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ラジカライズアワー  作者: 九郎士郎
プロローグ
2/39

2# 暇つぶしにゲーム

まだゲームには行きません(笑)

 暫く親父の入った『M.R.I』を眺めていたが、ウィィと低い機械音が延々と室内に響くだけで何の変化もない。タマゴ型の機械の底を見ると、どうやら畳を貫通して完全に埋まっている。端から見ればタマゴが畳から生えているように錯覚するかもしれない。恐らく下水管と水道管を繋ぐためだ。そして地下にある親父の研究室の大量のスパコン(スーパーコンピューター)と繋がっているんだろうと推察した。顎に手を当てながら妙に納得した俺は、改めて親父は天才鬼才と呼ばれるだけはあるなぁと関心した。同時になんて変態なんだと半ば呆れている。どうせ今頃『アァンな事』や『あはーんな事』になってて、ただでさえだらしない表情が余計緩んでるんだろ?そう思うと何だかバカバカしくなって襖を閉めて、俺は親父の部屋を後にした──。



 ──午後二時。太陽が燦々と輝き気温が最高潮に達する時間帯。俺は近所のゲームショップに向かっていた。今日はバイトも休みで、大学も課題さえ提出すれば単位は楽に取れるので暇を持て余していたのだ。サークル?何ソレおいしいの?と言うのは冗談だが、なんだか飲み会と言われてもあんまり騒ぐのは好きじゃないし、友達も親父絡みで言い寄ってくる人達ばかりで一年生の半ば辺りから進んで飲み会には行かなくなってしまった。と、同時に同級生の知り合いとも距離が遠くなったのは言うまでもない。

 昔から友達ってなんだろうなぁ?なんて考えた事もあった。親父が『電脳』を開発する前まで近所では変人扱いだったし。その噂が原因か知らないが小さい頃は『改造人間』などとあだ名を付けられ「変身して見ろよ!」なんて叩かれたりしてた。まあ、そんなのはどうでも良いし下らない事だと当時の俺も思ってた事なので良いのだが、よくよく思い返すと『友達』と呼べる誰かがいたのかなぁ?とか思ってしまいちょっとセンチメンタルな気持ちになったりする。友達でこんな状況なのだ、恋愛に至ってはもはや語るまい……。

 そんな事を考えている内にゲームショップ『無限堂』に着いた。小さい店舗ながら品揃えは抜群で新作ソフトなども発売日に大量に仕入れたりしてて、店主いわく知る人ぞ知る店らしい。入店すると奥からパンチパーマに金のネックレス、褐色の肌にハイビスカスのアロハシャツを着た男がカウンター越しに「らっしゃい」と俺を睨みつける。完全にカタギじゃないオーラを放つその男こそゲームショップ『無限堂』の店主だ。


「お?改蔵じゃねぇか。町蔵は相変わらず機械いじってんのか?」

「うん相変わらず」

「そうかぁ。ガキん時から変なヤツだったが、今じゃ大学の大先生だからなぁ人生どう転ぶかわかったもんじゃねぇよなホント」

 この店主は親父と幼なじみでヤクザみたいな容姿と反比例して中身は商売人らしく舌がよく回るのだ。


「んで?今日はまたシューティングゲームでも買いに来たのか?それともFPS?」

「なんか面白そうなのある?」

「ちょっとまってろよー?」

 そう言うと、店主は老眼鏡をかけPCに向かった。そうしていればいくらか印象も丸くなって入口で逃げ出す客もいなくなるんじゃないか?と思ったが、経営に口を出す程愚か者では無いので大人しくその様子を眺める事にした。

 店主が言った通り、俺の買うゲームはシューティングゲームか、FPS(ファーストパーソン•シューティング)と呼ばれる一人称視点で展開されるガンアクションゲームがほとんどだ。ガンコン(銃型のコントローラー)捌きは自分でもちょっと自信があり、武者修行みたいにゲームセンターを周り最高得点に塗り替えていったのは良い思い出だったりする。それにネトゲ(ネットワークゲーム)では味わえない、『主役をやってる』と言う感じが心地よいのでもっぱらオフラインゲームばかりやっていた。そして今日も暇つぶしに掘り出し物を探しに来たわけだが。まあ大体制覇してるので俺の知らないゲームが見つかるかどうかは望み薄だろう。


