18# 漂流街の王
これにて漂流編完結です。
ガストが今の内に漂流街でのギルドの立場を明確にするとか何とかで、便利屋達と話し合ったりタイプライターをカショカショ打って文書を製作したりしている。戦後処理と言うヤツだろうか?
確かに今まで問題であった族などの暴力組織がなくなったのだから、仕事は少なくなる。だから改めてギルドを自衛組織として再構築する腹積もりなのだろう。そう言う事務的な仕事が得意そうなガストはサクサクと仕事を進めている。
俺はと言うと、今になって眠気が襲ったのでマスターのサンドイッチを手に先ほどの部屋へ。
ハムと葉野菜の挟まれたサンドイッチを食いながらノブを引くと。ニコがマチゾーに餌を与えていた。餌と言うかなんか残飯的な?マチゾーは夢中でがっついている。
「ニコ。コレ食うか?」
俺は紙に包まれたサンドイッチを差し出すと、ニコは満面の笑みで頷いた。
「美味しいですね神様!」
「ああ」
俺とニコはベッドに腰掛けながらサンドイッチを食う。本当は米と味噌汁が食べたい衝動にかられているが、我が儘は言うまい。
ニコは幸せそうにサンドイッチにパクつく。
何か話そうかとか考えたが、今励ました所で返ってニコを傷つけてしまいそうで安易に言葉が出てこなかった。話題は別の方が良いよな?
「なぁニコ、もう神様でいいから”カイゾウさん“と呼んでくれないか?」
「どうしてですか?」
ニコは本当にわからないと言った様に首を傾げた。俺は人差し指を口にあてて小声で言う。
「神様っつうとみんなにバレちゃうだろ?内緒にしときたいんだよ」
ニコはそんな説明でスゴく納得したようで、大きく頷いた。
ひとまず神様問題は解決したらしい。
「何かあったら俺に言うんだよ?」
「はい!カイゾウさん!」
ニコは元気よく返事すると、仕事に戻って行った。
ふう、ちょっと寝るか……。などと考えていたら視線を感じた。
マチゾーである。飯を食べ終わったマチゾーは金色の目を訝しげにこちらへ向けているのだ。
「マチゾー?」
『なんだ?』
「おお!」
どうやら町蔵と繋がっているようだった。え?もしかしてさっきの聞いてた?
『全く、犯罪だぞ息子よ!』
「何が!」
『あんな幼い子を口説くなと言っている』
「口説いてない!その場だけで判断すんなよ!」
『まぁその場と言うか、猟犬部隊と戦う前から見てたけどな!』
「言えよ!」
『言ったら貴様が変な風に見られると思ってな。二人きりの時に話す事にしたんだ』
俺はむぅと反論出来ずに押し黙る。町蔵はベッドに飛び乗って前足を舐める。
『でだ、見た所左目をケガしたみたいだな?』
「ああ。そっちで目のケガを治せたりしないのか?」
『アタックしてみたが無理だった。そもそも俺がいじれるのは元々ゲームにあったモノだけらしい。”電脳“で増設されたモノは対象外みたいだな』
「なんだ使えねぇな!」
『使えんとは何事だ!コレでも頑張っとるんだ!』
「うるせぇな!何とかしろよ!」
マチゾーと睨み合う俺。マチゾーの猫パンチ(?)が飛び、すんでのところでカワす。俺が薙払った手刀もマチゾーは軽くカワす。
「テメェ!自分ばっかりスペック上がってんじゃねーか!」
『ふははは!ただの猫とは違うのだよ!猫とは!』
などとしばらく攻防が続いたが、攻撃が全てカワされてしまうので。ウンザリして止めた。
『どうした?もう終わりかね息子よ?』
マチゾーが自慢気に長い尻尾をくねらせた。
「俺はこんな事してる場合じゃないんだよ!」
『まあそうだな。ちなみに実感してるとは思うが身体能力が上がっているだろう?』
「そうだな」
『それは、デフォの設定でな。んまー簡単に言えば俺もう直ぐ五十じゃん?3Pとか体力的にもたないから上げてあるのよね。戻すの忘れてたんだよ』
「やっぱ殺す!」
俺はベッドをモグラたたきみたいにバンバン叩くが、マチゾーはピョンピョンとカワす。
『まあまあ!結果的に良かったんだからいいじゃない!』
「理由が嫌だ!他には!何か隠してる事ねぇーだろうな!」
枕を片手に構えながら静止する。
『ああー。もしかしたら”アレ“も生きてるのかなぁ』
とマチゾーは前足を口に当て、首を傾げる。
「なんだよアレって」
『一言で言うなら”レイディキラー“ようは貴様の手が触れた女性はエクスタシーを感じてしまうのだ!』
「テメェ何してくれてんだよ!エロハゲェ!」
ん?ちょっと待て、思い返してみるとニコが体調悪い時って……。
なぁぁぁーーーーーっ!ああああーーーーーっ!俺のせいじゃねぇーーーか!!うわぁぁぁ気まずいぃーーー!
