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ラジカライズアワー  作者: 九郎士郎
激流編
26/39

24# ドラゴンキャリバー

王の帰還。

side:ガスト=ブライトリング


 盗賊との一戦を終えて、漂流街に着いたのは翌日の早朝だった。オレは長時間の運転に一服しながら助手席を見る。

 そこにはコートのファスナーを上まで上げて、顔をうずめているカイゾウがいた。

 良くそんなに寝れるな。と半ば呆れたように感心している。

 盗賊に襲われたのは冷静に考えればヤバかったのかもしれない。完全にオレのミスだ。なんかカイゾウといると、その辺の危機感がぼやけて仕方がない。便利屋は過去にこだわらないと言いつつも、カイゾウの事に付いて知りたい自分がいる。だが、それによってカイゾウが便利屋を辞めると言われるのは困る、ホントに困る。なにせオレの見つけた”金のなる木“なんだからな!


「オイ起きろよカイゾウ」

「あ?……昼飯か?」

「バカ、食うなら朝食だろ」

「ああそうか」

 カイゾウはまたボケた事を言い腕を伸ばし、大きく欠伸をした。


 オレは倉庫にトラックを入れて、カイゾウと共にギルドへ帰る。

 道すがら、聞いてみた。


「カイゾウ」

「あ?」

「便利屋ってのは盗賊に襲われたり。他にも狂犬みたいなヤツらとドンパチしなきゃならない。最悪マフィアとかと話しがこじれりゃ、ヤらなきゃいけない事もある。お前はそれでも便利屋をやるのか?」

 オレのこれからの計画にはカイゾウが必須条件だ。半端な覚悟で臨んで欲しくない。オレの期待を裏切らず、金を稼ぐ便利な駒。

 いや……そもそもオレは騙し騙されのこの世界で、唯一信頼をおける、本当の”仲間“を探していたのかもしれない。それがカイゾウだとは言わない。だが、試す期待は十分すぎるほどカイゾウは魅力的である。


「冗談だろ。俺はガストに借金がある。その分だけ働くつもりだ。借金がなくなったら辞めてやる」

 あんなテキトーな借用書が効いてるのか!?そうか!これは嬉しい誤算だ!なら借金分働いて貰おうじゃないか!オレのテキトーな返済計画でなっ!


「そうか……わかった」

 と、オレは吹き出しそうな笑いを必死に抑えて言う。


「どうでも良いが腹が減ったな」

「マスター起こしてなんか作らせよう」


 そんな話しをしながら俺達は朝日が上る大通りを歩き、ギルドへ向かった──。



ギギ……ギチ


 相変わらずドアの調子が悪い。マスターも直せばいいのになぁ。

 と、そんな事を考えながらギルドに踏み入れると、人人人でいっぱいだった。ああ?なんだこりゃ?朝っぱらから何やってんだ?

 オレは人混みに身体を捻り込ませながら、ぽっかり空いたカウンターの手前の空間に出た。


「あ!ガスト!聞いてくれよ!」

 と近づいて来たのはトゲトゲ頭のバカラだった。


「なんだ?この騒ぎは?」

「だからよ!その原因がそこのオッサンなんだよ!」

 バカラが指差した先には、猛獣グリズリー並みのデカい背中があった。あれ?おかしいなイスが小さく見える。


「で、そこのオッサンがよ。『漂流街の王様会わせろ』ってしつこくてよ。居ないっつってんのに次は『帰るまで待つ』と来たもんよ」

「追い出しゃいいじゃねーか」

「それがよ、ほら」

 バカラが顎を向けた先を見ると、気を失って狂犬の妹に介抱されてる便利屋の山。

 なる程な。歯が立たなかったのか。ギルドはドンパチ禁止だしな。しかし、強いな。勧誘してみるか?見たところ帝国兵崩れか。うーむと、どう交渉すか値踏みしていると脇から赤いのが通り過ぎた。


「カイゾウさん!」

 バカラの声を無視したそれは、猛獣グリズリーの横に座りマスターになんか注文している。

 腹、減ってるつってたけど空気読めよ!

