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ラジカライズアワー  作者: 九郎士郎
激流編
21/39

20# 中流街ドミノ

基本的に固有名詞が沢山出て来ますが、直ぐに出てくる事はあまりないので、気にしないでくださいね!

 出発してから五時間。俺はダッシュボードに行儀悪く脚を投げ出してうたた寝していた所、トラックの急ブレーキで完全に目覚めた。

 そこは検問所みたいな所で、道路(?)脇にある簡素な小屋の前にヴァンガード兵らしき男達数人が手旗を振っている。

 ガストはトランクからクリップされた数枚の紙を取り出すと、ソロソロとトラックを検問所へ走らせた。


「まいどーお勤めご苦労様です!」

 ガストは近寄って来たヴァンガード兵に元気よく声をかけた。

 近寄って来たのは無精髭に横縞のニットをかぶった小男、その上ネクタイもダルダルでシャツもカーゴパンツからはみ出していると言う見るからにだらしない男であった。

 男はガストから手渡された資料と小袋を表情も変えずに受け取ると、持っていた帳簿にチェックを入れ始めた。


「ガスト、なんかあっちの方じゃごたごたしてるらしいじゃん?」

 小男は目深にかぶったニットの隙間から目をのぞかせながら、ニヤリと笑った。


「そうかな?オレはよく知らないな。ちなみに目的はコイツを医者に連れてくだけだ」

 ガストは後ろ手に俺へ親指を向ける。


「ほーう。ま、問題起こしてくれなきゃ俺はなんでも良いけどよ」

「オレもアンタが当番で助かったよ」

「俺は気前の良いヤツの味方さ」


 小男はそう言うとガストに資料を返し、突き上げた拳を回し前方の兵士に合図した。

 ガストは小男に軽く手を上げてトラックを走らせた。


「ツイてるなカイゾウ」

「なにが?」

「さっきのはソル=キュライアスっつう不良兵士でな、小金掴ませりゃ簡単に通してくれるんだ」

「当番とかのヤツか?」

「ああ、他のヤツならしばらくあそこで缶詰めだったからな」

 確かにあんな砂漠の真ん中で待ち惚けなんて、暑さで死ぬ。せめてトラックを走らせ、気化熱を利用した涼気を得たい。そう言う意味で俺はラッキーだと思った。

 それにしてもガストはその若さで顔も広く、ちょっとセコいが頭も悪くない。その努力を思うと自分が恥ずかしくなった。自分などこの歳でゲームばかりして挙げ句に閉じ込められるなど、全くガストと比べモノにならない。さらに経緯はどうあれ、ガストは俺の目の治療をするためにハンドルを握っている。

 せめて一言お礼を言って置くべきか?


「ガスト」

「しっ!静にしろ!」

 俺が言いかけた瞬間、ガストは神妙な面持ちで人差し指を口に当てた。

 俺は辺りを見回す。ガストとは経験値がまるで違う。俺などカーラジオのカントリーな音楽しか聞こえなかった。おそらく敵だろう。

 しかし全く敵の姿が見えない。どこから来る?ガストはハンドルを握っているから俺がなんとかしなきゃならない。A.Tは使えない。かなりピンチだ。


「ガスト!敵はどこだ!」

 静かにと言われたが、発見出来ない以上ガストに頼るしかない。ガストは真剣な顔で、前方を眺めている。車内に響くのはカーラジオから流れる可愛らしいDJの声だけだ。


「ガスト!」

 無反応のガストに俺はもう一度声をかける。


「黙れ!殺すぞ!ラジオが聞こえねーだろーが!ルルカちゃんの声にテメェの無粋な声を重ねんな!」

「え?」

 あれあれー?なんだコレ?コイツ……最初から”ラジオを聴くため“に俺に黙れと言ってたのか?そんな重要な情報が?カーラジオに集中してみる。


『ラジオの前のみんなー!元気にしてた?いつもお昼の放送だったけど今日だけ時間を変更して今から”ラジカライズアワー“放送しちゃうよっ!でもー!時間があんまりないから一曲だけ!悲しまないで……ルルカ、この一曲を全力でみんなに贈るから!受け止めて!』

