27# 片翼の妖精へようこそ!(前編)
まさかの前編後編(笑)
そしてまさに無駄なやる気。
※今回の話は卑猥な話なので、読みたくない方は飛ばして頂いてけっこうです。ちなみに飛ばしてもストーリーにはあまり影響はありません。
「……ここはどこだ?」
かなり朦朧とした意識の中、俺は立ち尽くしていた。なぜか服は着ていない。飲みすぎた翌日の様な頭痛が俺を襲う。暗がりの中明かりを点けようと気だるさを押して踏み出す。で躓いた。何か柔らかいモノに手が当たっている。なんだこれ?何か暖かい?うえっ?!
それは女性の胸であった。目が闇に慣れた頃、辺りを見回すと十何人の素っ裸の女性が部屋のいたるところで、死んだ様に倒れている。
「どうしてこうなった……」
その時、激しい頭痛と共に俺は全てを思い出したのであった。
時間は十数時間前にさかのぼる―――。
俺はギルドのカウンターに座り、首を捻っていた。昨日の訓練で肉体を酷使したせいか、体中が軋んでる。ボルの野郎ジャーマンスープレックスまでかけやがった。まあこっちもシャイニングウィザードお見舞いしたからお互い様だが、結果は五分五分と言った所。
そのボルはと言うとさっきから背後のドア付近でガストとなにやら口論している。まあ首突っ込んだところで藪蛇なので放っておく。今の俺にはそれよりも朝飯の方が重要だ。
「今日はニコが作ったんだよ!!」
と可愛らしい声で差し出されたのはサンドイッチだった。しかしこのツインタワーはなに?ハンパない量なんですが?正味八枚切りのパンが具を挟んで十枚、積み上がってる。
「すごいな!ニコ!」
「えへへへ」
と、照れてるニコに萌えながら意を決して一枚目にとりかかる。
一枚目卵サンド(殻がちょっと気になる)
二枚目ハムサンド(マスタードが山盛り)
三枚目ひき肉サンド(これ肉生じゃないか?)
四枚目鶏肉?サンド(すげぇ細かい骨が)
五枚目豆サンド(無味)
六枚目……。
と言う具合にニコの作ったサンドイッチは決して褒められたものじゃなかった。けど一生懸命作ってくれたと思うと文句なんか言えなかった。最後のフルーツサンドは妙に美味かったが。最後に甘いのは胃にこたえる。ゲーム内で腹が一杯と言うのも変な話だが、苦しいモノは苦しい。
「おいしかったよニコ」
「また作りますね!」
と、まぁ嬉しそうに皿を引き取っていった。
「マスター。ちゃんと教えてやってんのかよ」
「俺も説明すんのうまくねぇからなぁ……まあ初めてなんだからあんなモンだろ。時期にうまくなるさ」
「これはしばらく続きそうだな……」
少々今後に憂いを残しながら、俺は頬杖をついた―――。
side:ガスト=ブライトリング
「ダメに決まってんだろっ!!」
「そこをなんとか頼む!!」
ボルの野郎……。竜騎士級が泣くぞ。訓練した自警団を”娼館”に全員、慰労を込めて連れて行きたいだと?ふ ざ け る な !どこにそんな金がある!いくら漂流街(田舎)の娼館つったって一人頭一晩三万cはかかるんだ。自警団八十人としても二百四十万cかかるんだぞ!!話にならねえ!究極の無駄遣いだ!!
「いやー約束しちまったし。このままだと暴動が起きてもおかしくないぜ?なんだったら俺への報酬を無しにしてもいいからよ!」
「アンタの報酬は始めっからカウンターの修理費に当てるんだよ!」
「ケチクセェ事言うなよガストぉー。頭固いと誰も付いてこねぇぞ?金をパーッと使ってこそ大物だろうが」
「小物で充分だよ!だいたいアンタ金もねーのに何でそんな約束しちまうんだよ!」
「なんでかなぁ、こう、若い訓練兵見ると親心が湧くって言うのかな。つい構いたくなるんだなぁー」
「理由になってねーよ!ダメダメ!絶対に金は出さないからな!!」
オレが言い切るとボルはデカい体を小さく丸めながら、トボトボと力無くカウンターへ向かって行った。
カワイソウ?全然気にしてないぜオレは。だって新ギルドの発足に金はいくらあっても足りないくらいなんだ。こんなところで無駄な金を使ってなんかいられない。
さてそろそろ、住民説明会の時間だ。と懐中時計を確認したオレは扉を手にかけた。すると包帯だらけのご太い腕が扉を押さえつけた。出られないんですが?ボル?
ため息と共に振り向くと満面の笑みのボルと、なぜか隣にカイゾウがいた。
「悪いなガスト。カイゾウも行きてぇんだとさ」
「え?カイゾウも行くの?」
「あたりまえだろ。俺としては毎日行ってもいい。第一、けち過ぎんだろ。そんくらい全員連れてけよ」
「毎日?!」
「これはガスト。行かなきゃマズイ事になるんじゃねぇか?」
「……」
これは予想外の展開だ。まさかカイゾウまでやる気満々で参戦してくるとは!!くっ!!この二人に暴動に加わられては計画どころの騒ぎではなくなる!うーんうーん!考えろオレ!
「……仕方ない。ただし、店はオレが指定するからな!!それとボル、支払いはアンタのこれからの報酬を当てるからな!!いいな!」
「よっしゃあ!いくぞ野郎共!!」
「「「「ウオオオオオオオオオッッッッッ!!!!!!」」」」
表に待機していた自警団と飛び出したボルが一緒になって騒ぎ出した。オレはため息混じりに首を振った後、バカラを手招いてアホどもが向かう娼館の場所を教えた。八十人もの飢えた野獣共をすべて受け入れる店は”片翼の妖精”一つしかない。下手に悪い噂でも立てばギルドの看板に傷が付くので少々無茶しても融通の利く店を指定した。
一応店に連絡しておくか―――。
side end
びっくりしたねコイツらの騒ぎように。しかしコイツら、そんなに”風呂好き”だったとは俺も予想外だった。しかしガストもケチな奴だ。ただでさえコイツら汚ぇんだから風呂くらい入れてやれよ。
ボルなんか「ひとっ風呂浴びるだけなのに……」って落ち込んでたし。そのへんは文化の違いなのかもしれないが、俺は断固として譲らないね。清潔なのは良い事だぞ、と。
「カイゾウさん!!」
集団の最後尾を歩いていると、バカラが嬉しそうに声をかけてきた。
「なに?」
「カイゾウさんはどういうタイプがいいんですか?」
タイプ?風呂の形とかお湯の事かな?
「俺はなんでもいいよ」
「!!?」
するとバカラは「デケェよ……カイゾウさんはやっぱ器がデケェ」とかなんとかブツブツと呟いて消えて行った。
なんなんだアレは?まあ日本人の俺としては露天で乳白色の温泉とかだとテンションは上がるけどさ。あんまりこだわりとかはないわけで。おそらく鉱泉だろうし……。あ、そうか!水を大量に使う風呂はこう言う砂海だとすごい贅沢な事なんじゃなかろうか。
となるとここの住民からすれば風呂と言うのは一種のアトラクション的な楽しさがあって、その風呂屋もきっと俺が想像するような銭湯とは違うのかもしれない。
それでコイツらこんなにたのしそうなのか!なるほどなー。と俺は顎に指をひっかけて肯いた―――。
魔王が覚醒する……のか?
次回へのヒント:後編