 カイゾウは気だるそうにイスの背にもたれかかった。

 すると先ほどまで酒をかっくらっていた男がジョッキをカウンターに置く。マスターがニコニコしてる所を見ると、自家製ウォッカがしこたま売れたらしい。

 男はふらつきながら立ち上がる。

 デカい。二メルトルは余裕で超える巨人。その上、上着の上からでもわかるくらい筋骨隆々で、丸太みたいな腕には包帯がグルグル巻いてあった。カーゴパンツに鉄製の防弾剥き出しのブーツ。上着はジャンパーを羽織っている。そして頭はバンダナを巻いた金髪。

 これは無理。カイゾウでも無理……あれ?なんかこのオッサン見たことあるぞ?どこで見たんだっけ?


「お前が漂流街の王、カイゾウか?」

「悪いが疲れてんだ、後にしてくれ」

 質問からして受け付けてねぇ!まあ、その、運転し続けて疲れてんのはオレで、テメェは寝イビキかいてただけだけどな!


「強いらしいな?」

 断ってんのにこのオッサンも空気読めてねぇ!わけわからん!


「最弱だよ」

 カイゾウは適当に喋るし!どうなんのコレ──?


side end



side:シャーギィ=ゴートレイル


「で?また抜け出したのか?」

「ハッ!ウォロック前大佐殿のガレージのバイクが消えておりましたので館内を調べました所、どこにもおられません!」

 私はキャンベル中尉を前にして溜め息をつく。

 相も変わらず書類の山になっている机の上で両肘を付いたまま手を組む。


「放浪癖には困ったものだな」

「場所はわかっています、漂流街です」

「なぜだ?」

「えっと……」

「言え」

「ハッ!以前、前大佐殿にお会いした時に『漂流街の王』の話しで盛り上がったものでして、それはもう上機嫌で『面白そうだ』『一度見たい』と仰っていらっしゃったので……きっとそうではないかなと」

「そうか……もういい下がれ」

「ハッ!」

 大佐の職を失ってからの方が酷くなっているな。


「ボル。まったく……歳を考えろ」

 私はまた溜め息を漏らした──。



side end



 まだ頭がぼうっとしている。低血圧?

 一日中飲み食いしなかった空腹感で死にそうではある。身体のダルさと空腹との戦争。マチゾーは良い。ガストにエサをもらったらしいからな。ガストはなぜ起こしてくれない?聞いたら『起きねぇんだろーが!』で一蹴。

 ギルドに着いたら着いたで、変なデッカいのが見下ろすし。うるさいしな。


「俺と戦え」

 何言ってんのこのオッサン。バカなの?死ぬの?最弱つってんだろ?