「改蔵よ。『ラジカライズ』ってやったことあるか?」

「ラジカライズ?聞いた事ないなぁ?どんなゲーム?」

「明細見る限り多分PC用のFPSだと思うんだが、ケースも説明書もなくてなぁ。この前潰した倒産してしまったゲームソフトショップから中古ソフトを大量に買い取った中の一枚なんで、俺でもよくわからないんだ」

 今、潰したっつった?……いいや触れないでおこう。まあどうせ海外メーカーかなんかだろ?最悪お遊びで作ったゲームでも暇つぶしにはなるし。それに『ラジカライズ(過激化する)』ってタイトルに何か惹かれるものがある、俺はそのディスクを買う事を決めた。


「それ買うよ。いくら?」

「ああそうかぃ?んじゃあ……五百円でいいわ」

 料金を払い「まいどありぃ」と言う声を背景に俺は店を出た。ディスクの入った袋をぶら下げながら、家への帰り道を歩く。ふと、稲荷神社の前でカードゲームで遊ぶ子ども達が目に入った。


「オレがライトやるからお前敵な!」

「えぇー!またぁー?しょーちゃんいっつもライトじゃん!」

「うるせーな!主役は俺なのっ!」

「えぇー!僕もライトやりたい!」

「俺に勝ったらやらしてやるよ!」

「えー」

 なんてやりとりを眺めていたら、つい笑ってしまった。だって自分も同じ様な事を思ってたんだから。

 『主役になりたい』それはどんな時代が流れようともベクトルが違ってもいつでも憧れの象徴なのかもしれない。


「主役ねぇ……」

 そう俺はつぶやいて歩き出した──。



 家につくと、旅支度をした町蔵&伊織がいた。玄関先で、旅行鞄を下げている。


「なにしてんの?」

「ああ!やっと帰って来たか息子よ!父さんと母さんは今から熱海に行って来ます!」 

 シュッと親父は右手で敬礼する。「え?」と固まった俺を無視してイチャイチャする両親。まてぇぇい!なんで俺を連れて行かないっ!?あれか邪魔なのか?あん?


「ごめんね改蔵。母さんが明日はお休みって言ったら、お父さんが突然熱海にって……ああ、熱海なんて新婚旅行以来だわ」

 なんて恥ずかしそうに母さんは顔を背ける。なんなんだよ!いいよ!行けよ!よく考えたら俺熱海なんか行きたくねぇわ!


「まぁちょっと耳貸せ息子よ」

 と、親父が母さんから離れる様に俺の二の腕を掴む。

「(まあ、あれだ俺様や伊織さんが居たんじゃお前もアレを思う存分使えんだろうと思ってな。俺様の心遣いよ)」

「(いらんとこ気ぃー遣うなよ!第一使わねぇよ!)」

「(ふはははは、恥ずかしがるな!誰にも言わん!男の約束だ!)」

「だ か ら!いらないっ!ふが」

 思わず口に出た言葉に親父が慌てて俺の口を押さえる。

「(ばっか!怪しまれるだろが!いいか、今から大事な事を言うから黙って聞け!)」

「ふがふが」

「(起動方法は昼間に見せた通りだが、もう一度説明する。まずディスクを取り込んだらショートカットにある──)」


 説明をし終えた親父は満足した様子で、俺の睨みにも気にせず満面の笑みで母さんの方へ振り返った。


「伊 織 さーん!ようやく改蔵は正直に話してくれましたよ!なんと、熱海のお土産にはアロハシャツが良いらしいですよ!」

 誰がアロハシャツなんか欲しいって?親父の年代はアロハシャツが人気なのか?まあこの際何も言うまい。早く旅行に行ってくれ。


 「じゃあ、明日のお夕飯には帰って来ますから」と母さんと親父は意気揚々と熱海へ出掛けて行った──。



町蔵ェ(´Д`:) 


ヒント:前回と同じ

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