える事にした。
つーかチュートリアルとか無いのかよ。普通あるだろ?うーんまあ無いものに頼っても仕方ないけど、案内人的なモノも無いのかー。こんな初めっから人に会わないゲームで目的もよくわからないゲームなんてあるのか?まあ、仮に死んでもコンティニューすればいいよな。と、開き直った俺はバザールのメイン通りに出てみる事にした。
ガヤガヤと賑わうバザール。一見中東のそれを思わせるが働いている人達はアラブ人だけではなく、ヨーロッパ系やアジア系の顔立ちの人達も目立つ。服装も真っ白いローブを着た人や、綿生地のジャケットを着た人など多種雑多にわたり、文化水準も高いと思わせる。売っているものは骨董品から食材、武器なども拳銃から手榴弾、対戦車ロケットまで売っている。日本じゃ異常だがあくまで地球規模で考えると普通だ。違和感はあんまりない、違う事と言えば荷物を運んでいるのがラクダではなく、デッカい鳥だったり。ヘンテコな野菜や、角が沢山付いた家畜が売られている位である。耳に聞こえる商人の声を聞けば完全に日本語であり、それを聴きリスニングは大丈夫だと安心した。そして、俺は骨董品屋の暇そうにしている恰幅の良い店主に話しかけようと近寄った。
「……」
「なんでぇ。テメェ。恵んでやるもんなんかねぇぞ!」
いきなり敵意剥き出しでシッシと手を振る店主。まあ、こんな格好だし金持ってなさそうだしあたり前か。
「……だ」
「あん?なんだ?まだなんかあんのかテメェ?オメェみたいのがいると客が寄り付かねえんだよ!さっさと消えやがれ!」
「……」
石とか投げられそうだったので、骨董品屋から距離をとった。店主はまだコチラを睨んでいる。そんなことよりあんまり声が出ない事に驚いた。なんか喉がイガラっぽくて声が出にくいのだ。て言うか……俺主役だよね?なんかおかしくね?完全に負け犬設定じゃん。なんかあまりにも惨め過ぎて泣きそう。しょうがないので再び街に向かって歩く事にした。
暫く歩くと、砂から石畳が現れ足の裏にゴツゴツとした感触が伝わる。緩い坂道になっても賑わいはそのままで、コンクリート製の低い建物も増えて行く。と言っても崩れた廃墟みたいな建物もポツポツあったりする。看板の文字は英語と思わしきアルファベットが並んでいたり、平仮名を崩した字だったりと日本人な俺に取って易しい街である。賑わいも変わらず露天が連なって道の両脇をひしめき合って極彩色で暑苦しい雰囲気だ。キョロキョロと辺りを見回しているとドンと肩がぶつかった。
「……」
「お、わりぃ!」
ぶつかった男は俺くらい若く色白の男。逆立った髪を無理矢理ワックスで潰したような黒に近い緑の髪で。袖を巻いたYシャツにベスト、ネクタイ、折り目の付いたスラックス、革靴と清潔そうな男だった。何より目に付いたのは丸いフレームのサングラスと、表面に『爆』と書いてあるトランクを持っていた事だった。
「どうした兄さん?オレの顔になんか付いてる?」
「いや」
「それより旅人……?じゃねーよなぁ?まあいいや、大変そうだけど、頑張れよ!」
「ああ」
と言ってその少々胡散臭そうな男と別れた。なんだ助けてくれるわけじゃねぇのかよ。返事くらいはできるようになった喉に感動しつつ、ちょっぴり期待してたので少々落ち込んだ。
少々読みにくい感じになったなぁと、反省します(>_<)
ヒント:前回と同じ