19# 流れ出した粒砂
激流編開幕!!
ガンガン行くぜぇ!乗り遅れんなよ狼共!!(誰)
随時誤字脱字、批評、応援メッセージをお待ちしております!!
ガタガタゴトンと揺れるトラック荷台。辺りには砂漠しかなく目に入るモノと言えば、トラックの後部から上がる石炭動力の黒煙と延々と伸びるタイヤの跡ぐらいだ。
俺は運転席を背に座り、半分幌になってる荷台で漂流街があっただろう地平線を眺めていた。
さらば我が故郷、もはや俺とお前を繋ぐのは風に消され行く轍だけ……なんて郷里心なんてものは全く無く。ただ暑さと乗り物酔いにうなだれていた。日本とは違う暑さ。湿気が無い分日影に入ればそれなりに楽だが、暑いモノは暑い。ガストにもらったペットボトルの水も既に空だ。二本目を要求したら「はえーよ!お前なんか枯れて死ね!」って断られた。水くらいでケチな野郎だ。
て言うかやっぱ色々おかしい。本来俺は乗り物酔いなんてしたこと無いんだ。それが出発して一時間そこらでコレですよ?
もしかしたら動体視力が向上した関係で予想外の弊害が出てるのかも知れない……まぁ、遠くを眺めてるといくらから楽になってきたし。問題ないが。
それにしても暇。ガストの話しじゃまだ中流街のドミノっつう街へは一日かかるらしい。
ここらで今の状況を整理しておこう。
•町蔵が作った変な機械でゲーム世界に来た。
↓
•諸事情によりゲームを終わらせないと現実に戻れない。
↓
•早く帰らないと俺の本体が死ぬが、ゲーム内で死んでも帰れるとはかぎらない。
↓
•急いで巻き込まれて『便利屋』になる。
↓
•戦闘で目を負傷(?)、なぜか現在A.Tが使えない。
↓
•目の治療のため『エース』ってババアの医者に会いに行く←イマココ!
ざっくり整理するとこんな感じだな。そうそうそうなんだよ。今A.T使えないんだ。漂流街出る時に猟犬部隊の残党に攻撃されたんだが、全く反応しなくて焦ったわー。でも新ギルドの皆さんがタコ殴りにしたので大丈夫だったんだ。サンキュ!緊急バカ(バカラ=ハザード)とその仲間達!
俺は包帯に包まれた左目をなぞる。今は麻酔で痛みを押さえているが、なんか凄い違和感。ゴムを張り付けているみたいだ。
「マチゾー」
たれ耳猫のマチゾーは荷台の縁に前足をかけて、尻尾をくねらせて外を眺めていたが、俺の声に反応し近寄って来た。
『なんじゃい』
まあ、中身は町蔵なんだが。
「攻略本はどうなった?」
『攻略本?』
「前にそんな話ししてただろが」
『あはーん!攻略本!』
「あはーん言うな」
『攻略本は無いが、攻略サイトなら見つけたぞ!』
「でかした!で、これからどうなる?」
『その事で非常に言いにくいんだが、わからないんだ』
「はい?」
『だって本来主役のお前は狂犬の元で漂流街を制圧して、野望と共にマフィアの頂点に君臨する流れだったからな!』
「は?」
『お前はもはや正規の流れから外れたっつー事だよ』
「そんなん困る!つーか外れるってどう言う事だよ!」
『どう言う事かって、そりゃあ俺様の電脳による超改造せいだろうな、言わせんなよ照れるだろ』
「テレてんじゃねーよハゲ!クリア出来ないんじゃねーのか!」
『心配するな息子よ。どう言うルートだろうがエンドロールへの道は必ずある。マルチエンディング方式になっただけだよ』
「……結局意味ねーじゃねーか」
『ところがどっこいそうでもない。登場人物が沢山書かれている』
「だからなんだよ」
『その人物に関わり合いを持てば早くクリア出来るだろ?』
「なるほど!説明も書かれてんだろうな!」
『おうよ。聞きたい名前を言ってくれりゃ教えてやれるぞ!と言っても個人サイトだから載ってないヤツもいるかもしれんがな』
「んじゃ”エース“ってヤツの事を教えてくれ!」
『ちょっと待ってろ……。医者だな。帝都医療機関バージルキュアをクビになって医師免許剥奪された闇医者らしいな。ちなみに専門は外科だ』
「それから?」
『それだけだな』