 オッサンは無精髭の生えた赤ら顔で俺の顔を覗き込もうとする。


「どうしてアンタと戦わないといけない?」

「理由が必要なのか?」

 なんだこのオッサン。○牙みたいな事言って。超 め ん ど く さ い 。


「必要だろ?何が楽しくて戦わなきゃいけねーのさ」

 そう適当に返事してる間にマスターがホットサンドとフレンチフライが乗っプレートを俺の前に置いた。

 ようやく飯にありつける……。


「そうか、なら勝手にやらせてもらおう!」

 完全に意識の外に漏れていたオッサンが唸る。じゃあなんで聞いたよオッサン。

 俺がツッコミを入れる前に振り下ろされる拳撃。すんでのところでかわす俺。

 バババリッと粉砕されるイスとカウンター。俺は朦朧とした意識の中、宙を舞うホットサンドとポテトを眺めてた。これがホントのフライドポテトか。

 その後もオッサンは拳を突き出す。が、俺には蚊が止まっている様に見えるので、最小限の労力で避ける。


「うがぁぁああ!!」

 ハイハイ、ワロスワロス。


 それからオッサンは十分くらいほぼ無酸素運動で手を出し続けていたが、ようやく諦めたのか大きく肩を上下させ床に四つん這いになった。

 俺も軽く運動したせいか、頭は正常に戻っている。

 すると周りの声が耳に入って来た。


「さすがカイゾウさんだぜ」

「役者が違う」

「弾丸をすり抜けるってのはあながち……」

「神業過ぎる!」

 買い被んなよ。俺はゲームから脱出できりゃいいんだよ?ただ闘うのがめんどくさい。それだけだ。


「なるほどな……」

 オッサンはそう呟くと息を調えて、再びイスに腰を下ろす。ギチギチとしなるイス。


「俺ぁボルフィード=ウォロック。一応ヴァンガード兵だ。漂流街の王様が悪党だったら懲らしめてやろうと思ったんだが、まあなかなか悪くない!」

「オッサンなぁ、食事中は静かにって習わなかったのか?」

「ハッハッハッハッ!そりゃあ悪かった!お詫びに奢ってやるよ!カイゾウ!」

 と馴れ馴れしいオッサンはポケットを探る。が出てきたのは銅貨三枚。

 マスターと俺の顔が引きつる。


「ん?足りないな。スマン!金は無い!」

 何堂々と無銭飲食宣言してんだコイツ。これだから酔っ払いは嫌だ。


「はおわ!!!」

 とガストが叫ぶ。店内に居る男達の視線が集まる。


「なんだようるせーなガスト」

 ガストはオッサンに指を差しながら震えている。


「馬鹿!!戦神ボルフィードだぞ!ドラゴンキャリバー(竜騎士級)だぞ!知らねーのか!?」

「はあ?」

 それからガストはボルフィードについて、しゃべり倒した。

 なんでもこのオッサンは、帝国軍時代で武功の最高位であるドラゴンキャリバー勲章を貰った最強の軍人なのだそうだ。過去に貰った人は数人で、それも本来部隊に与えられる勲章であるが、オッサンは”一人“で貰ったそうでなんか有名人っぽい。

 なにこの化け物。三國○双かよ。


「オイオイ。あんまり褒めるなよ、何も出ないぞ。まあよ、昔の事だし今はヴァンガード兵だ」

「でもアンタたしか大佐だろ?」

「残念だが先月、平に降格した」

 オッサンは肩を落とし落ち込む。

 まあ、なんとなく理由はわかるけどな!

 ガストを見ると、なんか嬉しそうに口を押さえている。なんか企んでんな。


「ボルフィードさん。ここの修理代とか飲食代とか慰謝料とか私が持つので、今度仕事御願いできませんか?」

「なんだ?気持ち悪いな。ボルと呼べボルと。あと俺はまだ三十代だオッサンは禁止だ!んまあ、仕事に付いては良いだろ平だし。平は掛け持ちも多いからな」

 ガストは小さくガッツポーズを決める。そして嬉しそうにブツブツとなにか呟きながら、便利屋の台帳を差し出す。


「ボルフィード=ウォ……ロックと。これで良いか?」

「おお!よろしくなボル!!」

「おうよ!」

 こうしてなんかよくわからんオッサンが、ギルドに入った。イライラしていた便利屋達もオッサンがドラゴンキャリバーだと知ると、オッサンを囲んで飲み会が始まってしまった。

 まあほら俺、酒強く無いし遠慮するわ。


 おれは小脇にホットドッグの入った紙袋を携えて、その場からはなれた。酔っ払いウルサいし。


 中二階に上がると、水が入ったバケツをフラフラと運ぶニコが居た。

 バケツを持ち上げてやるとニコは満面の笑みで「おかえりなさい!」と腰に抱き付いてきた。

 やめなさい!そう言うのはお兄さんには殺人的だから、免疫が無いから!

 俺はポンポンとニコの頭をたたき。


「ただいま」

 と言った。その言葉がなんだか懐かしく思えた──。




ホットドッグ食べたいです。パンとソーセージのシンプルなヤツを。


次回へのヒント:ギルドの運営方針

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