 その後、ラジオからはアップテンポな音楽が流れ出した。

 ガストを見ると、なんとも言えない幸せそうに緩んだツラ。

 きっと俺は冷徹な表情だったと思う、だって実にスマートにガストの頬へ左ストレートが伸びていたから。


「ぐべらっ!」

「ただの音楽番組じゃねーか!」

 ガストは割れたサングラスのスペアを素早く装着する。


「ただの音楽番組ではない。それ以上ルルカちゃんの悪口を言うなら、降りてもらうが?」

 形容しがたい禍々しいオーラを背負いながら、ガストはサングラスを中指で押し上げ。冷静に言い放った。

 俺はガストの妙な迫力に押し黙るしかなかった。コイツは本気だ。本気で砂漠の真ん中に置き去りにする気だ。以後ラジオの事は触れないでおこうと心に決めた。

 寝てしまおう。俺は目を瞑った──。




side:ニコ=ウィンチェスター


 今、神様はどこかな?兄ちゃんは?かべにはってある地図を見てたら。トゲトゲの頭のおじさんが指を地図に置いた。

 漂流街から上の方の街『ドミノ』。


「カイゾウさんはここだ」

「おじさん!兄ちゃんは?」

「おじっ!おじさんじゃない!バカラさんだ!狂犬は知らん!」

「バカラさん?」

「そうそう!大体カイゾウさんとタメなんだからそう……は!同格なんてとんでもない!俺とした事が!なんと言う驕りか!バカラ!と呼び捨てにしてもらおう!いや!それでも恐れ多い!”おじさん“……甘んじてその呼び名を受け入れようじゃないか!」

 バカラさんはなんか泣きながら、両手をグーにして天井を見上げていた。ちょっとバカラさんは左手から肩にかけて竜のタトゥーをしてるから怖い。

 ニコはそれを無視して、テーブルに座ってカメラを磨いている、金髪のクロトさんへ近づいた。


「よ!ニコちゃん。丁度良かった。次の新聞でカイゾウの特集やろうと思うんだけど、どの写真が良いか迷っててね」

「?」

 クロトさんは胸ポケットから出した沢山の写真をテーブルに広げた。


「良かったら選んでくれるかな?」

 そう言うと、クロトさんは優しく微笑んだ。

 ニコは袖を捲り、椅子の上に立って写真を眺めた。


「わぁー」

「どうだい?良い写真だろ?ほらニコちゃん笑って!」

 パシャパシャとクロトさんはカメラを構えて私を撮る。

 ニコは気にしないで。神様が沢山写った写真を眺めてた。


「狂犬ベルカの妹、漂流街の王に何を思うの図!明日の朝刊はコレでいただきだな!すーっぱーぬっきぃー!盛り上がってきたコレー!」

 ちょっとクロトさんうるさいです。

 ニコは一枚の写真を手にとった。右側の兄ちゃんが神様に顔を近づけていて二人の間にニコが居る写真。


「それ?んー。あんまり漂流街の王って迫力が……」

「クロトさん!コレください!」

「えあ?ああいいよ?その代わり後から質問させてね?」

「はい!」

 ニコは急いで自分の部屋へ帰る。

 ベッドに寝転がりながら写真を見る。兄ちゃんと初めて撮った写真。神様と初めて撮った写真。三人で撮った初めて撮った写真。

 なんだか嬉しくて、この写真の中だけではみんな仲良しに見えて。いつかホントに仲良くなってみんなで写真をとりたいなぁなんて、あ、その時はバカラさんやクロトさん、便利屋のみんなもマスターさんも撮ろう!

 ニコは写真を無くさないようにタンスの一番下にしまった──。


side end



「おい!カイゾウ!起きろ!」

「んあ?晩飯か?」

「寝ぼけてんじゃねぇよ、着いたんだよ中流街(ミッドタウン)のドミノに」

 はいー?一日かかるっつったのどこのどいつだよ?俺はさっき寝たばっかだろーが!殺すぞ!寝ぼけてんのはテメェだろ!

 だが周りの様子がおかしい。なんか朝焼けっぽい太陽の白い光。いやいや普通夕日だろ!


「先に行ってんぞ」

 と、頭がグルグルしてる俺へガストは溜め息を付きながら、道の脇にある酒場に入って行った。


『息子よ』

「おお!どうなってんのか教えろよ町蔵!」

 胸元に収まったマチゾーが舐めた前足で長い耳をこすりながら、俺を見上げる。テラキュート。


『言っただろう?寝るとその分時間がカットされると』

「ああそう言ってたな。じゃあもう翌朝なのか?」

『らしいな』

「らしいってなんだよ。見てたんじゃねーのか?」

『ゲーム内では貴様がメインなのだよ。つまり、俺はその間ゲームに接続出来ない、俺様が接続出来るようになったのは、さっきだから、こっちの時間で三十分後くらいだ』

「全然寝た気がしないんだが」

『ゲーム内では十時間くらい寝た事になってるから身体は休んでるハズだが、貴様の頭は三十分しか寝てないからな。スーパーロングスリーパーってとこだな』

「身体がダルいんだが」

『気のせいだ』

「眠いぞ?」

『慣れるしかないな』

 俺は渋々、トラックからおりて辺りを見回すとなんかマンションみたいな建物が一杯建っている。なんか町行く人が皆忙しそうに早足だ。漂流街と違い、全ての商店は頑丈な店舗に入っていて文化レベルは格段に上がっている。漂流街では見かけなかった車もボロいが沢山走っている。ここが『ドミノ』か。