「少な!情報少な過ぎるだろ!意味ねーじゃねーか!」
『重要なのは敵か味方かどうかだろーが!』
まあ……町蔵の言う通りかも知れない。相手が何処の誰かがわかれば俺の死亡リスクは限りなく少なくなるし、ヒントにはなる。この際贅沢は言ってられないしな。
俺はワーワーと喚く町蔵を無視しながら、突き抜ける様な青空を見上げた──。
side:ガスト=ブライトリング
なにやら荷台がうるさい。ギルドでも思ったが、カイゾウはどこか『変』だ。独り言なら自分の考えの確認とも取れるが、完全に誰かと会話してる風だ。
誰と?デッドラビット?まさか……神様とでも言うんじゃねーよな?いや悪魔か?ヤツならあり得ると思えてしまうから怖いぜ。
俺にそう思わせるほどカイゾウの登場は鮮烈だった。人間の限界を超えた光速の身のこなしに。たった一日で漂流街の族と言う族を叩きのめすと言う凶悪な破壊力。のクセに話してみるとこれと言って目的もなく「魔法とか使えないの?つまらん世界だなぁ」と頭がお花畑みたいな事を言ってしまう。
オレには理解できない……なんなんだアイツは。はっ!コレが天才か!そうか!アイツは天才なんだ!理解しようとする方がおかしいのだ!ふはははは!
オレは妙に納得して気分良くハンドルを握る。
ふと窓の外を見ると、そこには包帯だらけの生首が!
「ガーストー」
「いきなり顔出すな!心臓に悪いわ!」
カイゾウだった。
「水くれよー」
「また吐いたら意味ねぇだろーが!」
「吐かねーよ!攻略法を見つけたからな!」
「なんだそれ──」
side end
side:フォンド=ブラウン
「ほう?ギルドの便利屋一人に兵隊と武器弾薬の全てを失ったと?」
儂は黒服の報告に首を傾げる。
「は!帰還した傭兵部隊からの報告なので間違いありません!」
意味がわからない。相手は悪魔かなんなのか?どうしてそうなったのか検討がつかない。当のベルカとか言う小間使いはもう漂流街にはおらんだろうし……。
何もかにも上手くいかんな。他の総長達から見れば元々資源の無いハズレの土地だ。それを商業の一本化と言う事業で起死回生を狙って来たが、最近は儂の土地で勝手するヤツが多すぎる。
さてどうしたものか……。
「はっはっはっは!」
笑い声にドアの側に目をやると、息子のジュードだった。
「面白いなぁ親父ぃ。一人にウチの派遣した兵隊が全滅?久しぶりに笑えるジョークだぜ!」
ジュードは白スーツを翻し、手を叩きながら笑う。
「黙れジュード。お前に何がわかる」
「わかるさ。親父のやり方が時代に合ってないってことだろう?」
「やり方だと?」
「そうさ、力は兵隊の数だ。兵隊を雇うには金がいる。それを維持するにも金がいる。金を稼ぐのは頭だ。頭だよ、あ、た、ま」
ジュードは自分のこめかみを中指で小突く。
「違うなジュード。小さい頃から言って聞かせたハズだ。兵隊が命をかけて守ってくれるのは命をかけて理想を守れる人物だからだ。決して人の心は金では買えない」
「詭弁だなぁ。理想論じゃ飯は喰えないんですよ?科学も進歩してる時代も動いてる、昨日今日で価値観がガラリと変わる。求められるのは資金と情報収集能力と柔軟で素早く出力されるシステムだ。例えば、生き死にをボタン一つで売買出来るようなそんなモノが、ね」
「人は物じゃない!感情がある!想定通りに行くとは限らん!どうしてわからないんだお前は!」
「帝王学?古臭いんですよ、そう言うのが!俺がボスなら組織を何倍にもしてやれる!他の総長達に引けを取らない程に!」
そうか、ジュードは悔しいんだな……ブラウンファミリーが辛酸をなめさせられている現状に。その気持ちは大事だ。それに言ってる事は全てが違うと言うわけじゃない。だが青い。ボスは人の深さを知らねばならんのだ。
まだまだ隠居は出来んわい──。
私も攻略本が欲しかった……。でもホントにいるか?と聞かれたら。どうだろうね?迷うだろうなぁ。
次回へのヒント:魔女降臨