俺は頭を抱えながら、町蔵を恨んだ。
「やっぱ」
『あい?』
「殺すわ」
『……帰ってこれたらいくらでもな』
その時ドアがノックされ開けられた。
「何騒いでんだよ?」
そこにはガストが立っていた。
「いや。ちょっと目が疼いてな」
「んまぁ大丈夫だって。大したこと無いってそんなの!エースに任せりゃ治るぜ」
はっはと笑うガストに少々腹が立った。そもそもテメェのせいでもあるだろうが!俺にとって目はA.Tが使える分タダの目玉じゃねーんだよ!
不意に、ガストはサングラスを取った。
左目の瞳が微妙に右目と色が違う、右目が黒なら左目は焦げ茶。よく見れば、機械的な切れ目が複数走る左目。
こいつの左目、義眼だ。
ガストはヘラッと笑った後。そろそろ出発するぞと部屋を出て行った──。
side シャーギィ=ゴートレイル
上流街『ヴァンガード自衛軍』中央本部。
私は大佐執務室にて山の様な書類を裁いていた。一応階級は大佐だが、前大佐の事と私が女性である事から軍内では反感の目もあり、大佐代行と名乗らせてもらっている。
今ヴァンガードが抱えている問題は二つ。
•人員不足
•資金不足
基本的には上流街に住む住民から血税を頂き、それをヴァンガードの運営に当てているわけだがまるで足りない。それ故、隊員は低賃金で働く事になり、人材など集まるハズがない。貴族達に官職を与えた所で恒久的な改善策にはならない……。
私が罪人の書類を斜め読みしながら考えていると、ドアがノックされた。
「開いてるぞ」
「大佐補佐官タスカ=キャンベル中尉入ります!」
入っ来たのは長方形メガネに金色の短髪の小男だった。
「ゴートレイル大佐!この記事を見てください!」
キャンベル中尉が新聞を広げた。
そこには『便利屋の男、一夜にして漂流街の王へ』と書かれていた。
「タァースカー。タブロイド紙だろう?遊んでないで仕事しなさい!」
「しかし!」
「しかしも何もあるか。漂流街と言えば行商人の街だ。人種、宗教、主義主張!他の街と比べてもバラバラの街だぞ?そんな街がまとまるわけがない。さらに一夜でだと?ありえん話しも度が過ぎると笑えないぞタスカ」
「はぁ……」
と肩を落としながら去っていくキャンベル中尉。
キャンベル中尉が出て行った後、私は新聞を片手に座っていた椅子をクルリと回す。くだらん、一人この手の話題を嬉々として聞く男を知っているが……まあそのことはいいか。
もし漂流街を統一したとすると、フォンドが黙っちゃおらんだろうなぁ。いや、そもそもそんな力のある組織があっただろうか?コレはフォンド側の策略?
「漂流街の王……ありえないわ」
ふんっと私は新聞を放り投げた──。
side end
次は激流編です。