 俺が酒場に入ると、ガストはカウンターに片肘を付き、黒人のガタイの良いボーイと話し込んでいた。

 俺は無視して小綺麗な板張りの店内を進む。ギルドとは違い、床もテーブルも艶やかであった。ちょっと小洒落た喫茶店みたいだ。

 俺は顔が映りそうな程磨かれた丸テーブルに腰を据えると、メニューがあったので、手に取る。しかし読めない。いや調理内容はわかるんだ。ただ何の食材かがわからないのだ。例えば『ブロスの丸焼き』や『チェロ鳥のフライ』とかだ。カンで頼んでもいいが……。

 そうメニューを開きながら顎に人差し指を引っ掛けていると、左側に気配を感じた。


「いらっしゃいませお客様。ご注文は?」

 可愛らしい声にぐっと左へ首を回すと、メイドだった。ちょっと自分の目を疑ったね。あれ?俺メイド喫茶に来たのかなって。前髪パッツンの三つ編みの全然いやらしくないメイド服。つーか給仕はこれが普通なのか。周りを見れば、他にも女性の給仕が働いている。

 結構自由で、隅っこの方では三人のメイド服を着た給仕が、キャッキャとしゃべっている。なんか和むなぁと眺めていると、ゴホンと一息咳をした前髪パッツンメイドは再度「ご注文は?」と聞いてきた。


「えーと、そうだな、腹が減ってるんだけどなんかオススメってありますか?」

「それでしたら、ブロスの唐揚げなんかいかがでしょうか?」

「じゃあそれもらえますか?あとパンも」

「かしこまりました。合わせて六百cです」

 俺は金に関してよくわからないので、ガストに貰った銀貨六枚を出してみる。すると給仕の女性は銀貨一枚をとって。去っていった。

 そしてすぐに戻って来る。銅貨四枚を俺に手渡す。六百cで銀貨一枚とってお釣りが銅貨四枚。つまり銀貨一枚の価値は千cと言うことで銅貨一枚は百cだ。それ以下の時はどうなるのかとおもったが、隣の客を見るとマッチ棒みたいなものも払ってる事から、あれが十cなのかも知れない。まあ追々考えようと、目線を上げると給仕の女性と目があった。

 あれ?何してんの?女性はじっと俺を見つめる。

 あ!そうか!チップか!

 銅貨一枚を差し出すと女性はニッコリと笑って「ごゆっくりどうぞ!」とテーブルを離れていった。

 聞いた事のある話しで曖昧だが、外国のレストランにはチップ制のテーブルキーパーと言う職業があって。テーブルキーパーは複数のテーブルを担当し、そのチップによって生計を立てているそうだ。彼女たちがそれだとは断言出来ないが、まあそう言う世界なのだろう。


 そうこう考えてる内に料理が運ばれてきた。あ、見たことあるわ。普通の唐揚げじゃんとフォークを突き刺す。同時に知らない指が唐揚げをつまんで行く。


「うめーな。あ、オレも同じのな!」

 ガストは給仕の女性に唐揚げを指差して、ポケットから銀貨一枚を取り出した。

 唐揚げは豚肉を唐揚げにしたイメージしてもらえば良いな。歯応えがスゴいが普通に美味い。


「で、なんの話ししてたんだ?」

 と俺はパンをかじりながら、ガストがさっき黒人と話していたことについて聞いてみた。


「ああ、マスターに頼まれてた酒の注文してたんだよ。まあついでだわな」

 だからトラックなのか。と妙に納得した俺は、さらにパンをかじる。


「積み込みに時間かかるから、飯が終わったらエースの所にいくぞ」

「近いのか?」

「ああ、んでオレは他にも用事があるから後でエースんとこに迎えに来るわ」

 ふーん。とボンヤリ考えてたが、急にエースの事を聞いてみたくなった。


「エースってどんなヤツだ?」

「ちょっと手術したがるババァだよ、そんな心配すんなって!」

 ちょっと手術したがるってなんだよ!めっちゃ不安じゃないか!──。




スーパーロングスリーパーってヨーヨーのトリックっぽいね(笑)


次回へのヒント:次こそ魔女降臨

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